第26回「麺喰い」

 どもどもでございます。「一月は行く。二月は逃げる」てホンマでんな。
 去年は病気でしばらくお休みさせてもろたりしたんで、また、こないに間ァがあいて、あのおっさんまたどっか体こわしとるんちゃうかと心配してくれたはった方もおられるやもしれません。大丈夫。元気です。ちょっと他のことに集中力のリソースを奪われてて原稿が完成させられへんかっただけです。
 途中まで書きかけて、もう一息きばって終わらせたらええとこを放擲(ほうてき)してもて、はっと気ィがついたらお節の話題やったり季節外れの食材の話やったりで今更掲載でけんくなってしもてたんですよ。で、新しいのを書き始めては、また放置、また賞味期限切れなんちゅうことを繰り返してたんですわ。すんまへん。
 そんなわけで、このままでは三月が去ってしまいそうなんで気合を入れて今年一本目。参ります。

photo なんや最近は日本人であることが情けのうなるようなニュースばっかりが続いててガイコクで暮らしてるとなんや肩身の狭うなるような日々でございます。けど、やっぱり日本人てすごいなーと胸を張れるようなこともないことはあらしません。
 最近で、ちょっとドヤ顔になったんは新しいパスタの食べ方、というか調理法です。
 わたしらは本場もんは本場もんとして和風パスタちゅうのも好きでっけど、あんましこっちで作ってもウケへんのですよねー。いままでの経験では。タラコやら明太子ォのんはイタリアにも魚卵(カラスミ)をつこうたスパゲティなんかがあったりするんで、まあ、食べてもらえますが、そもそも醤油のフレーバーがパスタに絡まるんが奇異な感じみたい。これは儂(わし)も苦手やけど、いっとき流行したスープパスタなんかも絶対にアカンでしょう。
 例外は洋食として定着してるもん。とりわけ日本的でありつつ、こっちの人も喜んで食べるパスタ類ゆうたら、まず筆頭が「マカロニグラタン」でしょうか。こっちでは「マカロニチーズ」ちゅいます。湯掻いたショートパスタに塩コショして、削り出した大量のチェダー系チーズと和えてオーブンで焼くだけ。
 そんな学生料理みたいなもんやけど、いわゆるセンチメンタルリーズンも加わって嫌いになれへんというか、ふと食べとうになるもんらしです。日本のグラタンは、これにブイヨンを加えたホワイトソースやの、炒めた玉葱やのハムやのがオプションされるわけやから、拵えたげたら、ほらもうみんな感激してくれます。
 けどまあ、それだけやったらドヤるほどやないんです。でも、この料理法を見せると100%に近い確率でみな感動してくれるですよねー。それは他でもない「水漬けパスタ」を調理してのグラタンでおます。

photo 「水漬けパスタ」の存在を知ったんは、そんなに昔やありません。既製の乾麺をただ水に二時間以上浸しておくだけで、大幅に調理時間が短縮されるうえ、モッチモチの独特のテクスチュアになる――というのを読んだときは、にわかには信じられへんかった。そもそも、かなりアルデンテ気味が好きなんで、モッチモチ? それがなにか? 的な感情もありましたし。
 そやけど面白そうではあったんで、物は試し、やってみました。最初はリングイネやったかな。水で萎びた麺は見るからに期待できなさそうな感じ……。まあ、ええわ。アカンかったら別のパスタを茹で直したらええわととりあえず湯を沸かしました。
 ぐらぐらきたとこで塩を多めに混ぜ、ぐったりした水死体ごとき麺を投入。茹で時間12分とあるやつでしたが正味2分で火が通りました。指で感触を確かめると、ぐぐっとしっかりした弾力が伝わってきます。魔法みたい。いやはや日本人すごい! なんちゅうことを考えつくんや! と感心しきり。ほんま、美味いもんにありつこ思たら調理法にしても偏見はあきませんな。なんでも試してみることやわ。

photo で、お話はグラタンに戻ります。もちろんロングパスタでもええ塩梅なんですけど、マカロニやペンネ、ファルファッレといったショートパスタにこの水漬け式を導入したところ生麺ともまた異なる新たなる食感の地平線が出現して、これがもーご機嫌。なんてゆうかね、もちもちゆうよりアルデンテの一番美味しい加減のいい部分だけを集めたみたいな、いい噛み心地なん。
 ホワイトソースをゆるめに作って、チーズや具ゥと合わせ、そこに水漬けパスタを〝茹でないで〟生のまま和えてオーブンで強火で焼きつけるの。つまりソースで煮るわけ。下茹での手間が省けるだけで、洗いもんも減ってずいぶん楽ちんになるし、ゆるめちゅうことはホワイトソースのカロリーが抑えられるちゅうことで健康的でもある。ぜひ、お試しあれですわ。

 実はもういっこ、儂が知らんかったパスタの裏ワザを最近になって手に入れましてん。それはスパゲティを中華麺に変える必殺技。茹でるときに重層(ペーキングパウダー)を混ぜるだけで、それが鹹(かん)水の役割を果たして、中華麺独特の腰や香りを与えるゆうやつです。日本やったら別にそんなことせんかて普通に中華麺が売ってまっけど、こっちはそうはいかんから儂にとっては思わず指パッチンな情報です。
 結果は、ちゅうたらこっちは残念ながら日本人の知力に胸を張るとこまではいきませなんだ(笑)。茹でてる最中は、めっちゃ中華麺湯掻いてるときの匂いがしてたんで期待しすぎてしもたんかもしれません。そやけど、どっちゃにせよ面白いこと考えつくなあ。日本人ちゅうんは――と、誇らしい気持ちは変わりませんえ。
 車やハイテク技術、あるいは芸術やファッション、そういうもんばっかりやない、日常生活から滲み出たような『クール・ジャパン』をもっと世界に発信していってほしいと儂は切に願います。

入江敦彦(いりえ・あつひこ)
1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『京都人だけ知っている』シリーズ、『京都人だけが食べている』シリーズ、『KYOのお言葉』『秘密の京都』『秘密のロンドン』など京都、英国に関する著作が多数ある。現在、本の雑誌で「読む京都」連載中。2015年9月に『ベストセラーなんかこわくない』(本の雑誌社)を刊行。