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拝啓・古地図サロンから⑧

本渡章のサロン
「古地図ものがたり」

毎回、古地図数点を公開。見るだけOK、話しかけOK、古地図マスターこと本渡章さんがお話し相手をつとめる楽しいひととき。ここでは、8月に開かれた初めてのサロンの様子をご紹介。本渡さんが訪れた人へ宛てたメールの形式で綴ります。

■毎月第4金曜、3:00PM~6:00PM
■大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて開催


☆2018年8月30日付・本渡章より、これをお読みのみなさまへ。

拝啓

台風20号の大風が吹き荒れた夜が明け、御堂筋は一転、晴れわたる青空におおわれ、いい気分の昼下がりです。皆様、夏の終わりをどのようにお過ごしですか。

今月の古地図サロンは、8月24日午後3~6時、大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて、予定どおり開催されました。

前回は来場が少なく、ゆったりしたサロンだったので油断して、3時ぎりぎりに会場入りしましたら、この日は「オープン待ちの方がおられますよ」と、カフェのスタッフさんから言われ、あわてて展示をセッティングすることになりました。その方と、広げた地図を前にお話していると、まもなくお母さんと娘さんの2人連れでの来場者があり、「この日を待っていたんです」とお母さんからひと声。仕事の都合で、今日しか見に来られないので、ほんとに楽しみにしてましたとのこと。

こういう方たちがおられるので、油断できません。親子連れの方は、新刊の『鳥瞰図!』を買って読まれ、興味が湧き、ネットで探して古地図サロンを知り、わざわざ足をはこばれたそうです。

あいにくこの日の展示は、8月の終戦記念日にちなんで戦争にまつわる地図特集だったのですが、鳥瞰図に限らず、古い地図全般に興味があるそうで、そのあと話は俄然盛り上がりました。先にオープン待ちしておられた方は書店勤務で、やはり鳥瞰図も古地図もお好き。地図の話題に、本をめぐっての最近のニュースなども加わって、話のネタは尽きません。そのあともポツポツと来場があり、切れ目のほとんどないサロンになりました。

戦争にまつわる地図は、話題としては重いので、サロンではどうかなと思っていたのですが、意外というか、これまででいちばん反響が大きい展示になりました。私は戦後生まれですし、来られた方たちもほとんどが戦争の実体験のない世代です。若い来場者にはなおさら遠い昔の話でしかないだろうと、勝手に思い込んでいました。

ところが、地図の力はすごいです。戦前、戦中、戦後まもなく作成された当時の地図には、戦争を知らないはずの人にも、かつてその場所で起きた出来事をありありと想像させる何かがあるのですね。

空襲で焼失した地域を赤く塗った大阪地図があります。主に市街中心部と湾岸部、淀川流域が真っ赤です。中心部は行政とビジネス、湾岸と淀川流域は軍需工場、軍事施設が多かったエリアです。戦後の復興計画を描き込んだ大阪地図があります。道路整備と市街の区画整理が主な内容ですが、焼失エリアと復興計画エリアが重なっているのがわかります。あたりまえと言えばあたりまえですが、2枚の地図を見比べていると、単に焼けたから復興するというだけではない、いろいろな感慨が湧いてきます。焼失エリア地図であれば、実際にその地図を作るために、敗戦直後の焼け野原の街を、どこまでが焼け、どこが焼け残ったか、自分の目で見て歩いた人がいたことに思いがおよびます。

ソ連での抑留者が戦後になっても日本に帰れず、彼の地で埋葬されたのを示す埋葬地分布地図があります。大陸のじつに多くの地域に埋葬地が散らばっていたのがわかります。平成になってソ連から渡された40,000人の日本人名簿をもとに作成された地図です。初めて見た時、何も言葉が出ませんでした。この日、この地図を見た方たちはどんな思いを抱かれたでしょうか。

今回からジャンケン地図はなくなりました(理由は前回書いています)。1枚だけ、セレクトした地図を用意しますが、希望があれば広げて見ていただくことにします。今回のセレクト地図は抑留者埋葬地分布地図でした。そのほかの地図も、戦争の記憶を濃密に伝えてくれました。たとえば、明治の地図は、今の地図と紙じたいが違うという話を来場者としましたが、紙もまた何かを語っています。当時作られた実物の地図が持っているその時代の空気です。

5時20分頃になって来場が途切れ、来場の方が帰り際に注文してくださったアイス珈琲(ごちそうさまでした)をいただきながら、ひと息ついていると、また1人来場がありました。何度も来られて、たぶん来場回数いちばんの方。いつも地図をひととおり、じっくり見られて、言葉少なに帰られます。いいですね、こういうのも。今日はカフェのスタッフさんからも、1人、地図を見に来られました。仕事が忙しいと思いますが、よかったら、またいつでもお越しください。

というわけで、本日の展示の古地図の題名は、次のとおりです。


本日の公開古地図
★「戦後強制抑留者の主な埋葬地」平成3年(1991)
「第十六師団機動演習地図」大正元年(1922)
「大演習枢要地図」明治31年(1898)
「東京日日新聞日露戦争地図」明治37年(1904)
「双璧の天橋立・国民精神総動員」昭和14年(1939)
「最新大大阪全図」昭和17年(1942)
「戦災焼失区域明示・大阪市地図」昭和21年(1946)
「中支戦局詳解地図」昭和12年(1937)
「大阪地形図」昭和7年(1932)
「大阪市計画街路及土地区画整理事業区域図」昭和39年(1964)
「大阪都市計画高速道路及び都市計画街路図」昭和39年(1964)

以上11点、すべて〔原図〕です。この他にナカノシマ大学特製復刻古地図15点、高島屋ギャラリーで展示した特製古地図ポスター6点も展示しました。

☆〔原図〕とは、発行年が明治であれば、明治のその年に発行されたオリジナル版という意味です。そのほかは原図をもとに作った復刻版です。ナカノシマ大学の復刻版と古地図ポスターはサロンに常設しますが、原図は展示内容が毎回変わります。

 

★「戦後強制抑留者の主な埋葬地」が本日のセレクト地図でした。平成発行ですが、内容から見て古地図サロンでの戦争地図特集にふさわしいと思います。

なお、本も3冊展示しました。

『鳥瞰図!』本渡章(私の最新刊。鳥の目で日本を見下ろしたら……)
『ヒコーキ野郎たち』稲垣足穂(鳥瞰図の黎明期は飛行機の誕生期でもあった)
『米朝ばなし 上方落語地図』桂米朝(地図入りの落語本は珍しい)

 


古地図サロンは御堂筋の名建築・大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて、9~10月は毎月第4金曜、11月休み、12月は第1金曜の午後3~6時開催。どなたでも参加できます。もし、これを読んで興味をもたれた方がおられましたら、どうぞ気軽にお越しください。途中参加・途中退場オーケー、古地図を見るだけでもオーケー、私に話しかけていただいてももちろんオーケーです。

では、次回サロン(9月28日)で、みなさまとお会いできるのを楽しみにしています。

敬具
平成30年8月30日
本渡章

★本渡章のサロン
「古地図ものがたり」

第9回は9月28日(金)15:00〜
大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて開催します。