第06回
「喰っても喰っても、
まだ喰いやまぬ」
えらいこっちゃでございますな。【未曾有】なんちゅう言葉を使う日ぃがよもや生きてる間にこようとは。先の大戦(応仁の乱やのうて第二次世界大戦でっせ)を経験してるじいさん友達と話してて「これ、戦時中よりひどいで」と言われたので、ほんまもんの未曾有のようです。
東北で震災があったとき流行語みたいに「想定外」「想定外」て政治家は騒いでたけど、そんなことあるかい。なにより怖かった原発事故も、あれかて想定外なんかない。想定せなあかんこと怠った末の忌わしい人災や。
あの津波にしても、そらそら現実離れした天災で、目を疑うような光景を
英国がどんだけ未曾有やったかゆうとですね、まず、スーパーマーケットが空になりました。テレビの連続ドラ
マが当たりすぎて銭湯が空になるんやったら結構なことですが、庶民の生活を支える場所からものがなんにもなくなってもたら洒落になりまへん。
なんでこないな現象が起きてもうたかと申しますと、あまりにコロナ禍が急展開やったことが挙げられます。英国全土が封鎖になるほんの一週間前、ロンドンのまんなかへんへショッピングに出たんですけども、いつもより観光客の姿は少ないめとはいえ、ゆうほどでものうて拍子抜けしたくらいでした。マスクした人も行き帰りの地下鉄あわせて二人しか見いひんかった。
多分がらんがらんやろなと予想してたチャイナタウンも然り。当たり前に往来があり、みんな普通に買いもんしてはる。レストランも閑古鳥ゆうほどではない。いつもやったら行列でける店に、すっと入れるくらいの感じ。まさかこないに早よ封鎖措置が取られるとは思ってえへんかったんで寄らへんかったけど、いくつか食材を入手しときたかったなあ。
そんなわけで、いきなり「出たらアカン」宣言が下されたもんやから、いつもは冷静を旨とするイギリス人たちがたちまちパニックに陥った。戦時中の(応仁の乱やのうて第二次世界大戦。←ひつこい)キャッチフレーズが Don’t Panic やったことを考え合わせると Panic Buy に走った人
らがいかに焦りまくってたか分かる。パニックにならん、付和雷同に巻き込まれんゆうのはイギリス人の誇りみたいなとこがあんにゃもん。
あと、英国人はほんまに買い占めという行動そのものに慣れてへんかった。なにしろ史上初。前例皆無。ゆえに市場がカタレプシを起こしてリスクマネジメントが発動せえへんかったんです。
日本では、大は石油ショックの時のトイレットペーパーはじめ、小はみのもんたが番組でとりあげた朝バナナまで、しょっちゅう店頭での品切れが起こるやん。そやしそのときは右往左往してもじきになんとかなると本能的に知っている。今回のマスクはかなり長いこと不足が続いてるみたいやけど手作りしたり工夫したりでなんとか凌いでたりする。彼らには【世知】がなかった。
日本やったら「お一人様ひとつ限り」とか「整理券を配布します」とかやりますやん。こっちは、ただただ呆気にとられたまま手を拱いていた。普段はずっと楽天的なイギリス人やけど、今回ばかりはそんなんで野火が広がるごとく、
でございます。SFパニック映画みたいにね。
便所紙やティッシュだけやない。おむつやサニタリーは困る人よーけいはったやろなー。急に潔癖症になった彼らは洗剤類も洗いざらい。石鹸やハンドソープにとどまらず、ボディソープやシャンプー、それどころか洗濯洗剤や台所用リキッドまで……。おいおい。
米、パスタ、乾麺の類いも見事にのうなった。ほいでもって缶詰類。スープから豆、ツナ、野菜までみんなない。原爆シェルターにでもこもる気かいな。パンもない。パンがなければお菓子もない。スナックやポテトチップも壊滅。生鮮野菜もきれいさっぱり。鶏、豚、牛、魚、チーズ、あらゆるデリ食品。冷凍食品が跡形もない。そしてなにより戦時中(略)ですら安定供給を政府が約束した紅茶が、ティーバッグからハーブまですっからかんやねん。これには心底驚いたわ。未曾有やわ。
このころから日本のSNSで在英邦人たちの140字報道 from Hellが始まります。なんかもうこの世の終わりみたいなリポートばっかり。儂の友人やフォロワーの皆さんがそういうのを読んですごい心配しはりだしたんで儂は一枚の写真をアップすることにしました。
満開の桜の木の下に、四
ロール入りのペーパー抱えたポートレートです。曰く「不安になる気持ちはわかるけど、それは愚行の言い訳にはなりまへんえ。パニック買いする人は、ほんまに必要な人を困らせてるんでっせ。それとも自分さえよかったらよろしおすか? あの世に堕ちはったときに仏さんがトイレットペーパー垂らしてくれはったらええねえ。ミシン目入りの」と。
さらには、うちから歩いて五分のよろず屋――こちらではコーナーショップと呼ばれるコンビニ的な店。チェーンではない――の写真を掲載し「英国、そんなひどい状況じゃないです。場所にもよるのかもしれませんがスーパー以外の個人商店には普通にものが売ってます。品薄とされる紅茶もほれこの通り」とも。
そうなんです。儂は各地から寄せられる地獄便りに違和感ありまくりやったんです。そらスーパーはさいぜん書いたように
それどころかスーパーとは通り一本隔てただけの商店街にはないもんがなにもない。まるで封鎖などなかったかの
ような豊穣です。通行人はそら減ってます。家族連れ以外はみんな距離をあけて歩いてる。交通量もお休みの日ぃの朝みたい。しかし八百屋の軒先には季節の果物や野菜がつやつや輝き、冷蔵棚には隙間なく肉類が整列し、店の奥のオーブンで焼かれたパンがずらり。
ところが、こういうことを書くと140字報道陣から反発の声が上がりました。「それは都会だからよ」「田舎は家族も多く年寄りも多いから」みたいな。
ただ、そういう方たちは儂が「いやいやロンドンだって都心はなにもないのよ」「うちのへんは移民中心のゲットーで大家族中心え」「旧東欧系もかなりいて所得は低く、物価の安い田舎暮らしよりずっと大変」みたいなことを申し上げても耳が後ろ向いてはるねん。悪いひとらやないし、頭もええんやけど、やっぱり未曾有と正面衝突してパ二くってはんにゃろか。
そこで地方在住も含めて儂の友人らにお見舞い兼ねて聞いて回ったりした結果、儂にも儂なりのエリア毎のものの多寡についての疑問に対する解答の像が結ばれてきました。素人考えやけど聞いてください。
まず、どうやら地域コミュニティの薄いとこほど
蛮行は〝自分さえよければ〟てゆう発想から生まれてくる鬼子です。他の人らが、とりわけ弱者が困るんやないかと解っていながら、そんなのどーでもいいと考える馬鹿ちんですわ。けれど認知している顔があれば、さすがに理性が買い占めの手を抑えてくれる。
理想論、綺麗ごとに聞こえるかもしれんけど事実として知っている範囲では濃密なコミュニティに暮らしてるみんなは困ってません。助け合いとか絆とか気色悪い御題目を唱える必要はないんです。こんなときなんやから身内だけで手いっぱい。でも【自分の街】という意識があれば理性は働くもんですわ。第一恥ずかしいし怖い。
儂は濃い濃いコミュニティが漲ってる京都で生まれ育ってまっさかい、身勝手に振舞って代々まで語り伝えらてる実例をなんぼでも知ってます。それこそ「あそこの家は応仁の乱のとき……」みたいな逸話がいっぱい碁盤の目のすみっこにこびりついてる。
