担当/中島 淳
秋は電車の中でも本を読むのが楽しい季節だが、里山の古民家なんかで読んだりしたら完全に没頭してしまう。
前回のブログでは、池田市古江町の私設図書館「ふるえる書庫」をつくった釈徹宗先生(如来寺住職・相愛大学学長)と一緒に、話題の「泉大津市立図書館シープラ」にお邪魔した話を書いたが、今回はその逆で、シープラの館長、河瀬裕子さんと一緒に池田市古江町の「ふるえる書庫」にお邪魔したレポートを。
「ふるえる書庫」は2022年秋に、釈先生が住職を務める浄土真宗本願寺派如来寺そばの古民家に誕生した。
開館の経緯を、先生の息子で副住職の釈大智さんが同館のHPに書いておられる。
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うちのお寺には、住職の蔵書が大量にありました。
この前ざっと数えてみたら、その数およそ3万冊。
ちょっとした図書館ぐらいの量がある、、。
それも日々数が増えていく一方で、整理も収納も追いつかない有様。
「これはなんとかしないと、お寺が本で埋め尽くされる、、!」という焦燥感と、その一方で「大量にある本を公共財として活用したい」という思いも抱えておりました。
そんなことを考えていたときに、お寺の横に住んでおられたご門徒さんが、「もしよかったら空き家になるうちをお寺で活用してください」とおっしゃっていただいたのが、この「ふるえる書庫」プロジェクトの始まりです。
360年続く地元のお寺と、門徒さんの信頼関係の強固さを感じる。「3万冊の本」の中身はこんな感じである。
この書庫は、蔵書のほとんどが古今東西の宗教に関係する本です。
なかなか他の図書館にもないようなラインナップが揃っています。
宗教が持つ重要な機能の一つは、社会の価値規範や常識を相対化し、自分自身のあり方を改めて問い直すということ。書庫で新たな“知”と出会い、集まる“人”と交流することで、自分自身の枠組みが揺さぶられる。そんな「ふるえる体験」が生まれる場所にしたいという想いから、「ふるえる書庫」という名前をつけました。
さらに、「ふるえる書庫」は本を借りるだけでなく、自分の本棚を作ったり、訪れた人が料理をふるまったり、自分の得意を“ふるえる”場でもあります。
主客入り乱れる、これまでになかったおもろい書庫にしていきたい!
(ちなみに、古江町だから“ふるえ”る書庫というダジャレでもあります。笑)
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そんな「おもろい書庫」に行くのに、阪急池田駅から阪急バスで「中川原」まで行って(本数が結構ある)10分ほど歩いたら到着……というのもあんまりおもしろくないなぁ、と思い、同じ阪急の川西能勢口から能勢電で鼓滝まで行って、そこから峠を越えて行く方が、地元の感じも分かるのではと勝手に判断して(勝手や)、河瀬館長には悪いが「ちょっと歩きますけど……」と言って、「鼓滝駅からの峠越えコース」を歩いて行くことにする。
「私、関西に来てからはよく歩くようになったのでぜんぜんオッケーです」と河瀬さん。
彼女が熊本県内でいくつかの図書館に勤務しておられた頃は、「家を一歩出たらずっとクルマでしたから」という生活だったが、泉大津市立図書館シープラに赴任してからは電車&徒歩で「海にも、山にも、街にも」という生活にガラリと変わったそうなので、それはそれでよかった。
しかし、鼓滝駅から南へ歩くと、いきなりこんな坂が続く。
「電動アシスト自転車でもしんどそうやな……」の急坂であるが、河瀬さんはリズミカルにすいすい歩いておられる。さすが。
10分ほど登ると、峠に差し掛かり、こんな分岐に出る。
まっすぐではなく左の道に入り、やがてゆるやかに下りはじめる。
そうすると、これまでの住宅街から一転して、「いかにも山麓」の景色が広がり、商品にする樹木が栽培されている場所があちこちにある。この辺りは造園業が盛んなエリアなのだ。
そういえば、八尾市の東部、近鉄服部川駅から東に広がる高安山麓の風景もこんな感じだったなぁと思い出した。
