大阪・京都・神戸 街をよく知るからこそできる出版物&オリジナルメディアづくり
12.17ナカノシマ大学に登壇する譽田亜紀子さんのこと

担当/中島 淳

「縄文・弥生・古墳〜身近な“古代”を追いかけて」というお題で、ナカノシマ大学に初登壇する譽田亜紀子(こんだ・あきこ)さん。全国の古代遺跡や博物館、資料館などを取材し、そこで得られた知見や成果をまとめた著書を何冊も出版しているが、いずれも重版に次ぐ重版で、この分野ではありえなかったヒットを生み出している。

2017年3月に発売された『知られざる縄文ライフ』(誠文堂新光社)は、ご覧のように「とっつきやすい」インターフェースでずっと版を重ねている

2017年3月に発売された『知られざる縄文ライフ』(誠文堂新光社)は、ご覧のように「とっつきやすい」インターフェースでずっと版を重ねている

その譽田さんとの最初のご縁は、かつて弊社が1年間だけ取り組んだ雑誌『大阪人』の仕事。もう11年も前、2011年の初夏の頃である。

きっかけは、京都の“酒場ライター”バッキー井上からの電話だった。
「ちょっと紹介したいライターの人がいんのやけど」
ええ話というのは「メールやSNSでなく、まず電話」ということが多い。ましてやバッキーからだし。
「そうなん? いつでもオッケーなんで、こっちの連絡先教えてあげてください」

数日後にやって来たその女性は、分厚い本を携えていた。書名は忘れたが、奈良県内の遺跡や文化財のことを集大成したような書籍で、斬新なデザインと色遣いが印象に残っていた。その本に書き手の一人として参加し、取材原稿を担当したという。バッキーからの話なので、酒場や食べ物屋などの原稿を書いている人かと思ったが、そうではなかった。でも原稿はわかりやすくて読みやすいし、何よりも、人当たりの感じの良さや明るさが印象に残っている。

いきなりのハードワークを上機嫌パワーでこなす

140Bでは当時、80年以上の歴史を持つ雑誌『大阪人』の編集を版元から委託され、定期刊を年間6点、増刊号を年間4点発行するということで、なかなか気が抜けない日々を過ごしていた。初めて弊社の手で作った7月号(大阪キタ)から、8月号増刊(天神祭)、9月号(旅する24区)が終わるとすぐに11月号(商店街)の特集と走り回る日々だったが、11月号増刊(うまいもんの店)の締切も迫っていた。

増刊の書き手は2人。Hanako WESTの元編集長・吉村司さんと弊社の江弘毅である。双方の持ちネタ(店)が対照的なほど違うので、これまでにないええ店の紹介本になると思ってはいたが、いかんせん日程がタイトで、江にはなじみの店ばかりとはいえ2週間で30軒以上行ってすぐ原稿にしてもらわないといけない。しかもお店&カメラマン&江の都合を調整して進行できる人間が必要だった。そんな時に思い出したのが「先日バッキーから紹介してもらった感じのええライターの人」だった。

「短期間に大阪で何軒も走り回ってもらう取材ですが、どないでしょう?」
譽田さんはすぐに快諾し、木津川市の自宅(当時)から何度も大阪に通い、カメラマンの川隅知明さんや江と一緒に大阪のええ店を32軒回ってもらった。お盆を挟んだ強行スケジュールで大変だったはずだが、いま思い返すと「そう言えば譽田さんがバタバタしているところを見たことなかったな」という感じで、いつも機嫌よく、かつ淡々と仕事しておられたことを覚えている。10月に出たこの増刊「ちゃんとした大阪うまいもんの店」はお蔭で完売となった。

『大阪人』2011年11月号増刊より。江だけでなく、譽田さんも誌面に何度も登場している 

『大阪人』2011年11月号増刊より。江だけでなく、譽田さんも誌面に何度も登場している 

譽田さんの「上機嫌力」に味を占めた私は、『大阪人』1月号「鉄道王国・大阪」の特集で、八尾市の久宝寺と鶴見区の放出を結ぶ「JRおおさか東線」の取材をお願いした。
この時は、『大阪の地下鉄』(産調出版)の著者であり、筋金入りの鉄ちゃんである石本隆一さんと電車に乗り、石本さん自身の記憶も含めたおおさか東線沿線の知られざるネタを聞きながら旅をするというもので、カメラマンの川隅さんと私も同乗し、終始たのしい取材の旅となった。

『大阪人』11月号増刊より。好天にも恵まれ、飛び込み取材の連続も予想以上の着地に

『大阪人』11月号増刊より。好天にも恵まれ、飛び込み取材の連続も予想以上の着地に

『大阪人』は翌年の2012年春、版元の都合で休刊となったこともあって、そのあと譽田さんの出番はしばらくなかったが、その年の夏に弊社を訪れた譽田さんは、いきなり言った。
「土偶の本を書きたいと思っているんですけど」

「好きなこと」をつらぬいてきた人の力

譽田さんの都会的なビジュアルと「土偶」のギャップが大きかったので目が点になっていたが、初対面の時に見せてもらった本も、歴史や遺跡に関係したもの。「これこそが譽田さんの好きな分野なんだ」と納得し、「書きまくるしかないで。材料がないと版元も判断せえへんし」と無責任な応援団のひとりとして言った。
譽田さんは手弁当であちこちの遺跡や博物館、資料館をめぐり、研究者から話を聞いて回って企画書を書き上げた。出版社の企画が通ってからは原稿を1か月半で書き上げ、2014年の7月に最初の著書『はじめての土偶』(世界文化社)が刊行された。

2017年6月発売の『土偶界へようこそ』(山川出版社)。東京新聞・中日新聞の連載を単行本化で、譽田さんが「土偶女子」の第一人者として注目された1冊

2017年6月発売の『土偶界へようこそ』(山川出版社)。東京新聞・中日新聞の連載を単行本化で、譽田さんが「土偶女子」の第一人者として注目された1冊

そこから先の活躍は多くの人が知るところなので割愛するが、これまで「とっつきにくそう」だった考古学、とくに縄文や土偶など、先史時代の生活や社会に対して、「私たちの身近な祖先」というスタンスを一貫して堅持し、親しみやすい普段着の言葉で読者に紹介するという仕事は、「譽田亜紀子登場以前」と「登場以後」でずいぶん変わったような気がする。弊社が2018年に刊行した『ザ・古墳群〜百舌鳥と古市 全89基』というガイドブックも、譽田さんたちがつくり出した流れが背景にあってこそ、4刷まで版を重ねることができている。

2019年に「百舌鳥・古市古墳群」が、2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されて以降、日本の先史時代にますます注目が集まっているが、世界遺産になろうがなるまいが、「好き」なものをずっと追いかけ続けてきた譽田さんのパッションと粘り強さには敬服するしかない。何よりもあの上機嫌なキャラクターに男女・年齢層問わずファンがいる。

2021年7月に出た『かわいい古代』(光村推古書院)。グラフィックデザイナーの力を引き出す譽田さんのセンスに感心する

2021年7月に出た『かわいい古代』(光村推古書院)。グラフィックデザイナーの力を引き出す譽田さんのセンスに感心する

12月17日(土)のナカノシマ大学では、譽田さんが土偶に触れて本を書きたいと思い至ったきっかけや、この10年間に主に「縄文」を追いかけて旅した全国各地の忘れられない光景、そして「関西で古代を体感できる5つの場所」についてお話をいただきます。
当日は、譽田さんの数ある著書の中から、3つの版元の本(計5冊)を会場で販売します。終了後はサイン会もあるので、お楽しみに!