‘未分類’ カテゴリーのアーカイブ

松井宏員『大阪キタと中之島 歴史の現場 読み歩き。』発売しました!

2022年6月13日 月曜日

編集担当/中島 淳

表紙絵・挿絵/須飼秀和(すがい・ひでかず)

表紙絵・挿絵/須飼秀和(すがい・ひでかず)

書名/大阪キタと中之島 歴史の現場 読み歩き。
著者/松井宏員(毎日新聞大阪本社夕刊編集長)
体裁/四六判ソフトカバー本文288ページ
定価/1,980円(本体1,800円+税) ISBN978-4-903993-46-1
発売/2022年6月13日(月)

毎日新聞大阪本社夕刊編集長の松井宏員(まつい・ひろかず)さんの新刊、『大阪キタと中之島 歴史の現場 読み歩き。』が2022年6月13日(月)からリアル書店・ネット書店にて一般発売となりました。

17年以上続く、毎日新聞のロングラン連載から抜粋

淀屋屋敷跡・淀屋の碑

淀屋橋南詰にある「淀屋屋敷跡・淀屋の碑」の碑文を確認する松井さん。急な豪雨に襲われて大変だったが、ノートを濡らさずにメモする技はさすが(2020年7月31日撮影)

著者の松井さんはこの道36年のベテランで、夕刊編集長の要職にありながら紙面に連載を3本も4本も抱えるツワモノ記者でもあります。なかでも最も有名でファンが多いのが、17年前の2005年4月にはじまった「わが町にも歴史あり〜知られざる大阪」です。隔週土曜日に、毎日新聞大阪版(朝刊)に掲載されていて、2022年6月4日(土)現在、576回も続いている超ロングラン連載。「歴史」といっても教科書や大河ドラマではほとんど知られていない大阪の街と人、川と橋、大阪らしい建築物、事件や事故などの「現場」を訪ねるストーリーです。

「現場」といっても、ふだん私たちが歩いている「ターミナル」や「盛り場」「オフィス街」「川べり」などで、それが「歴史の入り口」だとはなかなか気がつかないものです。松井さんは、案内人の西俣稔さんと共に歩いて、「大阪の街は、なぜこんな『かたち』をしているのか」を現場で考え、時代時代で大阪のひとびとを救ったり元気づけたり笑わせたり泣かせたりした有名無名のヒーローやヒロインに思いを馳せます。

「私自身、別に歴史好きでもなかったが、教科書には出てこない大阪の歴史を知るにつれ、次第にのめり込んでいった。名もない先人の営みがあったからこそ、今がある。町のたたずまいは変わろうとも、時間の縦糸が現在につながっている。そんな当たり前のことに気付かされた。」(「あとがき」より)

お恥ずかしいことに、私がこの連載の存在を知ったのは、たしか2017年の夏頃でした。「新聞連載」と聞くと、「堅っ苦しくて上から目線」だと思っていた私は、記事を2〜3本拝読してそれが浅はかな思い込みだと知りました。「きのうまで知らなかったが、現場でそれを知って驚いている」という読者と同じスタンスで歩きながら、それをストレスなくすらすら読める「手練れ」の、読者フレンドリーな文章に仕上げられています。「これなら、歴史好きの小中学生から80代、90代の人まで楽しめるわ!」と引き込まれました。

本として着地するまでの、長い長い道のり

「福沢諭吉誕生地」碑

朝日放送の南にある「福沢諭吉誕生地」碑の前から、堂島川を挟んで玉江橋にカメラを向ける松井さん。大阪中之島美術館はまだ「黒い直方体」にはなっていない(2020年8月11日撮影)

そこまではよかったのですが、数百回の連載原稿はボリュームがありすぎて、1冊の本ではぜんぜん収まらない。「どこをどう切り取って本にするか」について、著者である松井さんとの間で何度も話し合いをしました。本のたたずまいを決めるデザインも「ちょっとこの感じでは松井さんの文章のおもしろさが前に出ぇへんなぁ……」と、これまた何度もやり直しをしました。

そんなこんなの紆余曲折を経て、やっとのことで「まずは松井さんのホームグラウンドである大阪市北区界隈」を、天満/曽根崎・梅田・堂島/中之島の3ブロックで構成しよう……ということに決まり、松井さんが連載時に訪ねた場所の再取材を一緒に行いました。それが2020年夏のこと。本人にとっては15年ぶりに訪れた場所も少なからずあり、当時と変わっているところは大幅に加筆・修正してくれました。

それでいよいよ出版……となりそうなのに、長引くコロナ禍で出版時期が延びに延び、この6月13日(月)にやっと日の目を見ることになりました。厳選された60篇の原稿に書かれた「歴史の現場」は、梅田や淀屋橋、南森町などの駅から徒歩数分で行ける「いつもの」場所ばかり。そんな場所で、古代から中世〜近世〜近現代と実にバラエティに富んだ人物や事件などの歴史が顔を出します。

「身近なところなのに、何故そんな大事なことを知らなかったのだろう」

大阪で雑誌や書籍の編集を40年近くやっている私でさえそう思ったほどなので、内容のおもしろさは保証します。読み物としても十分楽しめますが、できれば地図を頼りに「歴史の現場」へと足を延ばしていただければ、あなたなりのあたらしい発見が、必ず待っているはず。大阪という街のおもしろさ、深さを知ることができます。

〈お知らせ〉
●著者の松井宏員さんが、6月14日(火)朝8時頃から朝日放送ラジオ「おはようパーソナリティ小縣裕介です」に生出演します。

●『大阪キタと中之島 歴史の現場 読み歩き。』の発刊を記念して、6月30日(木)18時半からナカノシマ大学に講師として登壇します。テーマは「天満堀川・蜆川(しじみがわ)……消えた川と橋」。場所は大阪府立中之島図書館3階多目的スペース
お申し込みはこちらから

https://nakanoshima-daigaku.net/seminar/article/p20220630

書店さま、お取引についての大切なお知らせ

2022年5月26日 木曜日

【お知らせ】

この度、140Bはあらたに選書のできる本の専門卸会社「株式会社 子どもの文化普及協会」さまと取引を開始致しました。

これまで、いわゆる大手取次販売店さまとお取引のない小売店さまには商品の仕入れについてご不便をおかけしてきたと存じます。

今後、既存のトーハンさま、日本出版販売さま、楽天ブックスネットワークさま、中央社さまと合わせて商品調達にぜひご利用下さいますよう、お願い申し上げます。

子どもの文化普及協会さまの仕入先一覧

140Bの図書目録

2022年5月26日
140B青木雅幸

拝啓・古地図サロンから 30

2022年5月15日 日曜日

2022年3月25日・本渡章より

【今回の見出し】

3月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動
  • 古地図ギャラリー第10回

①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その10〉

昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その10〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:3月25日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。多忙が続き、今回も更新が遅くなりました.5月のサロンは予定どおり開催しますので、よかったらのぞいてみてください。

