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拝啓・古地図サロンから 25

2021年5月28日・本渡章より、これをお読みのみなさまへ。

【今回の目次】
■古地図サロン第24回のレポートと次回予定
●最近と今後の古地図活動(講座・イベント・出版など)
★古地図ギャラリー第5回
①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その5〉
②本渡章所蔵地図より〈その4〉
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その5〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:5/28(金)午後3~4時30分 大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。今回は緊急事態宣言下での開催となりましたが、初参加者数名をお迎えし、メディア取材も2件(読売新聞・大阪コミュニティ通信社)もあって、新風が吹きこんだ感がありました。

今回のテーマは「鳥観図」。2018年に連続開催した鳥観図特集のアンコール版で、吉田初三郎、金子常光、しんび堂の作品を除くとすべてサロン初展示となりました。中でも異色は山口八九子の筆による「鞍馬図記」。日本画の筆遣いとモダンな彩色の取り合わせが古くて新しい鞍馬情緒をかもしだし、大正という時代のムードを感じさせます。

鳥観図といえば吉田初三郎が有名ですが、今回はさまざまな作者が個性を競った鳥観図表現の豊かさを見ていただきました。井沢元晴の「福山展望図」については前回の古地図ギャラリーでの紹介文をご覧ください。並べて展示した「躍進井原市」は福山市と文化圏を共有する井原市の市制施行記念に作成されたもの。そのほか、「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」(今回の古地図ギャラリー参照)は珍しい書簡図絵。通信欄の頁を折り込み、封をして切手を貼ると鳥観図付きの郵便物として投函可能。発行元は大阪毎日新聞社で、アイデア賞ものの一品。かつてのドル箱航路〈大阪~別府間〉などを描いた「瀬戸内海絵図」の発行元・大阪商船は現在の商船三井です。またいつか、鳥観図特集やりましょう。

この日は、東区で大正の初めまであった帽子屋の乗っている市街地図を探しておられる方が来場し、東区出身の他の来場者と話し込んでいました。次回はおそらく該当の市街地図がサロンで見られるのではないかと思います。初参加の中に、長野県から来られた方がいました。これまでに確認できた情報としては最も遠くからの来場です。信州大学には鳥観図サロンというものがあると聞きました。検索すると「信州大学鳥観図サロンサークル」で活動のようすなどが公開されていました。楽しそうです。

フリーペーパー「井沢元晴 漂泊の絵図師」(今回の古地図ギャラリー参照)と吉備路の鳥観図の展示コーナー(写真)も店内にできました。これは店長さんの手製による特設です。ありがとうございました。
というわけで、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図
《原図》
山口八九子「鞍馬図記」大正12年(1923)第2版
吉田初三郎「箱根名所図絵」大正6年(1917)
吉田初三郎「UNZEN」大正10年(1921)
吉田初三郎「日本鳥瞰中国四国大図絵」昭和2年(1927)
吉田初三郎「日本鳥瞰九州大図絵」昭和2年(1927)
金子常光「三朝温泉案内図絵」昭和3年(1928)
大阪商船株式会社発行「瀬戸内海絵図」昭和5年(1930)
大阪毎日新聞社発行「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日(書簡図絵)」昭和初期
上井萍人「三重県」昭和9年(1934)
前田虹映「鳥取県の観光」昭和14年(1939)
吉金本店発行「十和田湖案内図」昭和15年(1940)
しんび堂「神戸市案内絵図」発行年不明
井沢元晴「福山展望図」昭和28年(1953)
井沢元晴「躍進井原市」昭和28年(1953)

◉次回は7/16(金)15:00~17:00の予定

通常は奇数月の第4金曜開催ですが、7月は祝日となるため第3金曜に変更します。会場は大阪ガスビル1階カフェにて開催。私の30分トークは16:00時頃からです。サロン参加は無料(ただしカフェで1オーダーが必要)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。新型コロナウィルスの状況によって中止になる場合は、この場で事前にお知らせいたします。

■最近と今後の古地図活動

●ラジオ番組生出演2件

朝日放送ラジオ「おはようパーソナリティ道上洋三です」(4/27)
ラジオ大阪「原田年晴のかぶりつき金曜日」(5/14)

いずれも新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』(140B)の話をしました。「区」をテーマに、知っているようで知らない足元の歴史を紹介。

●古地図を題材に社員研修

4/28「大阪と大阪駅周辺の地誌」と題して、東畑建築事務所(大阪市中央区)にて講座形式で実施。新人研修プログラムのひとつに古地図を活用していただきました。同社の清林文庫及び本渡所蔵の古地図を見ながら、天満組・梅田・大阪駅の歴史が折り重なる風景を一望。

 

●動画ニュース発信・ネット番組は今夏より

5/28の古地図サロンがネットのニュース番組になりました。取材・編集は大阪コミュニティ通信社(大阪市此花区)。同社は新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』をもとに大阪の区の再発見番組を計画。公開は7月以降で、その予告編をかねたニュース発信になりました。
古地図サロンのニュース番組は https://ucosaka.com/program/20210604_hondosalon/

●朝日カルチャーセンター中之島での講座

5/19 新刊「古地図でたどる大阪24区の履歴書」出版記念講座を予定通り実施。
7/23・8/27・9/24 各日10:30~12:00「古地図地名物語」(此花区・港区・大正区)

・問い合わせ/06-6222-5222または朝日カルチャーセンター中之島で検索

●ナカノシマ大学は延期

5月22日に予定された中之島図書館・多目的ホールでのナカノシマ大学「清林文庫の世界と古地図トピックス」は緊急事態宣言により延期されました。日程は調整中。講座と同時期に予定された清林文庫コレクションの特別展示も次年度以降に延期となりました。

|古地図ギャラリー|

1.「2007清林文庫展(武庫川女子大学甲子園会館)」
「2019清林文庫展(本社オフィス大阪)」

(東畑建築事務所「清林文庫」より・その5)

