江戸時代から薬問屋があつまる「薬の街」として発展してきた「道修町」。令和になったいまでも、製薬会社が150軒ほど軒を連ねています。 そんな中でも国内最大手を誇る武田薬品工業の発展を見守ってきた建物として、いまも道修町に残る武田道修町ビル。
街を歩いていると突如姿を表す建物は、ひっそりとしていながらも煉瓦造りの重厚感があいまってどっしりとした存在感を示しています。
ビルは現在、武田薬品工業株式会社からの寄付をもとに設立された公益財団法人武田科学振興財団等が入居しています。オフィスビルとしての用途がメインですが、1階部分には一般の方でも見学ができる「杏雨書屋(きょううしょおく)」という図書資料館の展示室があります。- 武田道修町ビル
- 所在地⚫︎大阪市中央区道修町2丁目3-6
- 建設年⚫︎1928年(1952年に4階・5階部分と新館を増築)
- 設計⚫︎片岡建築事務所(松室重光)
- 施工⚫︎大林組
「杏雨書屋」1階展示室・内部の様子
杏雨書屋は、本草図書および東洋学に関する資料を所蔵する図書資料館です。
武田薬品工業株式会社創業家である武田家代々の当主が集め始め、現在も収集を継続している資料を永久保存する施設であり、常設展示だけではなく春秋年2回の特別展示会も開催しています。開館時間:10:00〜16:00
閲覧時間:9:00〜16:00
休館日:土・日・祝・年末年始、その他当館の行事に伴う臨時休館日、資料整理休館日(毎月2回、金曜日)
https://www.takeda-sci.or.jp/kyou/-
建物内部は、オフィスに使うために綺麗に改装されているため、レトロな雰囲気を感じる部分は少ないですが、外観部分は竣工当時流行した赤煉瓦風のタイルが贅沢に使われています。
外観部分は、建設当初の建物とあわせて増設された部分があり、それに伴って玄関も移動しています。
建設当初のオリジナル部分
オリジナルの部分に継ぎ足すような形で増築された武田道修町ビル。
レンガの色味を揃えて増築しているため、よく見ると少し変わった形ですがその見た目に違和感はなく、むしろ増築をしたことによって生まれたシルエットに不思議な魅力を感じます。
建設当初の玄関部分と現在の玄関の位置は変わっている
増築をしたためなのか、間取りの都合上なのか、玄関は増築部分に移築され、過去の玄関部分は現在窓になっています。 過去の写真でオリジナル部分の玄関を拝見するまでは気づかないほど、元玄関部分は自然な形の窓になっています。
建設当初の玄関部分
当時の建築物によく見られた重厚な扉がかっこいい。庇(ひさし)部分にもいまはない装飾が見られます。
建設当初に玄関があった部分(現在)
全体の装飾は面影を残したまま、扉があった部分は窓になっています。
現在の玄関
格子の装飾が葉っぱのような波紋のようなアールデコ風になっていてかわいい。このアールデコ風の模様が窓の格子にも使われています。
散りばめられた装飾たち
どっしりとした落ち着いた雰囲気を感じる武田道修町ビル。
派手な装飾や華美な彫刻などはありませんが、端々に散りばめられた装飾には「意匠」を感じます。
左:窓枠のアールデコ風格子
右上:建設当初の玄関部分(現在の窓がある部分)上部に見られる花のようなメダリオン
右下:建設当初のオリジナル部分最上部にあるライン上の装飾。ハートを上下反転させたようなモチーフは、建設当初の玄関庇部分にもあしらわれていました。
窓たち
シンプルに見えて実は小さなこだわりが見える窓たち。
左:建設当初の部分に見られるアーチ窓は、窓自体は四角だが外観からはアーチに見えるような枠が付けられている。
右:一見シンプルな窓ですが、左右対称ではない窓枠がかわいい。-
現在もオフィスビルとしてしっかりと稼働している武田道修町ビル。
内部はオフィス用に改装されており、当時の面影を強く残しているのは外観のみですが全て壊して建て替えることもできたであろうビルを残して、いまも大事に使っているという事実が私を嬉しくさせました。
オフィス部分は見学不可ですが、迫力のある外観だけでも見る価値があります。
誰でも見学できる「杏雨書屋展示室」には当時の建物の写真もパネル展示しているため、ぜひ気軽に訪れてみてほしいです。
