第10回 公共建築 ③

国立民族学博物館
西端の展示ユニットは後年に増築された部分
筒状のシリンダーには階段やエレベーターなどの垂直動線がおさめられている
施設の中心にあたる中央パティオ「未来の遺跡」
1981年に増築された講堂
水盤が広がるメインエントランス
1989年に増築された特別展示館
中央に中庭(パティオ)を設けた40m角の展示空間ユニット
窓際に設けられたビデオテークユニットの背面
ガラスの回廊に囲まれた中央パティオ
空中に向かって上っていく謎めいた階段
古越前のかたちと技法を再現した大壺と深鉢
古越前のかたちと技法を再現した大壺と深鉢
インド砂岩で構成された巨大な彫刻的空間
中央パティオの周りに配されたビデオテーク。1977年の竣工当時、観客が一覧表から選んだ映像資料を自動で再生するこのシステムは、世界初の画期的なものであった。現在はレトロフューチャーなデザインはそのままに、オンラインのデジタル動画配信システムに換装して、世界各地の映像資料を視聴することができる。
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■国立民族学博物館
建設年:1977年
所在地:大阪府吹田市千里万博公園10-1
設計者:黒川紀章建築都市設計事務所
構造:鉄筋コンクリート造および鉄骨鉄筋コンクリート造

 みんぱくを設計した黒川紀章は東京大学の大学院在学中に早くも自身の設計事務所を立ち上げて、若い頃から大胆な構想案を発表するなどして、世界的にも知られる存在となっていた。1970年の大阪万博でもパビリオンの設計を担当し、国家プロジェクトであったみんぱくが開館した時はまだ43歳。早熟な建築家であったといえる。
 黒川は設計に際して、40m×40mの展示ユニットを単位に4万m2を超える広大な敷地を分割して、東西に将来の増築部分を残して全体を構想した。40m角の展示ユニットは中央にパティオと名付けられた中庭を配したロの字型になっていて、展示空間に自然採光を取り入れることに加えて、ロの字が並ぶことで、展示空間の動線に回遊性をもたらすことを意図している。
 周囲の自然景観に馴染むように低く抑えられた外観は、地面から少し浮いたシンプルな直方体が、水平に並ぶようにデザインされている。外観を特徴付ける渋い色合いのグレーのタイルは、当時黒川が「利休ねずみ」といって好んで用いたもので、日本の風景にもっとも浸透しやすい色彩と考えていた。黒川は利休ねずみを物質的存在を消去する中性色と捉えていたが、初代館長の梅棹忠夫も、「よくみるとじつに千変万化の色彩をはらんでいるのに、すっととおってみたら、なにも色彩がなかったという感じになる」と感想を述べたという。
 みんぱくは1977年の竣工後、79年、81年、83年と展示場や講堂の増築を繰り返し、1989年には特別展を行う特別展示館も完成した。その後も増築を重ねながら、展示空間の刷新を繰り返し、現在もメタボリズムの思想を背景に新陳代謝し続けている。