‘未分類’ カテゴリーのアーカイブ

短い距離でも表情は多彩。阪堺電車を侮るなかれ

2024年10月29日 火曜日

担当/中島 淳

11月7日(木)のナカノシマ大学で、まち歩きの超スペシャリスト陸奥賢(むつ・さとし)さんが数回にわたって「阪堺沿線」の特別講座を開催する。まずは天王寺駅前から我孫子前までの「阪堺上町線」エリアを深掘り。

阪堺電車のHPより

この路線が走る大阪市阿倍野区と住吉区は、大阪市内24区の中でもとくに鉄道線が密集しているエリアだ。

以下、西から挙げると  ※(   )はそのエリアに乗り入れた年

阿倍野区……阪堺上町線(1900)、地下鉄谷町線(1980)、地下鉄御堂筋線(1951)、JR阪和線(1929)、近鉄南大阪線(1923)

住吉区……南海本線(1885)、阪堺阪堺線(1911)、南海高野線(1900)、阪堺上町線(1900)、JR阪和線(1929)、地下鉄御堂筋線(1960)

住吉区は阿倍野区の1.5倍以上広い。6本が走っているのはそのためか。

大阪市内には大正区や平野区、鶴見区のように「鉄道はJRと地下鉄1路線のみ」という行政区もあるが、両区は明治から昭和の高度成長にかけての人口増を背景に、鉄道会社の沿線開発上(宅地や行楽も含めて)、重要なエリアだと位置付けられたから、これだけの本数になったのではないかと思う。何せ贅沢なエリアだ。

第一本宮から第四本宮(すべて国宝)までがずらりと並ぶ住吉造の本殿

とくに、大きな目的地である住吉大社は、上町線と阪堺線の「住吉」「住吉鳥居前」、南海本線の「住吉大社」、そして南海高野線の「住吉東」と最寄駅が4つあって、いずれも駅から5分で境内にたどり着く。

日本広しといえど、最寄駅(停留場)が4つもある寺社は、ほかに明治神宮と浅草寺と熱田神宮ぐらいではないだろうか。利用者にとってはありがたいことこの上ない。

この阪堺上町線は明治33年(1900)に、天王寺西門前(現在は大阪シティバスの停留所)と東天下茶屋を結ぶ「大阪馬車鉄道」として開業した。あのゆっくり走る感じは馬車のスピードを引き継いでいるのかもしれない。

10年後の明治43年(1910)には路面電車となって、住吉神社前(現在の住吉鳥居前)まで「横づけ」の感じで走るようになった。

 

「のんびり路面電車」と「ガチ鉄道」二つの顔

最初はビルの谷間を走る(天王寺駅前〜阿倍野間)

現在の始発停留場の天王寺駅前を出てしばらくは、あべのハルカスなど超高層ビルの谷間でクルマに挟まれながらあまり存在感を示さずに(!?)運行する。

東天下茶屋停留場。停留場というより「駅」です

松虫から北畠の手前あたりまでは、枕木とゴロゴロした石(バラスト)のある「鉄道」となり、我が意を得たりという顔(どんな顔や)で走る。

「路面電車」と「鉄道」の景色が交互に展開するのが上町線のおもしろいところだ。

インバウンド観光客もここで写真を撮ってます(姫松)

 

そして北畠から帝塚山四丁目までは、路面電車が街に馴染んだ顔で走れる「ほどよい狭さののんびりした車道」の景色が続く。

左の写真、姫松停留場には路上の安全地帯(手前)とは別に、可愛らしい待合所(奥)が用意されていて、ええ意味で脱力感満載である。

姫松と帝塚山三丁目の間。平日も休日でもあまり交通量は変わりません

「車道」と「歩道」の細かい区分もなく、そばを走るクルマの量も少なく、ゆったりした時間が流れる。クルマどころか人が歩くスピードも、この帝塚山かいわいでは梅田や難波に比べて確実に遅い。それが実に帝塚山らしいのである。

 

しかし電車が帝塚山三丁目からもう南に少し走ると、「安全地帯の停留場」が一変し、また鉄道駅っぽいホームが顔を出す。こちらは帝塚山四丁目の停留場。

Amazonの受取ボックスがあるのが時代ですな(帝塚山四丁目)

 

阪堺電車のひと駅はとても短いけれど、景色の「変わり目」が何度かあるからぜんぜん退屈しない。それを演出するのが、合間に入る「鉄道」らしい景色。電車に乗っている側もそうだし、写真に撮る側もそうだ。

帝塚山四丁目からひと駅南に下った神ノ木停留場の近くから見ると、こんな感じ。

南海高野線との立体交差のために生まれた斜面(神ノ木−住吉間)

 

