第5回 ドーナツを食べに、船場の喫茶店。(平岡珈琲店/大阪・船場)

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 関西で現存する最古の喫茶店、平岡珈琲店は船場のど真ん中にある。瓦町3丁目、御堂筋から一本東に入った角の手前にある。

 大阪商人の根拠地といえる船場は、ここ四半世紀のところ景気動向とシンクロするように様相がめまぐるしく変わった。バブル期に次々と新しいビルに建て替わり、近年は高層マンションも増えてきた。

 オフィスビルの1階や角地にはドトールコーヒーなどのセルフ系チェーン店やシアトル系カフェが目立つが、そんな動きをどこ吹く風とばかりに、小さいながらしっとりした町家の佇まいを見せながら、まことに船場らしいトラディショナルなコーヒーを出し続けている[平岡珈琲店]。

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 その歴史話をすこし。
 現店主・小川清さんは3代目。祖父にあたる初代が喫茶店を始めたのが大正10年(1921)。その数年前は輸入食料品店だった。扱う商品はビスケットやパン、ワインやウイスキーなど。そのアイテムの中にコヒー豆もある、グロッサリーだったらしい。

 一番売りたかったのはコーヒーだが、洋酒などと比較すると売れなかった。販促にと実演販売をしたりしたが、それでも売上は上がらなかったという。
 それじゃあ「その場で飲める店を」すなわち喫茶店を始めた。当初はほかの食料品の販売も兼ねていたが、徐々に珈琲店一本にシフトしていった。

image005 コ ーヒーの淹れ方は、自家焙煎した深煎り豆を一度鍋で沸騰させてから天竺木綿で漉す。3代目店主の小川清さんが、繊細な手つきで見せる昔ながらの「ボイリング法」である。「余分な成分を逃がしてほしい成分だけ抽出できる」トルココーヒーや欧州の原始的な抽出法である。

 初代から継承する英国製シチュー鍋で炊き出したコーヒーを、濾しながらホーローのクラシックな細長ケトルに移し替え、そして青い染め付けのカップにたっぷりと淹れられたコーヒーは、何だか健康的な感じがする。

 

 執筆や編集の徹夜仕事でがぶがぶ、とは絶対違うし、フレンチやイタリアンをたらふく食べてさらにデザートと一緒にとか、飲んだ酔いさましに1杯とかではない。

 だから一人でも数人のときでも、わざわざこの店に出かけて飲みたくなる。

 

image011 その昔、高度経済成長期を経て円が強くなるまでは、とても贅沢だったコーヒー。それをよりおいしく飲んでもらおうとの考えから、シンプルなドーナツが開店当時からつくられてきた。ただし、当時の大阪の喫茶店ではドーナツはあたり前のように出されていて、珍しいメニューではなかったようだ。

 

 銀座の老舗喫茶店[カフェーパウリスタ](明治43年創業)の支店が大阪にあり、その真似をしたのかも知れないが真偽のほどは分からない。

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 ドーナツは毎日約100個作る。今なお、一口ガスコンロの火にかけたフライパンで揚げられている。ひとつずつ揚げるから、仕込みは朝早く5時半から始める。

 7時半の開店までには、なんとか20個ほどが出来上がる。そこから10時半くらいまで、だいたい午前中いっぱいを使って揚げ続けられるが、テイクアウトも多いのでランチ後には売り切れてしまうこともある。

 ドーナツの材料はごくごく基本的なもの。小麦粉、砂糖、卵、メレンゲ、ベーキングパウダーを混ぜ、冷めてもふっくらと美味しく食べられるように仕上げている。油は日清のサラダ油。これが一番軽い仕上がりになるのだという。
 特別なものは何も使わず、余計なことはしない。最高のカスタマイズである。

 わたしの場合、オフィスから近いので、誰かがドーナツをどっさり買って帰ったりして、「おお平岡珈琲のドーナツか、ええなあ」とお茶の時間にしたりしてそれは当然おいしいが、この店のホットコーヒーと一緒に食べるのが世界一うまい(当然か)。

 ホットコーヒーは330円。濃い舌触り、味覚だがすっきり。ブラックを好む客が多い。カフェオレもあって値段は350円。ドーナツは130円。

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平岡珈琲店
大阪市中央区瓦町3-6-11
06-6231-6020

 

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