オフィスビルとして現役で使われている小川香料大阪支店は、普段は一般には非公開となっています。
こちらを見学できるのは、毎年10月下旬に開催される「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(イケフェス大阪)」のみ。
建築好きには見学のチャンスが限られている小川香料ですが、社員の方たちが建物を大事に守りながら長く使われてきたことがしっかりと伝わって、愛のある建物という印象を受けました。- 小川香料大阪支店社屋(登録有形文化財)
- 所在地⚫︎大阪市中央区平野町2-5-5
- 建設年⚫︎1930年
- 設計⚫︎本間乙彦
- 施工⚫︎竹中工務店
外観の窓格子
アールを用いた窓枠や庇(ひさし)が印象的な外観は、1階は石貼り風、2階以上はタイル貼りの外壁になっていて、異素材を使いつつも色味を統一することで、まとまりのある雰囲気を醸し出しています。
2017年ごろの社屋外観
小川香料大阪支店は耐震強化などのために2019年に大規模な改修工事を行いました。その際に最上階を減築して、新築当初の姿のようになりました。
すべてを建築当初の姿に戻したわけではなく、玄関部分はこれまでのデザインを一新し、アーチを生かしたかわいらしいデザインとなっています。
入り口部分にたくさんあった開口部を1箇所にし、アーチ型の玄関1つにまとめたのは、耐震強化の役割を果たしていると聞いて、驚きました。 耐震性能を上げるために、内部に柱を増やす案もあったそうですが、業務上の動線を考えた上で玄関部分の開口部を減らして壁を増築することで賄ったそうです。
そのため建築当初から玄関上にあしらわれていたステンドグラスは、エントランスホールに移築されました。1階エントランスホール
ステンドグラスに合わせてコーディネートされたレトロで高級感のあるソファと照明で新旧が交じり合った素敵な空間。おもわず「わぁ」と感嘆の声を漏らしてしまいました。
ステンドグラスの模様
1階床のタイル
1階エントランスホールはステンドグラスだけではなく、床のタイルも当時のものなので要チェックです!
大小の四角があしらわれた幾何学模様のタイルがかわいい。1階階段ホールに残る玄関跡の面影
1階エントランスの右横には階段ホールがあります。階段の後ろには当時の玄関跡の面影がかすかに感じられる意匠が見えます。
階段も当時の面影を色濃く残している部分のひとつ。2階から見た石造りの階段
階段は石造りでどっしりとした雰囲気。一段一段の段差が少し高め。
階段の段裏にはアールがところどころ見られます。階段途中にある小さめの丸窓
丸窓はどんな用途だったのか不明だそう。取っ手が付いていましたが、現在は開閉できないとのこと。窓の小ささになんとなく潜水艦のような雰囲気を感じました。
1階の階段に見られるアール
1階階段ホールの床タイル
1階の階段ホールの床はエントランスホールとはまた違ったタイルになっています。おそらくクリンカータイルだと思われます。
仕事で使われているお部屋たちは、使いやすく綺麗に改装されているところも多かったですが、室内に残されるアールの意匠が当時の面影を残していました。3階水回り空間の壁にアールが
壁と天井部分にアールが残っていました。
この水回り空間は床のタイルもかわいい。3階水回り空間の床タイル
3階水回りのアーチを隣の部屋から
腰壁はないが、腰壁あたりの高さにある濃い茶色のモールディング装飾が白い壁のアクセントになっていてかわいい。
玄関前の明かり取りガラスブロック
-
小川香料大阪支店社屋には地下室があります。地下室はタンクや倉庫になっているため内装はシンプルです。
地下室を明るくするため、1階玄関前にひっそりと明かり取りのブロックが3列に敷き詰められています。
堺筋にある近代建築「生駒ビル」にも玄関前に明かり取りのガラスブロックがありますが、その数倍の長さです。
入り口の雰囲気に馴染みすぎていて、はじめは気がつきませんでした。
大阪のビルがひしめくオフィス街で、事業を続ける上でビルを建て直すという意見が出る機会も少なくはなかったのではないかと思います。
そんな中で、耐震のために減築してまでも残していこうという結果になったことは他人事ながら大変うれしく思います。
社員の方々が大事に守ってきたこの建築物を、わたしも記録してたくさんの人に魅力を伝え、大事にしたいと思いました。