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大相撲実況アナの名調子で、春場所と「語りの天才」の思い出を

担当/中島 淳

3月講座は、ナカノシマ大学としては初めて、現役のスポーツ実況アナウンサーが登壇される。

藤井康生さん            ©︎露木聡子

講師は藤井康生さん(元NHK大相撲実況アナウンサー)。お題は「粋な男、北の富士勝昭と大相撲春場所の思い出」である。

3月8日(日)から大阪府立体育会館(エディオンアリーナ大阪)ではじまる大相撲春場所に先がけて、3月6日(金)の開催とさせていただいた。

NHK大相撲放送の実況アナウンサーだった藤井康生さん(1957〜)と解説の北の富士勝昭さん(1942〜2024)は、相撲ファンにとっては「放送席の黄金コンビ」だった。

サービス精神旺盛で話術の天才であった北の富士さんの持ち味が十分発揮できるように、工夫と研究を重ねたプロフェッショナルである。

藤井さんは昭和54年(1979)NHKに入局、59年(1984)名古屋場所から大相撲の実況放送を約38年間担当した。

藤井アナウンサーの隣に座った解説者は、みなさんご存じの人たちばかりだ。※敬称略。西暦は NHK専属解説者の期間

⚫︎神風正一(元関脇/1953〜87)

⚫︎若瀬川忠男(元小結/1985〜91)

⚫︎緒方昇(元関脇・北の洋(なだ)/1988〜2000)

⚫︎出羽錦忠雄(元関脇/1990〜99)

⚫︎北の富士勝昭(第52代横綱/1998〜2024)

⚫︎舞の海秀平(元小結/1998〜)

そして大相撲中継の解説といえばもうひとり、玉ノ海梅吉さん(元関脇/1955〜82)を覚えておられる方も多いと思う。

平成13年(2001)夏場所、貴乃花×武蔵丸の優勝決定戦(鬼の形相)など「あの実況もこの人だったのか!?」が満載。「相撲博士」としての研究熱心さも随所に表れている

藤井さんは入社後の新人研修で蔵前国技館に行った際に、玉ノ海さんから大相撲に興味があるのかと聞かれ、「大いにあります」と答えると、「相撲は奥があって面白いですよ。諸先輩を見習って頑張ってください」と言葉をかけられたそうである。しかし藤井さんが放送席に入る頃には解説者を引退していた。

「残念ながら私は間に合わず、放送でご一緒したいという願いはかないませんでした」(藤井康生『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』東京ニュース通信社)

実況アナとして初めて放送席に入った昭和60年(1985)春場所3日目、解説はおなじみ神風さんだった。藤井さんが「どうぞよろしくお願いします」とご挨拶をする「藤井くん、思い切っておやりなさい。何でも聞いてください」と優しい声で背中を押してくれたそうだ。

幕内前半終了まで約1時間実況を務めて先輩アナと交代したが、その際にも神風さんから「藤井くん、上出来でしたよ」と声をかけてくださったという(しかし場所後に改めて放送のテープを聴いてみたところ、「『上出来』なはずはありませんでした」と振り返っている)。

その後も大相撲放送のアナウンサーとして経験を積んだ頃に出会ったのが、横綱として10回の優勝に輝き、九重親方として二人の横綱(千代の富士、北勝海)を育て、平成10年(1998)から NHK専属解説者となった北の富士勝昭さんである。横綱経験者が NHK大相撲放送の専属解説者を務めるのは、これが初めてだった。

そして藤井さんは北の富士さんの、力士や親方として挙げてきた「実績」以上に、その人間性に魅了される。

「人生あっという間です。私も69年近く生きてきました。その人生の中で、北の富士さんほどの人物と出会ったことはありません。北の富士さんの懐の深さ、人間力、そしてまわりの人たちを惹きつける魅力、心を動かされることの連続でした。(中略)

その中で、いつの日からか私に身についた習慣があります。北の富士さんの口から飛び出す興味深い経験談や思い出話、笑い話を、忘れないうちに書き留めておくことでした。これこそ大相撲の『貴重な歴史の証言』と考えたのだと思います。」

巻末には、向正面のこの人を加えて「ゴールデントリオ」と謳われた舞の海秀平さんとの対談「北の富士さんのいない放送席で」を収録。これもお見逃しなく

 

これは藤井康生さんの最新刊、『粋 北の富士勝昭が遺した言葉と時代』(集英社)の「はじめに」に書かれた一文。「トークショーや雑誌に依頼されたロングインタビュー。そして、大相撲中継での昔話。プライベートでの酔話に裏話。北の富士さんが語った数々の興味深い話を、史実と共に重ねてみます」と続いている。

昨年11月に出たこの本を読むと、北の富士勝昭という解説者の、遊び心を大事にしつつファンに寄り添いながら「本質をズバッと突く」話は、藤井康生というアナウンサーと二人でつくり上げていった作品だということが分かる。

解説者がいくら興味深いことを言ったとしても、そこに反応し、「この話はもっと引っ張りたいな」と相手を乗せつつ話を引き出す聞き手(アナウンサー)がいなければ、視聴者が相撲の奥深さを実感できるような放送にはならない。

放送席での「実況の妙」については本書に詳しいが、とにかく藤井さんは「北の富士さんの昔話があまりにもおもしろいから引っ張りたい。けどアナウンサーとしては目の前の取組の実況をしないといけない」という二つのミッションにいつも引き裂かれていた。

それをどのようにして解決したかは本書をご一読いただきたく。でもきっとナカノシマ大学当日にもご披露いただけるかと思う。

素晴らしいコンビは、藤井さんが NHKを定年退職するまで約25年続いた。

藤井さんは2022年1月にNHKを定年退職されたが、その後もフリーアナウンサーとして「ABEMA大相撲LIVE」で実況を担当しているし、相撲ファンのために公式YouTube「藤井康生のうっちゃり大相撲」を配信中である。

ナカノシマ大学の開始時間は通常なら18時だけど、藤井さんがこの日のうちに千葉県の自宅までお帰りなので、17時〜18時40分とさせていただいた。

まだお仕事中の方がほとんどだと思うが、「春場所で、放送席横のチケットがあるけど、行かへん?」と誘われたら、会社早退しても相撲ファンは行きますよね。しかもこの日は目の前で話してくれるので、ほんまにプレミアムかと。

3月6日(金)もまだきっと朝晩は冷える。それでも、大阪ではたらく人間にとって「春場所がはじまった」という報せは、お水取りとかセンバツとかプロ野球開幕とか以上に「春」を感じさせてくれる。

どうぞ「春」を感じに、ナカノシマ大学にお越しいただいて、春の夕暮れ、藤井アナの「実況」に酔ってください。

お申し込みはこちらから→ https://nakanoshima-daigaku.net/seminar/article/p20260306