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本の「届け方」〜ナカノシマ大学 大阪天満宮ツアーを終えて

大阪天満宮で行われた、ナカノシマ大学のツアー。

昨日はナカノシマ大学11月講座「大阪の神さん仏さんを歩く〔神さん編〕」が行われた。大阪天満宮を舞台に、天神祭や大阪天満宮研究のエキスパート中のエキスパートである高島幸次先生の講義と、「七不思議ツアー」と題した境内案内ツアーがセットになっている講座で、これはなかなか豪華なツアーである。月刊島民の読者もさすがにそこのところはよく理解しておられ、受講の申し込みが始まるやあっという間に定員に達し、急きょ定員を増やすほどの人気。3連休の最終日ということで歩留まりを心配したが(料金後払いのため、申し込んでも来ない人がけっこういる)、それも杞憂。大盛況のうちに終了した。

というような手前味噌な話はほどほどにして、ちょっと面白い現象があって、現在の出版界の状況をよく表している気がしたので、まとめてみることにする。

今回の講座では、いつもと違って料金を2パターン設定した。受講料は2,000円だが、講座名からわかるように『大阪の神さん仏さん』のスピンオフ企画でもあるので、本が売れるようにと「本付きチケット」というのを用意したのだ。本付きチケットは2,500円。本が税抜き1,500円なので、受講料が1,000円、要するに通常の半額になるような形だ。販売担当の青木や高島先生と相談していると、「きっと本を買って読んで来る人が多いだろう」という声が強く、それならばとまだ買っていない人の背中を押すために考えたのだった。

ナカノシマ大学のメインの告知媒体である月刊島民でも、これまで何度も本の紹介はしている。この本付きチケットも、少しでも多くの人に買ってもらおうという、あくまでも「新しい読者の開拓」的な意味合いの強いものだった。ところが、申し込みが始まってみると、この予想は見事に外れた。

販売用の本をどれくらい持って行けばよいか読めるように、申し込み時にチケットのみか、本付きチケットかをチェックしてもらうようにしたのだが、申し込んだ人のうち約7割が本付きチケットを希望したのである。

もちろんこれは嬉しい誤算。中にはチケットのみで申し込んでいたが、当日になって「やっぱり本がほしい」という人もけっこういた。『大阪の神さん仏さん』は、その元になった高島先生と釈徹宗先生との対談講座時からのリピーターも多かった。だから、今回の参加者もそうした「常連さん」ばかりで、本もそうたくさん売れないのではと思っていたので、これは本当に嬉しかった。この日の売り上げはなんと40冊!

熱心にガイドの話を聞く受講生たち。やっぱり「ライブ」は強い。

…と、ここで話を終えてしまうと、「ふーん。良かったね」というだけの話である。実は肝心なのはこの先で、「これからの本の売り方」について、とても学ぶことが多いと感じたのだ。

というのも、よく思い出してみると、ナカノシマ大学受講生というのはほぼイコールで「月刊島民読者」である。であれば、今回我々の予想に反して本付きチケットを買って下さったのも、月刊島民の読者であり、ナカノシマ大学のファンの人たちである。これをどう捉えるか? つまり、それだけ月刊島民やナカノシマ大学がやっていることに興味関心を示し、面白いと感じてくれている人たち、もっと言えば140Bのファンであろう人たちでも、まだ本を買っていなかった人が大勢いたということになる。これってけっこう大事なことを含んでいるのではないだろうか?

当然、値段が安いというメリットは大きいだろう。講座が聴けて、ツアーに参加できて、本も付いてきて2,500円なら、「むっちゃお得やんか」である。実際、参加して下さった某自治体職員の方と話していたところ、「やっぱり安いですよ。もちろん本はもう持ってますから買うのは2冊目です。知り合いの方にあげようと思って」とのこと。だから料金的な「値頃感」みたいなものが強く作用したことも考えられる。

ただ、やっているこちらとしては、「こういう風な機会を作っていかないと、今や本はなかなか売れない」という実感もまたそれ以上に強い。「面白い本ですよ」ということを、あの手この手で具体的にわかりやすく提示していかないと、振り向いてはくれない。書店に並べてもらっているだけでは思うように売れないことは、出版に関わる方なら誰でも痛感しているところだろう。念のために言っておくが、なにも「書店があかん」ということではない。売れないとかなんとか言っているばかりではなく、工夫の余地はいくらでもありますよ、ということ。今回のような講座だって、当然、書店さんとの連携も考えているところだ。

高島幸次先生も、ガイドに加わって下さった。

シビアな状況と言えば確かにそうだが、逆に言えば、〔きっかけ〕さえつくってあげれば、どんどん売り伸ばせるチャンスがあるとも考えられる。そしてその〔きっかけ〕となるイベントを、また次の出版へとつなげていくわけだ。

ナカノシマ大学以外でも、講演会などに出張販売へ行くと、「あ、こんな本出てたのね」と言って買って下さる人も多い。ありがたいことではあるのだが、その様子が「買おうと思ってた」というより、純粋に「知らなかったわ」という印象で、講演会に参加するようなタイプの人であっても、講演者の書いた本についてよく知っているわけではないのだなと思ったりした。

こんな風に「読者に出会う」ことの難しさと大切さを知ると、良い本を作ることと同時に、それを読者に(比喩的な意味でなく)「届ける」ところまでが出版社の仕事なのだとあらためて感じる。そして、小さな出版社というのはそういう動きがしやすいのでは、とも思うのだった。