3月のサロンは教材になった地図を特集しました。過去には「歴史地図」などと題された地図の本が学校で使われていたのですね。視覚に訴える地図が、歴史の理解に役立てられていたわけです。戦前のものだと、歴代の天皇の系図も載っていて、あらためて時代を感じます。一方で、参考に展示した理系の教材は植物の分類など美しい絵入りで詳しく解説され、今の目で見てもなかなかの出来栄え。戦前の教育については知らないことも多いと、これもあらためて思います。

戦後の都市計画図と施設・交通案内図も公開しました。昭和30年代は復興がひととおり終わって、高度成長期を迎えた時代と一般に言われますが、計画図を見ていると、30年代は復興の第2段階だったのでないかと思えてきます。少なくとも、大阪市中では戦災地域の復興にかなりの時間差があったと地図から推察されました。

というようなことをお話しましたが、サロンは基本的に気軽な雑談の場所です。ブログをご覧の方から、サロンは古地図研究の場で敷居が高いと思っていたとの声をいただきましが、そんな大げさなものではありません。現在、サロンにお越しの方たちも研究しているという意識は無いと思います。古地図を見ながら、ゆったりとした時間を過ごす会とお考えください。

というわけで、次回も皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図

《地図教材 原本》
『小学外国地図』明治29年(1896)金港堂
『日本歴史別號』明治33年(1900)冨山房
『東洋歴史精図』昭和2年(1927)帝国書院
『日本歴史地図・改訂版』昭和2年(1927)三省堂
『新體日本歴史地図』昭和4年(1929)冨山房
『高等小学地理書附図』昭和15年(1940)東京書籍

《参考資料 原本》
『尋常小学修身書』明治25年(1892)阪上半七
『日露戦争実記』明治37年(1904)博文館
『小学綴方』大正6年(1917)同文館
『教範植物学』昭和4年(1929)帝国書院

《地図 原図》
大阪市都市計画街路及土地計画整理事業区画図 昭和35年(1960)大阪市区画整理局
大阪市施設交通案内図 昭和45年(1970)ワラジヤ

次回は2022年5月27日(金)午後3~5時開催の予定。

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。
サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。
(サロンは今後も奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

【最近と今後の古地図活動】

大阪の地名に聞いてみたブログ連載中

誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い。
月1回ペースで1年間の連載予定(題字と似顔絵・奈路道程)

第1回 大阪の干支地名エトセトラ【前編・後編】
第2回 続・干支地名エトセトラ&その他の動物地名【前編・後編】
第3回 桜と梅の大阪スクランブル交差点【前編・後編】
第4回 花も緑もある大阪【前編・後編】

新着番組、古地図でたどる大阪の歴史」公開中(大阪コミュニティ通信社)

江戸時代の大坂、近代以後の西区編に続き、街歩きスタイルの編集による港区編公開。
他に「古地図サロン」紹介編、著書「大阪24区の履歴書」紹介編の動画もあります。
引き続き、大正区編・此花区編と続く予定。

●「泉州人」で監修・執筆

「泉州人」(月刊「歴史人」別冊)3月31日・ABCアーク発行。
泉州の歴史と魅力再発見をテーマにした全20ページの冊子に「雨乞いが潤す人と食」など6ページにわたって監修・執筆。

特別展「清林文庫の魅力と、その古地図コレクション」終了
ナカノシマ大学「清林文庫誕生と古地図が語る時の物語」終了

清林文庫展(東畑建築事務所所蔵の「清林文庫」(建築・美術・地誌など他分野にわたる世界的コレクション)の展示が、大阪府立中之島図書館にて4月11日(月)~23日(土)開催され、多数の来場者を得て終了しました。最終日に展示と連動して行われたナカノシマ大学(講師・本渡章)も満席でした。ありがとうございました。
※清林文庫については古地図ギャラリー参照。

特別展「昭和~平成~令和をつなぐ鳥観図絵師列伝」5月16日より開催

昭和の初めから平成・令和にかけて、吉田初三郎・井沢元晴・石原正・青山大介の4人の鳥観図絵師が描いた街と山河の風景を一堂に展示。21日には青山大介ワークショップも実施されます。展示の企画・構成は本渡章。
会場は大阪府立中之島図書館3階展示室。開催期間は5月16日(月)~28日(土)

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定

6月17日(金)午前10時30分~12時「地図で訪ねる昭和30年代の大阪」

いちょうカレッジで4回シリーズ講座開催予定

入門科「大阪のまち探検コース」~歩いてみたくなる大阪のまち~
5月31日(火)・6月7日(火)・14日(火)・21日(火)各午後2時~4時
古地図がテーマの4回連続講座。いずれも教室での座学です。
大阪駅前第2ビル5階 総合生涯学習センター

|古地図ギャラリー|

1.【新改正摂津国名所旧跡細見大絵図】

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その10〉

掲載の図は江戸時代に数多く出版された広域の名所案内図のひとつ。摂津国とは現在の大阪府とは領域が大きく異なります。どちらも大阪市中と北摂が含まれますが、摂津国には兵庫県の東部が加わり、河内と泉州は入っていません。河内は河内国、泉州は和泉国として独立していました。題名のとおり、名所旧跡と街道筋の案内を主な内容とし、広い摂津国を一覧できる大きな図です。発行は天保7年(1836)で大塩平八郎の乱の前年にあたります。幕末に近づき、世相に不穏な空気が漂うなか、物見遊山のための地図の需要もあいかわらずだったのが伺えます。
注目したいのは凡例です。「歌名所古跡」「俗名所古跡」と名所をふたつに分けて載せているのはどうしてでしょう。名所とは、もともと「歌枕の名所」を指します。歌に詠まれて名を知られた場所という意味なのですが、時代が下がると、歌に詠まれてはいないが有名な場所も名所と呼ばれるようになり、江戸時代には名所観光大流行。凡例はそこからさらに進んで、名所をさらに分類して歌名所と俗名所と呼びました。あまり見かけない分類です。「俗名所」とは歌が「雅」の世界であるのに対して、「俗」の世界を打ち出したものでしょう。図中では例えば「岸の姫松」(写真・住吉大社の近く)が▲印で示された歌名所古跡で、当地を詠んだ次の歌が『古今和歌集』にあります。

