第5回「きんのナニ喰た?」

photo よしながふみさんが「モーニング」で連載してはる『きのう何食べた?』。単行本をファンの方が送ってくださるんで読んでますが面白いですね! 日本に住む中年のゲイカップルの幸福と悲哀と食生活が非常にリアルに描かれています。
 ケドなんでこんなもんが青年漫画誌で人気があんにゃろ? と思ってたら、あの雑誌、読者の半分は女性やと聞かされてなんとなく納得しました。

 喰うことが死ぬほど好きで、そこそこ小器用に料理を作ったりもするので「レシピ本を出さないんですか」と訊かれることがしばしばあります。実は、なんべんかオファーを受けたこともあります。けど、断ってもた。このご時勢に仕事断れるほど売れっ子作家やおへんのですが、どうしても儂(わし)は〝計量〟ができひんのですわ。目分量一筋半世紀。いまさら「なになに小匙なん杯」とか「どれそれカップ半分」とか書けまへんもん。しゃあないやん。
 そんでから、たぶん自分と他の人とでは【一人前】の感覚が違うのも問題(笑)。
 けど、最近になって、レシピ本的なもんを書いてみるのも面白いかもしれんなあと考えるようになりました。フェイスブックにときどきお手製の日本食を簡単なレシピと一緒に紹介するとガイジンからけっこう喜ばれたりするんで、ああ、こんなもんを愉しいと思ってくれはる人がいんにゃったらやってもええかなあ、ゆうのがひとつ。
 あと、歳取って食べられる量が普通に人の一人前になってきたせいもあります(笑)。

 たとえば、きんののごはんは、こんなんでした。日本は今年も猛暑やそうですが、こっちもかなりキてるんで全体的に冷やっこい取り合わせです。30℃で文句言うたらアカンのかもしらんけど、冷房というもんが(スーパーの生鮮食料品売り場以外は)一切ない国での夏日はかなり堪えるんですよー。地下鉄とか構内が35℃超えて、お年寄りとか死んだりしはんにゃから。