ほんでね、もうひとつ重要なファクターはダイバーシティの発達ですわ。封鎖のきっかけになった直接理由ともいわれてる勤務医の「夜勤明けにスーパー行ったらなんもなくてー!」 という悲痛な画像投稿。これには胸が痛みました。たまたま救急隊員してる友人に出くわしたんで適正社交距離をとりつつ「大丈夫?」と尋ねると「あれほんとよー。うちの病院周辺も大型店はがらんどう。でもスーパーより近いカリブ系コーナーショップには全然なんでも
ある」と返ってきました。
イタリア人街やポルトガル人街に家がある子らの情報も状況は似てて、うちのトルコ人街同様に食料不足の危機感は全くあらへんとのこと。つまり独自の仕入れルートを持ってるから非常時でも通常営業できるわけ。郊外の新興住宅地みたいなところでもロンドンはエスニックマイノリティが小さなコーナーショップを持ってるのがデフォなんで、空スーパーばっかしのわりに彼らが落ち着いて見えるのは住人のコンポジションゆうより商店のコンポジションの問題やろね。
ヨークシャーで暮らしてる友達もさぞや困ってるんやなかろうかと電話したら「この辺はインド人のコミュニティが機能してるさかい心配無用。それどころかあの人ら地域のじいさんばあさんが住んでるとこへ無料で宅配したはるえ。同国人だけ違ごて顧客はみんな!」
EU離脱で出ていけ出ていけゆうてた人らに結局助けてもろてるゆうのは不謹慎な表現かもしれんけどおもろいな。離脱推進エリアはもちろんダイバーシティなんか望むべくもないので、因果は巡る糸車、喰いもん不足に喘ぐことになったというのは皮肉なこっちゃ。
というかね、買い占めに走るメンタリティこそEU離脱
の原動力やと儂は思うねん。たまに彼らのお気持ちを慮ってさしあげようという奇特な日本人がおられますが申し訳ないけど儂は鼻白むだけですわ。此度の未曾有を反面教師にブリクシッターが大勢を占めたようなとこはもうちょい寛容にならはったほうがええんやないですかね。地方病院の慢性的な看護婦不足もマイノリティを土地が受け入れへんがゆえやそうですし。
第06回
「喰っても喰っても、
まだ喰いやまぬ」
えらいこっちゃでございますな。【未曾有】なんちゅう言葉を使う日ぃがよもや生きてる間にこようとは。先の大戦(応仁の乱やのうて第二次世界大戦でっせ)を経験してるじいさん友達と話してて「これ、戦時中よりひどいで」と言われたので、ほんまもんの未曾有のようです。
東北で震災があったとき流行語みたいに「想定外」「想定外」て政治家は騒いでたけど、そんなことあるかい。なにより怖かった原発事故も、あれかて想定外なんかない。想定せなあかんこと怠った末の忌わしい人災や。
あの津波にしても、そらそら現実離れした天災で、目を疑うような光景を
英国がどんだけ未曾有やったかゆうとですね、まず、スーパーマーケットが空になりました。テレビの連続ドラマが当
たりすぎて銭湯が空になるんやったら結構なことですが、庶民の生活を支える場所からものがなんにもなくなってもたら洒落になりまへん。
なんでこないな現象が起きてもうたかと申しますと、あまりにコロナ禍が急展開やったことが挙げられます。英国全土が封鎖になるほんの一週間前、ロンドンのまんなかへんへショッピングに出たんですけども、いつもより観光客の姿は少ないめとはいえ、ゆうほどでものうて拍子抜けしたくらいでした。マスクした人も行き帰りの地下鉄あわせて二人しか見いひんかった。
多分がらんがらんやろなと予想してたチャイナタウンも然り。当たり前に往来があり、みんな普通に買いもんしてはる。レストランも閑古鳥ゆうほどではない。いつもやったら行列でける店に、すっと入れるくらいの感じ。まさかこないに早よ封鎖措置が取られるとは思ってえへんかったんで寄らへんかったけど、いくつか食材を入手しときたかったなあ。
そんなわけで、いきなり「出たらアカン」宣言が下されたもんやから、いつもは冷静を旨とするイギリス人たちがたちまちパニックに陥った。戦時中の(応仁の乱やのうて第二次世界大戦。←ひつこい)キャッチフレーズが Don’t Panic やったことを考え合わせると Panic Buy に走った人らがい
かに焦りまくってたか分かる。パニックにならん、付和雷同に巻き込まれんゆうのはイギリス人の誇りみたいなとこがあんにゃもん。
あと、英国人はほんまに買い占めという行動そのものに慣れてへんかった。なにしろ史上初。前例皆無。ゆえに市場がカタレプシを起こしてリスクマネジメントが発動せえへんかったんです。
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米、パスタ、乾麺の類いも見事にのうなった。ほいでもって缶詰類。スープから豆、ツナ、野菜までみんなない。原爆シェルターにでもこもる気かいな。パンもない。パンがなければお菓子もない。スナックやポテトチップも壊滅。生鮮野菜もきれいさっぱり。鶏、豚、牛、魚、チーズ、あらゆるデリ食品。冷凍食品が跡形もない。そしてなにより戦時中(略)ですら安定供給を政府が約束した紅茶が、ティーバッグからハーブまですっからかんやねん。これには心底驚いたわ。未曾有やわ。
このころから日本のSNSで在英邦人たちの140字報道 from Hellが始まります。なんかもうこの世の終わりみたいなリポートばっかり。儂の友人やフォロワーの皆さんがそういうのを読んですごい心配しはりだしたんで儂は一枚の写真をアップすることにしました。
満開の桜の木の下に、四ロール入りのペーパー抱えたポートレートです。曰く「不安
になる気持ちはわかるけど、それは愚行の言い訳にはなりまへんえ。パニック買いする人は、ほんまに必要な人を困らせてるんでっせ。それとも自分さえよかったらよろしおすか? あの世に堕ちはったときに仏さんがトイレットペーパー垂らしてくれはったらええねえ。ミシン目入りの」と。
さらには、うちから歩いて五分のよろず屋――こちらではコーナーショップと呼ばれるコンビニ的な店。チェーンではない――の写真を掲載し「英国、そんなひどい状況じゃないです。場所にもよるのかもしれませんがスーパー以外の個人商店には普通にものが売ってます。品薄とされる紅茶もほれこの通り」とも。
そうなんです。儂は各地から寄せられる地獄便りに違和感ありまくりやったんです。そらスーパーはさいぜん書いたように
それどころかスーパーとは通り一本隔てただけの商店街にはないもんがなにもない。まるで封鎖などなかったかのような豊穣です。通行人はそら減ってます。家族連れ以外はみんな距離をあけて歩いてる。交通量もお休みの日ぃの朝みた
い。しかし八百屋の軒先には季節の果物や野菜がつやつや輝き、冷蔵棚には隙間なく肉類が整列し、店の奥のオーブンで焼かれたパンがずらり。
ところが、こういうことを書くと140字報道陣から反発の声が上がりました。「それは都会だからよ」「田舎は家族も多く年寄りも多いから」みたいな。
ただ、そういう方たちは儂が「いやいやロンドンだって都心はなにもないのよ」「うちのへんは移民中心のゲットーで大家族中心え」「旧東欧系もかなりいて所得は低く、物価の安い田舎暮らしよりずっと大変」みたいなことを申し上げても耳が後ろ向いてはるねん。悪いひとらやないし、頭もええんやけど、やっぱり未曾有と正面衝突してパ二くってはんにゃろか。
そこで地方在住も含めて儂の友人らにお見舞い兼ねて聞いて回ったりした結果、儂にも儂なりのエリア毎のものの多寡についての疑問に対する解答の像が結ばれてきました。素人考えやけど聞いてください。
まず、どうやら地域コミュニティの薄いとこほど
