2021年も明けたばかりの1月4日未明、英国のジョンソン首相は翌5日午後10時から少なくとも2月中旬まで新たなロックダウンを実施すると発表しました。拙著『英国ロックダウン100日日記』(「足止め喰らい日記」改題)に書いた、2020年3月23日からの封鎖、クリスマス前の都市別封鎖に続いて三度目です。

 二度あることは三度ある、というのはホントでしたが三度目の正直という故事もホントであってほしいと切に願います。だって発令された日の感染者数は、その日だけで6万人を超し嬉しくない新記録を達成。死者数もずっと400~500人台だったのが一気に600人を数えましたから。  ええ、もう、ヤバいんです。

 おりしも日本でも一都三県で緊急事態宣言が出されて、てんやわんやの様相ですが、なにしろこちらはその100倍。もはや50人に1人、ロンドンだけでいえば30人に1人がコロナ患者という状態です。そんな100倍ヤバいロックダウンの風景はなにかしら日本にいるみなさんの役に立つんじゃないかと考えて……「足止め喰らい日記」、嫌々乍らReturns です。

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diary 2
入江敦彦の『足止め喰らい日記』 
嫌々乍らReturns

2021.01.13

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1/7-13「打ってきたよー」の声が聞こえてきた

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【英国傷だらけのワクチン接種ローラー作戦】
 ロックダウンが始まって、いきなり感染者数・死者数共に昨年3月に猛威を振るったときを上回るめでたくない数字を更新しています。
 毎日が九十九折り、浄蓮の滝、6万人越えでウィルスに伝染しているのです。亡くなられた人の数はさらに深刻。6日にさっそく1,041人に上って「いくらなんでも」と受けたショック冷めやらぬうち、7日1,162人、8日1,325人、9日1,035人と四日連続。10日、11日には563人、529人まで治まりましたが、これは週末で報告数が減っただけ。12日にはまた1,243人、13日には1564人という新記録を更新しました。
 そうです。英国では新コロナがシン新コロナ――変異株――に入れ替わってからの第二波は、一向に収束する気配を見せていないのでした。
 しかし毎日千人越えですよ。昨年のロックダウン時は周りで倒れる人がいても(幸い友人や知人で死んだ人はまだいないのですが)感覚的には「運の悪い人が罹る」って感じでした。それが今回はもはや「運のいい人が罹らないですむ」って感じ。
 316万人の患者と8万3000人の死亡者。いくら日本の死者が少なかろうが、症状が軽かろうが、そろそろ「ただの風邪」呼ばわりはやめませんかね。日本よりよほどうまく対処して被害の小さくても「ただの風邪」なんてほざく国ありませんよ。日本人以外は悲しみも苦しみも知らないとでも思ってんですかね。
 そういう連中に限って【民度】なんて胸糞ワードを平気で使いたがりますが、最低限のエンパシーがあったら絶対に言えないようなことを平気で垂れ流せるやつらこそどんだけ民度が低いんだかって話です。 顔についてんのはホンマに口か? ケツの穴違ゃうか? 脳味噌やのうて宿便詰っとんやないか?
 ごめんね汚い言葉遣いしちゃって。前の本(『英国ロックダウン100日日記』)では頑張って我慢してたんですけどね。でも、そのくらいわたしゃ怒ってんです。憤慨がおさまんない。ただ、もう我慢すべき段階はとうに過ぎちゃってるからさ。馬鹿には馬鹿のボキャブラリしか通じないですし。
 もうここまで言っちゃったからついでに書いちゃいますが、あのね、あなたの周りにこの期に及んでの「ただの風邪」野郎がいたら「あんた陰謀論臭いえ」と追い払ってあげましょう。彼ら彼女らは話しても無駄。絶対に理解しようとしない。断言できます。
 ともあれもはや英国は満身創痍。傷だらけです。しかも前回書いたように、秋までのプロテクションでは充分でないことを数字が示しているので個人レベルで為す術がない。ただあまりにセンセーショナリスティックな数字ゆえに忘れてしまいがちですが、そのうちの140万人が回復して社会復帰してるんだってことも忘れてはいけません。後遺症、深刻だケド。
 そしてなにより五里霧中だった最初のロックダウンとは異なりいまは明りが見えています。それはワクチン。エリアによっては30人に1人がコロナ患者という時代、それしか手立てがないともいえますが光明は光明です。英国ではすでにクリスマス前からワクチン接種のローラー作戦が始まっています。傷だらけのローラー。なんちて(伏線回収)。
 
