第2回 カドマル建築【後編】

大阪の魅力的なカドマルたち
-後編 モダン建築編- ②

文/高岡伸一
絵/綱本武雄

水都大阪のカドマル建築たち(番外編)

 水都大阪だからということでもないだろうが、大阪の水辺近くに建つカドマル建築には、まるで船を思わせるようなデザインが多い気がする。番外編としてあらためて、別の見方からカドマル建築をみてみよう。
 カドマル建築が船のようにみえるのは、やはりカドマルが船の舳先にみえるからだろう。また現在のような超高層建築ではなく、高さに対して建物の横幅の方が長いので、全体のプロポーションが船を連想させるということもある。
 大阪に建つ水辺のカドマル建築として、最初に紹介すべきはやはりダイビル(1925)だ。残念ながら既に解体されてしまったが、これを外す訳にはいかない。ダイビルは敷地の形状に合わせてカドマルの角が三角形のようになっていて、まさに船の舳先を思わせる。そのクラシカルなデザインと、堂島川を前に悠然と建つ佇まいは、まさに豪華客船のようだ。実はダイビルを建てたのは商船会社だった。デザインする際に船を意識したのかどうかはわからないが、水都大阪を代表するカドマル建築として、ダイビルほど相応しいものはないだろう。
 すでに紹介したカドマル建築のなかにも、船を思わせるものがいくつかある。天満屋ビル江之子島文化芸術創造センターは、そのデザインが似ているだけでなく、天満屋ビルは大阪港大桟橋のたもと、江之子島は木津川と、両方とも水辺に建っている。水辺に向かってカドマルを取り、大きなガラスの開口を設けているところも共通している。凝ったデザインの小型客船といったところだろうか。
 朝日ビルのカドマルも、堂島川に面している。「スピード」を感じさせるデザインのことを紹介したが、川向から眺めるその姿は、まさに当時最新の高速艇といった雰囲気だ。
 湊町の道頓堀に面したリバーウエスト湊町ビル(1935)も外せない。まるで川の上に浮いているように建ち、カドマルの窓も船の雰囲気を高めていて、明らかに船を意識したデザインになっている。ちなみに地下1階の川面に面した場所には、その名も「キャビン」という喫茶店がある。
 その他、水辺に建っている訳ではないが、どうしようもなく船を感じさせるカドマル建築として、HEP NAVIOをあげておきたい。三角形のショートケーキのような敷地の形状をうまく活かしたデザインで、アルミのシルバーとビビットな赤を対比させたデザイン、尖ったカドマルを大きく持ち上げたような形態は、戦艦ヤマトをもっとモダンにした巨大船にみえる。
 建築の見方は自由だ。カドマル建築に限らず、色んな見方を考えることで、建築はもっと楽しくなる。日常を取り巻く無数の建築たちをあらためて見直して、あなた独自の○○建築を是非とも発見してみてほしい。

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