大阪・京都・神戸 街をよく知るからこそできる出版物&オリジナルメディアづくり
拝啓・古地図サロンから36

2023年3月24日・本渡章より

【今回の見出し】

■3月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動★4~6月の講座など
  • 古地図ギャラリー第16回

東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その16〉

■古地図サロンのレポート

開催日:3月24日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。すっかり春になりました。6年目に入った古地図サロンはあいかわらずのマイペースで続いていますが、新聞等で「大阪ガスビル大改修決定」のニュースが発表され、サロン会場となっているカフェがどうなるのか、参加のみなさんから質問がありました。カフェについては改修工事が始まるまでの2024年の末頃までは営業を継続する予定で、サロンも引き続き開催(隔月)されると思います。それ以後のことは未定。とりあえず今年と来年は今まで通りです。新情報がありましたら、この場でまたお知らせいたします。

さて、今回の展示は主に大正から昭和の市街地図、観光地図を中心に並べました。最も古かったのが「日本交通分県地図・其の一 大阪府」大正12年(1923)で、今からちょうど100年前の発行。皇太子(後の昭和天皇)御成婚記念の全国都道府県地図シリーズ「其の一」が大阪府になっているのは、発行元が大阪毎日新聞社(現・毎日新聞社)だからです。かなり大量に作成されたようで、この地図は今でも時折り、古書店や古書市で見かけます。彩色が美しく、まだ4つしか区がなかった頃の小さな大阪市の姿とともに摂津・河内・和泉の旧国名、東成郡・西成郡の旧郡名をはじめ古い地名がたくさん見られ、この日の参加者にも人気でした。

もう1点、注目されたのは幕末期の大坂図の復刻版でサロン会場のカフェ店長(松田さん)提供。市販の江戸時代図・復刻版は通常、原図に修正が加えられていますが、これは無修正なので私製と思われます。丈夫なコート紙が用いられ、テーブルで広げてみんなで見て楽しむにはぴったり。この日は天王寺周辺や天満宮周辺の寺町など古地図の中を散策しました。江戸時代の原図は持ち運びも展示も気軽にできないので、今後も活用させていただきます。

では、5月のサロンでまたお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

◉今回のサロンで展示した古地図
地図(原図)

日本交通分県地図・其の一 大阪府 大正12年(1923)大阪毎日新聞社
全日本最新名勝・名物地図 昭和7年(1932) 大阪毎日新聞社
京阪沿線ハイキング図 昭和11年(1936) 京阪グラビヤ印刷
最新大阪市街地図 昭和12年(1937) 和楽路屋
最新中部日本交通名所遊覧地図 戦時中 富山館
新観光地図 箱根・湯河原 昭和30年(1955) 日本交通公社
近畿観光地図 昭和36年(1961) 和楽路屋
大阪都市計画街路及土地区画整理事業区域図 昭和39年(1964) 大阪市区画整理局

復刻(私製)

弘化改正大坂細見図 弘化2年(1845) 播磨屋九兵衛

★次回は2023年5月26日(金)午後3~5時開催予定

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーしてください)。途中参加・退出OK。勉強会でもなく会員制でもありませんので、どなたでも気軽にご参加ください。

諸事情により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

 

【最近と今後の古地図活動】

朝日カルチャーセンター中之島朝日カルチャーセンター中之島での講座~4・5・6月

①「道明寺天満宮と世界遺産古市古墳」2023年4月24日(月)・5月8日(月)午前10時~12時、中之島での教室講座と近鉄道明寺駅(藤井寺市)集合の町歩きがセットになった2回講座。
世界遺産の古墳群と埴輪づくりの土師氏(菅原道真の祖)ゆかりの道明寺天満宮を訪ねます。

②「地図で訪ねる戦中大阪」2023年6月30日(金)10時30分~12時。戦時体制下での地図検閲、地図会社の統合、終戦後の空襲跡図など戦争と地図を通して大阪の歴史再発見。

いちょうカレッジでの講座~5月

「大阪駅前歴史さんぽ」2023年5月30日(火)午後2時~4時・大阪市総合生涯学習センター梅田(大阪駅前第2ビル)にて。
大阪駅前にこんな史跡があったとは……見慣れた風景の中の隠れた歴史・文化の跡を訪ねる教室講座です。


中之島図書館での講座~6月

「江戸時代の災害に令和の私たちが学ぶこと」2023年6月17日(土)午後1時30分~3時30分・中之島図書館 本館2階多目的スペースにて。江戸時代の大坂を襲った大災害を当時の人々はどのように乗り越えたか。そのたくましさ、明るさに学ぶもの。

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●「大阪の地名に聞いてみた
ブログ連載、全12回24編が完結!

誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い。
一年間の連載が2023年1月に完結(題字と似顔絵・奈路道程)し書籍化が決定! ブログの内容を再構成し、刊行されます。

第12回ここは水惑星サンズイ圏【前編・後編】
第11回島の国の島々の街【前編・後編】
第10回仏地名は難波(なにわ)から大坂、大阪へ【前編・後編】
第9回人の世と神代(かみよ)をつなぐ神地名【前編・後編】
第8回語る地名・働く地名【前編・後編】(仕事地名・北摂編)
第7回古くて新しい仕事と地名の話【前編・後編】(仕事地名・河内編)
第6回街・人・物・神シームレス【前編・後編】(仕事地名・泉州編)
第5回場所が仕事をつくった【前編・後編】(仕事地名・大阪市中編)
第4回花も緑もある大阪【前編・後編】
第3回桜と梅の大阪スクランブル交差点【前編・後編】
第2回続・干支地名エトセトラ&その他の動物地名【前編・後編】
第1回大阪の干支地名エトセトラ【前編・後編】

ナカノシマ大学「梅地名VS桜地名、実はここが一番多かった!」盛況のうちに終了

2023年2月18日(土)午前10時~11時30分大阪府立中之島図書館・多目的ホールブログ連載「大阪の地名に聞いてみた」に新たな現地調査データを加えての講座を開催しました。

●動画古地図でたどる大阪の歴史」続編、作成中

江戸時代の大坂、近代以後の西区編に続き、街歩きスタイルの編集による港区編公開。他に「古地図サロン」、著書『古地図で歩く 大阪24区の履歴書』紹介編の動画もあります。「此花区・港区・大正区」の動画も作成中。(制作・大阪コミュニティ通信社)

|古地図ギャラリー|

【天王寺・石山古城図】作成年・作者不明

今回ご紹介する「天王寺・石山古城図」と似た図を、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。大阪の歴史資料でしばしば登場する「浪花往古図」と内容が類似しています。「浪花往古図」とは中世の大坂の姿をイメージした一連の図の総称で、「浪華往古図」「難波往古図」とも表記され、江戸時代になって歴史を振り返るよすがとして作成されました。大阪湾が奥深く入り組み、福島や江之子島、衢壌(九条)島など、今は陸地になった湾岸の島々が描かれています。

「天王寺・石山古城図」に盛り込まれた地理情報は「浪花往古図」と同様ですが、独自の内容も付け加えられました。図の北側、天満山に「織田信長本陣」とあり、周辺に織田方の武将の名が記されています。合戦の相手は本願寺。図のほぼ中央に「小坂村」とあり、かたわらに「蓮如杉」「石山御堂」と記されています。小坂は大坂の由来となった地名。そこに蓮如が開いたのが石山本願寺で、今は大阪城が建っています。「石山御堂」の横に「当時籠城門徒四万余人」とあり、まわりに本願寺に味方した諸勢力の名が記されています。

この図は、「浪花往古図」を流用して作成された石山合戦の配陣図でした。作者は不明ですが、推量の手がかりはあります。「織田信長本陣」の周囲の川辺に、ここで本願寺門徒による百姓が土嚢などを積んで川をせき止めたという主旨の文言が2箇所あるのをご覧ください。石山合戦の幕開けともいえる元亀元年(1570)の水攻めのしるしです。水攻めは織田方の勢いをくいとめ、以後も十年間にわたって抵抗は続きました。図は本願寺側の視点で描かれています。江戸時代になって大坂に根をおろした本願寺勢力が、織田信長を相手に石山御堂が奮闘した記録を残したのでしょう。題名が「天王寺・石山古城図」となっているのは、天王寺庄(図中の旧地名)を背にする「織田信長本陣」と城砦化した石山本願寺が対峙する構図を意識しての命名と思われます。古城という呼び名も、「門徒四万余人」が籠城との記述も、戦国時代の懐古にふさわしいといえるでしょう。

※題名「天王寺・石山古城図」は図中になく、表紙に記載されていたもの。
※天王寺庄は聖徳太子による四天王寺建立の候補地だったとする故事が地名由来で、淀川岸にあった。

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東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。
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過去の古地図ギャラリー公開作品

第15回(2023年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より長谷川圖書「摂津大坂図鑑綱目大成」

 

第14回(2022年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より久野恒倫「嘉永改正堺大絵図」

②鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「私たちの和田山町」

 

第13回(2022年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「淀川勝竜寺城跡全図」

 

第12回(2022年7月)

①東畑建築事務所「清林文庫」より秋山永年「富士見十三州輿地全図」

 

第11回(2022年5月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大日本分境図成」

 

第10回(2022年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「新改正摂津国名所旧跡細見大絵図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「笠岡市全景立体図」

 

第9回(2022年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「暁鐘成・浪花名所独案内」

②本渡章所蔵地図より「大阪市観光課・大阪市案内図

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「躍進井原市」

 

第8回(2021年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」

②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」

 

