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拝啓・古地図サロンから 30

2022年3月25日・本渡章より

【今回の見出し】

3月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動
  • 古地図ギャラリー第10回

①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その10〉

昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その10〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:3月25日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。多忙が続き、今回も更新が遅くなりました.5月のサロンは予定どおり開催しますので、よかったらのぞいてみてください。

3月のサロンは教材になった地図を特集しました。過去には「歴史地図」などと題された地図の本が学校で使われていたのですね。視覚に訴える地図が、歴史の理解に役立てられていたわけです。戦前のものだと、歴代の天皇の系図も載っていて、あらためて時代を感じます。一方で、参考に展示した理系の教材は植物の分類など美しい絵入りで詳しく解説され、今の目で見てもなかなかの出来栄え。戦前の教育については知らないことも多いと、これもあらためて思います。

戦後の都市計画図と施設・交通案内図も公開しました。昭和30年代は復興がひととおり終わって、高度成長期を迎えた時代と一般に言われますが、計画図を見ていると、30年代は復興の第2段階だったのでないかと思えてきます。少なくとも、大阪市中では戦災地域の復興にかなりの時間差があったと地図から推察されました。

というようなことをお話しましたが、サロンは基本的に気軽な雑談の場所です。ブログをご覧の方から、サロンは古地図研究の場で敷居が高いと思っていたとの声をいただきましが、そんな大げさなものではありません。現在、サロンにお越しの方たちも研究しているという意識は無いと思います。古地図を見ながら、ゆったりとした時間を過ごす会とお考えください。

というわけで、次回も皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図

《地図教材 原本》
『小学外国地図』明治29年(1896)金港堂
『日本歴史別號』明治33年(1900)冨山房
『東洋歴史精図』昭和2年(1927)帝国書院
『日本歴史地図・改訂版』昭和2年(1927)三省堂
『新體日本歴史地図』昭和4年(1929)冨山房
『高等小学地理書附図』昭和15年(1940)東京書籍

《参考資料 原本》
『尋常小学修身書』明治25年(1892)阪上半七
『日露戦争実記』明治37年(1904)博文館
『小学綴方』大正6年(1917)同文館
『教範植物学』昭和4年(1929)帝国書院

《地図 原図》
大阪市都市計画街路及土地計画整理事業区画図 昭和35年(1960)大阪市区画整理局
大阪市施設交通案内図 昭和45年(1970)ワラジヤ

次回は2022年5月27日(金)午後3~5時開催の予定。

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。
サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。
(サロンは今後も奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

【最近と今後の古地図活動】

大阪の地名に聞いてみたブログ連載中

誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い。
月1回ペースで1年間の連載予定(題字と似顔絵・奈路道程)

第1回 大阪の干支地名エトセトラ【前編・後編】
第2回 続・干支地名エトセトラ&その他の動物地名【前編・後編】
第3回 桜と梅の大阪スクランブル交差点【前編・後編】
第4回 花も緑もある大阪【前編・後編】

新着番組、古地図でたどる大阪の歴史」公開中(大阪コミュニティ通信社)

江戸時代の大坂、近代以後の西区編に続き、街歩きスタイルの編集による港区編公開。
他に「古地図サロン」紹介編、著書「大阪24区の履歴書」紹介編の動画もあります。
引き続き、大正区編・此花区編と続く予定。

●「泉州人」で監修・執筆

「泉州人」(月刊「歴史人」別冊)3月31日・ABCアーク発行。
泉州の歴史と魅力再発見をテーマにした全20ページの冊子に「雨乞いが潤す人と食」など6ページにわたって監修・執筆。

特別展「清林文庫の魅力と、その古地図コレクション」終了
ナカノシマ大学「清林文庫誕生と古地図が語る時の物語」終了

清林文庫展(東畑建築事務所所蔵の「清林文庫」(建築・美術・地誌など他分野にわたる世界的コレクション)の展示が、大阪府立中之島図書館にて4月11日(月)~23日(土)開催され、多数の来場者を得て終了しました。最終日に展示と連動して行われたナカノシマ大学(講師・本渡章)も満席でした。ありがとうございました。
※清林文庫については古地図ギャラリー参照。

特別展「昭和~平成~令和をつなぐ鳥観図絵師列伝」5月16日より開催

昭和の初めから平成・令和にかけて、吉田初三郎・井沢元晴・石原正・青山大介の4人の鳥観図絵師が描いた街と山河の風景を一堂に展示。21日には青山大介ワークショップも実施されます。展示の企画・構成は本渡章。
会場は大阪府立中之島図書館3階展示室。開催期間は5月16日(月)~28日(土)

