第21回「きんのナニ喰た?」02

 ふだんのご飯をご紹介するシリーズ、けっこう前回が好評やったんで二回めいってみまひょ。

≪角煮≫
photo ながいこと、うちの気の張らん「おもてなし料理」やったんが豚の角煮です。儂(わし)式は脂が殆ど抜けてまっさかい、コッテリしたんが苦手な人にも喜んで食べてもらえます。レシピを訊かれることも多いんでご紹介しますわ。
 ばら肉(三枚肉)を塊で買うてきて拵えます。
 準備すんのは残りもんのお茶。どんなご家庭でも封切って飲み切らんまま時間が経ってしもたお茶が水屋の隅に必ず眠ってるはずです。それを使います。紅茶でも中国茶でも、なんでもヨロシ。肉1キロに対して葱二本(青葱やったら、その倍)、生姜(人差し指と親指で丸作って、そこにハマるくらいのサイズ)、大蒜二欠、鷹の爪一本。調味料は、酒マグ半分、醤油マグ半分、赤砂糖マグ半分、塩2つまみ、酒を紹興酒にすると中華風になるし、黒砂糖を使うと沖縄風、気分で目先を変えてます。
 豚肉は縮むし、大振りに切ります。大鍋に残り茶葉を敷き、豚肉を投入し、水を張って強火で茹でてゆきます。その間に葱と生姜と大蒜をみじんに刻みます。葱の根とか外側の皮やとか、生姜や大蒜の皮なんかのクズはどんどん鍋のなかに捨ててゆきます。ぐらぐら湧いたら弱火にして30分ほど茹でこぼし、ざるにあけます。これで肉のいらんアクと余計な脂、そして生臭みはほぼ抜けてます。お茶が、ええ仕事してくれますのや。
 肉を流水でゆすいで茶殻や野菜クズを落とし、いままで肉を茹でてた鍋をざっと洗って(洗剤いりまへん。神経質にならんでよろし)火にかけ水分が飛んだらごま油少々で刻んどいた葱や生姜をいっぺんに入れて炒めます。香りが立ったら肉を戻し、ひたひたになるくらい水を加えます。蓋して弱火にして一時間。
 蓋取って水が減ってたら、またひたひたまで水を加え、調味料をいっぺんに投入して蓋して、また一時間。これでとりあえず完成です。ここでそのまま鍋ごと室温までさまします。できれば一晩おくとよけいにウモなる。冷めたら肉だけをタッパに入れて保存。残った煮汁は保存びんか別のタッパへ。肉は食べる直前にあたため直してください。器に移して器ごと蒸してもええし、耐熱皿に移して弱火で焼くのも乙な味。
 べつにチンしたかてかまへんと儂は思いますね。いろんなこと言わはるひとがいるけど儂は気になりません。チンするコツはね、30秒くらいの加熱を、5分おきくらいに4,5回すんの。塩梅よう熱なりますえ。
 そやそや。昔は大根を一緒に炊いてました。肉を茹でこぼしたあとの本炊きのとき、おおぶりに切って皮剥いた大根を、肉の下に敷いて炊いていきます。大根に含まれたジアスターゼのおかげで肉が柔らこうになって、芯まで味のしゅんだ鼈甲いろの大根もそらもー美味しいけど、歳とったせいか今日びは、ちょっとしつこう感じるようなりました。昆布と雑魚を合わせた出汁と塩で炊いといて最後に盛りあわせるんが気に入ってます。
 あ、あ、そやけど東北のヘソ大根(大根を筒に切って真ん中に穴をうがち紐を通して吊って乾燥させたもん。入江の大好物)があるときは一緒に炊きますわ。これは、そうせんと。
≪味玉≫
photo 取り分けといた角煮の煮汁。これは味玉の元になります。以前は大根ともども煮抜きを投入して煮卵にしてたんですけど、京都の美味しい美味しいモツ煮屋さん『鈴や』でいただいた煮抜きが衝撃的で、このスタイルに変えました。前々から瓢亭玉子はようこさえてたし、シフトに問題はありませんでしたね。
 瓢亭玉子ゆうのは京が誇る老舗料亭『瓢亭』さんの名物で、早い話がゆるゆるに茹でた煮抜きのことですわ。え? ようやく意味が解ったて? すんません。知らはりませんでしたか。茹で玉子のことを京都人は「煮抜き」ゆうんですわ。キン肉マンの作者も「ニヌキ」て呼ぶくらいです(嘘)。
 儂のやり方は鍋にそうろと並べた玉子に頭が出んくらいの熱湯を注いで酢を小さじ一杯(玉子がひび割れてたときのための白身漏出防止策)加え、強火にかけてグラっときたら火をチョイ弱めてきっかり3分。冷水にとって丁寧に剥いていく。それだけです。たまーに剥くのに失敗してあばたになってしまうと哀しいですが、慣れてくるにつれてこういうことでも上達するもんです。  剥けたら湯気が立ってるうちに件の浸け汁へ。冷蔵庫で三日目くらいから味がぐっとようなります。壜で漬けはるときは取り出しに気ぃつけてね。できれば塗りか木ででけたお匙、あるいは蓮華がええです。金属のスップンはよほどあんじょうせんと玉子がこわれまっせ。