さっそうと右カーブを下ってくる1両編成電車のけなげな姿に、思わず感情移入してしまう。

そしてこの神ノ木停留場のすぐ近くには、NHK連続テレビ小説「マッサン」で登場した「住吉酒造」のモデルとなった摂津酒造の創業の地がある。

詳しくは11月7日(木)のナカノシマ大学で陸奥さんにたっぷり語っていただきましょう。

そしてこの神ノ木は、山崎豊子の作品にも「ヒロインが住んでいる場所」として登場するが、それはまた今度に。

ナカノシマ大学の申し込みはこちらです!

https://nakanoshima-daigaku.net/seminar/article/p20241107

 

秋のブックフェア出展のお知らせ・その5

2024年10月28日 月曜日

秋のブックフェア出展のお知らせ

<第5弾>
ブックマーケット +しおりのマーケット

11/9(土)10:00~16:00
11/10(日)10:00~16:00

奈良県立図書情報館奈良市)

10月から続く秋のブックイベント出展強化月間のファイナルです。
たくさんの古書店や新刊版元が出展する「ブックマーケット」と、おいしいものや雑貨などが並ぶ「しおりのマーケット」があいまって「市」が立ちます。
奈良近隣の関西のみなさまのお越しお待ちしています。

個人的にも思い入れのある会場でのイベント、楽しみたいと思います(青木)

 

 

 

秋のブックフェア出展のお知らせ・その4

2024年10月21日 月曜日

秋のブックフェア出展のお知らせ

<第4弾>
神保町ブックフェスティバル

10/26(土)10:00~18:00
10/27(日)10:00~18:00
(雨天中止)

こちらも毎年恒例の出展になります。
今年もほぼ140Bの書籍全点お持ちします。

140Bのワゴンは、すずらん通り<B-北-9>ブースにあります。
(昨年と同じあたりです)

2日目10/27(日)は衆議院議員選挙投票日です、ぜひ投票とあわせてお出かけ下さい。140Bブースでは投票割(期日前投票含む投票済み・予定の方)を実施予定です。

究極の両日ワンオペ耐久8時間です。毎年みなさまの差し入れや応援が頼りです、ぜひ遊びに来てください。よろしくお願いします。
(切実・青木)

 

 

 

拝啓・古地図サロンから45

2024年10月15日 火曜日

2024年9月27日・本渡章より

【今回の見出し】

  • 大阪ガスビル古地図サロン最終回と新サロンのお知らせ
  • 2024年9月の古地図サロンレポートと次回(9月)の予定
  • お知らせ・電子書籍のご案内・プロフィール

大阪ガスビル古地図サロン最終回と新サロンのお知らせ

2018年1月26日の第1回開催以来、45回を数えた大阪ガスビルでの古地図サロンは11月22日(金)で終了します。時間帯は午後3~5時です。
会場の1階カフェ「feufeu」はその後も大阪ガスビル改修工事が始まるまで営業していますので、皆さま引き続きご利用ください。
6年間にわたってサロンの場を提供していただき、ほんとうにありがとうございました。

 

新サロンは次の2か所です

豆玩舎ZUNZO(宮本順三記念館)

古地図サロン「東風(こち)」の名で、すでに始まっています。第7回は11月8日(金)午後2~4時。会場はグリコのおまけデザイナー、宮本順三さんの作品と世界の玩具のミュージアム。
会場である「東風」は東大阪市にちなみ、地図を通して大阪府域の歴史や暮らしを語る場に育ちつつあります。
近鉄八戸ノ里駅前。参加費700円(お茶付き)

まちライブラリー北勝堂

第1回サロンを2025年3月29日(土)午前10~12時に開催します。会場は江戸時代創業の老舗を改装した私設図書館。地域のコミュニティ的な場としても親しまれています。古地図サロンの詳細は未定ですが、所在地の西天満は地域活動を応援するかたちでスタートしたいと思います。
第1回は春休み期間中につき、主に親子対象になる予定。会場の最寄りはOsakaMetro南森町・北浜・淀屋橋の各駅。

 

■第45回古地図サロン

開催日:9月27日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

ようやく秋らしい風が吹いてきました。まもなく紅葉の季節です。というわけで、今回は大阪の紅葉名所、箕面の瀧安寺絵図など、ご覧いただきました。
次回11月22日は、いよいよ大阪ガスビルでの最後のサロンになります。どなた様もお気軽にご参加下さい。

◉今回のサロンで展示した地図

◆原図
摂州箕面山瀧安寺全図 昭和4年(1929)
大阪旧城之図 大正11年(1922) 福島豊次郎
大阪旧城之図 昭和6年(1931) 浪華錦城堂
日本全国鉄道地図・丹那隧道開通記念 昭和10年(1935) 東京日日新聞
鉄道案内図・附温泉名所詳図 昭和27年(1952) 立誠社
改正鉄道地図・附近畿著名酒造家案内 戦前 内外通商社
新京阪電車沿線案内 昭和3年(1928) 新京阪鉄道
大阪電車案内地図 昭和初期 和楽路屋
1万分の1地形図・天王寺 国土地理院 昭和51年(1976)
1万分の1地形図・十三  国土地理院 昭和51年(1976)
1万分の1地形図・生駒山 国土地理院 昭和51年(1976)
1万分の1地形図・尼崎  国土地理院 昭和51年(1976)
1万分の1地形図・西宮  国土地理院 昭和51年(1976)