ら、そんなのどーでもいいと考える馬鹿ちんですわ。けれど認知している顔があれば、さすがに理性が買い占めの手を抑えてくれる。
理想論、綺麗ごとに聞こえるかもしれんけど事実として知っている範囲では濃密なコミュニティに暮らしてるみんなは困ってません。助け合いとか絆とか気色悪い御題目を唱える必要はないんです。こんなときなんやから身内だけで手いっぱい。でも【自分の街】という意識があれば理性は働くもんですわ。第一恥ずかしいし怖い。
儂は濃い濃いコミュニティが漲ってる京都で生まれ育ってまっさかい、身勝手に振舞って代々まで語り伝えらてる実例をなんぼでも知ってます。それこそ「あそこの家は応仁の乱のとき……」みたいな逸話がいっぱい碁盤の目のすみっこにこびりついてる。
ほんでね、もうひとつ重要なファクターはダイバーシティの発達ですわ。封鎖のきっかけになった直接理由ともいわれてる勤務医の「夜勤明けにスーパー行ったらなんもなくてー!」 という悲痛な画像投稿。これには胸が痛みました。たまたま救急隊員してる友人に出くわしたんで適正社交距離をとりつつ「大丈夫?」と尋ねると「あれほんとよー。うちの病院周辺も大型店はがらんどう。でもスーパーより近いカリブ系コーナーショップには全然なんでもある」と返ってき
ました。
イタリア人街やポルトガル人街に家がある子らの情報も状況は似てて、うちのトルコ人街同様に食料不足の危機感は全くあらへんとのこと。つまり独自の仕入れルートを持ってるから非常時でも通常営業できるわけ。郊外の新興住宅地みたいなところでもロンドンはエスニックマイノリティが小さなコーナーショップを持ってるのがデフォなんで、空スーパーばっかしのわりに彼らが落ち着いて見えるのは住人のコンポジションゆうより商店のコンポジションの問題やろね。
ヨークシャーで暮らしてる友達もさぞや困ってるんやなかろうかと電話したら「この辺はインド人のコミュニティが機能してるさかい心配無用。それどころかあの人ら地域のじいさんばあさんが住んでるとこへ無料で宅配したはるえ。同国人だけ違ごて顧客はみんな!」
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というかね、買い占めに走るメンタリティこそEU離脱の原動力やと儂は思うねん。たまに彼らのお気持ちを慮ってさ
しあげようという奇特な日本人がおられますが申し訳ないけど儂は鼻白むだけですわ。此度の未曾有を反面教師にブリクシッターが大勢を占めたようなとこはもうちょい寛容にならはったほうがええんやないですかね。地方病院の慢性的な看護婦不足もマイノリティを土地が受け入れへんがゆえやそうですし。
第06回
「喰っても喰っても、
まだ喰いやまぬ」
えらいこっちゃでございますな。【未曾有】なんちゅう言葉を使う日ぃがよもや生きてる間にこようとは。先の大戦(応仁の乱やのうて第二次世界大戦でっせ)を経験してるじいさん友達と話してて「これ、戦時中よりひどいで」と言われたので、ほんまもんの未曾有のようです。
東北で震災があったとき流行語みたいに「想定外」「想定外」て政治家は騒いでたけど、そんなことあるかい。なにより怖かった原発事故も、あれかて想定外なんかない。想定せなあかんこと怠った末の忌わしい人災や。
あの津波にしても、そらそら現実離れした天災で、目を疑うような光景を
英国がどんだけ未曾有やったかゆうとですね、まず、スーパーマーケットが空になりました。テレビの連続ドラマが当
たりすぎて銭湯が空になるんやったら結構なことですが、庶民の生活を支える場所からものがなんにもなくなってもたら洒落になりまへん。
なんでこないな現象が起きてもうたかと申しますと、あまりにコロナ禍が急展開やったことが挙げられます。英国全土が封鎖になるほんの一週間前、ロンドンのまんなかへんへショッピングに出たんですけども、いつもより観光客の姿は少ないめとはいえ、ゆうほどでものうて拍子抜けしたくらいでした。マスクした人も行き帰りの地下鉄あわせて二人しか見いひんかった。
多分がらんがらんやろなと予想してたチャイナタウンも然り。当たり前に往来があり、みんな普通に買いもんしてはる。レストランも閑古鳥ゆうほどではない。いつもやったら行列でける店に、すっと入れるくらいの感じ。まさかこないに早よ封鎖措置が取られるとは思ってえへんかったんで寄らへんかったけど、いくつか食材を入手しときたかったなあ。
そんなわけで、いきなり「出たらアカン」宣言が下されたもんやから、いつもは冷静を旨とするイギリス人たちがたちまちパニックに陥った。戦時中の(応仁の乱やのうて第二次世界大戦。←ひつこい)キャッチフレーズが Don’t Panic やったことを考え合わせると Panic Buy に走った人らがいかに
焦りまくってたか分かる。パニックにならん、付和雷同に巻き込まれんゆうのはイギリス人の誇りみたいなとこがあんにゃもん。
あと、英国人はほんまに買い占めという行動そのものに慣れてへんかった。なにしろ史上初。前例皆無。ゆえに市場がカタレプシを起こしてリスクマネジメントが発動せえへんかったんです。
日本では、大は石油ショックの時のトイレットペーパーはじめ、小はみのもんたが番組でとりあげた朝バナナまで、しょっちゅう店頭での品切れが起こるやん。そやしそのときは右往左往してもじきになんとかなると本能的に知っている。今回のマスクはかなり長いこと不足が続いてるみたいやけど手作りしたり工夫したりでなんとか凌いでたりする。彼らには【世知】がなかった。
日本やったら「お一人様ひとつ限り」とか「整理券を配布します」とかやりますやん。こっちは、ただただ呆気にとられたまま手を拱いていた。普段はずっと楽天的なイギリス人やけど、今回ばかりはそんなんで野火が広がるごとく、
便所紙やティッシュだけやない。おむつやサニタリーは困る人よーけいはったやろなー。急に潔癖症になった彼らは洗剤類も洗いざらい。石鹸やハンドソープにとどまらず、ボディソープやシャンプー、それどころか洗濯洗剤や台所用リキッドまで……。おいおい。
米、パスタ、乾麺の類いも見事にのうなった。ほいでもって缶詰類。スープから豆、ツナ、野菜までみんなない。原爆シェルターにでもこもる気かいな。パンもない。パンがなければお菓子もない。スナックやポテトチップも壊滅。生鮮野菜もきれいさっぱり。鶏、豚、牛、魚、チーズ、あらゆるデリ食品。冷凍食品が跡形もない。そしてなにより戦時中(略)ですら安定供給を政府が約束した紅茶が、ティーバッグからハーブまですっからかんやねん。これには心底驚いたわ。未曾有やわ。
このころから日本のSNSで在英邦人たちの140字報道 from Hellが始まります。なんかもうこの世の終わりみたいなリポートばっかり。儂の友人やフォロワーの皆さんがそういうのを読んですごい心配しはりだしたんで儂は一枚の写真をアップすることにしました。
満開の桜の木の下に、四ロール入りのペーパー抱えたポートレートです。曰く「不安に
なる気持ちはわかるけど、それは愚行の言い訳にはなりまへんえ。パニック買いする人は、ほんまに必要な人を困らせてるんでっせ。それとも自分さえよかったらよろしおすか? あの世に堕ちはったときに仏さんがトイレットペーパー垂らしてくれはったらええねえ。ミシン目入りの」と。
