第22回「拾い喰い」

photo 長いこと連載をお休みしてまいました。すんません。どっちかゆうたら暢気に陽気に無駄に元気にやってまいりましたが、さすがに人間五十年もやってると、そらまあどこなと壊れてくるもんですな。一ヵ月半も入院したんは初めてです。
 病気の話を始めると、コラムの一本二本では済みまへん。いろんなことが変わりました。退院してからも、しばらく仕事を再開でけへんかったんは、手術をしたせいで「座る」ちゅうことが不可能やったからです。
 病名は壊疽。違う病気の手術(膿瘍ゆう膿の〝巣〟ゥがでける病気でして、儂の持病みたいなもんです。もう今回で五へんめ)をしたら、その傷から院内感染してしまいました。ほとんど死語みたいな病気で今日びはそないに罹る人もおらんのですが、抗生物質が出回るようになるまでは英国で死亡率の一位やった業病。文字通り体組織が皮膚から腐って壊れてゆくんです。
 幸い壊れた部分を綺麗に削除してもらい一命は取り留めましたが、癌の転移みたいなもんで、どこまで体の内部が冒されているかは術後すぐの段階では断言でけんちゅうことでした。

 「えーとね、たぶん、玉、取っちゃうから。ほんで人工肛門設置。最悪チンコも切るし覚悟しといて」
――と医者に言われたときは、ボー然としてしまいました。我に返って5分ほど声を出して笑ったあと、一時間ぐらい子供みたいに泣きじゃくりましたよ。
 膿瘍の再々々々々発も、感染も、それが珍しい古典的な病気やったんも、ごっそり皮膚を取り除かなあかんかったんも、ものごっついアンラッキーやった。けど、壊疽の侵攻が表面的だけで、削除が塩梅よういって、のうなった部分の移植整形手術がおするするとお済んましゃり遊ばしたんも、なにより男の下半身三種の神器がみんな無事に残ってテメェのもんが使えてるのも、ものごっついラッキー。なんよね。
 禍福は糾える縄の如しやおまへんが、なんや不思議な気持ちでおりますわ。
 へえ。そうです。削除したんは陰嚢ですわ。いわゆる「蟻の門渡り」部分と玉袋のおよそ80%を切り取りました。で、ここを再生していただいたわけです。利用した皮膚はもちろん自前調達。右脚前腿部から短冊サイズを3枚分剥ぎました。これが痛かった!かさぶたが取れてからは、かなりマシになりましたが、まだペインキラーは服用中。英国は軟膏的なものを使わないので、ケアは腿の赤黒い短冊に保湿クリームを擦り込むだけ。
 あ、この同んなじクリームを新玉袋にも毎晩すりすりしておりまんにゃわ。これを開始したばかりのころは心底ストレスでしたね。丁寧にやれば、そない痛いいうほどやないんですけど、手に伝わる感触の違和感がね、たまらん嫌やった。
 乾燥させたらアカンけど、蒸らしてもアカンゆうことで、ぬりぬりのあとは2時間くらいフリーボール(笑)ですわ。ふりちんで寝っころがって映画のDVDとかテレビ番組をツレと一緒に並んで観るのは楽しくはあります。いつまでこの習慣を続けなならんのかは判りませんが、一ヶ月二ヶ月ではなさそう。
 というか、再生されたイビツな新玉袋(男性諸氏はよくご存知のように、あれてニコイチですやん。それが現在は個装袋入りになってしもたんです。お菓子なんかやと、そのほうが上等なんやけどねえ)は、どんだけケアしても元に戻ることはないんですよね。皮を剥いだあとも、そら色は薄うになってくるでしょうが跡形もなくなることは絶対にない。儂はもう、壊れもん傷もんです。完品やない。すりすりのたびフリーボールタイムのたび、情けのうになります。

photo 器でゆうたら【継ぎ】もん。それこそ〝金〟継ぎされた骨董品やなー。と。別のとっから材料持ってきてるちゅうことは、あれか、呼び継ぎか。
 と、そこで思い出したんが儂の宝もんの呼び継ぎ茶碗。その名も『拾い喰い』。お友達にいただいた「くらわんか」の拾得陶片を、骨董店『画餠洞』の店主ハットリくんに無理ゆうて継いでもらいました。もう一片、べっこの場所で発掘された同時代の「くらわんか」を木地で繋いで手塩にかけて茶碗に整形してくれました。
 そうか。完品やないからて悲観する理由なんかあらへんわ。不細工な完品より、ようでけた継ぎもんのが、よっぽどええのは知ってるやんか。――目の前の霧がたちまち晴れてゆくような気ぃがしました。継ぎがあるして自分の体を恥ずかしがったらバチが当たるわ。『拾い喰い』を扱うときはまさに掌中の珠やけど、新玉袋にも変わらんくらい愛着を持って大事にしてやらなな。幸い人様の目に触れる場所やなし(笑)。

入江敦彦(いりえ・あつひこ)
1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『京都人だけ知っている』シリーズ、『京都人だけが食べている』シリーズ、『KYOのお言葉』『秘密の京都』『秘密のロンドン』など京都、英国に関する著作が多数ある。現在、本の雑誌で「読む京都」連載中。2015年9月に『ベストセラーなんかこわくない』(本の雑誌社)を刊行。