我見ても 久しくなりぬ 住吉の 岸の姫松 いく夜経ぬらん

一方、●印の俗名所古跡には例えば「荒陵茶臼山」が挙げられています。どちらも由来の古い名所ですが、江戸時代には姫松が教養の対象、茶臼山が庶民的な行楽の対象と認識されていたようです。この図は江戸時代の名所受容の変遷を伝える興味深い例といえます。

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////

東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

 

2.【笠岡市全景立体図】

鳥観図絵師・井沢元晴の作品より〈その10〉

「笠岡市全景立体図」は昭和28年(1953)発行。古地図ギャラリー第4回(2021年3月)の「福山展望図」、第9回(2022年3月)の「躍進井原市」と同時期に作成されました。笠岡市は岡山県南西部の小都市で、江戸時代には福山藩によって開発がすすめられ、現在も広島県の中核都市である福山市と連携しつつ発展してきました。井原市も福山市との関係が深く、3つの市は境を接し、歴史も共有してきたのです。笠岡市・井原市・福山市を描いた3つの鳥観図は、戦後の復興を経て新たな一歩を刻み始めた日本の諸都市の姿を映して、絵師・井沢元晴の初期を代表する三部作になりました。後の作風とはタッチがかなり異なりますが、山河に抱かれた街の営みを描き残す意図は一貫しています。
「笠岡市全景立体図」で見る市街は、古くから海運の拠点だった笠岡港、大仙院を中心にした門前町、山裾や山間の農業地が、背景の緑の山々に抱かれて一体となった風景を見せています。戦後の笠岡市は備後工業整備地区に指定され、図の発行から10年余を経た昭和40年(1965)には、隣接する福山市にまたがって日本鋼管福山製鉄所(現・JFEスチール西日本製鉄所)が当時の最大級の規模を誇る製鉄所として開設されました。図の市街はのどかです。金浦港の岸に記された「カブトガニ」は、当地に生息する天然記念物の呼び名とのこと。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

過去の古地図ギャラリー公開作品

第9回(2022年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「暁鐘成・浪花名所独案内」

②本渡章所蔵地図より「大阪市観光課・大阪市案内図

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「躍進井原市」

 

第8回(2021年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」

②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」

 

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

拝啓・古地図サロンから 29

2022年3月10日 木曜日

2022年1月28日・本渡章より

【今回の見出し】

1月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動
  • 古地図ギャラリー第9回

①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その9〉

②本渡章所蔵地図より〈その8〉

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その9〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:1月28日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。今回は更新が遅くなり、お待たせしてしまいました。

当日は感染の行方が不透明で、外出にも自粛ムードが漂うなかでの開催となりました。参加人数を気にしなくてすむ会合の強味とはいえ、オープン後しばらくは来訪者が2、3人。静かなスタートはさすがにコロナ禍中を思わせましたが、後半は7人ほどとなり、初参加の方もお2人おられて、いつもとあまり変わらない雰囲気で終えられました。しばらくは、こんな状況が続くと思います。2022年もよろしくお願いいたします。

さて、今回の展示古地図は数が少なめですが個性の強いものを並べてみました。「大阪市街全図」は大正初期の著名会社や商店を細かく記載。この図については、参考展示した冊子「大阪に関する地域資源の掘り起こし・再評価とDCHによる繋がりの創出」に解説があり、仁丹の社長宅、相撲のタニマチの由来となった「薄医院」などが載っていると記されています。図は100年以上前の内容で、今も残る会社・商店をつい探してしまいます。サロンの皆さんもそれが楽しみのようです。「大阪府中等以上学校分布図」は戦争突入直前の学校分布の図。当時は女学校や職業学校が多かったと気づかされました。「大大阪最新地図」は著書『古地図でたどる大阪24区の履歴書』でも取り上げ、実現しなかった幻の中島区・姫島区が載っている大大阪誕生記念の地図。「世界古美術即売大展観」は、日本橋にあった松坂屋で開催の古美術即売会を双六風にアレンジした会場案内図。絵に味があり、戦前の賑わい風景に触れた気分になります。その他、計6点。少ないぶん、ひとつひとつじっくり見ていただけたかと思います。

今日は、またお一人、家のルーツを知る手がかりを求めて来場された方がいました。江戸時代から続くお店が家業で、昔の足跡については資料が乏しく、不明な点が多いとのこと。古地図サロンは気軽な雑談の場ではありますが、何かお探しの方のお役に立てるのなら、うれしいです。

というわけで、次回も皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図

《原図》
大阪市街全図 付著名諸会社・銀行・商店案内 大正2年(1913) 大阪毎日新聞社
大大阪最新地図 編入接続町村都市計画区域及路線明細 大正14年(1925) 大阪朝日新聞社
大阪近郊 昭和2年(1927) 大日本帝国陸地測量部
世界古美術即売大展観 昭和13年(1938) 大阪日本橋松坂屋
大阪府中等以上学校分布図 昭和16年(1941) 大阪府学務部学務課編
最新大阪市案内図 昭和31年(1956) 大阪市交通局

《参考》
「大阪に関する地域資源の掘り起こし・再評価とDCHによる繋がりの創出」(冊子)
令和2年(2020)発行  発行者・関西大学人間健康学部 浦和男研究室

次回は2022年3月25日(金)午後3~5時開催の予定。

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。
サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。
(サロンは今後も奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

