大阪・京都・神戸 街をよく知るからこそできる出版物&オリジナルメディアづくり
拝啓・古地図サロンから33

2022年9月30日・本渡章より

【今回の見出し】

■9月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動
  • 古地図ギャラリー第13回

東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その13〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:9月30日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。サロン開催から日が経ち、すっかり秋になりました。ブログの更新、ぼちぼち進めてまいります、

いつもは大阪の古地図を中心にご覧いただいていますが、今回はそれに加えて古い世界地図や戦争写真集、京都・奈良・神戸の各観光案内、全国版の旅行地図なども並べてみました。いつもとちょっと違う雰囲気になったかと思います。それぞれ時代を感じさせますが、婦人雑誌付録の旅行地図に載っている「旅の心得」メモが特に目を惹きました。男女の役割分担の話なのですが、かつ「~すべきでしょう」という口調で語られる項目のほとんどが女性向け。この数十年の意識の変化をあらためて思い起こさせる内容でした。昭和30年頃の婦人雑誌の傾向がわかります。そういう目で、大正から昭和にかけての地図に記された観光案内の文言を見なおすと、おおむね男性の読み手を意識した内容だったと気づきます。地図は作り手も読み手も男性という時代が長かったのですね。「今だと、こういう表現はペケ」という声が多く出ました。地図を作る現場は今どうなっているのか、その種の情報は少ないですが、そちらの方がちょっと気になります。

大阪の地図では昭和21年の「大阪府管内図」が謎を残しました。地図の前の持ち主が手描きで地図中の数か所にマーキングしてあり、その意味をみなさんに推理してもらったのですが、正解らしきものは見つからず。緑地と何か関係があるかもしれないと思われましたが、決め手に欠けました。サロンでは、いろいろ推理を出し合うことに楽しみと意義がある、ということですね。

世界地図(1953年)は、今はない国名、変わってしまった国境線などがかなりあり、やはりこの数十年の変遷を感じました。

こんな感じで古地図を囲んで、参加者のみなさんと歓談しております。新規のご参加、いつでも歓迎。初めて古地図を見るという方もお気軽にお越しください。というわけで、次回もまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

というわけで、次回も皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図
地図(原図)
花の吉野山 昭和初期 サクラ花壇
大阪京都遊覧御案内 昭和10年代 京阪電車
全国旅行案内地図 昭和30年頃 婦人倶楽部新年号付録
大演習枢要地図 明治31年(1898) 中村鐘美堂
大阪府管内図 昭和21年(1946)和楽路屋
新世界地図 昭和28年(1953) 京都新聞
◆写真集
旅順記念写真帖 大正16年(1927)東京堂
◆観光案内
鴨川おどり 昭和10年代 大阪毎日新聞社
神戸観光 昭和20年代 神戸国際観光協会
阪神地方 昭和15年(1940) 日本旅行協会

●サロンレポート追記

前回のサロンで紹介した絵師・井沢元晴が残した戦災画スケッチの記事が、神戸新聞9月15日付夕刊の一面に載りました。本日のサロン参加者のお一人が掲載紙を持参され、みなさんで回覧。井沢元晴の遺族で神戸新聞の取材を受けた足立さんも来場しておられ、話が盛り上がりました。足立さんは、井沢元晴33回忌に合わせた戦災画スケッチ展を神戸の安養寺で開催されたとのこと(写真参照)。神戸新聞の記事の反響が大きく、安養寺での展示を150人近い方がご覧になったそうです。井沢元晴は記事にも紹介されたとおり、日本各地を訪ね鳥観図を描いて昭和の伊能忠敬と呼ばれた絵師。今後の再評価が期待されます。

 

次回は2022年11月25日(金)午後3~5時開催予定

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。
(サロンは基本、奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

【最近と今後の古地図活動】

●「大阪の地名に聞いてみたブログ連載中

誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い。
月1回ペースで一年間の連載予定(題字と似顔絵・奈路道程)。

第1回 大阪の干支地名エトセトラ【前編・後編】
第2回 続・干支地名エトセトラ&その他の動物地名【前編・後編】
第3回 桜と梅の大阪スクランブル交差点【前編・後編】
第4回 花も緑もある大阪【前編・後編】
第5回 場所が仕事をつくった【前編・後編】
第6回 街・人・物・神シームレス【前編・後編】(仕事地名・泉州編)
第7回 古くて新しい仕事と地名の話【前編・後編】(仕事地名・河内編)
第8回 語る地名・働く地名【前編・後編】(仕事地名・北摂編)
第9回 人の世と神代(かみよ)をつなぐ神地名【前編・後編】

