その13 俺は昼メシが好きだ。命だ。でも昼メシにこだわることは嫌いだ。 「山之家」
俺は一年間にメシを1200回食べる。食べ過ぎか、食べ過ぎではない。
なぜなら俺は間食をしない。子供の頃に「おやつを食べたらごはんが食べられへんやろ」と、母親から最高のしつけを受けて育ったから俺は間食が出来ない。というか「間食をすればごはんがおいしくなくなるよ」と、ゴキゲンの正道をビシッと照らした教訓を大事にして育ってきた(子供の頃にツレの家に遊びに行っていておやつが出てくるととても罪の意識を感じながら食べていたのを思い出すのは思い出すが)。
したがって間食をしない俺は一日4回くらいメシを食べるわけだが、その中で最も重要だと思っているのが昼メシだ。
働き者の俺は基本的に昼メシはひとりで食べに行き、注文をする時以外は誰とも話さなくてよい店で、店に入るために待つ必要のない店でなければならないと思っている。貴重な昼メシの時間に無駄は許されないのだ。
食べ終わるとすぐに戻り仕事をする。休憩やコーヒーなどない。いらない。俺はヘンコか? 俺は野球ロボットか? 俺は頑なか? 違う。休憩やコーヒーを飲むくらいなら昼寝をしたい。そういう風に育ってきた(若い頃に工事関係の仕事をしていた時は昼メシを素早く食ったあとベニヤ板の上やトラックの荷台やらで必ず昼寝をした。めちゃくちゃ気持ちよかった。親方も誰も彼もみんな1時まで必ず昼寝をしていた)。
俺はほぼ毎日、昼飯を2回食う。早昼飯と遅昼飯、それで夜の酒が生きる。
昼メシのポイントは早く食べられることと飽きの来ないことだ。俺の仕事場が錦市場の寺町通辺りなので昼飯のバリエーションは最大限にあるけれど、俺は年間200回くらい同じ店に行っている。「山乃家」という出前もしてくれる普通のうどん屋さんに行く。
街なかにある普段使いのうどん屋なのになぜ「山乃家」なのか知らないが俺はこの店が好きだ。京都新聞、スポーツ新聞、ビッコミやオリジナルやモーニングや週漫などの大人向け週刊漫画誌とジャンプやマガジンなどの漫画もあり、16インチくらいの昔のテレビがある。けれども待つ間に見るというためのものではない。うどんや中華そばやオムライスでも何でも注文してから出てくるのが非常に早いので待っているあいだに読むというより食いながら読むという感じだ。
この「山乃家」には一日に2回行くこともよくある。12時前ぐらいから混むので、チョット早いめに昼メシを食いに行った時は3時か4時ぐらいに腹が減るので、あんかけうどんだけとか中華そばだけを軽く食いに行く。というかこの店は俺にとってうどん屋というよりも今やどんどん街角から姿を消しつつあるカレーやオムライスもあった昔の喫茶店みたいなものか。
昼メシは夜のメシを凌ぐ。これを言う値打ちのあるのが京都だと思う。だから俺は京都から離れられない。
行く回数は「山乃家」が断然多いけれど俺の仕事場周辺には昼メシの強豪が実はひしめいている。
前夜に飲み過ぎて口がパクパクで一刻も早くうどんのダシが飲みたい時は、朝10時に開店の寺町六角の「さらしな」で鰹節がゆれるきしめんを食う。逆に前夜に空腹で飲み過ぎてしつこい系を一刻も早く食べたい朝は大丸百貨店の地下の「三島亭」ですき焼き定食を食う。デパートは朝からしつこいものが食えるので酒飲みには非常に有効な商業施設である。
10時半なら麩屋町二条の「新進亭」で白味噌ラーメンを食う。普通でもモヤシなどの野菜がたっぷり入っているので俺はモヤシ抜きにしてもらう。その方がよりアツアツだしモヤシを食っているあいだに麺が伸びないかが気になるからだ。昼前なら松原大和大路の「おやじ」まで足を伸ばして一人で三人前の焼きそばを食う。決して多くない。一人前なら足らない。二人前でちょうどいい。けれども追加のオーダーをすることがこの店では許されないから後悔するのがイヤで俺はいつも3人前注文する。というかこの店のオーダーシート(といっても白紙のメモ用紙)に「麺3玉・油カス・スジ肉・イカ・ちくわ・ラード・ニンニク・玉子半熟」と書いておばちゃんに渡す。