さらには、うちから歩いて五分のよろず屋――こちらではコーナーショップと呼ばれるコンビニ的な店。チェーンではない――の写真を掲載し「英国、そんなひどい状況じゃないです。場所にもよるのかもしれませんがスーパー以外の個人商店には普通にものが売ってます。品薄とされる紅茶もほれこの通り」とも。
そうなんです。儂は各地から寄せられる地獄便りに違和感ありまくりやったんです。そらスーパーはさいぜん書いたように
それどころかスーパーとは通り一本隔てただけの商店街にはないもんがなにもない。まるで封鎖などなかったかのような豊穣です。通行人はそら減ってます。家族連れ以外はみんな距離をあけて歩いてる。交通量もお休みの日ぃの朝みたい。しかし八百屋の軒先には季節の果物や野菜がつやつや輝
き、冷蔵棚には隙間なく肉類が整列し、店の奥のオーブンで焼かれたパンがずらり。
ところが、こういうことを書くと140字報道陣から反発の声が上がりました。「それは都会だからよ」「田舎は家族も多く年寄りも多いから」みたいな。
ただ、そういう方たちは儂が「いやいやロンドンだって都心はなにもないのよ」「うちのへんは移民中心のゲットーで大家族中心え」「旧東欧系もかなりいて所得は低く、物価の安い田舎暮らしよりずっと大変」みたいなことを申し上げても耳が後ろ向いてはるねん。悪いひとらやないし、頭もええんやけど、やっぱり未曾有と正面衝突してパ二くってはんにゃろか。
そこで地方在住も含めて儂の友人らにお見舞い兼ねて聞いて回ったりした結果、儂にも儂なりのエリア毎のものの多寡についての疑問に対する解答の像が結ばれてきました。素人考えやけど聞いてください。
まず、どうやら地域コミュニティの薄いとこほど
認知している顔があれば、さすがに理性が買い占めの手を抑えてくれる。
理想論、綺麗ごとに聞こえるかもしれんけど事実として知っている範囲では濃密なコミュニティに暮らしてるみんなは困ってません。助け合いとか絆とか気色悪い御題目を唱える必要はないんです。こんなときなんやから身内だけで手いっぱい。でも【自分の街】という意識があれば理性は働くもんですわ。第一恥ずかしいし怖い。
儂は濃い濃いコミュニティが漲ってる京都で生まれ育ってまっさかい、身勝手に振舞って代々まで語り伝えらてる実例をなんぼでも知ってます。それこそ「あそこの家は応仁の乱のとき……」みたいな逸話がいっぱい碁盤の目のすみっこにこびりついてる。
ほんでね、もうひとつ重要なファクターはダイバーシティの発達ですわ。封鎖のきっかけになった直接理由ともいわれてる勤務医の「夜勤明けにスーパー行ったらなんもなくてー!」 という悲痛な画像投稿。これには胸が痛みました。たまたま救急隊員してる友人に出くわしたんで適正社交距離をとりつつ「大丈夫?」と尋ねると「あれほんとよー。うちの病院周辺も大型店はがらんどう。でもスーパーより近いカリブ系コーナーショップには全然なんでもある」と返ってきました。
イタリア人街やポルトガル人街に家がある子らの情報も状況は似てて、うちのトルコ人街同様に食料不足の危機感は全
くあらへんとのこと。つまり独自の仕入れルートを持ってるから非常時でも通常営業できるわけ。郊外の新興住宅地みたいなところでもロンドンはエスニックマイノリティが小さなコーナーショップを持ってるのがデフォなんで、空スーパーばっかしのわりに彼らが落ち着いて見えるのは住人のコンポジションゆうより商店のコンポジションの問題やろね。
ヨークシャーで暮らしてる友達もさぞや困ってるんやなかろうかと電話したら「この辺はインド人のコミュニティが機能してるさかい心配無用。それどころかあの人ら地域のじいさんばあさんが住んでるとこへ無料で宅配したはるえ。同国人だけ違ごて顧客はみんな!」
EU離脱で出ていけ出ていけゆうてた人らに結局助けてもろてるゆうのは不謹慎な表現かもしれんけどおもろいな。離脱推進エリアはもちろんダイバーシティなんか望むべくもないので、因果は巡る糸車、喰いもん不足に喘ぐことになったというのは皮肉なこっちゃ。
というかね、買い占めに走るメンタリティこそEU離脱の原動力やと儂は思うねん。たまに彼らのお気持ちを慮ってさしあげようという奇特な日本人がおられますが申し訳ないけど儂は鼻白むだけですわ。此度の未曾有を反面教師にブリクシッターが大勢を占めたようなとこはもうちょい寛容になら
はったほうがええんやないですかね。地方病院の慢性的な看護婦不足もマイノリティを土地が受け入れへんがゆえやそうですし。
第06回
「喰っても喰っても、
まだ喰いやまぬ」
えらいこっちゃでございますな。【未曾有】なんちゅう言葉を使う日ぃがよもや生きてる間にこようとは。先の大戦(応仁の乱やのうて第二次世界大戦でっせ)を経験してるじいさん友達と話してて「これ、戦時中よりひどいで」と言われたので、ほんまもんの未曾有のようです。
東北で震災があったとき流行語みたいに「想定外」「想定外」て政治家は騒いでたけど、そんなことあるかい。なにより怖かった原発事故も、あれかて想定外なんかない。想定せなあかんこと怠った末の忌わしい人災や。
あの津波にしても、そらそら現実離れした天災で、目を疑うような光景を
英国がどんだけ未曾有やったかゆうとですね、まず、スーパーマーケットが空になりました。テレビの連続ドラマが当たりすぎて銭湯が空になるんやったら結構なことですが、庶民の生活を支える場所からものがなんにもなくなってもたら洒落になりまへん。
なんでこないな現象が起きてもうたかと申しますと、あまりにコロナ禍が急展開やったことが挙げられます。英国全土が封鎖になるほんの一週間前、ロンドンのまんなかへんへショッピングに出たんですけども、いつもより観光客の姿は少ないめとはいえ、ゆうほどでものうて拍子抜けしたくらいでした。マスクした人も行き帰りの地下鉄あわせて二人しか見いひんかった。
多分がらんがらんやろなと予想してたチャイナタウンも然り。当たり前に往来があり、みんな普通に買いもんしてはる。レストランも閑古鳥ゆうほどではない。いつもやったら行列でける店に、すっと入れるくらいの感じ。まさかこないに早よ封鎖措置が取られるとは思ってえへんかったんで寄らへんかったけど、いくつか食材を入手しときたかったなあ。
そんなわけで、いきなり「出たらアカン」宣言が下されたもんやから、いつもは冷静を旨とするイギリス人た
ちがたちまちパニックに陥った。戦時中の(応仁の乱やのうて第二次世界大戦。←ひつこい)キャッチフレーズが Don’t Panic やったことを考え合わせると Panic Buy に走った人らがいかに焦りまくってたか分かる。パニックにならん、付和雷同に巻き込まれんゆうのはイギリス人の誇りみたいなとこがあんにゃもん。
あと、英国人はほんまに買い占めという行動そのものに慣れてへんかった。なにしろ史上初。前例皆無。ゆえに市場がカタレプシを起こしてリスクマネジメントが発動せえへんかったんです。
日本では、大は石油ショックの時のトイレットペーパーはじめ、小はみのもんたが番組でとりあげた朝バナナまで、しょっちゅう店頭での品切れが起こるやん。そやしそのときは右往左往してもじきになんとかなると本能的に知っている。今回のマスクはかなり長いこと不足が続いてるみたいやけど手作りしたり工夫したりでなんとか凌いでたりする。彼らには【世知】がなかった。
日本やったら「お一人様ひとつ限り」とか「整理券を配布します」とかやりますやん。こっちは、ただただ呆
気にとられたまま手を拱いていた。普段はずっと楽天的なイギリス人やけど、今回ばかりはそんなんで野火が広がるごとく、
