大阪・京都・神戸 街をよく知るからこそできる出版物&オリジナルメディアづくり
松井宏員『大阪キタと中之島 歴史の現場 読み歩き。』重版となりました!

編集担当/中島 淳

おかげさまで、2022年6月上旬の発売からまだ3カ月も経っていませんが、「この本ええで」といろんな方が広めていただき、めでたく重版となりました。

お買い上げいただいた読者のみなさま、この本を平台の前に出してど〜んと販売していただいた書店の方々、このブログを見て「そんなに人気なら1冊買おうか(笑)」と思っていただいたあなたに、心から感謝申し上げます。

あらためてこの本のことをご紹介すると……
著者である毎日新聞大阪本社夕刊編集長・松井宏員(ひろかず)さんが2005年の4月から、なんと17年以上にわたって「大阪版」の朝刊に連載を続けている「わが町にも歴史あり〜知られざる大阪」の原稿がベースになっています。

「現役記者による大阪の街についての連載」というと、「文化度が低い」みたいな上から目線になったり、難解な熟語をたくさん使っていたり、かと思えば逆に「大阪=ベタベタ」みたいな表現のオンパレードであったり……ということを想像されるかもしれませんが、ぜんぜん違っていました。松井さんの原稿は、綿密な取材を経た確かな内容を短くわかりやすい文章で表現していて、「手練れで読む人を飽きさせない」というプロの芸。そして何より、「普通の、弱い人間のスタンスを大事にする」というものです。

photo

本書p18〜23に掲載された「天満堀川跡をたどる」より。大川からの分岐点にあった太平橋(たいへいばし)の親柱が置かれた北村商店の前で松井宏員さん(2020年7月15日撮影・大阪市北区菅原町)

どうもコロナになってから、経団連会長アバターのような「経済を回さないと」的な言葉遣いをする人があちこちで増えました。そんな中でも松井さんの「弱い人間目線」スタンスは不変で、この道35年、百戦錬磨のスター記者になっても取材対象に対しては「いつも真面目で、労を惜しまない」人です。そのくせ酒飲みでちょっとヘタレな自分の弱さも原稿には隠さず書く。そういう松井さんの人柄にファンが増え、この本が支持されたのではないかと思っています。

著者も編集者も「意外だった」表紙のこと

松井さんの文章が醸し出す「“大文字”ではない、普通のひとびとが紡いできた大阪の歴史」をどうやって本というパッケージに表現するか……ということであれこれ考えた結果、画家・イラストレーターの須飼秀和(すがい・ひでかず)さんに表紙絵を描いてもらうことにしました。

須飼さんは八尾市観光協会の『Yaomania』(2014〜17年)、明石観光協会の『ひるあみ』(2019年〜)の表紙を描いてくれた人で、美しい色彩の中に「自然と街、人間」が見事に調和していて、かつ「なつかしい」気持ちを抱かせてくれる稀有な才能の持ち主。田舎道に置かれた自動販売機を描いても「人の匂い」を感じさせる画家です。
表紙のモチーフについては須飼さんのイメージする世界も大事にしたかったので、特に指定をせず、1冊分の原稿を読んでもらって、「描いてみたい場所を一緒に回りましょう」ということに。それが2021年の夏でした。

赤レンガの中央公会堂、重厚な中之島図書館、難波橋のライオン像、天満堀川合流点の蔵、大阪天満宮、天神橋筋商店街、天満駅界隈、扇町公園、太融寺、曽根崎警察署裏のごて地蔵、北新地の蜆橋跡、ダイビル……とたくさん回りましたが、須飼さんが長い間足を止めて、念入りに撮影していたのが「歯神社(はじんじゃ)」です。

photo

©須飼秀和

「ここが表紙に……!?」
正直、松井さんの原稿を読むまでは行ったことのなかった場所で(というより、前に何度も通ったけどそこが「歯神社」だとも知らなかった)とても意外でしたが、あまり感情を顔に出さないシャイな須飼さんが、歯神社前の雑踏風景を楽しそうにずっと見ていたのが印象的で、そう考えるとたしかに「これまでにない表紙にはなるなぁ」とは思いました。

3週間ほどして届いたのがこちらの下描き。

「歴史の本」にもかかわらず、「歴史の名所」的なたたずまいでは全くないし、登場人物も「梅田エストの入り口近くにいる人たち」ばかりですが、今から考えたら、「歴史はだれのものでもある」「それはいつもの街に横たわっている」ということを伝えるのがこの本の目指すところなので、この絵で大正解だったと思います。


大阪キタと中之島  歴史の現場 読み歩き。著者の松井さんがこの表紙を初めて見た感想を「あとがき」に書いているので、まだこの本をお手に取っていない方は、よろしかったらそこからお読みいただいてもきっと楽しいと思います。
最後になりましたが、表紙に描かれたみなさま(名前は存じ上げませんが)にも、心から重版のお礼を申し上げます。