 12月の18日に始まった絨毯注射作戦は封鎖一週間を経過した現在までに女王陛下含め243万人が接種を済ませています。より効果的な結果を得るために2週間以内に二度目を接種しなければならないのですが、これも41万人強がが終えています。英国の人口は6千680万人(2019年)。まだまだ先は長いですが、80歳以上で基礎疾患のあるお年寄りはほぼ終了しているといっていいようです。
 わたしはアラ還ですが糖尿持ちでメタボ気味なのでおそらく順番が回ってくるのは5月ころではないかと予想されてます。むろん、ちゃっちゃと済ませて精神的に楽になりたい。けれど、お年寄りが苦しのは見たくない。ちょっとでも早く注射してあげてーと願うばかり。でないと不公平だと思うのよね。
 またトンでもない修羅の現場で働いている医療関係者のワクチン接種もほぼ最終段階まできているようですね。コロナ禍の温床となりがちなケアホームの職員も居住者とともに完了していると報道されてます。これからは地元の薬局でも順番に接種開始らしいのでさらにスピードアップするでしょう。
 ほんとうに様々なコロナ関連ニュースが流れてきますが、いまいちばん聞いてホッとするのは、このローラー作戦の経過報告。人口の4%を越えたところとはいえ欧州(離脱したけど)では1位、世界でも4位の成績。ちなみに世界一はイスラエルです。

 わたしたちの周辺でも「打ってきたよー」という声がきこえてきました。知る限り5人。病院はいっぱいいっぱいなので歩いて行ける範囲の公民館だったり体育館だったり現場は様々。軍隊のみなさんが手助け(監視ではなく案内や介助)をしていたけれど威圧感はなく和やかな雰囲気だったそう。
 徹底したソーシャルディスタンスの下、30分ほど座って待って、案内されたら小部屋に移動。看護師さん(訓練を受けた素人のボランティアも混じっているらしい)が捲った腕にチクッ。緊張のせいか待機時間は気にならなかったとか。注射は特別に痛くも大きくもなく至って普通の予防接種のようだったとのこと。副作用で問題が起きたケースを想定して念のために別室に通され、15分くらい休んでから解放されたという話でした。
 いままでのところ報告されているアレルギー反応報告は2人。体の弱いお年寄り中心で120万人に1人の割合。日本では未だ懐疑論が根強く様子見をしているようですが、傷だらけ血まみれの国にそんな猶予はありません。というか確率で考えてもコロナをのさばらせておくよりよほど低リスクだと思うんですが、なんで手を拱いているんでしょ?
 英国が世界に先駆けてローラー作戦で人体実験してくれてるのだくらいに考えて腹を括ってほしいものです。ぐずぐずしているうちに手遅れとかダメ絶対。あらゆる化学薬品にリスクは付き物。ワクチン反対派の意見を読む限り、石鹸アレルギーがいるかもしれないから手洗いは即刻中止すべき! みたいなお粗末な論理を振り回しているようにしか見えません。
 あのー、前述したように女王陛下が接種してるんですよ(ウィリアム王子らも打ちます宣言してます。でも「順番抜かし」しませんと発表しました)? あの人たちよりも厳重なセキュリティ下にいる日本の一般人がどれだけいるでしょう。現実問題リスクがそんなに高かったら絶対にワクチン注射なんてしやしませんって。あー、阿呆らし。
 そりゃあ、接種しないというのももちろん選択肢のひとつです。ひとつですが、はっきりいってそういう連中はウィルスの運び屋になる可能性が高いわけで、申し訳ないけど社会の敵パブリックエナミーです。猫の首に鈴をつける童話がありましたが、彼らもマスクよろしく鈴の首輪を装着していただきたい。ロンドンでは1月10日にロックダウン反対のデモがあり6人が連行されました。そういう馬鹿ちんどもには性犯罪者に義務づけられるGPS監視アンクレットはめたれ! とか、つい『1984』的妄想をしてしまいます。
 こういうことを書くと「自由の侵害」だって眉を顰める人もいるかもしれません。これでもわたしは管理社会、監視社会を心から憎むものです。けれどペドフィリアなど、己の欲望のために他者を犠牲にし、その〝自由〟を阻害、いやさ破壊するのであれば、そんなものはただのドグマの濫用でしかありません。
 そもそも自分たちの居住エリア外へ出ることが禁止されてんですからデモなんて以ての外。つか、そんなもんデモじゃない。香港民主化デモ然り、BLM然り、それはもっと切実で神聖です。もしかしたら反ワクチン派への理解とかケアも必要なんでしょうけど、とりあえずいまんとこ毎日千人死んでるんで後回しにしていただけませんかね?
 うがちすぎであってほしいものですが、もしかしたら日本でワクチン接種をスタートさせない理由は銭勘定なのかもしれません。現自民党政権は目の前の小銭を拾うために平気で国民を見殺しにしそうなので。英国の医療を小馬鹿にした意見をしばしば見かけますが英国はNHS(国民健康保障)のおかげでコロナワクチンもすべて無償です。それだけで、どれだけ心の安寧が得られることか。   傷だらけのローラー作戦(←ひつこい)に使われているワクチンは三種類。最初に完成した独(米)の「ファイザー」、次に米製「モデルナ」、そこにオックスフォード大学が開発した英国産の「アストラゼネカ」がロックダウンとほぼ同時に加わりました。ちょっと戦隊ものみたいでうきうきします。ここにもうすぐロンドンはインペリアル大学のワクチンも加わります。
 値段は三者三様ですが、平均すると一人頭2000円足らず。安い気もしますがなにせ英国人全員分。政府は約120億ポンドの予算を計上しているといいます。ただいまの相場は1ポンド≠140円ですから、かなりの額ですね。それでも95%の予防率が保証されているわけですから接種しないという選択肢はありません。