【最近と今後の古地図活動】

新ブログ大阪の地名に聞いてみた連載スタート

誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い。
いっしょに耳を傾けてみませんか。月1回ペースで1年間の連載予定(題字と似顔絵・奈路道程さん)。

連載1回目は「大阪の干支地名エトセトラ」(前編・後編)。公開中。

※写真は新ブログの看板猫(猫間川)

新着番組、古地図でたどる大阪の歴史」のご案内

江戸時代の大坂、近代以後の西区編に続き、街歩きスタイルの編集による港区編もまもなく公開。
他に「古地図サロン」紹介編、著書「大阪24区の履歴書」紹介編の動画もあります。

中之島図書館・特別展「清林文庫の魅力と、その古地図コレクション」
ナカノシマ大学清林文庫誕生と古地図が語る時の物語」

4月11日(月)~23日(土)大阪府立中之島図書館にて開催。今年創立90周年を迎えた東畑建築事務所(大阪市中央区)が所蔵する「清林文庫」(建築・美術・地誌など他分野にわたる世界的コレクション)から、大坂・京都・江戸の三都の古地図を中心に江戸時代の世界地図も展示。東畑建築事務所と同コレクションの歴史を語る資料も公開。
※清林文庫については古地図ギャラリー参照。

特別展の連動企画として、展示最終日の4月23日(土)には、展示内容の解説と「清林文庫」誕生にまつわる逸話を紹介する講座「清林文庫誕生と古地図が語る時の物語」を開催します。会場は大阪府立中之島図書館2階ホール。講師は本渡章。

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定

4月25日(月)教室・5月9日(月)現地 午前10時00分~12時「庚申街道沿いの史跡を訪ねて」


|古地図ギャラリー|

1.暁鐘成・浪花名所独案内】

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その9

掲載の図は江戸時代の観光案内として、今でも昔の大阪を語る本や雑誌などに登場していますので、見たことがある方もおられるでしょう。その多くは友鳴松旭(ともなりしょうきょく)・作の「浪華名所獨案内」です。友鳴松旭については前回の古地図ギャラリー掲載の「大日本早見道中記」の絵師として紹介しましたので、そちらをご覧ください。今回掲載したのは、暁鐘成(あかつきのかねなり)の筆による「浪花名所独案内」。友鳴松旭の作とは題名の文字表記が少し異なり、図の内容も一部が異なるものの、ほぼ同じ。図の上に豊臣秀吉の大坂築城にはじまる街の歴史を説く文言が記されているのが改訂版の特徴です。

暁鐘成(1793~1860)は江戸時代の浮世絵師で戯作者。狂歌・随筆・読本・啓蒙書など活躍の幅は広く、なかでも没後70年近くを経た昭和3年(1928)刊行の「摂津名所図会大成」は地誌の傑作とされます。友鳴作「浪華名所獨案内」を世に出した版元が、絵師を人気作者の暁鐘成に代えて改訂版を作成したのは、観光案内の地図が息の長い売れ行きが期待できるコンテンツだったことを伺わせます。

題名の表記が一部変わって「浪花名所独案内」になったのは、なぜでしょう。改訂版では友鳴作の版に描き込まれた色別の観光ルートがなくなりました。遠景の山々を描くタッチも微妙に違います。端的に言うと、絵画的な色合いが濃くなりました。旧版と同じ内容のようで、細部にこだわりが見える。そこに、絵師・暁鐘成の意気を感じます。

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////

東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

2.大阪市観光課【大阪市案内図】

本渡章所蔵地図より〈その8〉

大阪は江戸時代から観光案内図の題材になる名所がたくさんありました。明治以後は、街の近代化にともなって登場した新名所が加わり、交通機関の発達もあって、観光に便利な地図が数多く出回るようになりました。昭和15年(1940)発行の「大阪市案内図」は大阪市観光課が作成。赤地に青い文字、白抜きのイラストの表紙がなかなかモダン。描かれたのは市役所前の街角です。

開くと中面が地図。「昔よりの大路堺筋」「南北の大道路御堂筋」「綿市呉服ノ本町」「洋服商街ノ谷町」「繁華ノ中心路心斎橋」「銀行商社街ノ高麗橋」「薬種問屋ノ道修町」「陶器商ノ西横堀」「菓子玩具ノ松屋町」など、赤い囲みの中の文言が、戦前の賑わいがどこにあり、当時の人々がどんな風景を見ていたのか、伝えています。裏面は当時の名所案内記。大阪城公園、大阪城天守閣、天王寺の美術館・動物園などと並んで電気科学館が大きく紹介され、天象館(プラネタリウム)実演をアピールしています。綿市呉服、洋服商街、薬種問屋、天象館……地図は時代の言葉のカプセルだと、あらためて思います。

3【躍進井原市】

鳥観図絵師・井沢元晴の作品より〈その9〉

「躍進井原市」は、古地図ギャラリー第4回(2021年3月)で紹介した「福山展望図」の姉妹編ともいうべき作品。昭和28年(1953)、井原市に市政が施行されたのを記念しての発行です。戦地からの復員後、西日本を中心に各地の街や山河を描いてきた井沢元晴は、福山市、井原市を鳥観図に残し、戦後の復興を遂げた街々の姿を今に伝えました。

井原市は岡山県南西部の小都市。隣接する広島県福山市とのつながりが深く、市域が江戸時代の福山藩領と重なっています。源平合戦で活躍した那須与一ゆかりの地で、戦国大名の北条早雲の出身地としても知られる街。この図にも那須与一の墓、那須一族の大山氏の居城だった青蔭城跡など由緒ある旧跡が描き込まれ、桜名所で名高い小田川沿いの井原堤は桜並木が花を咲かせています。裏面に記された井原市の概況の文面にも、市制施行を機に観光や産業の発展をめざす街の意欲があふれています。図中に並んでいる丸囲みの数字は、裏面で紹介されている地元の企業や商店の場所を示しています。

