その28 肩の力を抜いて京都。日常も借景も店のご馳走。 「BAR K6」「IT'S GION 2 DEUX」
最近、京都は京都を上手に使うようになった。この十年ぐらいだろうか。それ以前、二十五年くらい前は祗園や先斗町や上木屋町などの風情のあるところにも、チョット和や雅をイメージして現代なりにデザインしました的なステンレスや大理石などの冷たく固い素材のビルがどんどん建てられていた。雑誌も和をイメージしたコンクリートのビルや店が珍しいのでチヤホヤしていたが、今は昔のままの京都的でないと喜んでもらえない。リミックスや何とか風では残らない、どんどん消費されていく。
チョットせつない話だけれど風情を守ることが商売になることで京都は京都らしさを取り戻しつつある。まるで桐のタンスの中に仕舞いっぱなしになっていたおばあちゃんの着物を直しに出して着るようなことが京都では増えている。それでいいと思う。そのおかげで祗園の白川沿いも上木屋町や下木屋町も「あー、いいなあー」と思える眺めが増えた。
日が落ちるか落ちないかの宵の口、上木屋町(木屋町御池から二条)辺りにあるバーや料理屋に入るときや出たときの高瀬川やその柳はいつも語りかける(森鴎外か)。団栗橋から松原までの下木屋町も最近なんだかとても文学的な風情を漂わせている。祗園の白川沿いを宵の口に歩くことはあまりないけれど、深夜には「こ、これは」と息をのむほどの借景が飲んでいる店の窓から見ることが出来る。
春は桜が夜に浮かび、夏は柳がゆれ、晩秋は落ち葉が水の澄んだ白川と絡み、冬は酔いつつある祗園の街を雪がなぐさめているようだ。そんな絵が飲み屋やメシ屋の窓という額縁から見える。店内のざわめきとは無縁かのようなその借景は街の盛り場の極上のメモリー。
記憶にとどめたいけれど、
翌日に残ることのない美しき構図
京都には、店に行く道中や帰り道に記憶にとどめておきたいけれど翌日に残ることのない美しき構図がそこら中に散りばめられている。だから飽きない。それに気付けるやわらかい酔い方をしていないといけないけれど。
酒はその場その瞬間にあるすべてのものを取り込む。料理も相手も言葉も店の空気も借景もすべてその酒の中に溶けている。そう考えると好む好まずは別として印象深い借景やそれを活かした設えのある京都で飲む酒は変幻しやすく、飲み手の気の上下やココロの移ろいをすぐに反映してくれる。上げ下げするグラスをピタリと口元で停止させてしまうような風景が目に飛び込むことのあるこの街で遊べる日々はシアワセだ。
美しい構図や借景が楽しめる店は京都にたくさんあるけれど、ここでは行きやすい店だけを紹介した。グラスの酒に何かが溶け始める夜は、目の前のコースターでもマンホールの蓋でもすべてが魅惑的になるのも真実だ。
BAR K6
京都で最も実力も人気もあるバーのひとつ。マスター西田さんの酒とその酒周辺に対する入れ込みようは他の追随を許さない。大原の朝市で仕入れた野菜など料理も秀逸。ウイスキー好きにもシャンパン好きにも応えてくれる貴重なバー。
京都市中京区木屋町通二条東入ル ヴァルズビル2階
電話番号:075-255-5009
営業時間:6:00PM→3:00AM(金・土曜→5:00AM)
定休日:無休
IT'S GION 2 DEUX
末吉町通北側の石畳の路地から入りセンスのいいアプローチを経てカウンターへ。女性はきっと満足し、ソファーシートでは窓の外の白川と対峙できてまさに祇園満開か。チャージはホール1500円、カウンター1000円。
京都市東山区末吉町通大和大路東入ル末吉町80-1
電話番号:075-531-8321
営業時間:7:00PM→4:00AM(日・祝→1:00AM)
定休日:無休
2009年04月22日 12:28
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