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

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●電子書籍のお知らせ

本渡章の著書(古地図・地誌テーマ)のうち、電子書籍になった10冊(2022年末現在)は次の通りです。
(記載の刊行年は紙の書籍のデータです)

『鳥瞰図!』140B・刊(2018年)

思考・感情・直観・感覚…全感性を目覚めさせる鳥瞰図の世界にご案内。大正の広重と呼ばれた吉田初三郎の作品群を中心に、大空から見下ろすパノラマ風景の醍醐味を味わえます。併せて江戸時代以来の日本の鳥観図のルーツも紐解く、オールカラー・図版多数掲載の決定版。

『古地図で歩く大阪 ザ・べスト10』140B・刊(2017年)

梅田・中之島・御堂筋・ミナミ・天満・京橋・天王寺。阿倍野・住吉・十三・大正・平野の10エリアを古地図で街歩きガイド。さらに博物館、図書館、大書店、古書店での古地図探しの楽しみ方、大阪街歩き古地図ベストセレクション等々、盛りだくさんすぎる一冊。オールカラー・図版多数掲載。

*上記2冊は各電子書籍ストアでお求めください

*下記8冊は創元社(オンライン)の電子書籍コーナーでお求めいただけます

『図典「摂津名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

大阪の地誌を代表する「摂津名所図会」の全図版を掲載。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添えた。調べものに便利な3種類の索引、主要名所の現在地一覧付。江戸時代の大阪を知るためのビジュアルガイド。

『図典「大和名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

姉妹本『図典「摂津名所図会」を読む』の大和(奈良)版です。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添え、3種類の索引、主要名所の現在地一覧も付けるなど「摂津編」と同じ編集で構成。江戸時代の奈良を知るためのビジュアルガイド。

『古地図が語る大災害』創元社・刊(2014年)

記憶の継承は防災の第一歩。京阪神を襲った数々の歴史的大災害を古地図から再現し、その脅威と向き合うサバイバル読本としてご活用ください。歴史に残る数々の南海トラフ大地震の他、直下型大地震、大火災、大水害の記録も併せて収録。

『カラー版大阪古地図むかし案内』(付録・元禄9年大坂大絵図)創元社・刊(2018年)

著者の古地図本の原点といえる旧版『大阪古地図むかし案内』に大幅加筆し、図版をオールカラーとした改訂版。江戸時代の大坂をエリアごとに紹介し、主要な江戸時代地図についての解説も収めた。

『大阪暮らしむかし案内』創元社・刊(2012年)

井原西鶴の浮世草子に添えられた挿絵を題材に、江戸時代の大坂の暮らしぶりを紹介。絵解きしながら、当時の庶民の日常と心情に触れられる一冊。

『大阪名所むかし案内』創元社・刊(2006年)

江戸時代の観光ガイドとして人気を博した名所図会。そこに描かれた名所絵を読み解くシリーズの最初の著書として書かれた一冊。『図典「摂津名所図会」を読む』のダイジェスト版としてお読みいただけます。全36景の図版掲載。

『奈良名所むかし案内』創元社・刊(2007年)

名所絵を読み解くシリーズの第2弾。テーマは「大和名所図会」。全30景の図版掲載。

『京都名所むかし案内』創元社・刊(2008年)

名所絵を読み解くシリーズの第3弾。テーマは「都名所図会」。全36景の図版掲載。

※その他の電子化されていないリアル書籍(古地図・地誌テーマ)一覧

『古地図でたどる 大阪24区の履歴書』140B・刊(2021年)

『大阪古地図パラダイス』(付録・吉田初三郎「大阪府鳥瞰図」)140B・刊(2013年)

『続・大阪古地図むかし案内』(付録・グレート大阪市全図2点)創元社・刊(2011年)

『続々・大阪古地図むかし案内』(付録・戦災地図・大阪商工地図)創元社・刊(2013年)

『アベノから大阪が見える』燃焼社・刊(2014)

『大阪人のプライド』東方出版・刊(2005)

●本渡章(ほんど・あきら)プロフィール

1952年大阪市生まれ。作家。(財)大阪都市協会発行時の「大阪人」編集などを経て文筆業に。1996年第3回パスカル短篇文学新人賞優秀賞受賞。短編が新聞連載され『飛翔への夢』(集英社)などに収録。編著に『超短編アンソロジー』(ちくま文庫)がある。その後、古地図・地誌をテーマに執筆。
著書『鳥瞰図!』『古地図でたどる大阪24区の履歴書』『古地図で歩く大阪 ザ・ベスト10』『大阪古地図パラダイス』(140B)『古地図が語る大災害』『カラー版大阪古地図むかし案内』『図典「摂津名所図会」を読む』『大阪暮らしむかし案内』(創元社)など多数。共著に『大阪の教科書』(創元社)がある。