桜色に縁どられた小田川を挟んで、緑の山々と市街地の営みがやわらかな空気に溶け込んでいます。現在の井原市は美術館や天文台、日本庭園などの施設も整って、文化の香りも漂わせる街になりました。この図にもすでに天文台が載っています。来年、井原市は市制70周年を迎えます。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

過去の古地図ギャラリー公開作品

第8回(2021年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」

②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」

 

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

拝啓・古地図サロンから 28

2021年12月14日 火曜日

2021年11月26日・本渡章より

【今回の見出し】

11月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動
  • 古地図ギャラリー第8回

①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その8〉

②本渡章所蔵地図より〈その7〉

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その8〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:11月26日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。秋から冬へ、季節が足早に過ぎて行きます。

今回は「大阪古地図集成」の復刻地図20点余と江戸~明治の原図4点を並べての展示です。原図が主役のサロンですが、この数回は復刻版と見比べてきました。この日は主客逆転で復刻版がメインです。「大阪古地図集成」は玉置豊次郎著・大阪都市協会刊『大阪建設史夜話』付録の復刻地図集(全25点)です。サロンのスペースには並べきれないので、お話をしながら少しずつ広げて見ていただく形式になりました。江戸期から明治期へ連続して見ていくと、大坂から大阪へ、ゆるやかに、時に激しく、街の姿が変貌してきたのがわかります。別途に用意した原図と同じ内容の復刻図を見比べると、年代を経た風合いこそ原図にかないませんが、復刻には復刻の見やすさ、美しさがあると思えてきます。

来場者がご自分の古地図や資料を持参され、歓談の輪ができるのもサロンならではの風景。古地図の中に家のルーツを探す方もいて、他の方からの情報に耳を傾けておられます。かと思うと、今日も初めての参加者がいて、次々と質問も飛び出します。サロンのことを知らずに、かたわらの席で珈琲を飲んでいて、いつのまにか古地図に惹かれて話に加わる方もいました。これまでサロンに来れなくて、たまたま仕事が早く終わったので駆けつけたとおっしゃる方がおられたのには恐縮しつつ嬉しくも思いました。参加の仕方もいろいろです。

飛び入りで、第4回古地図ギャラリーで紹介した鳥観図絵師・青山大介さんの最新作「姫路城下町鳥観図2021」のポスターを展示できたのはうれしいサプライズでした。ポスターを持ってきてくださった方のお話によると、元の鳥瞰図は姫路駅の案内所に飾られているそうです。

 

というわけで、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

 

◉今回のサロンで展示した古地図

《原図》
弘化改正大坂細見図 弘化2年(1845)
増修大坂指掌図 寛政9年(1797)
摂津国大阪府区分新細図 明治12年(1879)
新撰大阪市中細見全図 明治14年(1881)
改良大阪明細全図 明治20年(1887)
吉備路 作・井沢元晴

《復刻》「大阪古地図集成」より
新板大坂之図 明暦3年(1657)
辰歳増補大坂図 元禄元年(1688)
新撰増補大坂大絵図 元禄4年(1691)
新撰増補大坂大絵図 貞享3年(内容は宝暦8年・1758以降)
摂津大坂図鑑綱目大成 享保末(1730頃)
摂州大坂画図 寛延改正(1749頃)
改正懐宝大阪図 宝暦2年後(1752後)
増修大坂指掌図(表面) 寛政9年(1797)
増修大坂指掌図(裏面) 寛政9年(1797)
増修改正摂州大阪地図全(東半) 文化3年(1806)
増修改正摂州大阪地図全(西半) 文化3年(1806)
文政新改摂州大阪阪全図 文政8年(1825)
改正摂州大坂之図 天保7年(1836)
改正増補国宝大阪全図 文久3年(1863)
新撰大阪府管内区別図 明治8年(1875)
大阪府管轄市街区分細見縮図 明治10年(1877)
摂津国大阪府区分新細図 明治12年(1879)
新撰大阪市中細見全図 明治14年(1881)
実測大阪市街全図 明治18年(1885)
内務省大阪実測図(東半) 明治21年(1888)
改正新版大阪明細全図 明治23年(1890)
新町名入大阪市街全図 明治33年(1900)

次回は2022年1月26日(金)午後3~5時開催の予定。

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。

(サロンは今後も奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

【最近と今後の古地図活動】

動画番組、進行中

大阪コミュニティ通信社(大阪市此花区)制作の動画番組「大阪の区150年の歩み」を語るシリーズは総論編、西区編を公開中。港区編は撮影終了、街歩きスタイルの編集でまもなく公開予定。他に「古地図サロン」紹介編、著書「大阪24区の履歴書」紹介編の動画もあります。(検索:大阪コミュニティ通信社)

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定

12月17日(金)午前10時30分~12時 江戸時代の地図絵師と伊能忠敬の系譜

2022年1月28日(金)・2月25日(金)・3月25日(金)午前10時30分~12時
古地図地名物語[東淀川区・淀川区・西淀川区](検索:朝日カルチャーセンター中之島)

 

大阪府立中之島図書館での展示計画

2022年は大阪府立中之島図書館・展示室にて3つの特別展を計画しています。詳細は次回以後に順次お知らせします。

|古地図ギャラリー|

1.【友鳴松旭・大日本早見道中記

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その8

日本は地図大国ともいわれます。とりわけ江戸時代には大量かつ多様な地図が流布しました。街道筋が整備され、地図出版が盛んになり、旅が身近なものになりました。街道を描いた地図には名所や宿の情報も盛り込まれ、見るだけでも楽しく、人を旅情を誘います。

ここに紹介する「大日本早見道中記」もそのひとつ。作者は友鳴松旭(ともなりしょうきょく)。発行年は書肆データ(早稲田大学図書館)によると安政元年(1854)。図は広げると2メートルを超える横長で、折りたたむと懐中に収まる携帯サイズ。写真は〈江戸~京~大坂〉〈近畿〉〈九州・四国・中国西部〉の各部分図。街道に沿って城、寺社、宿場、旧跡などの名称が散りばめられ、宿場から宿場への距離を表す里数も記されています。長い海岸線に囲まれ、網の目の街道筋に覆われた列島に山と川がアクセントになって風景が立ち上がる江戸後期の日本列島のイメージがよく表れています。江戸・京・大坂の文字はひときわ大きく、九州の眼前に対馬、さらに朝鮮が描かれているのも、目につきます。

