第12回「喰い込み」

 あけましておめでとうございます。昨年は後半ばたつきましたんで、今年は緊褌一番きばって書いてまいりますよって、どうぞよろしゅう。ご贔屓に。

photo

 緊褌一番てなことを申します。普通に「褌を締めなおす」ちゅうたりもしまんな。ここぞ!というときに気合を入れるいうか、気ぃを引き締めるていう意味です。浴衣を着るときくらいしかつけませんけど確かに褌は気持ちいい。儂(わし)のんは六尺と違て、うしろから回して前に垂らすだけの越中ですけど、それでもちゃんとしたモンは、しゅっと体にフィットして動きやすいし懐古趣味とか和風趣味ではのうて純粋に下穿きとしてプラクティカルな秀れもんやと思います。
 それやったら普段から褌にしはったら宜しやんという話もありますが、そこまでは踏ん切りがつかん。なんでやろね。どうしてもなんらかの〝意味〟がつきまとうしかな。ほら、そやかてもし「下着は褌です」ぅて告白したら大抵の人が「なんでです」ぅて訊かはるんちゃうやろか? そやなかったら、なんや勝手に一人ごちてニャッとかされたりして。そういうのんムカつきますやん。ただの自意識過剰かもしれへんけど正直な話それが本音やね。
 そやから、たぶんユニクロあたりで普通に売り出してくれはったら、きっと褌生活に切り替えるはず。作ってくれはらへんかなあ。ヒートテックのとか、エルメスオレンジやラクロワピンクの派手派手なんとか、山川純一とのコラボとか。

 そんな儂ですが緊褌一番アイテムがないことはおへん。それはエプロンです。大好きなんですよ。いったい何枚あるんかわからんくらいあります。どんな上等でもさほど値が張らへんし、そのわりにはおニューの服と同じくらい嬉しいし、ついつい手が出てしまいます。嵩張らへんのもええね。洋服ダンスはもう飽和状態ですが、エプロンはそこらに引っ掛けといたらええんやもん。洗濯も楽やし、多少薄汚れてても気にならんし。結構なもんですわ。
 で、これがなんで緊褌一番の役割を果たすかというと、儂の選ぶのんが基本的に後ろで蝶結びするのと違て腰紐を前に回して締めるタイプが多いからです。尾骶骨の上部を、こう、ぐっと内に寄せて、出っ張った下腹を下方からよいしょっと持ち上げるようにしてキツめに括ると、まさ褌をしてるのと同じような肉体的感覚があるんですわ。この食い込みがホンマに気持ちいい! 朝、シャワーを浴びて、服着て、茶づけ掻っ込んで、エプロンを着用すると自然に仕事モードに気分が切り替わります。もはや儀式です。
 当たり前ですが若奥様風の薄手でびらびらしたんは持ってません。英国の肉屋さんが使う縞々のブッチャーエプロン。鍛冶屋さんのウェリングエプロン。『ソーンバック&ピール』の、ちょっと可愛らしのん。いろいろありますけど、ほとんどは厚手の綿で丈は膝下、色は白(生成り)。いわゆるシェフエプロンというやつ。フランスのカフェーで働く人らが締めはる腰下エプロンもわりとあるかな。

 面白いのは、ちょっとしたデザインの違いで緊褌感がまるきり異なるゆうことです。立体裁断してあるわけでもないのになんでやろ。細みえたり太みえたりも存外あるし、立ち居振る舞いも変わる。おかしなもんですわ。パリ下町の古株ギャルソンの動作がすごくエレガントに見えんのは絶対にエプロンのせいやで。
 自分がヘビロテしてんのは一澤帆布製。これは後ろ結びやけど信三郎社長にお願いしてシェフタイプも前掛けタイプも腰紐の長いのんを注文しました。あっこの鞄は汚れたら拭いて下さいゆうことですが、エプロンは丸洗いさせてもろてます。生地がだいぶ草臥れてきたけど、その風合いがまたよろしにゃわ。

 最近購入してごっつ気に入ったんがフランスの鍋屋さん、『ル・クルゼ』のんです。ところが、こいつがクセもんでして、前締めするとなんや不恰好なんですよ。あー、失敗したかなあ、と、ちょっと気落ちしたんですが脇にある鳩目で折り返して後ろで括ってみたら、アラ不思議、ちょっとドーえー? 悪ないやんかいさ。しかも上体のあらかたが引き締まって緊褌も緊褌。大緊褌。全身喰い込みまくりです。
 腰にお布巾をぶら下げられる輪っかがあんのも気が利いてるし、男でも女でも様になるシェイプといい、やっぱし、こういうもんに関してはフランスは侮れんちゅうか、さすがやなあと思いました。これは台所駐在率の高い人にはお薦めですわ。かなり色のバリエーションもあるんで揃えてしまうかもしれません。

入江敦彦(いりえ・あつひこ)
1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『京都人だけ知っている』シリーズ、『京都人だけが食べている』シリーズ、『KYOのお言葉』『秘密の京都』『秘密のロンドン』など京都、英国に関する著作が多数ある。現在、本の雑誌で「読む京都」連載中。2015年9月に『ベストセラーなんかこわくない』(本の雑誌社)を刊行。