第六話 神戸にて

先週土曜日は、神戸まで行っていた。
歳末前の風物詩、「ルミナリエ」が気になったが、家族と離れて長い私は、東公園の前を夕方に歩いたが
結局人ごみのなかに入って行く勇気と好奇心が持てなかった。

ガード下あたりで適当に飲んで戻った。

最近の忘年会事情はどうなのだろう。

私は会社員時代の忘年会が、懐かしいくらい今は遠い。

仕事はアルバイトを複数しており、その他の付き合いも結構あるが、
今の収入レベルだと、事務所で持ち込み宴会も多い。

女性中心の家事サポートの仕事場では、そういった気の置けない集まりに呼んでもらえるし、会費も安い。
高い会費の忘年会は、顔を出せないが、減って来ているのではないだろうか。

それとも出来上がってしまってから、盛り上がった者同士で、
「もうちょっと行きましょうか?」みたいな流れの方が、近年は自然なのかもしれない。



大昔は、忘年旅行もあった。
一泊付きの温泉旅館などで「どんちゃん騒ぎ」をすることが、年中行事だったり。

その頃は「参加しません」なんて若手が言おうものなら
「何考えているんだ!」
それだけである。

そんな右向け右な、会社員生活は遠い昔の話になり、もうじき平成も終わる。

私は「あれが良かった」とは、懐かしがらないが、少しくらいは宴会が好きである。

無礼講とか、酔って上司に食い下がる癖のある男が必ずいたり。
「ガス抜き」は社会にあった方が良い。

ガス抜きのない世間は、日の暮れの早いシーズンになると電車がよく止まる。

そんな場面に遭遇する度に、胸元に手を当てて、何かに祈らずにいられない。

湿っぽくなった。
忘年会は、女子会も増えて来て、近年は男性中心社会が、随分退潮気味になっている。

カジュアルなパーティーからケータリングまで、TPOで年末の宴会は
様々なスタイルの異なる時代にもなったのだろう。

「飲みに行くのも仕事」なんて男たちが、強がっていた時代は、随分と過去の記憶になった。

ところで、今年は平成時代、最後の師走になった。
30年前は、若者だった私も、初老近い髪の毛の白い男性に変わった。

そうやって、この年と、これまでの年を振り返りながら迎える師走は、
ほんの少しだけこれまでの毎年と、違う年末のような気がする。

近年亡くなった友人のことも、つい思い出してしまう。
私は姉を亡くし、母が次いでいなくなり、父は四半世紀前に。
それから家人と別れて、昔よりずっとひそやかな年の暮れの空をを見上げている。

神戸からの帰りに、ふと緑地公園付近の5LDKのマンションに、家族5人で
暮らしていた10年前のことを思い出した。
なんとなく最寄り駅の曽根で降りて、街の素顔が急に見たくなった。

振り返る平成の30年、あの頃は若かったなあ。
昔は、世の中のことは、何でも出来ると思っていたり。

そんな若気の至りも疾うに消え去り、北摂の空の下で、私は冬の到来に
コートの襟を立てて、今日はどうしようかと、夜の道を一人で歩いているのである。

北摂で酒宴があるなら、宴会帰りにここに立ち寄るのはどうだろう。
以前、広島県三次市の銘酒「美和桜」が置いてあるのに気がついて驚いた。

飲むほどにそっと従業員に聞くと、御主人が広島の備後の方のご出身らしい。

広島酒は女酒、甘口とよく言う。酒都西条や、最近では瀬戸内の竹原や
三原の酒が有名だが、山間部にも銘醸がある。

冷えるこの時期は、燗酒がうれしい。

きょうのお店

小料理「亀は萬年 」

豊中市曽根西町3-7-1 阪急曽根駅(各停)から西に向かって歩いて7、8分

☎︎ 06-6843-7290

時間:17:00~23:00 月・第3火(もしくは第4火)休

美和桜 本醸造一合350円から大吟醸780円まで
呉春、秋鹿もある

ビールは中瓶480円

宛て物は、揚げ物、造り、酢の物、焼物と種類は大変豊富で400円台中心

海老レンコン寄せ揚げ480円、土瓶蒸しは850円など (※いずれも税別)

弘津 興太郎(ヒロツ コウタロウ)

新聞社を50歳で早期退職。私鉄沿線の路地裏長屋に棲み、立ち飲みと銭湯に通うのが日課。
好きなものはヤレたイタリア車。