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第1回  西成で飲む。ちゅうても、そんな大層なことやないけど。(なだや/大阪・新今宮)

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いきなりですが、食べ飲みのブログをやることにする。

自分がほんまに「ほんまにいい店だ」と思った瞬間のことや、今まで何で書けへんかったんやろ、という「気持ち」を言葉にしていこうと思う。

とにかく店に行く。が、仕事のために行くのではないから、もちろん取材はしない。

元々飲食店については、ライターが取材で聞いて帰れるものは、「データ」だけであるとあちらこちらで言ってきた。

とくに酒場での酒については、たとえばビールならアサヒのスーパードライかキリンのラガーぐらいの違いであり、グラスに注がれ中身はどの店のものでも、コンビニの棚に並んでいるビールと同じ(はず)だ。

ドライ・マティニーのレシピを訊いてきたところで、その酒のしびれる旨さや、そのバーのぐっとくるところを何一つ反映しない。

酒場やお好み焼き屋のような類の店については、取材だけでは絶対書けない。その店との関係性でしか語ることができない。つまりグルメ的な情報によって「それを語ること」を拒むように構造化されているのだ。

写真も自分で撮って、適宜アップしたいと思う(そのために小さなカメラを買った)。本気である。

画家の奈路道程さんには、たまにカットを描いてもらおうと思う。奈路さんとは今、毎日新聞に連載中の『濃い味、うす味、街のあじ。』でコンビを組んでいるが、『ミーツ』を創刊して以来20年以上の長い長い付き合いだ。

「休みの昼にでも、久々にゆっくり話をしょうや」ということで、奈路さんとは先日の日曜日、JR新今宮駅の東口で午後2時に待ち合わせした。

2人にとって「話をする」ということは、あらたまって食事をしたり、喫茶店に行ったりするということではない。奈路さんはたまに行くという、西成三角公園前の[なべや]に行こうと提案してきた。西成の大衆的な酒場は、平日も日曜日や休日も昼からやっている店が多いから、こういう場合ミナミをワープして西成へ足を伸ばすことが正解だ。

わたしは「おっ、[なべや]かいな。長いこと行ってへんな。奈路くん、エラいとこのエラいエエ店知ってるやんけ。楽しみやなあ」などと言っていたから、奈路さんは念のために予約をしようと電話を入れたが臨時休業だとのこと。

それじゃ「一番近いとこにしょう」ということで、新今宮の太子交差点から、堺筋沿いを北へ50メートル、[なだや]に行くことにした。[なべや]じゃなくて[なだや]。一字違いだが店の形態は鍋中心の居酒屋と、串カツ中心の居酒屋と全然違う。

[なだや]は午前中からやっているし、休みの日は見たことがない、まことにこのあたりらしい居酒屋だ。途中、工事用のボードで覆われた解体中のフェスティバルゲートの前から、天王寺駅方面にハルカスが見える。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 10年前には想像も出来なかったものすごい西成・浪速区的風景だ([なだや]やこのフェスゲや通天閣がある環状線より北側は浪速区である)。

 

 

 

 

 

 

 

先ほど居酒屋などと書いたが、焼鳥やホルモン串焼きも食べられる串カツ屋、といった変形コの字型のカウンターを2つ組み合わせた大きな店だ。

この日は日曜日で、チャリンコを乗ってくる地元のおっさんのひとり客やら、夫婦でセブンスターの箱を取り合いしてうまそうに吸っている客、ギターケースを下げた40歳台と思しきバンドやろうぜ3人客など、表のコの字カウンター部分は五分入りだ。

昼酒はクセになる。そして誰かと飲むときは夜までハシゴになる。その日は、家に帰っても寝るまでずっと飲みっぱなしになることが多い。明くる月曜日はカラダもココロも大変なことになるから、とにかくカラダに悪そうな合成酒みたいなもんは飲まないに越したことがない。

だからきっちり菊正宗を出すこの店はありがたい。確か以前は「灘屋酒店」という看板があったはずだ。

アサヒスーパードライの生中は日曜がサービスデーで280円と文句なしの格安だが、串カツは牛が1本160円と結構取りよる。が、しかし串カツのネタが良いし大きい。ソースもよく浸みる感じの甘きれいな、まことにええソースである。

わたしは串カツの牛ばかりの連打とキャベツ、奈路さんは串カツの豚やイカやちくわに加えておでんのスジやダイコンという、まことに浪速伝統的な嗜好で1時間半ほど飲んでいると、ケータイが鳴った。

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カウンター奥の一角

画家の西桐玉樹さんである。こちらに向かうとのこと。

西桐さんがやってくると、より一層酒のピッチが速くなる。男3人という場面は一番酒が進むのだ。

生ビールから奈路さんはハイボール、俺は酒を常温でと変わる。串カツおでんから、ポテトサラダ、エイヒレとアテが変わってきた頃には日も暮れてくる。

キューバやドミニカの音楽の話が出て、「[バージャズ]へ音、聞きに行こうや」となる。ようやく普通の酒場と呼ばれる類の店が開店する時刻。

そういや[なだや]は休日の昼に行くことが多いな。串カツ屋は立ち呑み屋が多いのとどこも慌ただしい活気がするが、ちょっと年をとった感のあるこの店の空気感はゆっくり飲める。

なだや
大阪市浪速区恵美須西3丁目2−16
06-6648-0621

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