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拝啓・古地図サロンから 29

2022年1月28日・本渡章より

【今回の見出し】

1月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動
  • 古地図ギャラリー第9回

①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その9〉

②本渡章所蔵地図より〈その8〉

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その9〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:1月28日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。今回は更新が遅くなり、お待たせしてしまいました。

当日は感染の行方が不透明で、外出にも自粛ムードが漂うなかでの開催となりました。参加人数を気にしなくてすむ会合の強味とはいえ、オープン後しばらくは来訪者が2、3人。静かなスタートはさすがにコロナ禍中を思わせましたが、後半は7人ほどとなり、初参加の方もお2人おられて、いつもとあまり変わらない雰囲気で終えられました。しばらくは、こんな状況が続くと思います。2022年もよろしくお願いいたします。

さて、今回の展示古地図は数が少なめですが個性の強いものを並べてみました。「大阪市街全図」は大正初期の著名会社や商店を細かく記載。この図については、参考展示した冊子「大阪に関する地域資源の掘り起こし・再評価とDCHによる繋がりの創出」に解説があり、仁丹の社長宅、相撲のタニマチの由来となった「薄医院」などが載っていると記されています。図は100年以上前の内容で、今も残る会社・商店をつい探してしまいます。サロンの皆さんもそれが楽しみのようです。「大阪府中等以上学校分布図」は戦争突入直前の学校分布の図。当時は女学校や職業学校が多かったと気づかされました。「大大阪最新地図」は著書『古地図でたどる大阪24区の履歴書』でも取り上げ、実現しなかった幻の中島区・姫島区が載っている大大阪誕生記念の地図。「世界古美術即売大展観」は、日本橋にあった松坂屋で開催の古美術即売会を双六風にアレンジした会場案内図。絵に味があり、戦前の賑わい風景に触れた気分になります。その他、計6点。少ないぶん、ひとつひとつじっくり見ていただけたかと思います。

今日は、またお一人、家のルーツを知る手がかりを求めて来場された方がいました。江戸時代から続くお店が家業で、昔の足跡については資料が乏しく、不明な点が多いとのこと。古地図サロンは気軽な雑談の場ではありますが、何かお探しの方のお役に立てるのなら、うれしいです。

というわけで、次回も皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図

《原図》
大阪市街全図 付著名諸会社・銀行・商店案内 大正2年(1913) 大阪毎日新聞社
大大阪最新地図 編入接続町村都市計画区域及路線明細 大正14年(1925) 大阪朝日新聞社
大阪近郊 昭和2年(1927) 大日本帝国陸地測量部
世界古美術即売大展観 昭和13年(1938) 大阪日本橋松坂屋
大阪府中等以上学校分布図 昭和16年(1941) 大阪府学務部学務課編
最新大阪市案内図 昭和31年(1956) 大阪市交通局

《参考》
「大阪に関する地域資源の掘り起こし・再評価とDCHによる繋がりの創出」(冊子)
令和2年(2020)発行  発行者・関西大学人間健康学部 浦和男研究室

次回は2022年3月25日(金)午後3~5時開催の予定。

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。
サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。
(サロンは今後も奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

【最近と今後の古地図活動】

新ブログ大阪の地名に聞いてみた連載スタート

誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い。
いっしょに耳を傾けてみませんか。月1回ペースで1年間の連載予定(題字と似顔絵・奈路道程さん)。

連載1回目は「大阪の干支地名エトセトラ」(前編・後編)。公開中。

※写真は新ブログの看板猫(猫間川)

新着番組、古地図でたどる大阪の歴史」のご案内

江戸時代の大坂、近代以後の西区編に続き、街歩きスタイルの編集による港区編もまもなく公開。
他に「古地図サロン」紹介編、著書「大阪24区の履歴書」紹介編の動画もあります。

中之島図書館・特別展「清林文庫の魅力と、その古地図コレクション」
ナカノシマ大学清林文庫誕生と古地図が語る時の物語」

4月11日(月)~23日(土)大阪府立中之島図書館にて開催。今年創立90周年を迎えた東畑建築事務所(大阪市中央区)が所蔵する「清林文庫」(建築・美術・地誌など他分野にわたる世界的コレクション)から、大坂・京都・江戸の三都の古地図を中心に江戸時代の世界地図も展示。東畑建築事務所と同コレクションの歴史を語る資料も公開。
※清林文庫については古地図ギャラリー参照。

特別展の連動企画として、展示最終日の4月23日(土)には、展示内容の解説と「清林文庫」誕生にまつわる逸話を紹介する講座「清林文庫誕生と古地図が語る時の物語」を開催します。会場は大阪府立中之島図書館2階ホール。講師は本渡章。

