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短い距離でも表情は多彩。阪堺電車を侮るなかれ

担当/中島 淳

11月7日(木)のナカノシマ大学で、まち歩きの超スペシャリスト陸奥賢(むつ・さとし)さんが数回にわたって「阪堺沿線」の特別講座を開催する。まずは天王寺駅前から我孫子前までの「阪堺上町線」エリアを深掘り。

阪堺電車のHPより

この路線が走る大阪市阿倍野区と住吉区は、大阪市内24区の中でもとくに鉄道線が密集しているエリアだ。

以下、西から挙げると  ※(   )はそのエリアに乗り入れた年

阿倍野区……阪堺上町線(1900)、地下鉄谷町線(1980)、地下鉄御堂筋線(1951)、JR阪和線(1929)、近鉄南大阪線(1923)

住吉区……南海本線(1885)、阪堺阪堺線(1911)、南海高野線(1900)、阪堺上町線(1900)、JR阪和線(1929)、地下鉄御堂筋線(1960)

住吉区は阿倍野区の1.5倍以上広い。6本が走っているのはそのためか。

大阪市内には大正区や平野区、鶴見区のように「鉄道はJRと地下鉄1路線のみ」という行政区もあるが、両区は明治から昭和の高度成長にかけての人口増を背景に、鉄道会社の沿線開発上(宅地や行楽も含めて)、重要なエリアだと位置付けられたから、これだけの本数になったのではないかと思う。何せ贅沢なエリアだ。

第一本宮から第四本宮(すべて国宝)までがずらりと並ぶ住吉造の本殿

とくに、大きな目的地である住吉大社は、上町線と阪堺線の「住吉」「住吉鳥居前」、南海本線の「住吉大社」、そして南海高野線の「住吉東」と最寄駅が4つあって、いずれも駅から5分で境内にたどり着く。

日本広しといえど、最寄駅(停留場)が4つもある寺社は、ほかに明治神宮と浅草寺と熱田神宮ぐらいではないだろうか。利用者にとってはありがたいことこの上ない。

この阪堺上町線は明治33年(1900)に、天王寺西門前(現在は大阪シティバスの停留所)と東天下茶屋を結ぶ「大阪馬車鉄道」として開業した。あのゆっくり走る感じは馬車のスピードを引き継いでいるのかもしれない。

10年後の明治43年(1910)には路面電車となって、住吉神社前(現在の住吉鳥居前)まで「横づけ」の感じで走るようになった。

 

「のんびり路面電車」と「ガチ鉄道」二つの顔

最初はビルの谷間を走る(天王寺駅前〜阿倍野間)

現在の始発停留場の天王寺駅前を出てしばらくは、あべのハルカスなど超高層ビルの谷間でクルマに挟まれながらあまり存在感を示さずに(!?)運行する。

東天下茶屋停留場。停留場というより「駅」です

松虫から北畠の手前あたりまでは、枕木とゴロゴロした石(バラスト)のある「鉄道」となり、我が意を得たりという顔(どんな顔や)で走る。

「路面電車」と「鉄道」の景色が交互に展開するのが上町線のおもしろいところだ。

インバウンド観光客もここで写真を撮ってます(姫松)

 

そして北畠から帝塚山四丁目までは、路面電車が街に馴染んだ顔で走れる「ほどよい狭さののんびりした車道」の景色が続く。

左の写真、姫松停留場には路上の安全地帯(手前)とは別に、可愛らしい待合所(奥)が用意されていて、ええ意味で脱力感満載である。

姫松と帝塚山三丁目の間。平日も休日でもあまり交通量は変わりません

「車道」と「歩道」の細かい区分もなく、そばを走るクルマの量も少なく、ゆったりした時間が流れる。クルマどころか人が歩くスピードも、この帝塚山かいわいでは梅田や難波に比べて確実に遅い。それが実に帝塚山らしいのである。

 

しかし電車が帝塚山三丁目からもう南に少し走ると、「安全地帯の停留場」が一変し、また鉄道駅っぽいホームが顔を出す。こちらは帝塚山四丁目の停留場。

Amazonの受取ボックスがあるのが時代ですな(帝塚山四丁目)

 

阪堺電車のひと駅はとても短いけれど、景色の「変わり目」が何度かあるからぜんぜん退屈しない。それを演出するのが、合間に入る「鉄道」らしい景色。電車に乗っている側もそうだし、写真に撮る側もそうだ。

帝塚山四丁目からひと駅南に下った神ノ木停留場の近くから見ると、こんな感じ。

南海高野線との立体交差のために生まれた斜面(神ノ木−住吉間)

 

さっそうと右カーブを下ってくる1両編成電車のけなげな姿に、思わず感情移入してしまう。

そしてこの神ノ木停留場のすぐ近くには、NHK連続テレビ小説「マッサン」で登場した「住吉酒造」のモデルとなった摂津酒造の創業の地がある。

詳しくは11月7日(木)のナカノシマ大学で陸奥さんにたっぷり語っていただきましょう。

そしてこの神ノ木は、山崎豊子の作品にも「ヒロインが住んでいる場所」として登場するが、それはまた今度に。

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