●電子書籍のお知らせ

これまで電子書籍の案内をしてきませんでしたが、現時点で電子化された本渡章の著書(古地図・地誌テーマ)を順不同でご紹介します。記載の刊行年はリアル書籍のデータです。

【次の2冊は各電子書籍ストアでお求めください】

『鳥瞰図!』140B・刊(2018年)

思考・感情・直観・感覚…全感性を目覚めさせる鳥瞰図の世界にご案内。大正の広重と呼ばれた吉田初三郎の作品群を中心に、大空から見下ろすパノラマ風景の醍醐味を味わえます。併せて江戸時代以来の日本の鳥観図のルーツも紐解く、オールカラー・図版多数掲載の決定版。

『古地図で歩く大阪 ザ・べスト10』140B・刊(2017年)

梅田・中之島・御堂筋・ミナミ・天満・京橋・天王寺。阿倍野・住吉・十三・大正・平野の10エリアを古地図で街歩きガイド。さらに博物館、図書館、大書店、古書店での古地図探しの楽しみ方、大阪街歩き古地図ベストセレクション等々、盛りだくさんすぎる一冊。オールカラー・図版多数掲載。

【次の8冊は創元社(オンライン)の電子書籍コーナーでお求めいただけます】

『図典「摂津名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

大阪の地誌を代表する「摂津名所図会」の全図版を掲載。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添えた。調べものに便利な3種類の索引、主要名所の現在地一覧付。江戸時代の大阪を知るためのビジュアルガイド。

『図典「大和名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

姉妹本『図典「摂津名所図会」を読む』の大和(奈良)版です。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添え、3種類の索引、主要名所の現在地一覧も付けるなど「摂津編」と同じ編集で構成。江戸時代の奈良を知るためのビジュアルガイド。

『古地図が語る大災害』創元社・刊(2014年)

記憶の継承は防災の第一歩。京阪神を襲った数々の歴史的大災害を古地図から再現し、その脅威と向き合うサバイバル読本としてご活用ください。歴史に残る数々の南海トラフ大地震の他、直下型大地震、大火災、大水害の記録も併せて収録。

『カラー版大阪古地図むかし案内』(付録・元禄9年大坂大絵図)創元社・刊(2018年)

著者の古地図本の原点といえる旧版『大阪古地図むかし案内』に大幅加筆し、図版をオールカラーとした改訂版。江戸時代の大坂をエリアごとに紹介し、主要な江戸時代地図についての解説も収めた。

『大阪暮らしむかし案内』創元社・刊(2012年)

井原西鶴の浮世草子に添えられた挿絵を題材に、江戸時代の大坂の暮らしぶりを紹介。絵解きしながら、当時の庶民の日常と心情に触れられる一冊。

『大阪名所むかし案内』創元社・刊(2006年)

江戸時代の観光ガイドとして人気を博した名所図会。そこに描かれた名所絵を読み解くシリーズの最初の著書として書かれた一冊。『図典「摂津名所図会」を読む』のダイジェスト版としてお読みいただけます。全36景の図版掲載。

『奈良名所むかし案内』創元社・刊(2007年)

名所絵を読み解くシリーズの第2弾。テーマは「大和名所図会」。全30景の図版掲載。

『京都名所むかし案内』創元社・刊(2008年)

名所絵を読み解くシリーズの第3弾。テーマは「都名所図会」。全36景の図版掲載。

※その他の電子化されていないリアル書籍(古地図・地誌テーマ)一覧

『古地図でたどる 大阪24区の履歴書』140B・刊(2021年)

『大阪古地図パラダイス』(付録・吉田初三郎「大阪府鳥瞰図」)140B・刊(2013年)

『続・大阪古地図むかし案内』(付録・グレート大阪市全図2点)創元社・刊(2011年)

『続々・大阪古地図むかし案内』(付録・戦災地図・大阪商工地図)創元社・刊(2013年)

『アベノから大阪が見える』燃焼社・刊(2014)

『大阪人のプライド』東方出版・刊(2005)