 

★次回のサロンは最終回、2024年11月22日(金)午後3~5時開催

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。
サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーしてください)。予約不要、途中参加・退出OK。

諸事情により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

 

【お知らせ】

●大阪あそぼ2024年秋の街遊び企画「出張古地図サロンin河澄家」

11月3日(日)午後2~4時
午後1時30分 近鉄石切駅北改札口集合(参加費1,500円)

河澄家は江戸時代に代々庄屋をつとめた旧家。その建物と庭は東大阪市の文化財、カヤの古木は天然記念物に指定されています。この河澄家で、同家が所蔵する古地図・史料を公開しつつ、解説もいたします。古地図サロンの出張版スタイルの講座。主催は「大阪あそぼ」。

 

朝日カルチャーセンター中之島

10月21日(月)午前10~12時 淀川北岸の自然と十三・淡路のまち文化(教室講座)
11月18日(月)午前10~12時 十三エリア現地講座
12月2日(月)午前10~12時 淡路エリア現地講座

 

 

X(ツィッター)

X(ツィッター)始めました。本渡章 @hondo_akira1113
古地図以外の話題もいろいろ。その他まだ公開できませんが、進行中の案件あり。いずれご報告いたします。

●「大阪の地名に聞いてみた」ブログ連載全12回24編

一年間の連載(題字と似顔絵・奈路道程)に追加取材を加え、ブログの内容を大幅に刷新して書籍化が進行中です。刊行までブログ「大阪の地名に聞いてみた」をお楽しみください。

第12回 ここは水惑星サンズイ圏【前編・後編】
第11回 島の国の島々の街【前編・後編】
第10回 仏地名は難波(なにわ)から大坂、大阪へ【前編・後編】
第9回  人の世と神代(かみよ)をつなぐ神地名【前編・後編】
第8回 語る地名・働く地名【前編・後編】(仕事地名・北摂編)
第7回 古くて新しい仕事と地名の話【前編・後編】(仕事地名・河内編)
第6回 街・人・物・神シームレス【前編・後編】(仕事地名・泉州編)
第5回 場所が仕事をつくった【前編・後編】(仕事地名・大阪市中編)
第4回 花も緑もある大阪【前編・後編】
第3回 桜と梅の大阪スクランブル交差点【前編・後編】
第2回 続・干支地名エトセトラ&その他の動物地名【前編・後編】
第1回 大阪の干支地名エトセトラ【前編・後編】

 

 

●大阪古地図さんぽ

大阪24区を順番に歩いてめぐる「古地図さんぽ」講座を年数回開催しています。5月のテーマは淀川区。詳細は大阪コミュニティ通信社まで。

 

動画シリーズ継続中!
本渡章の「古地図でたどる大阪の歴史」~「区」150年の歩み

大阪市のたどった道のりを、それぞれの土地の成り立ちと経済、文化など多様な要素を持つ24の「区」から見つめなおすシリーズ。続編はしばらくお待ちを。詳細は大阪コミュニティ通信社まで。

第2回番外編 府と区と市の関係について再考

第2回その2 西へ西へと流れた街のエネルギーと水都の原風景…西区

第2回その1 「江戸時代の大坂」と「明治以後の大阪」の架け橋となった巨大区…西区

第1回その3 平成の減区・合区が時代のターニングポイント

第1回その2 大正~昭和は人口爆発、増区・分区の4段跳び時代

第1回その1 大坂三郷プラスワン、4つの区の誕生

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【古地図ギャラリー休眠のお知らせ】

 

2020年9月から202311月まで、東畑建築事務所・清林文庫の所蔵地図、鳥瞰図絵師の故・井沢元晴氏の作品を中心に紹介してきた古地図ギャラリーは休眠期間に入りました。過去20回の公開作品には現役の鳥瞰図絵師、青山大介氏の作品や本渡章所蔵の古地図も含まれています。ラインアップは下記の通りです。
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過去20回の古地図ギャラリーで公開した全40作品

20(2023年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪新町夕陽廊の賑」安政5年(1859)

第19回(2023年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より黄華山・画「花洛一覧図」文化5年頃(1808)

 

第18回(2023年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より池田奉膳蔵「内裏図」

 

第17回(2023年5月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「地球萬國山海輿地全図」

②青山大介作品展2023

 

第16回(2023年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「天王寺・石山古城図」

 

第15回(2023年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より長谷川圖書「摂津大坂図鑑綱目大成」

 

第14回(2022年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より久野恒倫「嘉永改正堺大絵図」

②鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「私たちの和田山町」

 

第13回(2022年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「淀川勝竜寺城跡全図」

 

