『奇跡の寄席 天満天神繁昌亭』
2011年2月15日 10:42
平成18年(2006)9月15日に大阪天満宮そばに開席した天満天神繁昌亭。これは江戸、上方問わず「噺家が、自分たちの手で定席(常設寄席)を建設させた」という前代未聞の快挙であった。
しかし、天満天神繁昌亭の「奇跡」はこれだけに留まらない。
●戦後、ほとんど消えかかっていた上方落語の灯を、四天王(六代目笑
福亭松鶴、三代目桂米朝、三代目桂春團治、五代目桂文枝)の熱意で
守り継承させていったこと
●「定席建設」が決まるも資金も土地もあてはなし。落語家だけがその
「元手」であったこと
●大阪天満宮の土地を無償で借り受けるという幸運が訪れたこと
●行政が1円も出していないのに、市民や地元企業から2億4千万円の
寄付が集まったこと
●構想からわずか3年あまりで開席が実現したこと
●「落語家による寄席運営」も前代未聞だったこと
●開席後、4年以上経った今日でも「繁昌」を続けていること
複数の「奇跡」に彩られた繁昌亭秘話を記した著者の堤成光さんは大阪商工会議所中小企業振興部(流通担当)の現役所員で、シカゴ日本商工会議所時代に落語家・桂三枝と出会い、仕事上の親交が始まった。そして平成15年(2003)の正月、彼は三枝から「落語の定席を建設したい」との思いを打ち明けられ、この物語が加速する。
いくつかの産みの苦しみを経て、繁昌亭が完成し今日の隆盛を築き上げた最大の理由を、堤氏は「そこに桂三枝という噺家がいたからこそ実現できた」と断言し、それこそがやはり、繁昌亭最大の奇跡ではなかったかと振り返っている。
この本を紹介するにあたり、発売前(http://www.140b.jp/blog/2009/08/post_465.html)や、繁昌亭3周年の日にめでたく発売が出来たこと(http://www.140b.jp/blog/2009/09/post_481.html)、この本を出版するにあたっての思い出話(http://www.140b.jp/blog/2009/11/post_505.html)をブログに書いた。この類い希な「伝えたい情熱」を持った著者と出会ったことは、落語好きの読者にとって、もちろん140Bにとっても実に大きな財産であったと感じる。
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『読み歩き奈良の本』
2011年2月14日 19:50
日本の歴史地理学の権威・千田稔氏が館長を務める奈良県立図書情報館が編者となってつくった1冊。奈良のガイドブックは数あれど、「文学」「映画」など「物語」の切り口で奈良を紹介しているのがこの本の際立った特徴で、文学作品は『鹿男あをによし』(万城目学)、『まひるの月を追いかけて』(恩田陸)、『早春の旅』(志賀直哉)、『古寺巡礼』(和辻哲郎)、映画は河瀨直美の『火垂』『殯の森』...と新旧錚々たる作品に登場する「彼の地」を訪ねる。
それらは知られた観光名所であることもあれば、車窓から見飛ばすような風景であったり、どこにでもあるような商店街であったり(実は物語の重要シーン)...という発見が随所にある。
これらのページや後半の「私ならこの奈良を語る」に登場する奈良各地の表情は、凡百の観光ガイドブックが逆立ちしても出せない「地元の人間がよく知る普段着の奈良」の顔である。なるほど、人々が暮らす奈良を歩いて地元の人に出会ってこそ、自分なりの「物語」を紡ぐことができるのだと、写真が語りかけてくる。
取材・構成を担当した140Bの平井和哉は、現地の空気感までを切り取ったような写真のために、四国から中村政秀(せとうちカメラ)を呼び寄せ、それに応えて中村は数日間シャッターを押し続けた。慌ただしい名所巡りではない、「ゆっくり日なたぼっこ」したいがために奈良を訪れたくなるビジュアルがページを彩っている。「奈良の人たちが知ってそうで知らなかった切り口」を見つけるため、あえて、取材者を含めた制作チームはすべて非奈良在住の人間を起用した。
冒頭にて紹介した奈良県立図書情報館館長・千田稔氏は、ならまちのカフェ[カナカナ]のオーナー・井岡美保さんと「いかにも奈良らしい、ということ。」で対談しているが、これが実に本音満載トークで時にクスッとさせ、時に「奈良の値打ちとは何ぞや」と考えさせ...と、この本の締めくくりにふさわしい内容となっている。「奈良を第二の京都にしたらあかん」という千田館長(京大卒です)の発言に、地元奈良人の矜持を感じた。
「遷都千三百年」の年に発刊したが、そんな「イベント的」なものが嫌いor苦手な人にこそ手に取って奈良を歩いてほしい1冊である。
それらは知られた観光名所であることもあれば、車窓から見飛ばすような風景であったり、どこにでもあるような商店街であったり(実は物語の重要シーン)...という発見が随所にある。
これらのページや後半の「私ならこの奈良を語る」に登場する奈良各地の表情は、凡百の観光ガイドブックが逆立ちしても出せない「地元の人間がよく知る普段着の奈良」の顔である。なるほど、人々が暮らす奈良を歩いて地元の人に出会ってこそ、自分なりの「物語」を紡ぐことができるのだと、写真が語りかけてくる。
取材・構成を担当した140Bの平井和哉は、現地の空気感までを切り取ったような写真のために、四国から中村政秀(せとうちカメラ)を呼び寄せ、それに応えて中村は数日間シャッターを押し続けた。慌ただしい名所巡りではない、「ゆっくり日なたぼっこ」したいがために奈良を訪れたくなるビジュアルがページを彩っている。「奈良の人たちが知ってそうで知らなかった切り口」を見つけるため、あえて、取材者を含めた制作チームはすべて非奈良在住の人間を起用した。
冒頭にて紹介した奈良県立図書情報館館長・千田稔氏は、ならまちのカフェ[カナカナ]のオーナー・井岡美保さんと「いかにも奈良らしい、ということ。」で対談しているが、これが実に本音満載トークで時にクスッとさせ、時に「奈良の値打ちとは何ぞや」と考えさせ...と、この本の締めくくりにふさわしい内容となっている。「奈良を第二の京都にしたらあかん」という千田館長(京大卒です)の発言に、地元奈良人の矜持を感じた。
「遷都千三百年」の年に発刊したが、そんな「イベント的」なものが嫌いor苦手な人にこそ手に取って奈良を歩いてほしい1冊である。