第39回「きんのナニ喰た?」03

photo  もうじきクリスマス、お正月、パーテーシーズンちゅううことで今回はいわゆる〝おもてなし料理〟について。――もともと、うちにお客さんがある場合、リクエストがあるときは別として、日本人ならばツレが英国料理を作り、逆にイギリス人に限らずガイジンさんがきはったときは儂(わし)が和食を拵えるというスタイルでした。が、それがちょっと行き詰ってきましたねわ。同じお客さんが二度目三度目ちゅうこともあるし、ツレのゲスト向け献立のレパートリーはさほど広ないし(ごめん。笑)ね。
 ちゅうこって、近ごろは儂が前菜を、ヤツがメインを、ちゅう形式が定着してきました。こないだ京都の茶筒舗『開化堂』の若旦、隆裕くんと、工芸家の中川周士(『中川木工芸』)さん、そしていまロンドンで最も美味しいお茶を売る店『Postcard Teas』店主のティムがうちを訪んねてくれはったときもそれで参りました。V&A博物館の常設展示コレクションにお二人の作られたものが選ばれて、そのパーティの前祝も兼ねてましたんで、ここは一発張り切らなあきません! てなわけで当日お出ししたんがこれです。じゃじゃーん。入江にしてはという但し書き付きではありますが上手にできたんで、この前菜について書き残しておきたいと存じますー。
 さて、もしかしたら実際にこれを家庭で整えんのは難しいと思わはるかもしれません。けど、できます。これは素人にも調理可能な割烹(八寸)風前菜なんです。いろんな店で食べてきて、目と舌で勉強させてもろたおかげではありますが、真似し漫才米屋の丁稚でもこれくらいは作れるええ例やと思います。
 まず、陶器重に一人前ずつ盛って出すちゅうアイデアが浮かびました。はっきりゆうて、この段階で「勝った!」と北叟笑みましたね。やっぱし、こういうもんはプレゼンテーションが肝心やから。そうなったら趣向はストレートに秋の盛りの演出や。と、最初にした仕事が近所の散歩(笑)。綺麗な落ち葉を集めてきました。丁寧に洗って、丁寧に拭って、器に敷いたらガラスの皿を重ねます。これは嵯峨の銘店『翁』でやってはった仕事の真似っこ。

≪スモークサーモンのタルタル≫
材料:スモークサーモン、ゆで栗、アーティチョークの水煮(なかったら固めに茹でたカリフラワーで代用)、柚子ジュース、ゼラチン。飾り用:マスタードの貝割れ(これは日本でなら芽三つ葉とかがええでしょう)、キャビア(イクラが発見できなかったので)
 まず、サーモンとアーティチョーク(同量)を包丁で小指の先くらいのサイズに叩きます。栗も同量ですが、これはプロセッサーにかけて粉に挽きます。栗とシャケが出会いもんなんは敬愛する斉須シェフ率いる東京・三田のフレンチ『コートドール』で知りました。この栗粉が混ざることでまとまりがようなります。
 柚子ジュースを1:4くらいの塩梅で割って固いゼリーにします。やっぱりサーモンと同量くらい。これを細かい賽の目に刻んで混ぜ込みます。これやと予め一緒にしても柑橘の酸味で〆りすぎたりしまへん。そやし前日に仕込んどいてもテクスチャは悪なりまへん。 この薬味をゼリーにしてアクセントにするテクは英国の誇る三ツ星『ファットダック』で覚えました。
 と、これで本体は完成。ここで味見て塩が足りんかったら振って、胡椒も好き好きでかけてもええし、柚子胡椒をちょい忍ばせてもええやろし、で、タッパに入れて冷蔵庫。盛り付けは内側に油を掃いた丸型に詰めて。最後にキャビア(かイクラ)と青みを飾って完成。
≪鴨ロース≫
 漬け汁:醤油半カップ、日本酒半カップ、蜂蜜1/4カップ、これに鴨の胸肉を浸します。上から粉に挽いた上等の山椒をどさあ。最低でも三日前くらいから漬けて毎日ひっくり返してください。
 焼くんは、うちではオーブンですけどフライパンで充分。相当に生っぽうても美味しいんで、そない火の通りは気にせんでよろしわ。そやけど蜂蜜使こてるんですぐ焦げるさかい極々弱火でじわじわええ色になるまで両面を焼きます。ほんでから熱いうちに、また漬け汁に戻します。
 薄うに切って斜めに広げんのは平ものの菊を表現。え? そんなふうには見えへんて? 気は心でっせ。あ、ちなみに鴨の下にはレモンを厚う筒に切って上げ底してあります。鮭のタルタルより気持ち低いくらいにしたいですから。日本やったらスダチがあんのになー、と臍を噛みながら盛り付けたことでおました。
≪無花果のお浸し≫
 濃い目に取った昆布出汁に味醂を加え、うっすら塩味をつけた、レモンをひと絞りした漬け汁に湯剥きした無花果を沈めて冷蔵庫で数日冷やしたもの。盛り付ける直前に軸から1/4くらいのとこで横に切ると、な、これも断面が厚ものの菊に見えんことおまへんやろ?  器のなかで収まりがええように白味噌を煮切りでゆるめたもんを接着剤代わりに小さじ一杯ほど置いて、そこに無花果を載せてます。無花果の熟し具合が足りんときは味噌に砂糖も加えて〝あん〟に仕立て、量も多めにするとぐっと味が立ってきます。
≪南瓜の菊葉仕立て≫
 蒸した南瓜を菊の葉の抜型で抜いて、ほんのりおしょゆうの香りをつけた出汁に漬けただけのもん。ほとんど見えへんけど、バーナーで炙ってちょびっとだけ焦げ目をつけてあります。