第12回(2022年7月)

①東畑建築事務所「清林文庫」より秋山永年「富士見十三州輿地全図」

 

第11回(2022年5月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大日本分境図成」

 

第10回(2022年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「新改正摂津国名所旧跡細見大絵図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「笠岡市全景立体図」

 

第9回(2022年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「暁鐘成・浪花名所独案内」

②本渡章所蔵地図より「大阪市観光課・大阪市案内図

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「躍進井原市」

 

第8回(2021年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」

②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」

 

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

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東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

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鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介された。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られた。学校のエリアは主に西日本。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられた。

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鳥観図絵師・青山大介(1976~)神戸生まれ。高校時代に都市鳥瞰図絵師の第一人者、故・石原正氏の鳥観図に出会い、感銘を受け、独学で鳥瞰図絵師を志す。2011年、制作に3年半をかけた「みなと神戸バーズアイマップ2008」を完成。2013年発行の「港町神戸鳥瞰図2008」は神戸市の津波避難情報板に採用された。以後、多数の作品を発表し、都市鳥瞰図の魅力を発信。2022年の「古の港都 兵庫津鳥瞰図1868」は同年開館の兵庫津ミュージアムのエントランス展示作品となる。2023年、神戸市文化奨励賞受賞。

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●電子書籍のお知らせ

本渡章の著書(古地図・地誌テーマ)のうち、電子書籍になった10冊(2022年末現在)は次の通りです。
(記載の刊行年は紙の書籍のデータです)

『鳥瞰図!』140B・刊(2018年)

思考・感情・直観・感覚…全感性を目覚めさせる鳥瞰図の世界にご案内。大正の広重と呼ばれた吉田初三郎の作品群を中心に、大空から見下ろすパノラマ風景の醍醐味を味わえます。併せて江戸時代以来の日本の鳥観図のルーツも紐解く、オールカラー・図版多数掲載の決定版。

『古地図で歩く大阪 ザ・べスト10』140B・刊(2017年)

梅田・中之島・御堂筋・ミナミ・天満・京橋・天王寺。阿倍野・住吉・十三・大正・平野の10エリアを古地図で街歩きガイド。さらに博物館、図書館、大書店、古書店での古地図探しの楽しみ方、大阪街歩き古地図ベストセレクション等々、盛りだくさんすぎる一冊。オールカラー・図版多数掲載。

*上記2冊は各電子書籍ストアでお求めください

*下記8冊は創元社(オンライン)の電子書籍コーナーでお求めいただけます

『図典「摂津名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

大阪の地誌を代表する「摂津名所図会」の全図版を掲載。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添えた。調べものに便利な3種類の索引、主要名所の現在地一覧付。江戸時代の大阪を知るためのビジュアルガイド。

『図典「大和名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

姉妹本『図典「摂津名所図会」を読む』の大和(奈良)版です。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添え、3種類の索引、主要名所の現在地一覧も付けるなど「摂津編」と同じ編集で構成。江戸時代の奈良を知るためのビジュアルガイド。

『古地図が語る大災害』創元社・刊(2014年)

記憶の継承は防災の第一歩。京阪神を襲った数々の歴史的大災害を古地図から再現し、その脅威と向き合うサバイバル読本としてご活用ください。歴史に残る数々の南海トラフ大地震の他、直下型大地震、大火災、大水害の記録も併せて収録。

『カラー版大阪古地図むかし案内』(付録・元禄9年大坂大絵図)創元社・刊(2018年)

著者の古地図本の原点といえる旧版『大阪古地図むかし案内』に大幅加筆し、図版をオールカラーとした改訂版。江戸時代の大坂をエリアごとに紹介し、主要な江戸時代地図についての解説も収めた。

『大阪暮らしむかし案内』創元社・刊(2012年)

井原西鶴の浮世草子に添えられた挿絵を題材に、江戸時代の大坂の暮らしぶりを紹介。絵解きしながら、当時の庶民の日常と心情に触れられる一冊。

『大阪名所むかし案内』創元社・刊(2006年)

江戸時代の観光ガイドとして人気を博した名所図会。そこに描かれた名所絵を読み解くシリーズの最初の著書として書かれた一冊。『図典「摂津名所図会」を読む』のダイジェスト版としてお読みいただけます。全36景の図版掲載。

『奈良名所むかし案内』創元社・刊(2007年)

名所絵を読み解くシリーズの第2弾。テーマは「大和名所図会」。全30景の図版掲載。

『京都名所むかし案内』創元社・刊(2008年)

名所絵を読み解くシリーズの第3弾。テーマは「都名所図会」。全36景の図版掲載。

※その他の電子化されていないリアル書籍(古地図・地誌テーマ)一覧

『古地図でたどる 大阪24区の履歴書』140B・刊(2021年)

『大阪古地図パラダイス』(付録・吉田初三郎「大阪府鳥瞰図」)140B・刊(2013年)

