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スズキナオさんが環状線の駅前で「飲む」のは酒だけではない

担当/中島 淳

残暑(しかも猛暑)お見舞い申し上げます。

スズキナオさん(写真)と編集の松村貴樹さんは鼻が利くのだろう。ぶっつけ本番でこんなええ店にたどり着く能力がスゴい(弁天町駅[立呑み 木村屋])©️インセクツ

 

いよいよこの木曜日(21日)はナカノシマ大学で、『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』(インセクツ)の著者・スズキナオさんと編集者の松村貴樹さん(インセクツ代表)のコンビが、私たちが知ってるようで知らない、JR大阪環状線駅前の「楽園」について、とっておきの取材秘話を披露してくれるのだが、この本を読み返してみて、改めて「へえ〜」と発見したことがあった。

環状線の駅前は、昭和の終わりに誕生した「大阪城公園駅」や平成になって新設された「今宮駅(関西本線の今宮駅は1899年だが)」以外は、少なくとも半世紀以上の歴史があるし、19駅のうち半分以上の天王寺、桃谷、玉造、京橋、桜宮、天満、大阪、福島、野田、西九条の10駅は明治(しかも19世紀)生まれ。当然125年以上経っている。

昭和7年(1932)開業の寺田町駅の駅名標が2015年、壁面の塗装作業の最中に発見。2番ホーム(外回り)に展示されている©️インセクツ

そんな駅前ゆえに歴史は半端ないのであり、取材者にとっても編集者にとっても「掘り甲斐」のある街なのだ。19駅前の散策はほんまに大変だったとは思うが、読む方としては楽しいことこの上ない。

そして、「降りて歩いて飲んでみる」の「飲む」ほうは期待に違わぬ店が駅ごとにこれでもかこれでもかと登場するが、スズキナオさんはもう一つの「飲む」に対しても貪欲だった。そして「う〜ん、目のつけどころが違うなぁ」と思わせてくれた。

意外であったけど「豆乳」である。酒場や食堂だけでなく、駅前(もあるけど結構遠いところにある)の豆腐屋さんにもこの本の中で何度となく出向いていて、そこも編集者の松村さんが写真に押さえている。彼も一緒に飲んだのだろうか。

JR野田駅と阪神野田駅・地下鉄野田阪神駅を結ぶ「野田新橋筋商店街」にある[豆房] ©️インセクツ

森ノ宮駅の東側、疎開道路をさらに東に入った[斉藤豆腐店]は、残念ながら2024年夏で閉店してしまった ©️インセクツ

 

 

 

京橋中央商店街、創業55年の[のとや豆腐店]©️インセクツ

寺田町駅を5分ほど東へ行ったところに入り口のある、長〜い生野本通商店街。そこから枝分かれした「栄通商店街」にある高部商店 ©️インセクツ

 

 

天王寺駅の南「あべのベルタ」の地下[まるしん豆富店]©️インセクツ

 

スズキナオさんは必ず店頭で豆乳を飲み(酒を飲む前に、というのがええ感じだ)、豆腐やお揚げさん(たぶん)を買っているようだが、いろんな媒体で見る「酒場めぐり」のライターというよりも、「生活者」らしくておもしろい。

お江戸から大阪市内に引っ越してきたスズキナオさんにとっては、「住む街」としての良さを判断するバロメーターが「良い豆腐屋さんがある界隈は暮らしやすい街だ」(『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』より)なのだ。

そこに「オーガニック」とか「ヘルシー」とかの言葉を使わず、「街の豆腐屋が近くにある」ことの幸せを力説している。こういうところに、スズキナオさんの人気の秘密があるように思う。

取材先にも読者にも近いし、絶対に「知ったかぶり」とか「俺に言わせりゃ」がない人なのだ。

『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』で、「豆腐屋さんで豆乳を飲む」という意外なアプローチも発見することができて、ちょっとラッキーだった。

知らない街で豆腐屋を見つけたら豆乳を1杯いただく。酒を飲まない日でもええような気がする。

……と書いている間に、いよいよナカノシマ大学の開催日が迫りました。8月21日(木)にお会いしましょう。

申し込みはお早めに→https://nakanoshima-daigaku.net/seminar/article/p20250821