≪ぬた≫
酢味噌和えでんな。「てっぱい」ともいいます。
今回の取り合わせは鳥貝(ようさんはいりません。英国のはちーちょーて赤うて浅蜊みたいでしょ? そやしやないけど日本では浅蜊の剥き身とかでもええと思います)、分葱(湯通し)、セロリ(斜めに薄切にして塩で揉んで絞っときます)。全部合わせてタッパに入れて冷蔵庫で寝かせまときます。
酢味噌は西京味噌(大匙山で2)、煮切った酒(大匙2)、米酢(大匙4。個人的には酸いのが好きなんで、この倍くらい配分します)、白砂糖(大匙1)、塩2摘み。これを、なんかの空き瓶に投入してスップンで混ぜ(ダマは気にせんでよろし。気になるんやったら和えるときに指先で潰してもええし)これも冷蔵庫に寝かせときます。
ここまでは前日に儂は済ませておきます。そしたらあとは食べる前に和えるだけ。大きめのボウルに全部あけて、体温で温まらんよう手早く和えんのがコツゆうたらコツ。味見して酢でも砂糖でも塩でも足りんかったら加えてください。いうまでもなく分量の目安には必ず「だいたい」という枕詞がついてますよって。
≪ヒラタケの大蒜焼き≫
日本みたいに茸類の種類がいろいろないんで、こっちでは重宝するキノコです。べつに椎茸とか舞茸とかエリンギとかでもええと思います。そやそや。プランターで勝手に育った南瓜の種がいっぱいいっぱい花をつけたんで、そのまんま萎れさすんも勿体無いし、わさっと収穫して一緒に喰うことにしました。
ともあれこれとか、ほんまにただフライパンで焼くだけ。炒めるん違いますよ。焼くの。ヒラタケはもともと食べやすい一口大なんで、ただ房分けしておくだけで切りません。なるべく根気よう細こう微塵にした大蒜(バランスはヒラタケ1パックにつき大蒜親指の先くらい)と共にボウルにあけ、そこにサラダ油をたらーと回しかけ、手でざざっと馴染ませます。満遍のう油にまみれさす必要はのうて、なんとのう全体に油が行き渡ってる感じでよろし。
あとは熱々にしたフライパンで軽く焦げ目がつくまで素早く焼きます。南瓜の花は片面が焼けたとこでどさっ。捲ってみて裏にも焦げ目がついてきたら芯に火ぃ通ってへんでも気にせんと醤油を投入。じょわーと言わせたら、それと余熱とで調理されます。
≪五目豆≫
冷蔵庫にあった常備菜です。大豆、人参(イチョウ)、蒟蒻(ふくらんだ豆と同じくらいの細かい賽の目)、干し椎茸(薄切り)、あったらゴンボ(薄い輪切り。蓮根もよろしな)も。それから、これこそが五目豆の主役と思っている昆布。儂は京都の『五辻こんぶ』で四角うに切ったあるのを買ってきますが、大きい厚い上等のんを前日から水に浸けといて煮る前に切らはってもええと思います。あ、浸け汁、死んでも捨てたらアカンよ! それが出汁の基本になるやさかい。
それぞれ材料のバランスは、みんなカップ1ずつ。料理の手順と味付けのレシピは沢村貞子さんの献立日記に書いてあったんを使わせてもろてます。
① なるべく新しい大豆を倍量の水と、一摘みの塩に一晩浸けとく。
② 翌日、浸け水ごと中火にかけ、煮立ったら弱火にして2〜3時間ほど水を足しながら炊く(その間に野菜を切っとく)。
③ 鍋の大豆が柔らこうなったら具ぅを入れて柔らかこうなるまで(30〜45分くらいかなー)煮る。あとはお醤油3、お砂糖2の割合いで味つけ(味見て、ちょっと濃いな、くらいが味が落ち着いたあと美味しいです)、一煮立ちさせたら火を止め含ませとく。
――と、そんだけです。簡単でしょ? 煮豆にいるのは根だけでコツはいりません。好きな味を探し出すことが重要。強いていえば煮汁多いめに仕上げて保存しとくこと。次の日ぃくらいから昆布のトロ味が出てどんどん美味しゅうなります。熱々のうちに瓶に詰めて保存すると2週間くらいは平気で保つし。
デザートは西瓜。
 あんねえ、昔は半月に切ってかぶりつくんが好きやったけど、そのへんの嗜好も変わるもんやね! いまは一口大に切ってタッパに入れて冷やしておくことが多いです。別にカッコつけてるわけやのうて、そうやって喰いたいと思うからそうしてるだけなんやけど。芯までよう冷えるからかなあ。
 べつに、そのまんまでもええねんけど、果もんってなんかデザートとしては物足りひん気分が残りません? 残るんですよ。儂は。そんなもんで、食べる前に思い切り細かく刻んだミントの葉っぱを散らしました。西瓜とミントって、どういうわけか出会いもんなんですわ。嫌いやなかったら試してみてください。

photo と、まあ、そんなんですわ。あとは白ごはん。それから梅干。そうそう、おつゆもありました。茄子のお味噌汁。一昨日の残り。茄子は次の日のんが美味しいんでいっつも余るくらい拵えるんです。冷蔵庫で冷とうにしておいたんを冷たいまんまいただきます。日本やったら冥加の薄切りを山盛りいれたいところ。
 味噌汁に執着の薄い京都人なんで、そんなめちゃくちゃ美味しいもんができるわけやおへんけど、ファンの方が格別にうまい『丸萬醸造本舗』の信州味噌を送ってくれはるんで、なんやそれなりに「おお!」てなもんに仕上がります。儂には高級食材信奉はこれっぽっちもありません。けど、腕を材料が補ってくれることがしばしばあるのはホンマです。ときには素直に素材の助けを借りるんもアリやないでしょうか。

 どうです? 儂がレシピ本を書くとしたら、こんなような感じになりますけど、こんなんでも役に立つんやろか? 書くほうにしてみたら普通のエッセイの倍近く時間かかるし、なんや割にあわんなあという気がするんやけど(笑)。まあ、よろし。喜んでいただけるようやったら、また、ときどきゆるゆるレシピもここに載っけていこかなー。

入江敦彦(いりえ・あつひこ)
1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『京都人だけ知っている』シリーズ、『京都人だけが食べている』シリーズ、『KYOのお言葉』『秘密の京都』『秘密のロンドン』など京都、英国に関する著作が多数ある。現在、本の雑誌で「読む京都」連載中。2015年9月に『ベストセラーなんかこわくない』(本の雑誌社)を刊行。