『続・大阪古地図むかし案内』(付録・グレート大阪市全図2点)創元社・刊(2011年)

『続々・大阪古地図むかし案内』(付録・戦災地図・大阪商工地図)創元社・刊(2013年)

『アベノから大阪が見える』燃焼社・刊(2014)

『大阪人のプライド』東方出版・刊(2005)

 

●本渡章(ほんど・あきら)プロフィール

1952年大阪市生まれ。作家。(財)大阪都市協会発行時の「大阪人」編集などを経て文筆業に。1996年第3回パスカル短篇文学新人賞優秀賞受賞。短編が新聞連載され『飛翔への夢』(集英社)などに収録。編著に『超短編アンソロジー』(ちくま文庫)がある。その後、古地図・地誌をテーマに執筆。
著書『鳥瞰図!』『古地図でたどる大阪24区の履歴書』『古地図で歩く大阪 ザ・ベスト10』『大阪古地図パラダイス』(140B)『古地図が語る大災害』『カラー版大阪古地図むかし案内』『図典「摂津名所図会」を読む』『大阪暮らしむかし案内』(創元社)など多数。共著に『大阪の教科書』(創元社)がある。

「モノクロの線画」の豊かさをコジマユイさんのイラストで

2024年10月10日 木曜日

担当/中島 淳

いまや日本最大の建築物公開イベントとなった「生きた建築ミュージアム大阪2024(イケフェス大阪2024)=10月26日(土)・27日(日)」に先駆けて、17日(木)のナカノシマ大学で建築イラストレーター、コジマユイさんにご登壇いただくことになった。

建物自体が雑貨のような伏見ビル(中央区伏見町・1923年)

 

コジマさんの建築イラストはほとんどがモノクロの線画なのだが、温かみと面白さがあって「見る人と、建築物との距離を一気に縮める」力がある。この絵そのものが彼女の人柄というかキャラクターのなせる業かと。写真は「きれい」だし「シュッとしてる」と感じるけど、なかなかそこまでの親しみは湧かない。

作者に出会ったのは、2019年9月14日。奈良女子大学で開催された、クリエイターや大学・企業・行政関係者の集まる会合で、「近代建築とイラストの関係について」というお題でプレゼンをしていたのだ。

「何となくええ感じの絵やなぁ」と思って自己紹介し、「いっぺん作品展を観に行こう」となって、京都白川通の画材屋さんのギャラリーでその年の暮れか年明けに再会した記憶がある。コロナが大流行する直前だった。

その後、コジマさんは東京に拠点を移してもずっと創作活動を続けていた。いまや大阪・東京の建築物の作品集を自前で編集・発行し、ギャラリーや雑貨店、カフェで販売してもらっている。その行動力にはほんまに頭が下がる。

伏見ビルの東隣に立つ青山ビルの階段(同・1921年)

今回のナカノシマ大学では、大阪の名建築を描いた作品を一挙に投影するだけでなく、それぞれの建築物に対する「見どころと愛を感じるポイント」をじっくり解説してもらいます。

ナカノシマ大学がはじまったのは2009年の10月。15年の歴史の中で、初の「平成生まれの講師」が今回のコジマユイさんである。

この先は平成生まれどころか、「21世紀生まれ」の講師もどんどん登壇してくると思うので、楽しみである(別に昭和生まれを排除するわけではありません、念のため)。

あの、人なつっこい語り口で話してもらうと、近代建築なんて「こむずかしい」「かたくるしい」と今まで敬遠していた人も、その距離が一気に縮まるのでは、と思う。

会場は、チラシに描かれた明治37年(1904)竣工の重要文化財、大阪府立中之島図書館3階です。

現在、7割以上埋まっていますので、お早めにどうぞ。受講料は当日精算です。
https://nakanoshima-daigaku.net/

これに先駆けて、10月15日(火)からイケフェス大阪2024最終日の27日(日)までの間(10/21休)、これまた近代建築の名作中の名作、芝川ビル(1927年)B1のMole Galleryにて、彼女の個展「絵で楽しむ大阪市外の近代建築」が開催されるのでこちらもぜひ♬

http://mole-and-hosoicoffees.com/%e7%b5%b5%e3%81%a7%e6%a5%bd%e3%81%97%e3%82%80%e5%a4%a7%e9%98%aa%e5%b8%82%e5%a4%96%e3%81%ae%e8%bf%91%e4%bb%a3%e5%bb%ba%e7%af%89/

現役を退いたが、近くで優美な姿を見せている南海本線浜寺公園駅舎(1907年)

 

10月の「天神寄席」に天才物理学者、降臨!