便所紙やティッシュだけやない。おむつやサニタリーは困る人よーけいはったやろなー。急に潔癖症になった彼らは洗剤類も洗いざらい。石鹸やハンドソープにとどまらず、ボディソープやシャンプー、それどころか洗濯洗剤や台所用リキッドまで……。おいおい。
米、パスタ、乾麺の類いも見事にのうなった。ほいでもって缶詰類。スープから豆、ツナ、野菜までみんなない。原爆シェルターにでもこもる気かいな。パンもない。パンがなければお菓子もない。スナックやポテトチップも壊滅。生鮮野菜もきれいさっぱり。鶏、豚、牛、魚、チーズ、あらゆるデリ食品。冷凍食品が跡形もない。そしてなにより戦時中(略)ですら安定供給を政府が約束した紅茶が、ティーバッグからハーブまですっからかんやねん。これには心底驚いたわ。未曾有やわ。
このころから日本のSNSで在英邦人たちの140字報道 from Hellが始まります。なんかもうこの世の終わりみたいなリポートばっかり。儂の友人やフォロワーの皆さんがそういうのを読んですごい心配しはりだしたんで儂は一枚の写真をアップすることにしました。
満開の桜の木の下に、四ロール入りのペーパー抱えたポートレートです。曰く「不安になる気持ちはわかるけど、それは愚行の言い訳にはなりまへんえ。パニック買いする人は、ほんまに必要な人を困らせてるんでっせ。それとも自分さえよかったらよろしおすか? あの世に堕ちはったときに仏さんがトイレットペーパー垂らしてくれはったらええねえ。ミシン目入りの」と。
さらには、うちから歩いて五分のよろず屋――こちらではコーナーショップと呼ばれるコンビニ的な店。チェーンではない――の写真を掲載し「英国、そんなひどい状況じゃないです。場所にもよるのかもしれませんがスーパー以外の個人商店には普通にものが売ってます。品薄とされる紅茶もほれこの通り」とも。
そうなんです。儂は各地から寄せられる地獄便りに違和感ありまくりやったんです。そらスーパーはさいぜん書いたように
に行ったとき「パスタと小麦粉以外はね」と店主は笑ろてはりました。もちろん紅茶もちゃんとございます。
それどころかスーパーとは通り一本隔てただけの商店街にはないもんがなにもない。まるで封鎖などなかったかのような豊穣です。通行人はそら減ってます。家族連れ以外はみんな距離をあけて歩いてる。交通量もお休みの日ぃの朝みたい。しかし八百屋の軒先には季節の果物や野菜がつやつや輝き、冷蔵棚には隙間なく肉類が整列し、店の奥のオーブンで焼かれたパンがずらり。
ところが、こういうことを書くと140字報道陣から反発の声が上がりました。「それは都会だからよ」「田舎は家族も多く年寄りも多いから」みたいな。
ただ、そういう方たちは儂が「いやいやロンドンだって都心はなにもないのよ」「うちのへんは移民中心のゲットーで大家族中心え」「旧東欧系もかなりいて所得は低く、物価の安い田舎暮らしよりずっと大変」みたいなことを申し上げても耳が後ろ向いてはるねん。悪いひとらやないし、頭もええんやけど、やっぱり未曾有と正面衝突してパ二くってはんにゃろか。
そこで地方在住も含めて儂の友人らにお見舞い兼ねて
聞いて回ったりした結果、儂にも儂なりのエリア毎のものの多寡についての疑問に対する解答の像が結ばれてきました。素人考えやけど聞いてください。
まず、どうやら地域コミュニティの薄いとこほど
理想論、綺麗ごとに聞こえるかもしれんけど事実として知っている範囲では濃密なコミュニティに暮らしてるみんなは困ってません。助け合いとか絆とか気色悪い御題目を唱える必要はないんです。こんなときなんやから身内だけで手いっぱい。でも【自分の街】という意識があれば理性は働くもんですわ。第一恥ずかしいし怖い。
儂は濃い濃いコミュニティが漲ってる京都で生まれ育ってまっさかい、身勝手に振舞って代々まで語り伝えらてる実例をなんぼでも知ってます。それこそ「あそこの家は応仁の乱のとき……」みたいな逸話がいっぱい碁盤の目のすみっこにこびりついてる。
ほんでね、もうひとつ重要なファクターはダイバーシティの発達ですわ。封鎖のきっかけになった直接理由ともいわれてる勤務医の「夜勤明けにスーパー行ったらな
んもなくてー!」 という悲痛な画像投稿。これには胸が痛みました。たまたま救急隊員してる友人に出くわしたんで適正社交距離をとりつつ「大丈夫?」と尋ねると「あれほんとよー。うちの病院周辺も大型店はがらんどう。でもスーパーより近いカリブ系コーナーショップには全然なんでもある」と返ってきました。
イタリア人街やポルトガル人街に家がある子らの情報も状況は似てて、うちのトルコ人街同様に食料不足の危機感は全くあらへんとのこと。つまり独自の仕入れルートを持ってるから非常時でも通常営業できるわけ。郊外の新興住宅地みたいなところでもロンドンはエスニックマイノリティが小さなコーナーショップを持ってるのがデフォなんで、空スーパーばっかしのわりに彼らが落ち着いて見えるのは住人のコンポジションゆうより商店のコンポジションの問題やろね。
ヨークシャーで暮らしてる友達もさぞや困ってるんやなかろうかと電話したら「この辺はインド人のコミュニティが機能してるさかい心配無用。それどころかあの人ら地域のじいさんばあさんが住んでるとこへ無料で宅配したはるえ。同国人だけ違ごて顧客はみんな!」
EU離脱で出ていけ出ていけゆうてた人らに結局助けてもろてるゆうのは不謹慎な表現かもしれんけどおもろいな。離脱推進エリアはもちろんダイバーシティなんか望むべくもないので、因果は巡る糸車、喰いもん不足に喘ぐことになったというのは皮肉なこっちゃ。
というかね、買い占めに走るメンタリティこそEU離脱の原動力やと儂は思うねん。たまに彼らのお気持ちを慮ってさしあげようという奇特な日本人がおられますが申し訳ないけど儂は鼻白むだけですわ。此度の未曾有を反面教師にブリクシッターが大勢を占めたようなとこはもうちょい寛容にならはったほうがええんやないですかね。地方病院の慢性的な看護婦不足もマイノリティを土地が受け入れへんがゆえやそうですし。
第06回
「喰っても喰っても、
まだ喰いやまぬ」
えらいこっちゃでございますな。【未曾有】なんちゅう言葉を使う日ぃがよもや生きてる間にこようとは。先の大戦(応仁の乱やのうて第二次世界大戦でっせ)を経験してるじいさん友達と話してて「これ、戦時中よりひどいで」と言われたので、ほんまもんの未曾有のようです。
東北で震災があったとき流行語みたいに「想定外」「想定外」て政治家は騒いでたけど、そんなことあるかい。なにより怖かった原発事故も、あれかて想定外なんかない。想定せなあかんこと怠った末の忌わしい人災や。
あの津波にしても、そらそら現実離れした天災で、目を疑うような光景を
英国がどんだけ未曾有やったかゆうとですね、まず、スーパーマーケットが空になりました。テレビの連続ドラマが当たりすぎて銭湯が空になるんやったら結構なことですが、庶民の生活を支える場所からものがなんにもなくなってもたら洒落になりまへん。
なんでこないな現象が起きてもうたかと申しますと、あまりにコロナ禍が急展開やったことが挙げられます。英国全土が封鎖になるほんの一週間前、ロンドンのまんなかへんへショッピングに出たんですけども、いつもより観光客の姿は少ないめとはいえ、ゆうほどでものうて拍子抜けしたくらいでした。マスクした人も行き帰りの地下鉄あわせて二人しか見いひんかった。