友鳴松旭は江戸後期から明治にかけて活躍した絵師、戯作者。今でも挿図や展示にしばしば用いられる観光絵図「浪華名所獨案内」の作者としてご記憶の方もおられるかもしれません。「浪華名所獨案内」は次回ギャラリーで、別の作者による競作図をとりあげる予定です。複数の作者による競作、改作は江戸時代にはジャンルを越えて行われました。地図の世界も同様で、それがまた表現の場を広げていったのです。

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////

東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

2.【遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図【清水吉康・東海道パノラマ地図】

本渡章所蔵地図より〈その7〉

前回のギャラリーに登場した遠近道印(おちこちどういん)の話の続きです。道印が天和年間(1681~84)に加賀藩前田家に献上した「東海道絵図」は東海道の俯瞰図で、江戸時代に数多く出版された道中図の先駆けとして知られています。同図は、元禄3年(1690)に浮世絵師の菱川師宣(ひしかわもろのぶ)によって「東海道分間絵図」と題した絵巻物タッチのリメイク版が刊行され、世に広まりました。

ここに掲載したのは、昭和3年(1928)刊の清水吉康「東海道パノラマ地図」(*注)の裏面・付録になった「東海道分間絵図」。別冊・東海道旅行案内とセットになった函入り地図です。遠近道印・菱川師宣・清水吉康、時代も作風も異なる3人の足跡が300年以上の年月を経て、ひとつの函に収まっている姿に、絵図と地図の間に広がる世界の豊かさを感じます。

「東海道分間絵図」は今回のギャラリーに併載の「大日本早見道中図」と同じく街道案内が主眼の道中図のバリエーション。街道地図でありながら名所絵、風俗絵でもあるところに菱川師宣が筆をとった意味があります。菱川師宣といえば浮世絵の元祖と呼ばれたパイオニアですが、地図の分野でもユニークな足跡を残しました。

清水吉康は明治から昭和にかけて活躍した鳥観図絵師。近代版の東海道絵図にあたる「東海道パノラマ地図」を広げてみれば、街道ならぬ鉄道路線が東西に連なる街々をつらぬく風景が延々と続きます。筆者の小宅では2部屋またいでも広げきれない超横長図です。表面の「東海道パノラマ地図」、裏面の「東海道分間絵図」、まったく趣の異なるふたつの図。風景を描く人の目にも時はうつろいます。写真は「東海道分間絵図」より「大井川」、「東海道パノラマ地図」より「目次・東京市」「京都・伏見」の各図及び函(題名附)です。

*注…「東海道パノラマ地図」は最初の版が大正10年(1921)に駸々堂旅行部から刊行。掲載したのは後に金尾文淵堂が刊行した増補版の部分図。

3【吉備路】

鳥観図絵師・井沢元晴の作品より〈その8〉

井沢元晴の作品は現在、ご遺族が原画とともに印刷物になった鳥観図を所蔵し、新聞記事や映像資料とあわせて保管と整理を続けておられます。この「吉備路」と題された作品は制昨年不明の原画「吉備の国」の一部が印刷物として刊行されたもの。海の青に抱かれた島と山と街の姿が一体となった美しさに惹かれます。写真は〈岡山港周辺〉〈備前市周辺〉の各部分図。地図を収めた袋の表紙には「鳥になって故郷をみよう」とあり、説明文には次の一節も(原文ママ・写真参照)。

ミニチュアの街をつくったり、飛行機にのったり、鳥観図を眺めたり、
山や高いビルに登るだけでもいい、
自分たちの街を、ふるさとを鳥になって眺めてほしい。
いままで見えなかったものが見えてくる。自分たちの街が、故郷が
たまらなくいとおしく、ほうずりしたいほどに感じられるだろう。
鳥になってふるさとを見れば
街づくり、村おこしの新しい力が湧いてくる。

……末尾には、「あなたの手法で鳥観図を描いてみませんか」と《タウン・スケッチ運動》を提唱する言葉が添えられています。説明文の題名は「井沢元晴展の目的」。1980年代後半に各地で開催された井沢元晴展に寄せての力強いメッセージです。昭和の伊能忠敬と呼ばれた井沢元晴が永眠したのは1990年の初秋でした。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

過去の古地図ギャラリー公開作品

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

拝啓・古地図サロンから 27

2021年10月11日 月曜日

 

2021年9月24日・本渡章より

【今回の見出し】

9月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動
  • 古地図ギャラリー第7回

①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その7〉

②本渡章所蔵地図より〈その6〉

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その7〉

 

 

■古地図サロンのレポート

開催日:9月25日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。すっかり秋になりました。

今回は明治時代の地図を中心に江戸時代の絵図の復刻版をまじえて展示してみました。明治の地図は1点を除いて今から百年以上前に発行された原図(発行年当時のオリジナル版)です。明治の地図は江戸時代の絵図の面影があったり、当時の作成者の思い入れあるグラフや解説文が載っているものが多く、楽しめます。いっしょに地図を覗き込みながら、こんな数字が載っている、こんなことが書いてあると語らえるのがサロンのいいところ。明治末期の「実地踏測大阪市街全図」の大阪の富力をコインの大きさや煙突の高さで示したグラフなど、この時代の活気をうかがわせます。地図ではないものも1点。明治前期の定宿帳の表紙に記してある大阪屋庄蔵がいったい何の店なのか、みんなで想像をたくましくしたのも面白いことでした。

いつもは展示を原図(発行年どおりのオリジナル版)で揃え、原図をもとに作りなおした復刻版は参考に見ていただくだけでしたが、この日は復刻版にも注目が集まりました。表紙付きでサイズも大きな復刻絵図3点は情報量が多く、凡例や縮尺など江戸時代の地図の見方を含めて、いくつも質問をいただきました。かつての日本の街道筋を網羅した「諸国道中大絵図」は、付録の道中用心集が愉快。船酔いした時には童子の*を飲むと治るなどスゴイことが書いてあります(*が何かは想像してください)。復刻版は原図より取り扱いがしやすい利点もあり、そのうちにまた展示に加えてみたいと思いました。

というわけで、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

 

◉今回のサロンで展示した古地図

《原図》
改良大阪明細全図 附堺・奈良・西京・神戸兵庫市街図 中島徳兵衛 明治20年(1887)
大演習枢要地図 中村鐘美堂 明治31年(1897)
大阪市新地図 附神戸市全図・堺市全図及び第5回内国勧業博覧会会場予定地 駸々堂 明治35年(1902)
実地踏測大阪市街全図 和楽路屋 明治43年(1910)
大阪屋庄蔵・引合定宿 明治16年(1883) ※この図版は地図ではなく定宿帳。
倉吉市と周辺 文化遺跡絵図 作・井沢元晴 昭和58年(1983)

《復刻》
新町名入大阪市街全図 大阪市役所 明治33年(1900)
新板摂津大坂東西南北町嶋之図 大和屋 元禄年中
新撰増補大坂大絵図 諸大名御屋敷・堂社仏閣絵入 林氏吉永 貞享4年(1687)
辰歳増補大坂図 元禄元年(1688)
諸国道中大絵図(大日本行程大絵図) 附道中用心集・集印帳 江戸時代末期

 

次回は2021年11月26日(金)午後3~5時開催の予定。

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。

(サロンは今後も奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

【最近と今後の古地図活動】

動画番組、スタート

大阪コミュニティ通信社(大阪市此花区)制作の動画番組がはじまりました。『古地図でたどる大阪24区の履歴書』をもとに「大阪の区150年の歩み」を語るシリーズとして順次公開していきます。現在、イントロに当たる回が公開中。古地図サロン会場での動画と併せてご覧になれます。(検索:大阪コミュニティ通信社)

ナカノシマ大学「古地図トピックス ザ・ベスト10」開催

9月25日午前10~11時30分、中之島図書館・多目的ホールにて開催。古地図サロンで公開してきた約300点の古地図から選んだベスト10の紹介と解説など。特別展示として飯塚修三氏所蔵の天保年間作成の古地球儀、井沢元晴作の飛鳥鳥観図2点もご覧いただきました。(検索:ナカノシマ大学)

 

「伊丹人」で執筆・監修

伊丹市の歴史と文化をテーマにした冊子「伊丹人」に2頁執筆と監修。江戸時代から現代にまで続く俳諧~俳句の街・伊丹の魅力を名産の酒造の歴史とともに紹介。伊丹俳諧・特選5句の現代語訳なども。「伊丹人」(月刊誌「歴史人」発行元のABCアーク制作)は近日完成。

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定

10月25日(月)・11月8日(月) 各午前10~12時 古地図講座(教室)と町歩き(高槻の西国街道・上宮天満宮など)

12月17日(金)午前10時30分~12時 江戸時代の地図絵師と伊能忠敬の系譜

(検索:朝日カルチャーセンター中之島)

|古地図ギャラリー|

1.【石川流宣・江戸図鑑綱目坤】【遠近道印・江戸大絵図】

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その7〉

石川流宣(りゅうせん)は前回に続いての登場。掲載したのは江戸の町絵図を代表する逸品「江戸図鑑綱目坤」です。江戸の地理・風俗・伝承などをまとめた地誌「江戸図鑑綱目乾」(書籍)と坤・乾の対で作成され、現在も復刻版が出回るなど、時代を越えた人気があります。掲載の2図はそれぞれ江戸城(図中の御城)の北側、南側の部分図。南側で御三家の尾張、紀伊、北側で水戸の大きな屋敷が存在感を示し、周囲の武家屋敷群に格の違いを見せつけています。主な大名屋敷は家紋入り。有名寺社は境内の絵入り。海には帆船や御座船が描かれています。前回紹介した「日本海山潮陸図」と同様に彩色の美しさと武家屋敷や寺社、名所など情報量の豊かさが魅力です。初版は元禄2年(1689)。掲載図は元禄8年(1695)版。版を重ねて流布しました。

石川流宣の図とは趣の異なる江戸の町絵図もご覧ください。掲載したのは、宝永元年(1704)刊の「改正分間江戸大絵図」より、江戸城周辺の部分図。作者の遠近道印(おちこちどういん)(1628~1710頃)は石川流宣とともに江戸中期に一世を風靡した絵図師。富山藩医を務めつつ、蹴鞠名人の藤井半知(はんち)と同一人物ともいわれ、異色の経歴で知られます。この図は題名に「改正」とあるとおり、寛文5年(1665)出版の「新板江戸大絵図」の改訂版。浮世絵師でもあった石川流宣の美麗な筆致と比べると地味に見えますが、地図としての正確さを第一に道筋や街区を描いた初の刊行江戸図との評価を得た作品。遠近道印はその後も優れた絵図を世に送り、図翁と讃えられました。

石川流宣、遠近道印の没後、次の世代の絵図師として長久保赤水(せきすい)が活躍し、江戸後期には伊能忠敬が登場します。江戸時代の地図といえば、赤水図と伊能図(古地図ギャラリー第5回の清林文庫展チラシ参照)がまず挙げられますが、その前に道を拓いた石川流宣、遠近道印の名を忘れるわけにはいきません。流宣と道印、個性の異なる2人の作に描かれた船が、筆一本で地図の世界に漕ぎ出した絵師の夢を乗せて浮かんでいます。

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////

東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

 

2.【改正摂津大坂図

本渡章所蔵地図より〈その6〉

「改正摂津大坂図」は天保13年(1842)に浪花書林・石川屋和助から刊行されました。数多い江戸時代の大坂町絵図のひとつですが、この時期に作成された絵図ならではの特徴で存在感を発揮しています。掲載の部分図をご覧ください。大阪湾に向かって突き出た天保山が、地図の上でも四角い枠から出っ張った継ぎ足しで描かれています。出っ張りの継ぎ目に紙を貼り合わせた跡があり、天保山の部分が別途に刷られて継ぎ足されたのだとわかります。天保山は安治川の浚渫で出た土砂で生まれた人工の山。天保年間(1831~45)にできたので天保山です。江戸時代は夏の船遊び、冬の雪見で名高く、北斎、広重の浮世絵にも描かれる景勝地でした。話題の新名所を入れた絵図を売り出したい版元が、取り急ぎ天保山のところだけ版を作り、旧版に継ぎ足した結果、写真のような出っ張り絵図が世に出たわけです。改版に手間がかかる木版印刷の難点を補った江戸時代的合理主義といえるでしょう。天保以後の一時期、大坂の町絵図では「改正摂津大坂図」と同様の天保山出っ張り型の例が他にも見られます。江戸時代の各地の町絵図を見渡しても筆者の知る限り、同様の例は見当たりません。現代の地図でもお目にかからない凸凹スタイルは、この時期の大坂町絵図に特有の現象だったのかもしれません。