2024年10月10日 木曜日

担当/中島 淳

「天神さんの日」毎月25日に天満天神繁昌亭で開催される「天神寄席」は、髙島幸次先生(歴史学者/大阪天満宮文化研究所所長)がプロデューサー、ブッキングマネージャー、鼎談ホストを務める、国内でも異色中の異色な寄席として注目を集め、10年以上続いている人気番組ですが、10月寄席に際して、鼎談ゲストの橋本幸士さん(京都大学教授)のことを紹介してくれました。

以下、実に髙島先生らしい「くすぐり」と「いけず」がてんこ盛りで、ちょっと期待できます。

10月25日のゲストは、大阪生まれの天才物理学者・橋本幸士先生です。ちょっとオカシナ先生です。大阪生まれだから? 天才だから? きっとその両方だと思います。どんなにおかしいかと言いますとね。

皆さんは、炊飯器の蓋を開け、炊きあがったばかりのご飯を見たとき、どんなことを思います? 「美味しそうやな」とか、「うまい具合に炊けてるやないか」とかでしょう。ところが、橋本先生はちょっと違う。X(旧Twitter)で、こんな風につぶやいているのです。

「朝、炊き上がった玄米ご飯を覗き込んだら、多数の穴の配列が発見された。ベナール対流が最後に固化したものと思われる。六角格子を組むのか興味が湧いたので、やってみたが、どうも違うらしい。もっと巨大で薄い釜で玄米ご飯たかんと」

やっぱり変でしょう! 橋本先生は、日常生活のすべてについて、物理学的思考法で解決しなければ気が済まないようです。

現在は京都大学教授ですが、以前は大阪大学にお勤めでした。そのころ、私は、落語のイベントでご一緒したことがあります。落語「あたま山」(上方落語の「さくらんぼ」)について、凡人の私が日本史の立場から、橋本先生が物理学の立場から分析する企画だったのですが(「あたま山」をご存じない方は解りにくいかもしれませんが)、橋本先生は、主人公の頭にできた池に、その主人公が飛び込むことができることを、真剣に論証されたのです。

さて、今回の天神寄席でも、私たちが考えれば、あり得ない奇想天外、奇妙奇天烈な噺をお楽しみいただきますが、さて、橋本先生は何を言い出されるのか、ホスト役の私は不安でしかありません。高島幸次

当日は、「髙島先生が不安になる顔を見る」という楽しみもあります♬

ちなみに、3年前に刊行された集英社の『物理学者のすごい思考法』の著者インタビュー(https://shueishaintbooks.com/n/n1fdf77e90e2c)がまたおもしろい。

橋本先生は1973年生まれで御年51歳。あのイチローと同い年っちゅうのも、なんとなく分かります。

天神寄席は、ナカノシマ大学のサイトから申し込んでいただくとちょっと安くなりますので、こちらからぜひ! →https://nakanoshima-daigaku.net/seminar/article/p20241025

 

 

秋のブックフェア出展のお知らせ・その2

2024年10月7日 月曜日

秋のブックフェア出展のお知らせ

<第二弾>
下鴨中通ブックフェア2024

10/12(土)10:00~16:00
10/13(日)10:00~16:00
(雨天中止)

京都府立京都学・歴彩館
(京都市左京区)

3年連続の出展になります。毎年、洛北の雰囲気の伝わるとても気持ちのよいイベントで楽しみにしています。
今年もたくさんのお客さまに遊びに来ていただけること期待してお待ちしています。
(青木)

秋のブックフェア出展お知らせ・その1

2024年9月29日 日曜日

10月より秋のブックフェア出展強化月間が始まります。

<第一弾>
きのもと秋のほんまつり

10/6(日)10:00~16:00
木之本スティックホール(滋賀県長浜市)

昨年に続いての出展、今年は「地方でつくる本の魅力」というテーマも強く打ち出されトークライブなどもあります。
参加出版社も増えて各社紹介の特製冊子も会場で配布予定です、地方で出版活動する意味や醍醐味を一緒に考えられたらさらに楽しくなりそう。

世話役は木之本の能美舎さん、いつもありがとうございます。

 

 

「天神寄席で逢いましょう」早10年。9月は玉岡かおる先生

2024年9月17日 火曜日

担当/中島 淳

天満天神繁昌亭の天神寄席(7月を除く毎月25日開催)に弊社が関わるようになったのは最近だと思っていたら、もう10年も前のことだった。

まだ寒い頃だったように記憶するが、天神寄席のプロデューサーでありブッキングマネージャーであり鼎談のホストである髙島幸次先生と、当時、上方落語協会副会長を務めていた桂春之輔師匠(現・四代目桂春團治)がわざわざ弊社を訪ねてきて、天神寄席への全面協力と、その頃毎月発行していたフリーマガジン『月刊島民』に寄席の告知記事を掲載するなどを打ち合わせした。

『月刊島民』69号(2014年4月号)で天神寄席の告知がはじまった

その後、残念ながら『月刊島民』は季刊『島民』に変わり、2021年3月にはメインスポンサーの京阪電車がコロナ禍で大幅に業績が悪化したため発行を続けられず、13年の歴史にいったんピリオドを打ってしまったが、幸いなことに『島民』なき後も「天神寄席」はずっと続いている。ありがたい話である。