 クリスマスシーズンの終わりを告げる十二夜という日に奇しくもロックダウンが開始になったと前回お話しました。街角に捨てられた樅ノ木がにょきにょき生えるシュールな眺めはこの季節の風物詩。物悲しいような、けれどどこかユーモラスな景色です。
 それは例年なら〝祭の終焉〟を象徴する寂寥せきりょう感です。が、なんだか今年は余計に寥々として胸に迫ります。なんでだろうと考えながら散歩してたら、人がたおれているように見えるんだと気づいてゾッとしました。コロナで人が死に絶えた街の幻視だったのです。
 それらの使用済生ツリーの放棄は違法行為です。枝打ちしてゴミ袋詰めしないと決して清掃車は持ってってくれないので延々と延々と家の前庭や道端に置きっぱなしになっていることも多い。わりと迷惑。葉っぱは尖ってるし、子供が倒れ込んだりしたら確実に怪我をする。わたしみたいなそそっかしいのが躓く可能性もある。つーか単純に通行の邪魔だっつの。
 そしてこの迷惑な廃棄樅ノ木たち、屍体を想起させると同時に鬱陶しさがアンチロックダウンの連中にも似ているとわたしは観取しました。アンチマスクやアンチワクチンなど己の思想や憶測を優先してコロナ収束に向かおうとしないやつらの面倒臭さにそっくりです。根拠のない陰謀論を振り回す一派の忌々しさなんかもそっくりよ。
 むかむかしながら歩いていると近所の公園でクリスマスツリーの販売所だったところが区切られて「樅の墓場」になっているのを発見しました。自宅で始末 に困った人たちが捨てられるようにしてくれているのです。区のサービスでしょう。みんなここで買って持ち帰れたんだから、運んでくるのも簡単だろうが! と不法投棄する考えナシにいよいよ腹がたちます。
 前述したようなアンチのみなさんも(トランプ信者と一緒に)こんなふうに集めて回収してくれたらいいのになーとか想像したら、ちょっと留飲が下がりました。ああ、やっぱり今週のわたしはかなりすさんでますね。ただいま英国に暮らしている人間はそのくらい気持ちが追い詰められてるんだということは理解していただきたい。
 願わくば次回はもうちょい穏やかなトーンで書けますように。えげつない空想なんかもしないで済みますように。

入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns