第40回「虫喰い問題」

photo  新年早々ご無沙汰してまいました。すんまへん。もう挨拶すんのも間抜けな感じではございますが、あけましておめでとうさんでございます。ほんねんも、どうぞ宜しくご愛読のほど御願い御奉りますー。

 新年といえばお節。日本にいたら絶対にこんなもん自分で作らへんわ。買うてすますわ。手間を考えたらそのほうがずっと安上がりやわ……などと言いつつ30品を越す料理をこしらえ、30人を越すお友達に振る舞うのが、もう十何年以上もの習慣になってます。その内容は、お客さんの一人であるロンドン在住ライターの江國まゆさんがブログに上げてくれてはるんで、そっちをご参照くださりませ。
 まー我ながら面倒くさいことをやってますな。普段どっちかゆうたら人づきあいのええほうやない暮らしぶりなんで、その罪滅ぼしと、それでも付きおうてくれはる人らへの感謝を込めて年末は働かせてもろてます。
 ほんでね、まあ、草臥れるとはいえ楽しいのは楽しいし、年にいっぺん食べるぶんにはお節料理も美味しいのも美味しいんですけど、ひとつ困った問題が残ります。そもそも来客のごはんを拵えると人数よりもはるかに多い量を用意してしまうタイプなんですけど、それがこんだけもの数になると、そらもーえらいことになってしまいますのやわ。つまりは〝残りもん〟をどうするかっちゅう話です。年々塩梅を覚えてゆきそうなもんですが、その年々で集まる数は違いますし、人気のある品目も異なるんで、事前の算段はたいがいわやになります。
 ただ、このプロブレムについて意識が変化してきたのはここ数年のことでおす。相変わらず悩ましくはあれど、それなりに残ったお節を愉しめるようになってまいりました。すなわち、パラッパパー!入江敦彦はアレンジを手に入れた!んです。「かしこさ」が10上がった! みたいな。なかには余るんを期待してハナからようけ目に購入しとくもんまであって本末転倒もええとこですわ。

 お節ゆうのは伝統料理がほとんどでっさかい「これ!」ちゅう味がしっかり決まっております。そやから下手に味つけしなおしても、なんや中途半端な〝もどき〟になってまいます。けど、そのぶん味つけは薄いめなんで巧いこと他のもんを組み合わせて火をいれると別っこの個性がめでたく手に手をとりあって思わぬマリアージュが生まれたりもいたします。
 一品一品を料理ではなく素材として考え直す――なんちゃって分子ガストロノミー的パラダイム転換でお節を再構築してこます――ことで新たな地平を拓くのが、このごろの新年の習慣のようにもなってまいりました。台所に立って、あーでもない、こーでもないを思いを巡らせるのパズルを解く愉悦のようでもあり、推理小説を捲る悦楽にも似ております。
 でも、いちばん近い比喩は虫喰い問題、やろか。料理の残りゆうのは欠落のある文章みたいなもんやしね。しかも欠損部分を再現して足してやることはでけへん文章やったりしてね。なかなかの難問ではあるけど、そこに言葉を足して全く新しいテクストを創造するのは料理好きには面白い遊びやねんね。
 まー、口でゆうてても、なんのこっちゃみたいな話ですやろ。実際に今年になってから解いた虫喰い問題を見てもろて、ご参考にするなり笑いもんにするなりしてもらいまひょか。
 *のついたんがお節としてお正月に頂いたもんです。

【ばあちゃんのおでん】
photo*いもぼう(海老芋を煮含めたものと棒鱈を煮つけたもんを合わせた料理)の芋 + 棒鱈を炊いた煮汁 + *お煮〆から拾った蒟蒻 + 大根 + おあげさん
うちでは竹輪とかごぼ天などの魚の練りもんや煮抜き卵なんかの入った、いわゆるカント炊き的なおでんのほかに「ばあちゃんのおでん」と呼んでいたもんがありました。こいつはその再現。具が四種類だけのシンプルな〝たいたん〟ですが、それゆえの美味さがあって大好きでした。普通のおでんが群舞の楽しさやとしたら、こっちはグラン・パ・ド・ドゥ。様式美にも似た旨さです。ばあちゃんが作ってくれたはったんは昆布出汁やったけど、今回は濃厚ないもぼうの煮汁を使こた。色が濃うなって、ちょっと田舎くさいけど格段に味はようなる。
【ボンゴレ唐墨】
photo*お吸いもん用の残り蛤 + *蛤のお吸いもんの残りに呑み残された白ワインを加えて煮詰めたもん + 唐墨 + 炒り銀杏 + スパゲティ + バタ + チャイブ
京都のお正月の食卓では白味噌のお雑煮とともに絶対に欠かせへんのが蛤のお吸いもん。この蛤をボンゴレ・ビアンコに仕上げました。これだけでもめっちゃ美味しいのに、さらには薄うに削いだ唐墨を散らせる贅沢! 残りもんの虫喰い料理とは思えまへん。カラスミ(ボッタルガ)パスタはそもそもイタリアでもクラシックなメニューなんで、この合体ロボが不味かろうはずもないんですけど、たぶん想像している以上に素晴らしい一品になってくれはりました。ニンニクはあえて避けて銀杏を散らしたんも正解。独特の風味が磯臭さを和らげます。
【衣笠の木の葉丼】
photo*かまぼこ + *お煮〆から拾った椎茸 + おあげさん + 葱 + *お煮〆の出汁をみんな合わせたん + 卵綴じ + ごはん
かまぼこは日本では庶民的なおかずでっけど、こっちでは貴重品。紅白のんを刻んで卵で綴じた京のガテン食「木の葉丼」は大好物なんやけど、めったなことではやれまへん。一緒に綴じる椎茸の旨煮も手間かかるしね。というわけで、これはお節の残りもんならではのラグジュアリー丼ですわ。本来、このお丼は三つ葉でないとアカンのやけど残念ながらこっちでは入手困難。なので葱で代用。ほなおあげさんと葱を卵で綴じた京のガテン食の双璧ともいえる「衣笠丼」も交配させたろ、てな思い付きで誕生した仮面ライダーⅤ3のごときごはん。お鉢で作って取り分けるのが入江家風。
【鴨じゃが】
photo*鴨ロース + *鴨の漬け汁(日本酒、蜂蜜、醤油、粉山椒どさどさ)+ *ローストポテト(実はクリスマスからの残りもん!)+ *お煮〆から拾った人参 + *隠元(これもクリスマスから)+ 玉葱
鴨ロースはガイジンにも人気なんでほとんど残らへんのですが、お客さんにはええとこしか出さへんので火の通り過ぎた端っこやなんかはけっこうあります。そして鴨肉をマリネしていた美味しい美味しい甘辛いタレ。このふたつをどうやって無駄にせんとこかと頭を捻った結果が肉じゃがならぬ鴨じゃが。白米が困るほど進む、ええおかずになってくれはりました。うちのローストポテトは茹でたじゃがいもを鴨油まぶしてオーブンでカラッと揚げ焼きするさかいに風味もうまいことマッチ。

と、まあ、こんなもんにしておきますけど、鯛の子の棒煮とその残り汁に、お雑煮用の上等の削り節を思い切って加えて作った白菜のたいたんとか、酒蒸しの鶏と酢ごんぼ(たたきごぼう)金柑の甘露煮を合わせた小鉢とか、どれもなかなか乙なもんでした。栗きんとんとパウンドケーキの生地を半々で焼き上げたやつも、しっとりと仕上がって日本のスイートポテトを思い出させてくれよる嬉しいデザートやった。 そやけど、あれですわ。残りもんには福があるてゆいまっけど、なんや新年早々にいっぱいいっぱい福をいただいた気がしてます。虫喰いやろうがなんやろが、お友達が残していってくれはった福なんやし、大事にせんとそれこそバチが当りますわな。ほんま、おおきに。ありがとうございました。

入江敦彦(いりえ・あつひこ)
1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『京都人だけ知っている』シリーズ、『京都人だけが食べている』シリーズ、『KYOのお言葉』『秘密の京都』『秘密のロンドン』など京都、英国に関する著作が多数ある。現在、本の雑誌で「読む京都」連載中。2015年9月に『ベストセラーなんかこわくない』(本の雑誌社)を刊行。