白飯優先の時は裏寺の「百練」の日替わり定食600円、柳馬場三条の「わたつね」で刺身定食ミニうどん付き980円。ランチタイムがずれたときには新京極六角の「龍鳳」のカラシラーメン、河原町六角「ハマムラ」の広東麺、寺町蛸薬師「有喜屋」のすき焼き丼セットもたまらぬメニュー。「エジプト」という喫茶店のカレーもうまかったが店をやめられ残念に尽きる。
俺は昼メシが好きだ。好きというか昼メシのために生きている。
俺が一年間で200回以上は行っている街のうどん屋と普段の風景。(06年9月頃に書いた)
俺は年々、高校野球に引き込まれるようになってきている。特に夏の甲子園。この夏も仕事の合間に近所のうどん屋へ何回もうどんや中華そばや冷麺を食べに行ってテレビを見ていた。
そのうどん屋は御幸町通を四条から下がって綾小路の南東角にある「山乃家」(あらためて書いてみると奇妙な屋号だ)という店。スポーツ新聞が一紙あり週刊系の漫画が何誌かあり、小さなテレビがあるどこにでもあるような街のうどん屋さんだと思いがちだが、実はこういううどん屋さんが最近の街場では非常に少なくなってきている。
うどんがあり、そばもあり、黄そば(中華麺)もあるので「キツネを黄ソバ」でとか「肉カレーを黄ソバ固いめ」を注文できる。中華そばはうどん屋の中華そばの典型だし、冷麺もうどん屋の冷麺の典型。しかもここ「山乃家」は焼飯がうまい。ドライカレーが普通でうれしい。オムライスもケチャップチキンライスで味以上の価値を感じるのは俺だけか。しかも出前も迅速にしてくれるし、朝は11時からだが腹減らしの俺が11時前に行っても出来るものはやってくれる。俺はこのうどん屋さんが好きだ。
夜にコテコテのものや空腹ドリンキングが多い俺は「目玉焼きと玉子焼きとごはんと中華スープ」という注文を最近よくしている。はじめのうちはお姉さんが「ハー?」とよく聞き返していたが今では何事もないように注文を復唱してくれてごはんと一緒にふりかけを持ってきてくれる。話は長くそれたが俺はそんなうどん屋さんでビッコミやヤンジャンやモーニングを読みながら高校野球を見ている。
そういえば今年の盆、お墓に行ったあと本家に行くと久しぶりにたくさん親戚がいてみんな昼から飲んでいた。
俺はお墓に行く前の昼飯を九条河原町の「まるやま亭」で焼肉とドジョウ汁をたっぷり食っていたのであまりビールを飲めなかったが、一升瓶を横に置いて甥やら姪やら親戚のおばさんやらにあーだこーだ言われながら高校野球を見ていた。盆と正月はこうでなかったらさびしい。家族が親戚がだんだん少なくなって行くのなら、年長のツレの家でもその本家でもどこでもいいから決まった日に決まった所に決まった顔で集まって過ごすのが一番だ。
そして今年、盆があけてまたうどん屋で駒大苫小牧と早稲田実業の決勝と決勝再試合を中華そばを食いながら見ていて本当にココロが震えた。そして、早稲田実業の斉藤投手が決勝再試合後のインタビューで言った「仲間を信じて、部員全員を信じて、マウンドを守ってきました」にはまいった。
「今からでも決して遅くはない」と、俺は体の中で俺に叫んでいた。
山乃家
もうなんていうか普通のうどん屋さん。焼飯もうまい。目玉焼ききもある。豚汁もある。これが日本の街のうどん屋だ。言い過ぎか。
京都市下京区綾小路通御幸町東南角
電話:075-351-7498
営業時間:11:00AM→9:00PM
定休日:日曜休
2008年03月07日 06:25
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