2021年11月26日・本渡章より
【今回の見出し】
■11月の古地図サロンレポートと次回予定
- 最近と今後の古地図活動
- 古地図ギャラリー第8回
①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その8〉
②本渡章所蔵地図より〈その7〉
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その8〉
■古地図サロンのレポート
開催日:11月26日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。
皆さま、お元気でいらっしゃいますか。秋から冬へ、季節が足早に過ぎて行きます。
今回は「大阪古地図集成」の復刻地図20点余と江戸~明治の原図4点を並べての展示です。原図が主役のサロンですが、この数回は復刻版と見比べてきました。この日は主客逆転で復刻版がメインです。「大阪古地図集成」は玉置豊次郎著・大阪都市協会刊『大阪建設史夜話』付録の復刻地図集(全25点)です。サロンのスペースには並べきれないので、お話をしながら少しずつ広げて見ていただく形式になりました。江戸期から明治期へ連続して見ていくと、大坂から大阪へ、ゆるやかに、時に激しく、街の姿が変貌してきたのがわかります。別途に用意した原図と同じ内容の復刻図を見比べると、年代を経た風合いこそ原図にかないませんが、復刻には復刻の見やすさ、美しさがあると思えてきます。
来場者がご自分の古地図や資料を持参され、歓談の輪ができるのもサロンならではの風景。古地図の中に家のルーツを探す方もいて、他の方からの情報に耳を傾けておられます。かと思うと、今日も初めての参加者がいて、次々と質問も飛び出します。サロンのことを知らずに、かたわらの席で珈琲を飲んでいて、いつのまにか古地図に惹かれて話に加わる方もいました。これまでサロンに来れなくて、たまたま仕事が早く終わったので駆けつけたとおっしゃる方がおられたのには恐縮しつつ嬉しくも思いました。参加の仕方もいろいろです。
飛び入りで、第4回古地図ギャラリーで紹介した鳥観図絵師・青山大介さんの最新作「姫路城下町鳥観図2021」のポスターを展示できたのはうれしいサプライズでした。ポスターを持ってきてくださった方のお話によると、元の鳥瞰図は姫路駅の案内所に飾られているそうです。
というわけで、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。
◉今回のサロンで展示した古地図
《原図》
弘化改正大坂細見図 弘化2年(1845)
増修大坂指掌図 寛政9年(1797)
摂津国大阪府区分新細図 明治12年(1879)
新撰大阪市中細見全図 明治14年(1881)
改良大阪明細全図 明治20年(1887)
吉備路 作・井沢元晴
《復刻》「大阪古地図集成」より
新板大坂之図 明暦3年(1657)
辰歳増補大坂図 元禄元年(1688)
新撰増補大坂大絵図 元禄4年(1691)
新撰増補大坂大絵図 貞享3年(内容は宝暦8年・1758以降)
摂津大坂図鑑綱目大成 享保末(1730頃)
摂州大坂画図 寛延改正(1749頃)
改正懐宝大阪図 宝暦2年後(1752後)
増修大坂指掌図(表面) 寛政9年(1797)
増修大坂指掌図(裏面) 寛政9年(1797)
増修改正摂州大阪地図全(東半) 文化3年(1806)
増修改正摂州大阪地図全(西半) 文化3年(1806)
文政新改摂州大阪阪全図 文政8年(1825)
改正摂州大坂之図 天保7年(1836)
改正増補国宝大阪全図 文久3年(1863)
新撰大阪府管内区別図 明治8年(1875)
大阪府管轄市街区分細見縮図 明治10年(1877)
摂津国大阪府区分新細図 明治12年(1879)
新撰大阪市中細見全図 明治14年(1881)
実測大阪市街全図 明治18年(1885)
内務省大阪実測図(東半) 明治21年(1888)
改正新版大阪明細全図 明治23年(1890)
新町名入大阪市街全図 明治33年(1900)
★次回は2022年1月26日(金)午後3~5時開催の予定。
会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。
(サロンは今後も奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)
★コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。
【最近と今後の古地図活動】
●動画番組、進行中
大阪コミュニティ通信社(大阪市此花区)制作の動画番組「大阪の区150年の歩み」を語るシリーズは総論編、西区編を公開中。港区編は撮影終了、街歩きスタイルの編集でまもなく公開予定。他に「古地図サロン」紹介編、著書「大阪24区の履歴書」紹介編の動画もあります。(検索:大阪コミュニティ通信社)
●朝日カルチャーセンター中之島での講座予定
12月17日(金)午前10時30分~12時 江戸時代の地図絵師と伊能忠敬の系譜
2022年1月28日(金)・2月25日(金)・3月25日(金)午前10時30分~12時
古地図地名物語[東淀川区・淀川区・西淀川区](検索:朝日カルチャーセンター中之島)
●大阪府立中之島図書館での展示計画
2022年は大阪府立中之島図書館・展示室にて3つの特別展を計画しています。詳細は次回以後に順次お知らせします。
|古地図ギャラリー|
1.【友鳴松旭・大日本早見道中記】
東畑建築事務所「清林文庫」より〈その8〉
日本は地図大国ともいわれます。とりわけ江戸時代には大量かつ多様な地図が流布しました。街道筋が整備され、地図出版が盛んになり、旅が身近なものになりました。街道を描いた地図には名所や宿の情報も盛り込まれ、見るだけでも楽しく、人を旅情を誘います。
ここに紹介する「大日本早見道中記」もそのひとつ。作者は友鳴松旭(ともなりしょうきょく)。発行年は書肆データ(早稲田大学図書館)によると安政元年(1854)。図は広げると2メートルを超える横長で、折りたたむと懐中に収まる携帯サイズ。写真は〈江戸~京~大坂〉〈近畿〉〈九州・四国・中国西部〉の各部分図。街道に沿って城、寺社、宿場、旧跡などの名称が散りばめられ、宿場から宿場への距離を表す里数も記されています。長い海岸線に囲まれ、網の目の街道筋に覆われた列島に山と川がアクセントになって風景が立ち上がる江戸後期の日本列島のイメージがよく表れています。江戸・京・大坂の文字はひときわ大きく、九州の眼前に対馬、さらに朝鮮が描かれているのも、目につきます。
