第8回 釜ヶ崎の「なべや」に行ってきた。(なべや/大阪西成)

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 西成・釜ヶ崎の三角公園のそばの[なべや]。よその街に類を見ない「一人鍋」の店であり、大阪至高の居酒屋であることは間違いない。

 わたしはこの店について、17年間かかわった『ミーツ』でも取材したり記事を掲載したことがない。
 ここ数年『料理通信』に「安くて旨くて、何が悪い!」という連載していて、それに関してこの店の右に出る店はないが、ここでも未紹介である。

 理由は釜ヶ崎という場所についてであり、「なんでガイド本で知らん読者を仕向けて、牡蠣やとか肉やとかごっつぉを食べさせに、わざわざこんなとこまで来させなあかんのや」ということだ。

 インターネットの時代になって、この店のことが「食べログ」や「ぐるなび」でもばんばん紹介されるようになった。クールに安くてうまいメニューのことを紹介したグルメ・レビュー、はたまた西成という土地柄をからめて書かれていたりでさまざまだ。
 冬になるとすぐとなりの三角公園で、メシにありつけない人たちが炊き出しで、全然違う鍋を食べている、みたいなことを書いている人もいる。

 Googleマップのストリートビューで見ると、この店がある街がどういう街なのかがよく分かる(昼の風景だが)。

 今回はこのブログの1回目 https://140b.jp/blog3/2014/10/p1328/ にてちらっと触れた奈路画伯がまた予約を入れてくれていて、西桐玉樹さん、河田潤一さんをあわせて「街的画家」3人衆と行く。
 河田さんは地下鉄の運転手をしながら絵を描いている変わり種だ。

 釜ヶ崎にある[なべや]には現地集合だ。
 何に乗ってどこで下車して、どう歩くのかをあらかじめ考えてしまう。

 もう10年以上前だったが、平日の昼間に西成署に行く用事があって、地下鉄動物園前から歩いて行ったことがある。
 このあたりには何回も来てわかっていることだが、堺筋を南へ向かい西成署側の1〜2本の筋を入ると、簡易宿泊施設(ドヤ)街の様相が強くなってくる。その日仕事にありついてない人(してへん人も)や、すでに仕事なんか出来ない状態になっている人がたくさん外に出ていて、ワイルドなストリートライフを送っている。
 わたしはそのとき履いていたイタリア製のビットモカシンを見つめながら、これはあかんやろ、場違いだなと思った。逃げるようにして鉄扉に囲まれた西成署に入った。

 あるいはある夜、ツレとこの店に行くために高野線の駅しかない萩ノ茶屋で下りて、いきなりガード下で段ボールと化繊綿のコタツ布団みたいなのにくるまって横向きに寝ころんでる年寄りたちを見て、大変申し訳ないような気持ちになった。
 女性も一人いた。
 「電車賃だけ残してカネ渡して、帰ってお前とこで飲もか」などとツレと話しながら、そんなことしても何の解決にならへんやんけ、と思った。

 が結局は、いやもちろん[なべや]に行って、鮪のすき身とクジラベーコン、そして牡蠣の味噌鍋と鉄鍋のすき焼き、鶏の水炊きをビールや酒でたらふく食べた。飲んで食うて二人で5千円、「ほな2千5百円な。安っすう〜」と言って、ゴキゲン状態で堺筋を動物園前まで歩いて帰った。
 正確には途中で「ミナミで飲もや」ということで、タクシーに乗って道頓堀まで向かったということである。

 全然「正義」とほど遠いわたしは、そういうことを思い出しながら、ちょっとサンデル教授(ちょっと古いか)の授業を聴講しているような気分になりながら、今回は地下鉄花園町から堺筋がドン突きになる天下茶屋ロータリー跡の方角へと向かい、数年ぶりに[なべや]に行った。

 このコースで行くと、キッツい光景がだいぶ緩和されるのだ。不幸な人のさまを見て、もし立場が入れ替わって自分がそういう境遇に置かれることを想像するのはツラい。

 釜ヶ崎や新世界に来ると、「西成のアンコ(日雇い労務者)」や「あいりん地区路上生活者」がまる出しでバーンと露出していて、それにリンクした「ソース2度づけお断り」とか「かすうどん」とかの大阪の食がポピュラーに流通している。

 集合時間は午後7時である。
 一番先に着いて店に入ると、背中にケース付きのリュックサックを背負ったテニス帰りの6人中年客グループ、東京弁のスーツ姿4人客やOL混じりのグループもいる。
他所からの人にも入りやすくなったのは、ネットのおかげだと思う。

 おきまりの瓶ビールとまずは鮪すき身と鯨ベーコン、山芋短冊を注文する。
 鯨ベーコンは、辛子か生姜かと訊かれる。辛子とウスターで行こかと一瞬思ったが、何かイヤらしく粋がってるような気がして、生姜をたのむ。

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 それにしても鮪が50代のわれわれ4人分なら十分な、この量で280円。一人70円かぁ。

 

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 一人鍋が看板の店なので、テーブルにはあらかじめ人数分のタコ(むき出しのガスコンロ)が用意されていて、迫力満点であるが、先輩の西桐画伯が「牡蠣の味噌と鶏の水炊き、1つずつでええわ。後追加しますわ」と言うたので、4つのうち2つのタコが片づけられる。

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 店の若い女性が「水炊きのポン酢1つですけどどうします?」と訊いてくる。「頭数、たのむわ」と返答する。

 てきぱきとポン酢4つ、そして鍋がセットされる。どちらもすごい量やわ。
 牡蠣の味噌鍋は若い女性がうまく味噌を溶かしながら鍋にしてくれる。

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 てっちりにしろ寄せ鍋にしろ、寄合や祭りの準備で一年中だれかと鍋を食うていることが多いわたしは、即座にかれらが自分よりは鍋体質でないことを見抜いて、火加減や(岸和田人は てっちり・水炊きのたぐいは決してグラグラ状態に沸かさない)、具を良い具合、良い量で鍋に入れたりの世話人になる。

 鶏の水炊きがうまい。
 ビリッとくる西成仕様の濃いポン酢が丸く切った鶏の切り方とマッチしてたまらん。鍋はその日その時の体調や気分で味が著しく変わるし、メンバーによっても全然変わってくるが、そんなものを超越するてっちりも顔負けのかしわに化けさせるポン酢だ。

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 麦焼酎の水割り酒のあと冷酒にする。
 これはよう飲んでしまうパターンだ。
 「センジュとキクマサ、どっちにします」と訊かれて「せんじゅ」と答えた。
 あらら「千寿(久保田)」と違って、「貴仙寿」という銘柄が出てくる。そらそやな、と思うがそんなんは全然構わない。

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 鶏の水炊きをもう1人前注文する。
 満腹にて雑炊やうどんは注文しない。

 さて帰りはどう帰るかなどと思いながら、勘定を済ます。
 4人で8,600円。2,150円通し。十円単位まできっちり割り勘。
 街は情け深い。

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なべや
大阪市西成区天下茶屋北2-6-5
06-6632-5716

 

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