担当/中島 淳
「スタンダードブックストアの中川さんがナカノシマ大学に登壇します」
(たぶんこの人だったら知ってはるだろう)という人にチラシを見せると、案の定「あ〜!」と声を上げる人が多くて、そういう時はチラシを渡す手にも熱が加わる(暑いのにすみませんね)。
スタンダードブックストア(心斎橋店)がオープンしたのは2006年の12月。140Bの創業と同じ年だった。
それまで知っている中川和彦さんは、なんば髙島屋地下の書店[鉢の木]の店主だった。私が京阪神エルマガジン社の販売部にいた2000年代前半、「雑誌を摩天楼のように積んでは完売する」店として有名だったので(南海電車と地下鉄御堂筋線を結ぶ通路からすぐの場所だった)、SAVVYやMeets Regionalの人気特集が早々品切れになると、カートに雑誌数十冊をワイヤーで括り付けて直接納品する、という形で追加リクエストに応えていた。
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そういう中川さんが、髙島屋地下の[鉢の木]とはぜんぜん趣が違う書店をつくられたのは知っていたし、新刊営業やイベントで何度もお邪魔はしていたが、本格的に「一緒に仕事をした」のはもう12年も前、2014年のことだ。

3月上旬の寒い時期だったように思う。書店員仲間の人たちと弊社にやって来られた。
「西加奈子さんの小説『円卓』がこの夏、関西の全民放テレビの制作で映画化されることが決まりましたんで、私ら大阪の書店員としては地元作家だし、目いっぱい盛り上げたい。できればこれを記念した、本屋で売れる本が作れないだろうか」
映画が公開されるまで3か月しかない!? けれど切羽詰まった感じではない匂いがした。
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西加奈子さんとは140Bもお付き合いがあった。
弊社が雑誌『大阪人』を編集していた頃(2011年4月〜12年3月)、9月号「旅する24区」では、ミナミのラウンジで女性の黒服として働いていた頃の話「ぎらぎら」を寄稿してくれて、読むたびにげらげらが止まらず、巻頭で掲載させてもらった。3月号「司馬遼太郎と大阪」では精神科医の名越康文さんとの対談に出演いただき、両者の司馬遼太郎観「人たらしの歴史オタク。大阪人なので醒めて見ているけど人間に優しい」という説に大きく頷いた。

雑誌『大阪人』2011年9月号(右)と2012年3月号
雑誌の中に西加奈子さんの作品や言葉があると、「華」も「活力」も「笑い」も加味される。とても貴重な作家に目をつけた中川さんたちの目はさすがであるが……自作の小説で忙しい作家の方に、こんな日程で新たな原稿を頼むのはハードルが高い。
映画が公開される6月下旬までに「西加奈子をテーマにした本」を完成させて書店の棚に並べられるかどうか……。イメージが湧かなかった。
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しかし、中川さんや現場の熱気を知る書店員の人たちと弊社の長机でわいわい話をしているうちに、「このメンバーやったら面白いことができるのではないだろうか?」という気に、自然となったのもまた事実。それで、『大阪人』でも西さんの担当だった青山ゆみこさんに編集をお願いし、A5判36p(表紙4p+本文32p・2色刷り)というボリュームで刊行することになった。
著者(編者)は「大阪の本屋実行委員会」、タイトルは『西加奈子と地元の本屋』。発売は「映画が封切られる前の6月中旬」とした。
タイトルを考えても巻頭は西加奈子さんに登場してもらわねば。
「対談だったらスケジュールを調整してくれるのでは」ということで、西区江戸堀[Calo B00kshop & Cafe]の店主、石川あき子さんが主催していたイベント「書店員ナイト・リターンズ」の目玉企画にこの対談を入れ込んでいただき、スタンダードブックストア心斎橋で開催することになった。
「西さんと誰かの公開対談」がこの本に収録されたら面白いことになるわ……と盛り上がってきた頃に、お相手が芥川賞作家の津村記久子さんと決まって(西さんは対談で、「うち、作家界で津村記久子の一番のファンだと思うんです。全作品コンプリートしてるし」と語っている)、スタッフの盛り上がりも最高潮となって当日を迎えた。
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地下の入り口から。奥はすでに満杯となっている(2014年4月18日)
2014年4月18日(金)「書店員ナイト・リターンズ」。
書店員を中心に、取次関係者、編集者、スタンダードブックストアの常連客など180人の本好きが集まった。このシーンを映像にしようと映画『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』の製作委員会に入っているMBSも撮影スタッフやアナウンサーまで投入して、熱心にカメラを回していた。
スタンダードブックストアで4桁のイベントを開催している中川さんは、怒濤のように押し寄せる来場客を相手に手慣れた司会ぶりでさすがやなぁ〜と思ったが、それ以上に感心したのは、書店員やお客さんだけにではなく、トーハンや日販など取引のない販売会社(=取次。スタンダードは「大阪屋」と取引していた)の人とも気軽に会話していたことである。これまでに見ないタイプの書店人だった。