≪レタスと椎茸の白和え≫
角煮は味が強いもんやし、柔こう炊いても肉の歯ごたえはありますさかい、ひんやりクリーミーでするするしたもんが副菜にはよろしな。というわけで儂はもっぱら白和えです。具ぅはいろいろ。シロナが好きやけど、菠薐草とか菊菜もいけます。あとね、レタスが好き。火を通したレタスは生のときとは、また違ごた味わいがあるんですが存外知られてないのは残念です。
 さっと茹掻いて、しゅっと水で冷まして、きゅっと絞ってざくざく切っておく。椎茸は噛んだときに邪魔にならんように薄めに切ってレタスと一緒に鍋に入れてもええし、上等の肉厚の「どんこ」やったら一手間余分にかかるけど、網かオーブンで丸まま焼くと香ばしさが加わってまたええもんでっせ。焼けたら「熱、熱ぅ」とかいいながら、がんばってやっぱり薄うに切ってください。
 白和えは、おトフが多いのんが好み。木綿半丁に対して炒りゴマを大匙4,5杯。擂鉢でようよう当たって、ぱっと見ぃ粒がのうなったら、お砂糖、味醂を同量、だいたい大匙一杯くらいに塩小さじ一杯、あと隠し味に昆布茶をちょちょっと足して、ゴリゴリ続けて馴染んだところでおトフ。またまたゴーリゴーリ続けてみんな仲ようなったら完成。当たりが中途半端やと、おいてるうちに分離したりするし、あとちょっとゆうとこで手ぇ抜いたらあきませんえ。
≪もやしナムル≫
 やっぱり、ちょっと酸味のもんが欲しいなーちゅうことでナムル。へえ、うちのナムルは甘酢いんですわ。儂がナムルと呼んでるだけで似て非なるもん。です。
 もやし一袋に対して酢大匙二、胡麻油二、砂糖一、コチュジャン一、粉末鶏がらスープの元小匙一、塩一、きっかり一分湯搔いたモヤシをざるにあけて熱いうちにボウルのなかで混ぜ合わせるだけ。
 胡瓜もみとかオクラの甘酢、たいめいけんキャベツとかトマトの浅漬け、蕪のあちゃらとか焼き葱を土佐酢に漬けたんとか、いろいろ合うようなもんは他にもあんのに、なんでか角煮のお供にはこれが欲しなる。できれば豆もやしがええんやけど、ないときは胡麻をたっぷり。白和えと重なるけど、しゃあない。
≪青豆かん≫
photo べつに買ってきたシャーベット(レモンや柚子の柑橘系が角煮の後にはええ気がします)や季節のくだもんでも問題ないにゃけど、せっかくやし寒天なんかどないでっしゃろ。抹茶を混ぜた薄緑の寒天は春から夏にかけて目にもさやかでええもんです。
 べつに、これにシロップだけでも充分なんやけど、なんとのう淋しいんで豆かん風にしてみたんが自分的に大ヒットやったんでお勧めしときます。乾燥のえんど豆を甘うに炊いたんは常備菜のひとつなんですけど、これをアレンジして壜詰めしといたんを乗っけてるだけ。手抜きやけど、そうは見えんとこがミソ(笑)。
 まず、一晩水につけたえんどを浸け水ごと落し蓋をして弱火で煮ます。えんどマグ一に対して水はマグ五くらいかな。水分が減ってきたらお湯足して常に豆が踊れるくらいの煮汁を保ってください。
 指先で潰れるくらいになったら塩一摘みとともにマグ一の白砂糖を投入。照りを出すために味醂も少々。あとは同じようにとろとろとろとろ炊いてくだけですわ。豆が水面から顔出すと割れてくるんで落し蓋もしたまま。煮たときと同じようにお湯を足し足し炊いてきます。常備菜の場合は炊きあがりの火加減を塩梅して水分飛ばしますけど青豆かんの場合は寒天のシロップも兼ねるんで、それでええんですわ。
 時間は豆のコンデション次第やし一概には言えまへん。潰れるくらいになるまでにかかったんと同じくらいと考えといたらええん違うかな。あんじょう冷やして好きなだけ寒天に重ねてお召し上がりください。
入江敦彦(いりえ・あつひこ)
1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『京都人だけ知っている』シリーズ、『京都人だけが食べている』シリーズ、『KYOのお言葉』『秘密の京都』『秘密のロンドン』など京都、英国に関する著作が多数ある。現在、本の雑誌で「読む京都」連載中。2015年9月に『ベストセラーなんかこわくない』(本の雑誌社)を刊行。