 さて、実はあとひとつ、儂は「菊花かぶ」を拵える予定でおました。全体的に口当たりがまったりした、味つけもまろやかなもんばっかしなんで、こう、歯ごたえが爽やかで、きりっと味蕾を引き締めるようなシャープな一品が欲しかったんですよ。コンセプトにもぴったり合うし。鷹の爪をピリッと効かせたら、ええアクセントになるやろなーと。ところが、儂、下手っ糞なんですわ。これ作んの。蛇腹の胡瓜とかもですけど絶対にどっかで深く切り込み入れすぎて台無しにしてまうんです。

photo  てなわけでメニューは「蕪のミルフィーユ」に変更。  まずは白蕪と、この季節だけ英国に出回る黒蕪(ざらっとした黒い皮に覆われているけれど存外に薄くて皮ごと食べられる。独特の甘さがある)をスライサーで薄う薄うにして「あちゃら」に仕立てます。「あちゃら」てゆうのはトンガラシ入りの甘酢漬け。砂糖と酢ゥだけでもええんやけど儂はわりとたっぷり角に切った昆布を奢ってマリネいたします。冷蔵庫に入れておけば平気でひと月くらい保つんで、ここぞとたーっぷり作り置き。
 で、これを白黒交互に重ねて切るだけなんでっけど、せっかくミルフィーユやし間になんか挟みとうなって、唐墨をさっと炙って鉢で当って粉にしたもんをぱらぱら振ることにしました。お客さん料理なんやから、ちょっとくらいは贅沢もせんとね。テクが及ばず器に一緒に盛りきれへんかったんで別皿になってもうたんは慚愧の至り。
 それによう考えたらお目出度い席やのに白黒てなんかお葬式みたいやったかなあとか。どうせならビートルート(ビーツ)で紅白ミルフィーユにすべきやった。この辺りが素人の浅墓さちゅうか限界ちゅうかでんな。

 最後の仕上げは楓の型に抜いた人参(湯掻いただけ)と、赤フサスグリ(レッドカーラント)、それに柘榴の実をテキトーに散らしただけなんですけど、見た目だけの問題やのうて、酸っぱいくだもんで味覚のバランスを取るちゅう意図もございました。これは大正解やったな。
 スグリや柘榴がなかったら、ぜんぜん別のもんで見立ててもいけると思います。ゴールデンキウィとかプルーンを刻んで散らしてもええし、くだもんでのうてもローズペッパーとか輪に切った茗荷とかね。

 もう、お気づきのように今回の前菜盛り合わせはみんな、ひとつひとつはちょっとだけ手間が掛ったりもしまっけど、どれも前日までに下準備しておけるもんばっかり。当日は盛り込むだけ。しかもおいでになる二、三時間前には盛り合わせてお重ごと冷蔵庫に放りこんどけるうで、けっこう余裕綽々やったりします。当日はなんやかや準備があるでしょ? お酒をどーしょーとか、お水買うの忘れてたーとか、花を飾らなーとか。たぶんそんな状況でタイミング計りながら普通の、けど直前仕事の多い前菜を出す方が大変なんちゃうかな。
 高そう見えてほんまのとこ、さほどハードル高こうないんですよね。いや、謙遜でもなんでものうて。
まあ、そんなようなこって。たまーにはこういうことして遊んでみはるんも面白いと思いますえーゆうお話でございました。

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入江敦彦(いりえ・あつひこ)
1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『京都人だけ知っている』シリーズ、『京都人だけが食べている』シリーズ、『KYOのお言葉』『秘密の京都』『秘密のロンドン』など京都、英国に関する著作が多数ある。現在、本の雑誌で「読む京都」連載中。2015年9月に『ベストセラーなんかこわくない』(本の雑誌社)を刊行。