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定

4月25日(月)教室・5月9日(月)現地 午前10時00分~12時「庚申街道沿いの史跡を訪ねて」


|古地図ギャラリー|

1.暁鐘成・浪花名所独案内】

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その9

掲載の図は江戸時代の観光案内として、今でも昔の大阪を語る本や雑誌などに登場していますので、見たことがある方もおられるでしょう。その多くは友鳴松旭(ともなりしょうきょく)・作の「浪華名所獨案内」です。友鳴松旭については前回の古地図ギャラリー掲載の「大日本早見道中記」の絵師として紹介しましたので、そちらをご覧ください。今回掲載したのは、暁鐘成(あかつきのかねなり)の筆による「浪花名所独案内」。友鳴松旭の作とは題名の文字表記が少し異なり、図の内容も一部が異なるものの、ほぼ同じ。図の上に豊臣秀吉の大坂築城にはじまる街の歴史を説く文言が記されているのが改訂版の特徴です。

暁鐘成(1793~1860)は江戸時代の浮世絵師で戯作者。狂歌・随筆・読本・啓蒙書など活躍の幅は広く、なかでも没後70年近くを経た昭和3年(1928)刊行の「摂津名所図会大成」は地誌の傑作とされます。友鳴作「浪華名所獨案内」を世に出した版元が、絵師を人気作者の暁鐘成に代えて改訂版を作成したのは、観光案内の地図が息の長い売れ行きが期待できるコンテンツだったことを伺わせます。

題名の表記が一部変わって「浪花名所独案内」になったのは、なぜでしょう。改訂版では友鳴作の版に描き込まれた色別の観光ルートがなくなりました。遠景の山々を描くタッチも微妙に違います。端的に言うと、絵画的な色合いが濃くなりました。旧版と同じ内容のようで、細部にこだわりが見える。そこに、絵師・暁鐘成の意気を感じます。

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東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

2.大阪市観光課【大阪市案内図】

本渡章所蔵地図より〈その8〉

大阪は江戸時代から観光案内図の題材になる名所がたくさんありました。明治以後は、街の近代化にともなって登場した新名所が加わり、交通機関の発達もあって、観光に便利な地図が数多く出回るようになりました。昭和15年(1940)発行の「大阪市案内図」は大阪市観光課が作成。赤地に青い文字、白抜きのイラストの表紙がなかなかモダン。描かれたのは市役所前の街角です。

開くと中面が地図。「昔よりの大路堺筋」「南北の大道路御堂筋」「綿市呉服ノ本町」「洋服商街ノ谷町」「繁華ノ中心路心斎橋」「銀行商社街ノ高麗橋」「薬種問屋ノ道修町」「陶器商ノ西横堀」「菓子玩具ノ松屋町」など、赤い囲みの中の文言が、戦前の賑わいがどこにあり、当時の人々がどんな風景を見ていたのか、伝えています。裏面は当時の名所案内記。大阪城公園、大阪城天守閣、天王寺の美術館・動物園などと並んで電気科学館が大きく紹介され、天象館(プラネタリウム)実演をアピールしています。綿市呉服、洋服商街、薬種問屋、天象館……地図は時代の言葉のカプセルだと、あらためて思います。

3【躍進井原市】

鳥観図絵師・井沢元晴の作品より〈その9〉

「躍進井原市」は、古地図ギャラリー第4回(2021年3月)で紹介した「福山展望図」の姉妹編ともいうべき作品。昭和28年(1953)、井原市に市政が施行されたのを記念しての発行です。戦地からの復員後、西日本を中心に各地の街や山河を描いてきた井沢元晴は、福山市、井原市を鳥観図に残し、戦後の復興を遂げた街々の姿を今に伝えました。

井原市は岡山県南西部の小都市。隣接する広島県福山市とのつながりが深く、市域が江戸時代の福山藩領と重なっています。源平合戦で活躍した那須与一ゆかりの地で、戦国大名の北条早雲の出身地としても知られる街。この図にも那須与一の墓、那須一族の大山氏の居城だった青蔭城跡など由緒ある旧跡が描き込まれ、桜名所で名高い小田川沿いの井原堤は桜並木が花を咲かせています。裏面に記された井原市の概況の文面にも、市制施行を機に観光や産業の発展をめざす街の意欲があふれています。図中に並んでいる丸囲みの数字は、裏面で紹介されている地元の企業や商店の場所を示しています。

桜色に縁どられた小田川を挟んで、緑の山々と市街地の営みがやわらかな空気に溶け込んでいます。現在の井原市は美術館や天文台、日本庭園などの施設も整って、文化の香りも漂わせる街になりました。この図にもすでに天文台が載っています。来年、井原市は市制70周年を迎えます。

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鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

過去の古地図ギャラリー公開作品

第8回(2021年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」

②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」

 

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

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