東畑建築事務所(大阪市中央区)所蔵「清林文庫」の逸品古地図をご紹介するこのシリーズ、今回は趣向を変えて、過去に催された特別展示2例をとりあげました。

まず、2007年に武庫川女子大学甲子園会館で行われた「清林文庫展」は、同コレクション初の一般公開となった記念すべき試み。展示されたのは建築分野を中心に約30冊で、同事務所発行の解説書の目次にはナポレオン『エジプト誌』、ヴィトルヴィウス『建築十書』、メルカトル『世界地図帳』(古地図ギャラリー第2回で紹介)など同文庫の代表的な稀覯本が並んでいます。

 

解説書の本文と図版の中からトルスキー「ペトログラード都市図集」をご覧ください。ペトログラードは現在のレニングラード。ロシア文学の読者にはぺテルスブルグという過去の呼び名の方がピンとくる大都市で、本書の図をすべて合わせると4メートル四方になるとのこと。出版は1753年。できれば古地図ギャラリー第1回に掲載の「ブレッテ1734年のパリ鳥観図」と比べて見てください。精緻を極めた大都市図の魅力に触れていただけるでしょう。

もう1点は、2019年の「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」参加企画として実施された「清林文庫展&オープンサロン」。主要展示となった伊能忠敬「東三拾三國沿海測量之図」は尾張・越前から東の諸国の沿岸と主な街道を記載した地図で、文化元年(1804)の成立。案内チラシによれば図のサイズは2×3メートル。左端に優美な富士山が描かれているのが見えます。伊能忠敬の地図は正確で、全国の近代測量地図が完成するまで用いられていたほどですが、今でも名声を保っているのは、絵画的な美のセンスにも理由があるでしょう。

今回紹介の二つの特別展、筆者はどちらも見逃しました。残念。東畑建築事務創立90周年となる2022年はスケールアップしたかたちでの公開を期待しています。

☆東畑建築事務所「清林文庫」
創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15,000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

2.「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」(本渡章所蔵地図より・その4)

「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」は、今回の古地図サロンの展示地図のひとつ。レポートに書いた書簡図絵とはどんなものか、写真なら一目瞭然。表紙の左上に切手を貼る欄があります。中面の通信欄はご覧のとおり、手紙文がしたためられるスペースに。折りたたんで封をすれば、書簡になります。なかなかの変わり種地図です。

「近畿の聖地名勝古蹟」との題名が、日中戦争(図中では支那事変と記す)当時の発行という時代を物語り、中面の鳥観図でも伊勢の皇大神宮、神武天皇ゆかりの橿原神宮、畝傍山東北陵が大きく描かれています。地図の裏面には大阪毎日新聞の紹介文と写真など記載。

不鮮明ながら注目されるのが、左上の伝書鳩(写真左上)。各地の取材現場で記者が書いた原稿を確実に早く本社に送る手段として、伝書鳩が活躍していました。写真に写っているのは十数羽ですが、かつて多くの新聞社は200~300羽の鳩を飼っていたそうです。船会社や消防本部の屋上でも、同様の光景が見られたとも。今、各地の街で見かけるドバトは、通信手段の発達にともなって野に放たれた伝書鳩の子孫といわれています。

3.「井沢元晴 漂泊の絵図師」
鳥観図絵師・井沢元晴の作品より・その5)

鳥観図絵師・井沢元晴の作品シリーズ。今回は、井沢元晴遺族がこの4月に作成されたフリーペーパーをご紹介します。

全国各地を歩いて多くの鳥観図を残し、昭和の伊能忠敬と呼ばれた故・井沢元晴の生涯を1枚の紙面で紹介。編集・発行は長女の足立恵美子さん、漫画・イラストは孫の常夏さわやさん。井沢作品の製作工程を、旅する絵師の姿とともに簡潔明瞭かつ清々しいタッチで描いた漫画が楽しい。写真は撮らず、記憶とメモだけで街も道も海も山河も一望する絵図を仕上げた異能に驚かされ、記憶もメモも自転車と徒歩で地の隅々まで踏破したのと同じ熱と力によるものなのかと想像もふくらみますが、この漫画の清々しさは井沢元晴の仕事が歳月を経た後に残したもののエッセンスをすくいとった感があります。

紙面に引用された解説文の中で、グラフィックデザイナーの故・高田修地さんの文章をめぐって、発行人の足立さんと高田さんの遺族が初めて連絡をとりあい、思わぬ出会いに感激されたとのお話を聞きました。故人が残した絵図や文章が、残された人の心を動かし、結んでいくのは素晴らしいことです。

井沢元晴の鳥観図から「古京飛鳥」「近つ飛鳥 河内路と史跡」の表紙を掲載します。後期の井沢元春は、日本史のふるさと飛鳥路を好んで歩いてまわったそうです。

☆鳥観図絵師・井沢元晴
井沢元晴は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

井沢元晴氏のご遺族は今、「郷土絵図」にまつわる思い出や絵の消息に関する情報をお持ちの方を探しておられます。当時の生徒さん、学校関係者など、このブログをご覧になって、少しでも心あたりがあるという方が、もしおられましたら、次のアドレスにメールをお送りいただければ幸甚です。小さな情報でもかまいません。よろしくお願いいたします。

足立恵美子(井沢元晴長女)emikobook@yahoo.co.jp

 

過去の古地図ギャラリー公開作品

第4回(2021年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」
②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」
④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図

第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」