屋上に出られる空中庭園は、大阪の観光名所となっている。54m角の大きな塊は地上で組み上げられ、リフトアップという工法で150mの上空に持ち上げられた。日本の高度な建設技術がなせる技だ。
中間のオフィス階のガラスは、空の景色を映すように反射性のあるガラスが採用された。ビル全体が空を映し出して背景に溶け込み、空中庭園だけがまさに「浮いた」ようにみえることを狙ったものだ。しかし現実は…。
梅田スカイビルの空中庭園は、図と地の関係でいうところの「地」にも注目してほしい。2棟のビルに挟まれた巨大な吹抜空間には、展望エレベーターや空中エスカレーター、2棟を途中でつなぐブリッジなどが配されていて、空中を自由に行き来する空中都市のコンセプトが、ここに最もよく実現されている。
JR梅田貨物駅跡地を再開発し、2013年(平成25年)4月26日に開業したグランフロント大阪
梅田スカイビルを「どや建築」としてあげることに違和感を感じる人がいるかもしれないが、見た目のスッキリしたデザインに騙されてはいけない。梅田スカイビルは有名な建築家が設計したスタイリッシュな高層ビル、ではない。2本の超高層ビルを、150m以上の高さに設けた「空中庭園」でつないだ、前代未聞の「連結超高層建築」なのだ。こんなビル、日本中を探しても大阪にしかない。
この連結超高層ビルは、京都駅や札幌ドームの設計者として知られる建築家・原広司の案がプロポーザルで選ばれたもの。提案時は横に建つウェスティンホテルも含めた、3棟連結の計画が示されていて、何と将来的には4棟連結が可能なよう構想されていたという。
しかしビルを連結するというアイデアそのものは、本人も認めるように原独自の発想ではない。20世紀以降のモダニズムの歴史のなかで、世界中の建築家が建築を連結していく立体都市を構想してきた。日本でも1960年代の「メタボリズム」という建築運動のなかで、黒川紀章や菊竹清訓などが盛んにメガロマニアックな立体都市、巨大建築の構想を発表した。少し大げさな言い方かもしれないが、梅田スカイビルはたった2棟の連結とはいえ、20世紀を通じて重ねられてきた建築家たちの妄想が、ついに実現した建築界全体にとってのどや建築なのだ。
連結超高層は、単なるデザイン上の新奇性や、空中庭園の実現のみを目的にしたものではない。専門家でなくてもわかることだが、2本の超高層ビルがバラバラに建つよりも、頭をつないだ方が地震や強風に強くなるし、災害時の避難経路も複数確保できて安全性が高まる。都市に林立するビルは個別バラバラに地上からアプローチするしかないが、上空で繋がっていけば移動の効率も上がるだろう。しかし現実には敷地や所有の問題、様々な規制や経済的な理由がその実現を妨げる。梅田スカイビルはバブル景気を背景とした巨大開発プロジェクトとして、日本が世界に誇る建設技術によってはじめて実現することのできた、奇跡の出来事だったのだ。実際、梅田スカイビルによってその構造的な有利性や技術的な裏付けが示され、構造設計を担当した構造家の木村俊彦は今後連結超高層の時代が訪れることを期待したものの、残念ながら日本では、ツインタワーはあっても連結ビルは構想すらされていない。
淀川越しに梅田方面を眺めると、超高層ビル群のスカイラインがよく見える。梅田スカイビルが完成してからちょうど20年、ユニークなデザインや、透明感の高いガラスのカーテンウォールの超高層ビルが次々に実現してきたが、梅田スカイビルだけが異次元の存在感を放ち続けている。2013年に隣接する北ヤードにグランフロント大阪がオープンし、4棟の超高層ビルが並ぶ迫力の景観が出現したが、残念ながらそのどや度は、梅田スカイビルに遠く及ばない。というか、梅田スカイビル以上のビッグプロジェクトで4棟ビルを並べるのだから、なぜ梅田スカイビルに倣って連結し、立体都市を目指さなかったのだろうと思う。