登壇者の緊張を抜く絶妙の合いの手を入れる中川さん
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「書店員ナイト・リターンズ」の大きな山を越え、青山さんは対談の構成と原稿まとめの作業、阪神間・神戸を含む大阪市内・府下40エリアの書店員のみなさんには「ウチの店ではこんな本が売れている」アンケートをせっせと書いていただいてすぐに原稿にしたり、地元書店員7人による「ぶっちゃけ座談会」を開いたり、サイン会などで西加奈子ファミリーとも面識のある、ご存じ紀伊国屋書店梅田本店の「アニキ」百々典孝(どど・のりたか)さんからは「いつかは跨ぐぞ! 西加奈子宅の敷居」という愛がほとばしりまくりの原稿を書いてもらったりして、超薄型の本には似つかわしくないほど濃くてアツい仕上がりとなった。
6/6(金)見本出し、11(水)取次搬入、13(金)発売。
初版は「文芸関連書」にしては異例の10,000部。たぶん中川さんが取次各社に根回ししてくれたのだろう。そうでないとこんな部数はありえない。6月21日(土)の映画公開日にも間に合ったし、試写会の会場でもたくさん売っていただいて、いつの間にか在庫がなくなってしまう。しかし増刷しようにも定価が安すぎた。

イラストは神戸市のごみ分別キャラ「ワケトン」やQBBチーズでおなじみのザ・ロケット・ゴールド・スター、デザインは雑誌『Talking Rock!』の田中直美
この本は「映画公開前&公開中に売り切る部数」という見込みで増刷は端から考えていなかった。この税込380円(今なら387円)の本は、5,000部増刷した場合2,600部以上売らないと採算が取れない。
「初版本をそんなに取ってくれるんなら12,000部ぐらい刷っとけばよかったなぁ〜」というのも後の祭りである。
なんだかんだと私自身の失敗も多かったが、それでも今この本を開いて読むと、12年前の、古河大阪ビルの会議室でやいのやいの言いながらページを考えていった熱がそのまま伝わってくる(400円でお釣りが来る本だとは信じ難い)。それは、中川さんが起こした「渦」に巻き込まれていくことが、けっこう楽しかったからだと言える。
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ラストページには、7人の書店員&取次社員の「大阪の本屋実行委員会 おそるおそる立ち上げ編集後記」が書かれていて、最後は中川さんの一文で締められている。
本屋の厳しい現状には諸事情あろうが、本屋側の責任も大だと常々考えていた。環境の変化は激しいが、本屋だけに訪れているのではない。小売業は変化対応業。脱皮できなければ死ぬだけだ。西加奈子さんの『円卓』の映画化を機にひょんなことからこの出版物の制作が始まった。大阪の本屋の熱い想いが詰まっている。本屋が自ら本をつくることに違和感はない。これが脱皮の一歩となることを切に願う。そして大きなうねりになることを。新しい衣を纏った新世代の本屋、そして取次よ、今こそ力を結集しよう!
[スタンダードブックストア]という店舗は現在、大阪にはないけれど、中川さんはこの言葉通りのことを実践しながら各地で「古本屋台」に出張し、7月22日(水)のナカノシマ大学にも本とお酒(ソフトドリンクも)を持ち込んで話をしてくれる。講義中も、本もお酒も買えるのはスタンダードブックストアとまんま一緒だ。
盛夏の夕暮れ、芝川ビルのモダンテラスに中川さんの「本屋」が登場するなんて、ちょっと楽しみでしょ。
申し込みはこちらから→ https://nakanoshima-daigaku.net/seminar/article/p20260722

















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上野先生は、去る2014年12月の「天神寄席」に出演してはるので、10余年ぶりのご登場、当時は、確か奈良大学教授やったけど。