●東畑建築事務所にて「プトレマイオス世界地図」公開

当ブログでの連載「古地図ギャラリー」でおなじみの世界的コレクション「清林文庫」を所蔵する東畑建築事務所さんが、10月29日(土)・30日(日)、日本最大の建築イベント「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2022に参加大阪オフィス(中央区)で秘蔵の「プトレマイオス世界地図」を特別公開予定。プトレマイオス世界地図の他にも約20点の西洋・日本の古地図展示があります。この貴重な機会をお見逃しなく。

●大阪府立中之島図書館で京阪電車展

10月3日(月)~29日(土)中之島図書館3階特別展示室にて「路線図で見る京阪電車の半世紀」展を開催中。企画・構成を本渡章が担当しました。展示の中心は明治43年(1910)の創業から昭和38年(1963)の淀屋橋駅開設までのおよそ半世紀にわたる京阪電車の変遷を物語る路線図と沿線観光案内図。奈良、和歌山、琵琶湖にまで路線が延びた拡大期、日本一大菊人形、ひらパー誕生の時代など、京阪電車の足跡を一望。その他、記念絵葉書、記念乗車券、PR誌、記念冊子、さらに電車模型、電車ヘッドマーク、京阪電車が募集した電車の児童画などもご覧になれます。

 

●動画古地図でたどる大阪の歴史」続編、 現在作成中(制作:大阪コミュニティ通信社)

江戸時代の大坂、近代以後の西区編に続き、街歩きスタイルの編集による港区編公開。他に「古地図サロン」、著書『古地図で歩く 大阪24区の履歴書』紹介編の動画もあります。
7月16日(土)「此花区・港区・大正区」をテーマにリアル講座(OCU主催)を開催。編集後、動画として公開を予定しています。

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定

10月24日(月)、11月21日(月)午前10~12時
「大阪古地図むかし案内 ~島之内から道頓堀へ、新旧ミナミの変遷」(教室講座と現地街歩き)
12月16日(金)午後1時~2時30分「古地図で訪ねる大阪の60年代と万博」

 

|古地図ギャラリー|

【淀川勝竜寺城跡全図】嘉永5年写・久野恒倫

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その13〉

『淀川勝竜寺城跡全図』に描かれた勝竜寺城は、長岡京市の史跡です。有名になったのは戦国時代。本能寺の変の後、中国から羽柴秀吉が大返りをし、天下分け目の戦いといわれた山崎の合戦で明智光秀が討たれます。この時、光秀が拠点としたのが勝竜寺城でした。平地の小城で、守るには不向きだったため、実際の戦いは城外で展開。軍勢の人数で劣勢に立たされた光秀は、山崎の狭隘な地勢を生かし、秀吉に数の優位を発揮させない作戦をとりました。それでも及ばず敗れたのは、時の運です。

勝竜寺城は石垣と天守を持ち、周囲には空堀をめぐらせて、安土城に先立つ近世城郭のモデル的存在とされています。光秀の娘の玉(後の細川ガラシャ)が細川家に輿入れした城としても歴史に名を残しました。図の題名に「淀川」の2文字が入っているのは、淀川支流の合流地点に建っているからです。当地は西国街道の筋道にもあたり、交通の要所でもありました。

城郭図は古地図のジャンルのひとつで、城郭の愛好家には人気があります。図は嘉永5年(1859)に原本から写して作成されたもの。筆写した久野恒倫のプロフィルは不明ですが、幕末の不穏な空気を背景に、城郭と合戦の歴史を振り返ろうとしたのでしょうか。

図の淀川の畔に淀城も見えます。淀君もまた戦国の世に名を残した一人。よく見ると、川筋の流れなど地形が現在とは変わっています。勝竜寺城も実際よりは大きく描かれているようです。城郭図には物語がつきもの。「淀川勝竜寺城跡全図」は明智光秀、細川ガラシャ、淀君の数奇な生涯を思い起こさせ、歴史のイメージをかきたてる魅力を持っています。

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東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

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過去の古地図ギャラリー公開作品

第12回(2022年7月)

①東畑建築事務所「清林文庫」より秋山永年「富士見十三州輿地全図」

 

第11回(2022年5月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大日本分境図成」

 

第10回(2022年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「新改正摂津国名所旧跡細見大絵図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「笠岡市全景立体図」

 

第9回(2022年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「暁鐘成・浪花名所独案内」

②本渡章所蔵地図より「大阪市観光課・大阪市案内図

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「躍進井原市」

 

第8回(2021年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」

②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」

 

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

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