友鳴松旭は江戸後期から明治にかけて活躍した絵師、戯作者。今でも挿図や展示にしばしば用いられる観光絵図「浪華名所獨案内」の作者としてご記憶の方もおられるかもしれません。「浪華名所獨案内」は次回ギャラリーで、別の作者による競作図をとりあげる予定です。複数の作者による競作、改作は江戸時代にはジャンルを越えて行われました。地図の世界も同様で、それがまた表現の場を広げていったのです。
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東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。
2.【遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図】【清水吉康・東海道パノラマ地図】
本渡章所蔵地図より〈その7〉
前回のギャラリーに登場した遠近道印(おちこちどういん)の話の続きです。道印が天和年間(1681~84)に加賀藩前田家に献上した「東海道絵図」は東海道の俯瞰図で、江戸時代に数多く出版された道中図の先駆けとして知られています。同図は、元禄3年(1690)に浮世絵師の菱川師宣(ひしかわもろのぶ)によって「東海道分間絵図」と題した絵巻物タッチのリメイク版が刊行され、世に広まりました。
ここに掲載したのは、昭和3年(1928)刊の清水吉康「東海道パノラマ地図」(*注)の裏面・付録になった「東海道分間絵図」。別冊・東海道旅行案内とセットになった函入り地図です。遠近道印・菱川師宣・清水吉康、時代も作風も異なる3人の足跡が300年以上の年月を経て、ひとつの函に収まっている姿に、絵図と地図の間に広がる世界の豊かさを感じます。
「東海道分間絵図」は今回のギャラリーに併載の「大日本早見道中図」と同じく街道案内が主眼の道中図のバリエーション。街道地図でありながら名所絵、風俗絵でもあるところに菱川師宣が筆をとった意味があります。菱川師宣といえば浮世絵の元祖と呼ばれたパイオニアですが、地図の分野でもユニークな足跡を残しました。
清水吉康は明治から昭和にかけて活躍した鳥観図絵師。近代版の東海道絵図にあたる「東海道パノラマ地図」を広げてみれば、街道ならぬ鉄道路線が東西に連なる街々をつらぬく風景が延々と続きます。筆者の小宅では2部屋またいでも広げきれない超横長図です。表面の「東海道パノラマ地図」、裏面の「東海道分間絵図」、まったく趣の異なるふたつの図。風景を描く人の目にも時はうつろいます。写真は「東海道分間絵図」より「大井川」、「東海道パノラマ地図」より「目次・東京市」「京都・伏見」の各図及び函(題名附)です。
*注…「東海道パノラマ地図」は最初の版が大正10年(1921)に駸々堂旅行部から刊行。掲載したのは後に金尾文淵堂が刊行した増補版の部分図。
3.【吉備路】
鳥観図絵師・井沢元晴の作品より〈その8〉
井沢元晴の作品は現在、ご遺族が原画とともに印刷物になった鳥観図を所蔵し、新聞記事や映像資料とあわせて保管と整理を続けておられます。この「吉備路」と題された作品は制昨年不明の原画「吉備の国」の一部が印刷物として刊行されたもの。海の青に抱かれた島と山と街の姿が一体となった美しさに惹かれます。写真は〈岡山港周辺〉〈備前市周辺〉の各部分図。地図を収めた袋の表紙には「鳥になって故郷をみよう」とあり、説明文には次の一節も(原文ママ・写真参照)。
ミニチュアの街をつくったり、飛行機にのったり、鳥観図を眺めたり、
山や高いビルに登るだけでもいい、
自分たちの街を、ふるさとを鳥になって眺めてほしい。
いままで見えなかったものが見えてくる。自分たちの街が、故郷が
たまらなくいとおしく、ほうずりしたいほどに感じられるだろう。
鳥になってふるさとを見れば
街づくり、村おこしの新しい力が湧いてくる。
……末尾には、「あなたの手法で鳥観図を描いてみませんか」と《タウン・スケッチ運動》を提唱する言葉が添えられています。説明文の題名は「井沢元晴展の目的」。1980年代後半に各地で開催された井沢元晴展に寄せての力強いメッセージです。昭和の伊能忠敬と呼ばれた井沢元晴が永眠したのは1990年の初秋でした。
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鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。
★過去の古地図ギャラリー公開作品
第7回(2021年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」
②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」
第6回(2021年7月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」
②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」
第5回(2021年5月)
①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ
②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」
③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」
第4回(2021年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」
②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」
④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」
第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」
第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」
第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」
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