多分がらんがらんやろなと予想してたチャイナタウンも然り。当たり前に往来があり、みんな普通に買いもんしてはる。レストランも閑古鳥ゆうほどではない。いつもやったら行列でける店に、すっと入れるくらいの感じ。まさかこないに早よ封鎖措置が取られるとは思ってえへんかったんで寄らへんかったけど、いくつか食材を入手しときたかったなあ。
そんなわけで、いきなり「出たらアカン」宣言が下されたもんやから、いつもは冷静を旨とするイギリス人たちがたちまちパニックに陥った。戦時中の(応仁の乱や
のうて第二次世界大戦。←ひつこい)キャッチフレーズが Don’t Panic やったことを考え合わせると Panic Buy に走った人
らがいかに焦りまくってたか分かる。パニックにならん、付和雷同に巻き込まれんゆうのはイギリス人の誇りみたいなとこがあんにゃもん。
あと、英国人はほんまに買い占めという行動そのものに慣れてへんかった。なにしろ史上初。前例皆無。ゆえに市場がカタレプシを起こしてリスクマネジメントが発動せえへんかったんです。
日本では、大は石油ショックの時のトイレットペーパーはじめ、小はみのもんたが番組でとりあげた朝バナナまで、しょっちゅう店頭での品切れが起こるやん。そやしそのときは右往左往してもじきになんとかなると本能的に知っている。今回のマスクはかなり長いこと不足が続いてるみたいやけど手作りしたり工夫したりでなんとか凌いでたりする。彼らには【世知】がなかった。
日本やったら「お一人様ひとつ限り」とか「整理券を配布します」とかやりますやん。こっちは、ただただ呆気にとられたまま手を拱いていた。普段はずっと楽天的なイギリス人やけど、今
回ばかりはそんなんで野火が広がるごとく、
便所紙やティッシュだけやない。おむつやサニタリーは困る人よーけいはったやろなー。急に潔癖症になった彼らは洗剤類も洗いざらい。石鹸やハンドソープにとどまらず、ボディソープやシャンプー、それどころか洗濯洗剤や台所用リキッドまで……。おいおい。
米、パスタ、乾麺の類いも見事にのうなった。ほいでもって缶詰類。スープから豆、ツナ、野菜までみんなない。原爆シェルターにでもこもる気かいな。パンもない。パンがなければお菓子もない。スナックやポテトチップも壊滅。生鮮野菜もきれいさっぱり。鶏、豚、牛、魚、チーズ、あらゆるデリ食品。冷凍食品が跡形もない。そしてなにより戦時中(略)ですら安定供給を政府が約束した紅茶が、ティーバッグからハーブまですっからかんやねん。これには心底驚いたわ。未曾有やわ。
このころから日本のSNSで在英邦人たちの140字報道 from Hellが始まります。なんかもうこの世の終わりみたいなリポートばっかり。儂の友人やフォロワーの皆さんがそういうのを読んですごい心配しはりだしたんで儂は一枚の写真をアップすることにしました。
満開の桜の木の下に、四ロール入りのペーパー抱えた
ポートレートです。曰く「不安になる気持ちはわかるけど、それは愚行の言い訳にはなりまへんえ。パニック買いする人は、ほんまに必要な人を困らせてるんでっせ。それとも自分さえよかったらよろしおすか? あの世に堕ちはったときに仏さんがトイレットペーパー垂らしてくれはったらええねえ。ミシン目入りの」と。
さらには、うちから歩いて五分のよろず屋――こちらではコーナーショップと呼ばれるコンビニ的な店。チェーンではない――の写真を掲載し「英国、そんなひどい状況じゃないです。場所にもよるのかもしれませんがスーパー以外の個人商店には普通にものが売ってます。品薄とされる紅茶もほれこの通り」とも。
そうなんです。儂は各地から寄せられる地獄便りに違和感ありまくりやったんです。そらスーパーはさいぜん書いたように
はりました。もちろん紅茶もちゃんとございます。
それどころかスーパーとは通り一本隔てただけの商店街にはないもんがなにもない。まるで封鎖などなかったかのような豊穣です。通行人はそら減ってます。家族連れ以外はみんな距離をあけて歩いてる。交通量もお休みの日ぃの朝みたい。しかし八百屋の軒先には季節の果物や野菜がつやつや輝き、冷蔵棚には隙間なく肉類が整列し、店の奥のオーブンで焼かれたパンがずらり。
ところが、こういうことを書くと140字報道陣から反発の声が上がりました。「それは都会だからよ」「田舎は家族も多く年寄りも多いから」みたいな。
ただ、そういう方たちは儂が「いやいやロンドンだって都心はなにもないのよ」「うちのへんは移民中心のゲットーで大家族中心え」「旧東欧系もかなりいて所得は低く、物価の安い田舎暮らしよりずっと大変」みたいなことを申し上げても耳が後ろ向いてはるねん。悪いひとらやないし、頭もええんやけど、やっぱり未曾有と正面衝突してパ二くってはんにゃろか。
そこで地方在住も含めて儂の友人らにお見舞い兼ねて聞いて回ったりした結果、儂にも儂なりのエリア毎のも
のの多寡についての疑問に対する解答の像が結ばれてきました。素人考えやけど聞いてください。
まず、どうやら地域コミュニティの薄いとこほど
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イタリア人街やポルトガル人街に家がある子らの情報も状況は似てて、うちのトルコ人街同様に食料不足の危機感は全くあらへんとのこと。つまり独自の仕入れルートを持ってるから非常時でも通常営業できるわけ。郊外の新興住宅地みたいなところでもロンドンはエスニックマイノリティが小さなコーナーショップを持ってるのがデフォなんで、空スーパーばっかしのわりに彼らが落ち着いて見えるのは住人のコンポジションゆうより商店のコンポジションの問題やろね。
ヨークシャーで暮らしてる友達もさぞや困ってるんやなかろうかと電話したら「この辺はインド人のコミュニティが機能してるさかい心配無用。それどころかあの人ら地域のじいさんばあさんが住んでるとこへ無料で宅配したはるえ。同国人だけ違ごて顧客はみんな!」
EU離脱で出ていけ出ていけゆうてた人らに結局助け
てもろてるゆうのは不謹慎な表現かもしれんけどおもろいな。離脱推進エリアはもちろんダイバーシティなんか望むべくもないので、因果は巡る糸車、喰いもん不足に喘ぐことになったというのは皮肉なこっちゃ。
というかね、買い占めに走るメンタリティこそEU離脱の原動力やと儂は思うねん。たまに彼らのお気持ちを慮ってさしあげようという奇特な日本人がおられますが申し訳ないけど儂は鼻白むだけですわ。此度の未曾有を反面教師にブリクシッターが大勢を占めたようなとこはもうちょい寛容にならはったほうがええんやないですかね。地方病院の慢性的な看護婦不足もマイノリティを土地が受け入れへんがゆえやそうですし。
第06回
「喰っても喰っても、
まだ喰いやまぬ」
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東北で震災があったとき流行語みたいに「想定外」「想定外」て政治家は騒いでたけど、そんなことあるかい。なにより怖かった原発事故も、あれかて想定外なんかない。想定せなあかんこと怠った末の忌わしい人災や。
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なんでこないな現象が起きてもうたかと申しますと、あまりにコロナ禍が急展開やったことが挙げられます。英国全土が封鎖になるほんの一週間前、ロンドンのまんなかへんへショッピングに出たんですけども、いつもより観光客の姿は少ないめとはいえ、ゆうほどでものうて拍子抜けしたくらいでした。マスクした人も行き帰りの地下鉄あわせて二人しか見いひんかった。