筆者は「天神寄席」の25日には繁昌亭の専用受付で接客させていただくことが多いが、扉を開けた入り口のところで暑い寒い過ごしやすいなどを感じながら、ちょっと華やいだ夕暮れの天満に身を置いていると、「やっぱり大阪はええな」と感じることが多い。

9月25日は彼岸も過ぎてもう少し涼しくはなっていると思うので、ぜひお越しいただきたいものである。ということで髙島先生にバトンタッチ。

脳内で、髙島先生の声と節回しが再現されるはずですので、あのリズムでお読みください。

今回のゲストは玉岡かおるさんです。作家さんがゲストのときは、たいがい近刊の小説をテーマにお招きするのですが、今回は事情があって、2021年刊行の『帆神 北前船を馳せた男・工楽松右衛門』(新潮社)がテーマです。

昨年秋には新潮文庫版も登場(定価1,045円)

なぜ3年前の小説が? と思われるかも知れませんが、実は今年の4月に、この作品に登場する高砂市の十輪寺境内に「玉岡かおる文学の碑」が建てられたのです。そこで、新田次郎文学賞、舟橋聖一文学賞の受賞に加えて、文学碑まで建立された同作について、改めてお話を伺いたくお招きした次第です。

さらに、11月16日(土)には玉岡さんもご出演される「文士劇」の公演があります。演劇は素人である文士(作家)が芝居をする文士劇は、130年の歴史を持ちますが、大阪では66年ぶりの公演となります。今回は、なにげに文士劇2024旗揚げ公演『放課後』と銘打って、サンケイホールブリーゼでの公演です。作家・玉岡かおるさんの芝居への意気込みもお聞きしたいですね。

……ということで、ここからは当日のゲスト、玉岡かおる先生のメッセージを。

こちらは、華やいだ衣装で笑みを浮かべつつ、壇上から客席の隅々までを視界に収めながら高らかに講義するあの口調を想像しながら、どうぞ(2022年11月のナカノシマ大学を思い出してしまいました)。

江戸時代、天下の台所・大坂をささえた海運の拠点、難波(なにわ)津。
北前船はここから出航し、また入港を受け入れ、日本の物流をささえたわけですが、その北前船の動力である風力を効果的に使う「帆」を発明したのが工楽松右衛門です。
江戸城中期以降の絵で帆船として描かれている船の白い帆は、すべて松右衛門の帆なんです。

でもねー、庶民にとっては海は遠く、船にまつわる落語なんてあるのかしら?
……と思っていたら、なんと今回の天神寄席では、船にまつわる落語を一挙に集めてくださいました!

題して「秋の夜長の船尽くし」

そんな落語があるなんて、と、落語好きの方々にもきっと新鮮な噺。
一挙にネタ揃えとは、こんな機会はもうないかも。
ぜひぜひお運びくださいませ。

……今週は週末から雨マークが4日間ほど灯っていますが、9月25日(火)はきっと晴れです(ホンマか)。

ナカノシマ大学から申し込むと、前売りで200円安く、当日では700円安く入れます。10年間ずっとです。どうぞよろしく♬


●天神寄席九月席のお申込はこちら→ナカノシマ大学web

亡くなる直前まで、山崎豊子に「並走」した編集者のこと

2024年8月26日 月曜日

担当/中島 淳

山崎豊子(1924〜2013)をテーマにナカノシマ大学を開催するのは、今回で3回目になる

『月刊島民』2016年8月号

『月刊島民』2018年8月号

1回目(2016年9月)の講師は、代表作の一つ『大地の子』の編集者で、文藝春秋の元代表取締役社長の平尾隆弘さん。2回目(2018年9月)は『女系家族』以来半世紀にわたって秘書として作家を支えてきた、『山崎豊子先生の素顔』(文春文庫)の著者・野上孝子さん(故人)だった。

いずれも作家の出身校である相愛大学(旧制相愛女学校)本町キャンパスの音楽ホールで、満員の受講者を前に平尾さん、野上さんが、山崎豊子との濃密な時間を思い出しながら語っておられたのが記憶に残っている。

平尾さんは山崎豊子が作品ごとに新境地を開拓し、「ブレイクスルー」を果たしていったことをこう評していた。

「流行作家も“境界領域”に入るときが来ます。売れている時の“残像”は麻薬のようなもので、その作風を変えないまま消えていく人もいますが、山崎先生は自分でその“領域”に気がついて自分で脱皮していった 。その根っこにあるのはやはり船場。ビジネスではなく自らの“暖簾”を守るために走り続けた」

 

野上さんは、山崎豊子作品の魔力のような面白さこそ、その類まれなエネルギーにあると語っていた。

「お生まれこそ船場の『いとはん(お嬢さん)』だけど、性格、行動力、発想は全然いとはんではなく、人喰い(笑)。『これ!』という人に狙いをつけたら離さない。相手の都合もお構いなし」