そして峠からさらに10分ほど歩くと、池田市の「古江寺山公園」に到着。
なんだかんだ言っても、結局20分ほどしっかり歩いたら如来寺の屋根が目の前に見える公園に到着するのだ。早いっちゃあ早い。
Googleマップでは、古江寺山公園から如来寺やふるえる書庫に行くには、いったん下ってからまた坂を上る……という大回りの道しか表示されていない。あの便利な道具はアテにもなるけどそうでないこともある。
見ると、公園の右手には如来寺に下りる道(階段)がちゃんとあって(Googleマップには出てこない)、ここから冒頭の写真の場所まで30秒もかからず到着した。
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「ふるえる書庫」に入った瞬間、「あ〜、これは長いこといたい場所やな」という空気に包まれ、運営責任者の釈大智さん(釈先生の息子で如来寺の副住職)が出迎えてくれた。1階や2階を案内していただく。
書棚という書棚に本がぎっしりだが、不思議と「圧迫感」のようなものはまるでない。
天井が高く、彩光のよい古民家が図書館特有の「知の殿堂」的いかめしさを緩和させて、本好きフレンドリーな空気が満ち満ちている。
しかし……「3万冊の蔵書を如来寺から移して収納する」というのはとてつもなくハードだったと思うが、大智さんは建築家の方に頼んだのは
「3万冊が入る書棚をつくって入れてください。もうそれだけでした」
書棚をどう組んで1階と2階に配置するかはお任せだったという。
1階の背の高い書棚は「柱」の役割も果たしていて、書棚を上から下までゆっくり見ながら回遊する楽しみもある。
9割以上は釈先生の蔵書であるが「2階のマンガは半分ぐらい僕の本もあります」ということなので、冒頭の写真の部屋に行ったら「どれが釈先生ので、どれが大智さんのかな」と想像しながら探すのも楽しい。釈先生に似て滑舌がよく、上機嫌な声で話してくださった。感謝。
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ちなみに、米朝師匠などの本やCDがたくさんある1階の落語棚は、完全に釈先生ワールドだそうだ。
階段をトントンと上がった2階には、宗教や社会思想が中心のこんな部屋もあって、やわらかい明かりの下でこれまた長居したくなる。
そして、2階の奥は吹き抜抜けになっていて、そこからは1階エントランスの感じがよく分かる。上の写真で河瀬さんが見ていたのは、こんな景色。
ふるえる書庫の運営は、大智さんをはじめ、他府県も含めていろんな地域に住んでいる会員の方の自主的参加によって成り立っている。
ちなみに11月のオープン日は、残りが21日(木)と26日(火)で、毎月Instagramに公開される。
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前回お邪魔した泉大津市立図書館シープラは、泉大津という「地場」の特色がとてもよく出ているだけでなく、図書館勤務を20年以上務めた河瀬さんのさまざまな「思い」というのが具現化された、極めて人間的な空間だと思ったが、今回も同様である。
まず建物そのものが古江町の民家のリノベーションだし、その家主さんと如来寺のつながりというのは、古江町の歴史そのものだと言える。
私たちが図書館で「ほっとする」のは、本に囲まれて落ち着く、というのももちろんあるが、その図書館を成り立たせている「場所」の歴史というか目に見えない時間というか、そういったもの込みで「ほっとする」のだと改めて思った。
加えてシープラもここも、ちゃんと飲食できるスペースがあるのが有り難い。
天気が良かったら、建物の外とか古江寺山公園でお弁当を食べてもきっと楽しいと思った。
そんな「ふるえる書庫」をミニハイキングがてら訪れて、シープラの河瀬館長はどう思ったか……
前回の釈先生と同様に、11月28日(木)のナカノシマ大学でお話しいただきます。お楽しみに!
申し込みはこちらまで→ https://nakanoshima-daigaku.net/seminar/article/p20241128