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第2回 西成からミナミへ。何で串カツから洋食やねン、と思うが…。(明治軒/大阪・ミナミ東清水町)

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いきなりTwitterで「ブログ始めました」と呟いたら、一気にアクセスが増えた。

飲んでいて、「音、聞きに行こうや」というメンツの一人からの声は、わたしにとって抗しがたいものである。「カラオケでも行こか」といわれて、「行こ行こ」と必ずなってしまう類の人種に似てんのではないか。古いところでは「ディスコへ踊りに行かへんか」というフレーズもそうだ。

ジャズ喫茶、(DJがいて踊る方の)クラブに見るように、いい音楽、デカい音は、酒場の切り札となり得る。

西桐画伯はこの頃あんまりステージに立たないが、ばりばりのドラマーでもあり、ジャズやラテン、昭和歌謡を中心に、「世界の音楽」に精通している「音好き」である。音好きという人種は、とにかくなんでもどんな音楽も好きだ、というのではなくて、選曲にうるさい。まことに五月蠅い。

その選曲というのは、その瞬間その空間で流れる音楽のことだ。その時々にどんな音楽の誰の何をかけるかはもちろん、「文脈」みたいに曲のつなぎ具合までを聞いて「(愉)快/不(愉)快」みたいなものを決定している。もちろんオーディオ機材から出る音そのものの質やボリュームをも価値判断される。

そのあたりが、アルコールが入っているものならいつでもどこでも歓迎の「酒好き」、あるいは誰でもオッケーの「女好き」といったものとは全然違う。

ミナミならマッキーがやってる[バー・ジャズ]が、JBLのデカいスピーカーをマッキントッシュのアンプで鳴らしていて、おまけに音源はレコードだ。日曜も6時から開いてるので、それを知る西桐さんが、「そろそろ行こや」とチューハイレモンのジョッキを空けながら促す。

新今宮から心斎橋へは、動物園前から堺筋線か御堂筋線に乗って移動するのがシュアだが、飲んでしまうと「タクシーで行こや」となることが多い。[なだや]は堺筋にあって、堺筋は北向き一方通行だから、心斎橋や本町方面に行くには都合が良い。3人でタクシーを拾って一路大宝寺町へ。

「周防町を西へ入ってもろてそっから2本目か3本目、北へ行ける道を行って下さい」。そうタクシーの運転手に言って、ほんの数分で[バー・ジャズ]の近くに到着。前がクルマで詰まっているので「ここで良いです」と降ろしてもらう。

「えーと、[バー・ジャズ]はもう1本北やったかなあ」と東西の通りの左方向を見れば、白いナプキンを三角に折った[明治軒]の看板が目に入ってくる。「創業昭和元年 浪速の味 明治軒」のサインである。

「ちょっと、何か食べてから行きましょや」「おお、ええな」となる。「音の店に行こうや」からほど遠い、これっぽっちも頭に浮かばなかったアイデアが実行される。ミナミという街は、あらかじめの予定なんかを台無しにするような魔力を持っている。

時計を見ると6時きっかり。「もう混んでるんかな」「2階はいけるやろ」などと言いながら、ドアを開ける。ラッキー。まるで魔法のように1階のテーブル席1つだけが開いている。

舞台のように蛍光灯で白く浮かび上がる、カウンター内には5〜6人のコックコートのスタッフがせわしなく動いてる。客層も若いカップルから子連れ家族まで広い。

水が運ばれてきた。メニューを見る。西桐さんはさっと開けただけで「ポークチャップ!」。そらそうだ、ここのフライもんがいくら旨いといっても、西成で串カツを食べた後なのだ。「ええですね。えーとそれからハムサラダとビール2本」と俺がフォロー。

奈路くんはぼそっと「カレーライス」。[明治軒]でカレーライスを選ぶのはよほどの「通」か、「ぼくの好物はカレーライス!」的な旧き佳き少年の心を持つ人である。

カレーはシブい注文だ。この店の人気メニューは何といってもオムライスだ。「客の8割近くがオムライスを注文する」とその昔、エルマガ別冊で書いたことがある。オムライスと串のセットはよく知られた定番だ。それについては「ここのシブいカレーライスを見逃すのは惜しいということであえてご紹介。大量に注文のあるオムライスは、牛のモモ肉を煮込んで作る。カレーライスは、この時に出るジューシーな肉のスープが使われているのだ。これが独特の味をつくっている」と書いている。

89年発行の『グルメマニュアル』で書いたものだが、大変に下手くそな記事であるが視点はよいと思う。データ欄の住所は「南区東清水町43」と表記している。わたしが31歳のときだ。

ビールが出てきて、コップ2杯目を注ぎ合いする頃、ハムサラダが出てきた。2ミリぐらいにスライスされた四角いハムを西桐さんが食べて「ああ、目ぇ覚めたわ」と一言。奈路くんが小さな声を上げて笑う。この人らと街で飲み食いするのは楽しい。

思い出したように買ったばかりのオリンパスペン・ライトを出す。飲食店でカメラを出すのはあかん行為だとは思うが、マニュアルを読み込んでさらにわからんところは西本町にあるオリンパスプラザ大阪に行って教えてもらってきた。ライブコントロールにぶら下がるいろんな機能ほかを試したいのだ。でないと今日びのカメラは使えない。

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ポークチャップはでかい

ポークチャップはぶ厚くてデカくて、カレーライスと合わせて食べると3人で十分な量だ。西桐さんは豚肉をデカく、がしがしがしというふうに切る。

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カレーライスは、もっとよう混ぜてといてや

 

 

俺は「奈路くん、カレーよう混ぜといてや」と言って頼むが、「まだまだ、もっともっと」とさらに注文をつけた。

 

 

 

 

 

 

3人でハムサラダ、ポークチャップ、カレーライスをおのおのフォークとスプーンを使って食べ、ビールも2本で丁度いい。

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ええなあ、この店内

 

次があるからと別に急いで食べたわけやないがほんの15分。一人1,500円通しで。さあ一本北の大宝寺町に出て[バー・ジャズ]へ。

[バー・ジャズ]の扉には「本日貸し切り」と。カウンターにまだ客がいる様子はないのでドアを開けると、テーブル席で鍋をやっているグループが1組。マッキー夫妻が出てきて、「あっ、西桐さん。江さん。きょうは大阪マラソンの打ち上げなんです。すません」とのことだ。

なにぃ、大阪マラソンってか。地下鉄で告知放送やってたな。いきなり着メロが鳴ってるみたいなコブクロの。なんだかがっくしきたが「大阪マラソンか、しゃあないなあ」「そら、しゃあない」と言って外に出るが、何かみなしごになったよう気分だ。

「今日は、これで解散」と高らかに宣言したが、西桐さんは「えと、[ヘミングウエイ]に行こや」。「ええですねぇ。シェリー飲も飲も」。

ということでもう1本の鰻谷の[バー・ヘミングウエイ]へ行くことにする。

明治軒
大阪市中央区心斎橋筋1-5-32
06-6271-6561

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