ナカノシマ大学9月講座は、作家が亡くなる直前まで作品づくりのために奔走した、編集者の矢代新一郎さん(新潮社)が登壇する。筆者が平尾さんや野上さんと出会い、これまでにナカノシマ大学を2度も開催できたのは、ひとえにこの人の橋渡しがあったからこそであった。

今回ならではの特色は、同じ大阪府立中之島図書館(3階展示室・ナカノシマ大学会場の隣)で開催される「山崎豊子パネル展(9/4〜28)」の最終日に実施することだ。ぜひセットで楽しんでください。

矢代さんは開催日までまだひと月以上あるのに、すでに投影資料を気合十分でぐいぐい書き進めている。大作家の手足となって動いた編集者のエネルギーおそるべしである。

大阪にちなんだ作品(暖簾、花のれん、ぼんち、しぶちん、女の勲章、女系家族、白い巨塔など)の生原稿や秘蔵写真を展示

矢代さんは、最後の小説となった未完の『約束の海』のほか、「山崎豊子 自作を語る」シリーズ3部作『作家の使命 私の戦後』『大阪づくし 私の産声』『小説ほど面白いものはない』に加え、作家の没後に刊行された『山崎豊子スペシャル・ガイドブック(新潮文庫版では『山崎豊子読本』)』を責任者として編集してきた人。

それだけに、受講者に披露せずにはいられない「とっておきのネタ」がてんこ盛りにある。

すでに矢代さんからは「時間がちょっと押しても大丈夫ですか?」となかなか悩ましいリクエストを送ってこられていて、主催者としては「ぜんぜん大丈夫ですよ〜」と言いたいところをぐっと堪えて、「そこを何とか12時45分までに終わってください(汗)」とお願いしている。

それほど内容がたっぷりなので、どうぞご期待ください。

『月刊島民』90号(2016年1月号)。奈路道程のイラストと、メガネと口紅だけ色を加えた山﨑慎太郎のデザインがお見事

矢代さんとは、140Bがかつて『月刊島民』(2008〜21)で特集「山崎豊子をあるく」を編集していた際に、「この『山崎豊子スペシャル・ガイドブック』を編集した人から話を聞かねば」と東京の新潮社にお邪魔して、お話を伺った。

その島民90号は、有り難いことに島民100号記念読者アンケートの結果が「第1位」に輝いた号だったので、読者のみなさんにとっても読み応えがあったのだと思う。実際に作っていて本当に楽しかった記憶がある。

特集のラスト(p8-9)には、矢代さんや秘書の野上さんを取材した拙文を掲載している。よろしかったらぜひご一読ください。

矢代さんが山崎豊子を担当したのは2009年から13年まで。

山崎豊子は「戦争三部作」といわれる『不毛地帯』(全5巻・新潮文庫)、『二つの祖国』(全3巻・新潮文庫)、『大地の子』(全4巻・文春文庫)を完結させて、そこで作家人生を終えるつもりだった。が、新潮社の「天皇」と呼ばれたカリスマ編集者・斎藤十一はそれを許さなかった。

「芸術家に引退はない。どうしても引退したいのなら先の短い私のために香典原稿をいただきたい」と言われて『沈まぬ太陽』(全5巻・新潮文庫)を書き上げた。2009年というのはその後に『運命の人』(全4巻・文春文庫)を完成させた頃だろう。

この時、山崎豊子は御年85歳。「大作家の担当」というのは文芸編集者冥利に尽きるとはいえ、40歳も年長で強烈な個性のかたまりのような山崎豊子が相手というのは、本当に大変だったろうと想像する。以下、『月刊島民』90号から。

「最初は冗談の好きな人だということが分からなかったんです。先生のお宅で打ち合わせしているときに大きな声で『アンタと付き合ってると殺されちまうわ!』と言われてビビりましたよ(笑)。秘書の野上さんからは『冗談だから笑っていたらいい』とフォローしてもらいましたが」

 

『約束の海』と、髙島屋(東京・横浜・京都・大阪)で開催された「追悼 山崎豊子展」のポスターと矢代新一郎さん(2015年11月26日)

と話している(そりゃビビるわな〜)。

誌面ではこの後に「打ち合わせが終わった後の、山崎先生のありえない歓待の仕方」や「編集者がうるっとくる殺し文句」などについても触れている。もう9年近く前のことだが、30分程度の取材の中で、「相手が書きたくなる」ネタを次から次へと提供してくれる。抜群のサービス精神と頭の良さ。山崎豊子に信頼されるだけのことはあります。

当日の講座「生誕100年。最後の担当編集者が語る 作家・山崎豊子の『華麗なる』執筆秘話!」はこの3倍以上(でも足りない)のネタがてんこ盛りの濃い濃い資料を用意して来阪されるから、どうぞお楽しみにしてください。

「閉会時間大丈夫かな……」という悩みは当日まで消えないだろうが。