多分がらんがらんやろなと予想してたチャイナタウンも然り。当たり前に往来があり、みんな普通に買いもんしてはる。レストランも閑古鳥ゆうほどではない。いつもやったら行列でける店に、すっと入れるくらいの感じ。まさかこないに早よ封鎖措置が取られるとは思ってえへんかったんで寄らへんかったけど、いくつか食材を入手しときたかったなあ。
そんなわけで、いきなり「出たらアカン」宣言が下されたもんやから、いつもは冷静を旨とするイギリス人たちがたちまちパニックに陥った。戦時中の(応仁の乱や
のうて第二次世界大戦。←ひつこい)キャッチフレーズが Don’t Panic やったことを考え合わせると Panic Buy に走った人
らがいかに焦りまくってたか分かる。パニックにならん、付和雷同に巻き込まれんゆうのはイギリス人の誇りみたいなとこがあんにゃもん。
あと、英国人はほんまに買い占めという行動そのものに慣れてへんかった。なにしろ史上初。前例皆無。ゆえに市場がカタレプシを起こしてリスクマネジメントが発動せえへんかったんです。
日本では、大は石油ショックの時のトイレットペーパーはじめ、小はみのもんたが番組でとりあげた朝バナナまで、しょっちゅう店頭での品切れが起こるやん。そやしそのときは右往左往してもじきになんとかなると本能的に知っている。今回のマスクはかなり長いこと不足が続いてるみたいやけど手作りしたり工夫したりでなんとか凌いでたりする。彼らには【世知】がなかった。
日本やったら「お一人様ひとつ限り」とか「整理券を配布します」とかやりますやん。こっちは、ただただ呆気にとられたまま手を拱いていた。普段はずっと楽天的なイギリス人やけど、今
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便所紙やティッシュだけやない。おむつやサニタリーは困る人よーけいはったやろなー。急に潔癖症になった彼らは洗剤類も洗いざらい。石鹸やハンドソープにとどまらず、ボディソープやシャンプー、それどころか洗濯洗剤や台所用リキッドまで……。おいおい。
米、パスタ、乾麺の類いも見事にのうなった。ほいでもって缶詰類。スープから豆、ツナ、野菜までみんなない。原爆シェルターにでもこもる気かいな。パンもない。パンがなければお菓子もない。スナックやポテトチップも壊滅。生鮮野菜もきれいさっぱり。鶏、豚、牛、魚、チーズ、あらゆるデリ食品。冷凍食品が跡形もない。そしてなにより戦時中(略)ですら安定供給を政府が約束した紅茶が、ティーバッグからハーブまですっからかんやねん。これには心底驚いたわ。未曾有やわ。
このころから日本のSNSで在英邦人たちの140字報道 from Hellが始まります。なんかもうこの世の終わりみたいなリポートばっかり。儂の友人やフォロワーの皆さんがそういうのを読んですごい心配しはりだしたんで儂は一枚の写真をアップすることにしました。
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さらには、うちから歩いて五分のよろず屋――こちらではコーナーショップと呼ばれるコンビニ的な店。チェーンではない――の写真を掲載し「英国、そんなひどい状況じゃないです。場所にもよるのかもしれませんがスーパー以外の個人商店には普通にものが売ってます。品薄とされる紅茶もほれこの通り」とも。
そうなんです。儂は各地から寄せられる地獄便りに違和感ありまくりやったんです。そらスーパーはさいぜん書いたように
はりました。もちろん紅茶もちゃんとございます。
それどころかスーパーとは通り一本隔てただけの商店街にはないもんがなにもない。まるで封鎖などなかったかのような豊穣です。通行人はそら減ってます。家族連れ以外はみんな距離をあけて歩いてる。交通量もお休みの日ぃの朝みたい。しかし八百屋の軒先には季節の果物や野菜がつやつや輝き、冷蔵棚には隙間なく肉類が整列し、店の奥のオーブンで焼かれたパンがずらり。
ところが、こういうことを書くと140字報道陣から反発の声が上がりました。「それは都会だからよ」「田舎は家族も多く年寄りも多いから」みたいな。
ただ、そういう方たちは儂が「いやいやロンドンだって都心はなにもないのよ」「うちのへんは移民中心のゲットーで大家族中心え」「旧東欧系もかなりいて所得は低く、物価の安い田舎暮らしよりずっと大変」みたいなことを申し上げても耳が後ろ向いてはるねん。悪いひとらやないし、頭もええんやけど、やっぱり未曾有と正面衝突してパ二くってはんにゃろか。
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まず、どうやら地域コミュニティの薄いとこほど
理想論、綺麗ごとに聞こえるかもしれんけど事実として知っている範囲では濃密なコミュニティに暮らしてるみんなは困ってません。助け合いとか絆とか気色悪い御題目を唱える必要はないんです。こんなときなんやから身内だけで手いっぱい。でも【自分の街】という意識があれば理性は働くもんですわ。第一恥ずかしいし怖い。
儂は濃い濃いコミュニティが漲ってる京都で生まれ育ってまっさかい、身勝手に振舞って代々まで語り伝えらてる実例をなんぼでも知ってます。それこそ「あそこの家は応仁の乱のとき……」みたいな逸話がいっぱい碁盤の目のすみっこにこびりついてる。
ほんでね、もうひとつ重要なファクターはダイバーシティの発達ですわ。封鎖のきっかけになった直接理由ともいわれてる勤務医の「夜勤明けにスーパー行ったらなんもなくてー!」 という悲痛な画像投稿。これには胸が
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イタリア人街やポルトガル人街に家がある子らの情報も状況は似てて、うちのトルコ人街同様に食料不足の危機感は全くあらへんとのこと。つまり独自の仕入れルートを持ってるから非常時でも通常営業できるわけ。郊外の新興住宅地みたいなところでもロンドンはエスニックマイノリティが小さなコーナーショップを持ってるのがデフォなんで、空スーパーばっかしのわりに彼らが落ち着いて見えるのは住人のコンポジションゆうより商店のコンポジションの問題やろね。
ヨークシャーで暮らしてる友達もさぞや困ってるんやなかろうかと電話したら「この辺はインド人のコミュニティが機能してるさかい心配無用。それどころかあの人ら地域のじいさんばあさんが住んでるとこへ無料で宅配したはるえ。同国人だけ違ごて顧客はみんな!」
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てもろてるゆうのは不謹慎な表現かもしれんけどおもろいな。離脱推進エリアはもちろんダイバーシティなんか望むべくもないので、因果は巡る糸車、喰いもん不足に喘ぐことになったというのは皮肉なこっちゃ。
というかね、買い占めに走るメンタリティこそEU離脱の原動力やと儂は思うねん。たまに彼らのお気持ちを慮ってさしあげようという奇特な日本人がおられますが申し訳ないけど儂は鼻白むだけですわ。此度の未曾有を反面教師にブリクシッターが大勢を占めたようなとこはもうちょい寛容にならはったほうがええんやないですかね。地方病院の慢性的な看護婦不足もマイノリティを土地が受け入れへんがゆえやそうですし。