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定

6月17日(金)午前10時30分~12時「地図で訪ねる昭和30年代の大阪」

いちょうカレッジで4回シリーズ講座開催予定

入門科「大阪のまち探検コース」~歩いてみたくなる大阪のまち~
5月31日(火)・6月7日(火)・14日(火)・21日(火)各午後2時~4時
古地図がテーマの4回連続講座。いずれも教室での座学です。
大阪駅前第2ビル5階 総合生涯学習センター

|古地図ギャラリー|

1.【新改正摂津国名所旧跡細見大絵図】

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その10〉

掲載の図は江戸時代に数多く出版された広域の名所案内図のひとつ。摂津国とは現在の大阪府とは領域が大きく異なります。どちらも大阪市中と北摂が含まれますが、摂津国には兵庫県の東部が加わり、河内と泉州は入っていません。河内は河内国、泉州は和泉国として独立していました。題名のとおり、名所旧跡と街道筋の案内を主な内容とし、広い摂津国を一覧できる大きな図です。発行は天保7年(1836)で大塩平八郎の乱の前年にあたります。幕末に近づき、世相に不穏な空気が漂うなか、物見遊山のための地図の需要もあいかわらずだったのが伺えます。
注目したいのは凡例です。「歌名所古跡」「俗名所古跡」と名所をふたつに分けて載せているのはどうしてでしょう。名所とは、もともと「歌枕の名所」を指します。歌に詠まれて名を知られた場所という意味なのですが、時代が下がると、歌に詠まれてはいないが有名な場所も名所と呼ばれるようになり、江戸時代には名所観光大流行。凡例はそこからさらに進んで、名所をさらに分類して歌名所と俗名所と呼びました。あまり見かけない分類です。「俗名所」とは歌が「雅」の世界であるのに対して、「俗」の世界を打ち出したものでしょう。図中では例えば「岸の姫松」(写真・住吉大社の近く)が▲印で示された歌名所古跡で、当地を詠んだ次の歌が『古今和歌集』にあります。

我見ても 久しくなりぬ 住吉の 岸の姫松 いく夜経ぬらん

一方、●印の俗名所古跡には例えば「荒陵茶臼山」が挙げられています。どちらも由来の古い名所ですが、江戸時代には姫松が教養の対象、茶臼山が庶民的な行楽の対象と認識されていたようです。この図は江戸時代の名所受容の変遷を伝える興味深い例といえます。

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東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

 

2.【笠岡市全景立体図】

鳥観図絵師・井沢元晴の作品より〈その10〉

「笠岡市全景立体図」は昭和28年(1953)発行。古地図ギャラリー第4回(2021年3月)の「福山展望図」、第9回(2022年3月)の「躍進井原市」と同時期に作成されました。笠岡市は岡山県南西部の小都市で、江戸時代には福山藩によって開発がすすめられ、現在も広島県の中核都市である福山市と連携しつつ発展してきました。井原市も福山市との関係が深く、3つの市は境を接し、歴史も共有してきたのです。笠岡市・井原市・福山市を描いた3つの鳥観図は、戦後の復興を経て新たな一歩を刻み始めた日本の諸都市の姿を映して、絵師・井沢元晴の初期を代表する三部作になりました。後の作風とはタッチがかなり異なりますが、山河に抱かれた街の営みを描き残す意図は一貫しています。
「笠岡市全景立体図」で見る市街は、古くから海運の拠点だった笠岡港、大仙院を中心にした門前町、山裾や山間の農業地が、背景の緑の山々に抱かれて一体となった風景を見せています。戦後の笠岡市は備後工業整備地区に指定され、図の発行から10年余を経た昭和40年(1965)には、隣接する福山市にまたがって日本鋼管福山製鉄所(現・JFEスチール西日本製鉄所)が当時の最大級の規模を誇る製鉄所として開設されました。図の市街はのどかです。金浦港の岸に記された「カブトガニ」は、当地に生息する天然記念物の呼び名とのこと。

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鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

過去の古地図ギャラリー公開作品

第9回(2022年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「暁鐘成・浪花名所独案内」

②本渡章所蔵地図より「大阪市観光課・大阪市案内図

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「躍進井原市」

 

第8回(2021年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」

②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」

 

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

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