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3.18ナカノシマ大学は“人たらし”の書き手・郡麻江さん

担当/中島 淳

3月18日(土)のナカノシマ大学に登壇するライターの郡麻江(こおり・まえ)さんは、1990年代から関西を拠点に、旅や食、歴史、伝統工芸、漢方などを東京・関西を問わず雑誌などいろんな媒体で書いている、「好きこそものの上手なれ」を地で行くような人である。ナカノシマ大学では、最近なにかと話題の有馬温泉の「今、こんなことができる」と「有馬と長くお付き合いしたくなる楽しみ方」について、掘り下げて紹介してくれます。

有馬は名刹の地でもある。秀吉の正室・ねねの別荘があったとされる念仏寺で「写仏」を楽しんだ郡さん

140Bでは、これまで郡さんにさまざまな制作物で記事を書いてもらったが、自社出版物ではロングセラーとなっている2つのガイドブックで取材・執筆をしてくれた。2017年4月の『堺を歩けば。』と2018年5月の『ザ・古墳群〜百舌鳥と古市 全89基』である。

超・綱渡り取材だった最初の仕事

 

『堺を歩けば。』では、全ページの入稿が終わってあとは色校正を2日後に返却するだけ……という時に、急遽「お香づくりの実演と体験」という堺らしいイベント取材のページを作って差し替えることになった。

「ハードな日程やけど、だれに書いてもらお?」と悩んでいた時に、ある雑誌で弊社を取材してくれた「郡麻江さん」というライターが「伝統工芸も得意ジャンルです」と話していたのを覚えていて、「大急ぎの原稿ですんませんけど」とお願いした。郡さんは4月上旬の土曜日、堺伝統産業会館(現・堺伝匠館)での「お香づくり」を、ワイワイはしゃぐ子どもたちのテーブルを回り、お香の作り手からも話を聞いて2時間ほど取材し、4時間後には原稿を送ってくれた。夜更けのデスクで「おもろい原稿やないですか!」と返信したのを覚えている。

伝統工芸のようなものは、「堅く」「難しく」「格調高く」書こうと思えばいかようにも表現できるが、読んだ人が「おもしろい」と感じてくれなかったらファンが増えない。かと言って「◯◯の前途は明るい」みたいな能天気な話はだれも期待していない。そんな難しいハードルを郡さんはうまい具合に越えて着地してくれたのだが、ご本人が京都の老舗表具店の奥さま(家業は夫君が担っておられるそうだ)であることを知って、「そらそうでないと書けんわな」と腑に落ちた。

古墳初心者が「墳ヲタ」そしてツアーガイドに!

 

『堺を歩けば。』から半年後のこと。「古墳のガイドブックを誰に書いてもらうか?」という時にも、百舌鳥・古市にある89基すべての古墳の取材と執筆を迷わず郡さんにお願いした。

百舌鳥・古市古墳群は、多くが宮内庁が監理しているため石室はおろか墳丘に登れる古墳も少ない。ビジュアル的にもそんなに「スペクタクル」とは言えない。古墳の基本的なデータやスペックなどを押さえるのは当然ではあるが、本文テキストの部分は「妄想」も含めた想像力を駆使して、「読者を楽しませる」表現がとても大事だと考えた。

郡さんは2017年秋から18年春にかけて、百舌鳥では堺市博物館学芸員の橘泉さんと、古市では藤井寺市の世界遺産登録推進室長(当時)の山田幸弘さんという2人のプロフェッショナルに現場で解説をしてもらいながら一緒に回り、4か月間「古墳漬け」の日々を過ごして、彼女なりのフレンドリーな文体で読者に、百舌鳥・古市古墳群の素晴らしさを伝えてくれた。現在、『堺を歩けば。』は3刷15,500部、『ザ・古墳群〜百舌鳥と古市 全89基』は4刷14,500部まで広がっている。

筆者はいろんな書き手の方と仕事をする機会があるが、郡さんほど「初めて手がけた仕事がいつの間にか超得意技になっている」という人も少ないように思う。『堺を歩けば。』の後、郡さんは「堺おたく」となって、いろんな友人を連れてたびたび堺を訪れては堺観光ボランティア協会の川上浩さん(元理事長)を指名し、知らない名所を案内してもらっては見聞を深めている(夜は堺東に出没するらしい)。

古墳についてはなんと東日本にも「遠征」し、現地の専門家と一緒に古墳をめぐって『都心から行ける日帰り古墳〜関東1都6県の古墳と古墳群102』(ワニブックス)というガイドブックをまるごと1冊執筆した。それだけでなく、2020年には「旅程管理業務主任者」を取得し、全国の古代および世界遺産専門のツアーの添乗員を、ライターの仕事をしながら務めている。

有馬の窯元[温馨窯(おんけいがま)]ではやきもの体験が味わえる。郡さんは自分用に前方後円墳の絵柄を描いた

そういう人が有馬温泉のことを体験取材して話してくれるので、「民放の情報番組」とはぜんぜん違うアプローチで紹介してくれると思います。

「見た目の華やかさ」だけでは分からない有馬温泉

 

有馬温泉では、「クアワーケーション(湯治+仕事+休暇)」という体験プログラムが昨年秋から実験的にはじめられている。(一社)有馬温泉観光協会は「旅行や仕事でいい湯につかって滞在しながら、有馬でしかできない体験をしてほしい」という趣旨で30のプログラムを作成し、本ツアーがこの1月に実施された。郡さんは昨年秋のプレツアーから多くのプログラムを体験して、そのレポートをWEBに書いている。

「プログラム」といっても、国内外のリゾートホテルがよくやっているようなにわか仕込みの「アクティビティ」とはぜんぜん違って、六甲山の麓にある有馬の自然や1400年にわたる歴史が育てた「日本建築」「食文化」「花街文化」「仏教文化」「伝統工芸」などを体験する本格的なもの。古刹の住職や温泉病院の院長、現役の有馬芸妓さん、日本とくに兵庫県の歴史の権威、BMXの日本チャンピオン、老舗のお香店主、400年続く竹細工の当主など一流中の一流が講師になっている。この春以降も随時開催される予定なので(常時体験できるプログラムもある)、これをきっかけに有馬にお出かけするのも絶対にお薦めだ。

いま有馬温泉に行った人は、外国人旅行客の多さと、メインストリート湯本坂の多国籍なにぎわいに驚くと思うが、「温泉と飲み食い」だけにはとどまらない深くて多彩な楽しみがたっぷりある。しかも有馬はコンパクトな温泉街だから、半径100mぐらいをあちこち歩けばいろんな楽しみに出会えるので、ぜひこの講座でたっぷりとネタを仕入れてください。当日は有馬温泉観光協会からのおみやげもあります。

1月の本ツアーポスター。イラストは『島民』でもおなじみ奈路道程さん。この絵が表紙になった32ページのハンドブックを、受講者にもれなくお渡しします

ちなみに、郡さんが6年前にハマって大好きになった堺と、この有馬には大きな共通点がある(答えはナカノシマ大学で)。なので堺好きの人にもぜひ来ていただきたいものです。

お申し込みはこちらへぜひ