第06回
「喰っても喰っても、
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えらいこっちゃでございますな。【未曾有】なんちゅう言葉を使う日ぃがよもや生きてる間にこようとは。先の大戦(応仁の乱やのうて第二次世界大戦でっせ)を経験してるじいさん友達と話してて「これ、戦時中よりひどいで」と言われたので、ほんまもんの未曾有のようです。
東北で震災があったとき流行語みたいに「想定外」「想定外」て政治家は騒いでたけど、そんなことあるかい。なにより怖かった原発事故も、あれかて想定外なんかない。想定せなあかんこと怠った末の忌わしい人災や。
あの津波にしても、そらそら現実離れした天災で、目を疑うような光景を
英国がどんだけ未曾有やったかゆうとですね、まず、スーパーマーケットが空になりました。テレビの連続ドラマが当たりすぎて銭湯が空になるんやったら結構なことですが、庶
民の生活を支える場所からものがなんにもなくなってもたら洒落になりまへん。
なんでこないな現象が起きてもうたかと申しますと、あまりにコロナ禍が急展開やったことが挙げられます。英国全土が封鎖になるほんの一週間前、ロンドンのまんなかへんへショッピングに出たんですけども、いつもより観光客の姿は少ないめとはいえ、ゆうほどでものうて拍子抜けしたくらいでした。マスクした人も行き帰りの地下鉄あわせて二人しか見いひんかった。
多分がらんがらんやろなと予想してたチャイナタウンも然り。当たり前に往来があり、みんな普通に買いもんしてはる。レストランも閑古鳥ゆうほどではない。いつもやったら行列でける店に、すっと入れるくらいの感じ。まさかこないに早よ封鎖措置が取られるとは思ってえへんかったんで寄らへんかったけど、いくつか食材を入手しときたかったなあ。
そんなわけで、いきなり「出たらアカン」宣言が下されたもんやから、いつもは冷静を旨とするイギリス人たちがたちまちパニックに陥った。戦時中の(応仁の乱やのうて第二次世界大戦。←ひつこい)キャッチフレーズが Don’t Panic やったことを考え合わせると Panic Buy に走った人
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あと、英国人はほんまに買い占めという行動そのものに慣れてへんかった。なにしろ史上初。前例皆無。ゆえに市場がカタレプシを起こしてリスクマネジメントが発動せえへんかったんです。
日本では、大は石油ショックの時のトイレットペーパーはじめ、小はみのもんたが番組でとりあげた朝バナナまで、しょっちゅう店頭での品切れが起こるやん。そやしそのときは右往左往してもじきになんとかなると本能的に知っている。今回のマスクはかなり長いこと不足が続いてるみたいやけど手作りしたり工夫したりでなんとか凌いでたりする。彼らには【世知】がなかった。
日本やったら「お一人様ひとつ限り」とか「整理券を配布します」とかやりますやん。こっちは、ただただ呆気にとられたまま手を拱いていた。普段はずっと楽天的なイギリス人やけど、今回ばかりはそんなんで野火が広がるごとく、
便所紙やティッシュだけやない。おむつやサニタリーは困
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米、パスタ、乾麺の類いも見事にのうなった。ほいでもって缶詰類。スープから豆、ツナ、野菜までみんなない。原爆シェルターにでもこもる気かいな。パンもない。パンがなければお菓子もない。スナックやポテトチップも壊滅。生鮮野菜もきれいさっぱり。鶏、豚、牛、魚、チーズ、あらゆるデリ食品。冷凍食品が跡形もない。そしてなにより戦時中(略)ですら安定供給を政府が約束した紅茶が、ティーバッグからハーブまですっからかんやねん。これには心底驚いたわ。未曾有やわ。
このころから日本のSNSで在英邦人たちの140字報道 from Hellが始まります。なんかもうこの世の終わりみたいなリポートばっかり。儂の友人やフォロワーの皆さんがそういうのを読んですごい心配しはりだしたんで儂は一枚の写真をアップすることにしました。
満開の桜の木の下に、四ロール入りのペーパー抱えたポートレートです。曰く「不安になる気持ちはわかるけど、それは愚行の言い訳にはなりま
へんえ。パニック買いする人は、ほんまに必要な人を困らせてるんでっせ。それとも自分さえよかったらよろしおすか? あの世に堕ちはったときに仏さんがトイレットペーパー垂らしてくれはったらええねえ。ミシン目入りの」と。
さらには、うちから歩いて五分のよろず屋――こちらではコーナーショップと呼ばれるコンビニ的な店。チェーンではない――の写真を掲載し「英国、そんなひどい状況じゃないです。場所にもよるのかもしれませんがスーパー以外の個人商店には普通にものが売ってます。品薄とされる紅茶もほれこの通り」とも。
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まず、どうやら地域コミュニティの薄いとこほど
ら、そんなのどーでもいいと考える馬鹿ちんですわ。けれど認知している顔があれば、さすがに理性が買い占めの手を抑えてくれる。
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儂は濃い濃いコミュニティが漲ってる京都で生まれ育ってまっさかい、身勝手に振舞って代々まで語り伝えらてる実例をなんぼでも知ってます。それこそ「あそこの家は応仁の乱のとき……」みたいな逸話がいっぱい碁盤の目のすみっこにこびりついてる。
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イタリア人街やポルトガル人街に家がある子らの情報も状
況は似てて、うちのトルコ人街同様に食料不足の危機感は全くあらへんとのこと。つまり独自の仕入れルートを持ってるから非常時でも通常営業できるわけ。郊外の新興住宅地みたいなところでもロンドンはエスニックマイノリティが小さなコーナーショップを持ってるのがデフォなんで、空スーパーばっかしのわりに彼らが落ち着いて見えるのは住人のコンポジションゆうより商店のコンポジションの問題やろね。
ヨークシャーで暮らしてる友達もさぞや困ってるんやなかろうかと電話したら「この辺はインド人のコミュニティが機能してるさかい心配無用。それどころかあの人ら地域のじいさんばあさんが住んでるとこへ無料で宅配したはるえ。同国人だけ違ごて顧客はみんな!」
EU離脱で出ていけ出ていけゆうてた人らに結局助けてもろてるゆうのは不謹慎な表現かもしれんけどおもろいな。離脱推進エリアはもちろんダイバーシティなんか望むべくもないので、因果は巡る糸車、喰いもん不足に喘ぐことになったというのは皮肉なこっちゃ。
というかね、買い占めに走るメンタリティこそEU離脱の原動力やと儂は思うねん。たまに彼らのお気持ちを慮ってさしあげようという奇特な日本人がおられますが申し訳ないけど儂は鼻白むだけですわ。此度の未曾有を反面教師にブリク
シッターが大勢を占めたようなとこはもうちょい寛容にならはったほうがええんやないですかね。地方病院の慢性的な看護婦不足もマイノリティを土地が受け入れへんがゆえやそうですし。