安政元年(1854)9月にロシアの軍艦、ディアナ号が天保山沖に出現した時は黒船騒動となり、天保山に砲台が築造されて、各藩が警備にあたりました。明治元年(1868)には明治天皇の大阪行幸があり、天保山で日本最初の観艦式を挙行しています。近代日本の国家的大事業となった大阪港建設も天保山を中心に進みました。天保山は江戸時代と近代のつなぎ目となる特別な場所に成長していったわけですが、その目で見れば「改正摂津大坂図」の出っ張りは天保山の未来を予見していたかのようにも思えてきます。

 

3 【倉吉市と周辺 文化遺跡絵図】

鳥観図絵師・井沢元晴の作品より〈その7

鳥観図絵師・井沢元晴の作品シリーズ。今回は「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」をとりあげます。倉吉は古代の伯耆国府の所在地で、中世以後は山名氏の居城を仰ぐ市町として栄え、江戸時代には池田氏の鳥取入府以後、陣屋町となりました。現在も鳥取県の主要都市に数えられる倉吉で、井沢元晴は土蔵を改造した仕事場を活動拠点としていた時期がありました。掲載図は昭和58年(1983)の刊行。晩年の円熟した画風が見られます。

倉吉市街の史跡と文化施設が中心に描かれています。湾曲する川筋に抱かれた盆地に市街はあり、周辺は緑の山並みが何重にも連なって海へと続きます。古墳や歴史のある神社、寺院が広範囲に散りばめられ、間を縫うように鉄道や道路が走っています。下方の海には日本海と記してあり、絵図が北を下にしているのがわかります。上方の遠くに出雲市の文字が見えます。通常の地図とは南北を逆にした意図は何でしょう。絵図の全体を見渡すと、前景に細長く日本海が横たわり、後景には彼方まで山々がのびています。手前に海浜、背後に山並み、その中間に街の営みを描くのは江戸時代の名所絵の定番の構図です。日本の街の多くは山を望む沿岸にひらけ、この構図で描くのが最も美しく映えるのをかつての絵師たちは知っていました。井沢元晴はそんな昔の絵師の智恵を盆地の街の倉吉絵図に復活させたのだと思います。

倉吉というと、大阪の方には江戸時代の大坂で米市をひらいた豪商・淀屋ゆかりの街として記憶されているかもしれません。地元で発行されたリーフレットによると、市の最古の町屋建築となった倉吉淀屋の屋敷は、全国的にも類例のない垂木構造の屋根を持ち、文化財に指定されているそうです。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

 

過去の古地図ギャラリー公開作品

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」
②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

第5回(2021年5月)
①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ
②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」
③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

第4回(2021年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」
②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」
④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図

第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

拝啓・古地図サロンから 26

2021年8月12日 木曜日

2021年7月16日・本渡章より、これをお読みのみなさまへ。

【今回の目次】
■7月の古地図サロンのレポートと次回予定
●最近と今後の古地図活動(講座・イベント・出版など)
★古地図ギャラリー第6回
①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その6〉
②本渡章所蔵地図より〈その5〉
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その6〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:7/16(金)午後3時~5時 大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。御堂筋にも猛暑の夏がやって来ました。日傘をさす人、日陰の側を行く人の姿が目につくなか、今回は8月の終戦記念日を前に戦時期の地図をテーマに特集してみました。

皇紀2600年とされる昭和15年(1940)発行された「大東亜共栄圏詳図」は週刊誌の付録。表紙は漫画タッチでアジアの国々の風物を描き、大東亜と呼ばれたエリアの広さに今さらながら驚かされます。戦中は日本の地図会社が日本統制地図という一社に統合され、軍事施設や港湾などの防衛情報が検閲の対象になりました。

昭和17年(1942)に日本統制地図が発行した最新大阪全図は重々しい雰囲気の表紙に検閲のマークが生々しく、大阪城とその周辺になった軍事施設が消されています。中面に載っている近畿名所交通地図と題された観光案内図にも史跡を戦意高揚に結びつける意図が反映されています。

見て楽しいものではないけれど、戦前、戦中の地図に漂う時代の空気を感じる経験は、いつかまた同じ道を歩まないために持っておいたほうがいいでしょう。戦争に関する資料や書籍はたくさんありますが、地図は視覚に直接訴えるだけに記憶に残るものがあるでしょう。

戦後の発行ですが、井沢元晴の鳥観図2点を並べたのは、絵図師・井沢元晴誕生の背景に戦争体験があるからです(古地図ギャラリーのプロフィル参照)。歴史の地、飛鳥をくまなく歩いて描いた緑ゆたかな史跡群の風景を見た後、空襲による焼失地域を示す赤色で覆われた昭和21年(1946)大阪市街図を広げると、赤く塗りつぶされた場所に何があったのかを思わずにはいられません。

テーマは重いですが、サロンは今回も明るい歓談の輪があちこちにできました。来場の方が持ち込んだ戦前の地図に、船場の街角の公衆便所が載っていて、現在も同じ場所に公衆トイレがあるとの証言が飛び出して盛り上がる場面がありました。こんな話題で笑いあえる平和が明日も続きますように。

会場のカフェ「feufeu」のスタッフ手作りの可愛いPOPにも和ませていただきました。ありがとうございます。というわけで、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図
《原図》
東京日日新聞「日露戦争地図」明治37年(1904)
京都武揚社「第十六師団機動演習地図」大正元年(1912)
和楽路屋「皇陵参拝全図」昭和5年(1931)
大阪毎日新聞社発行「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」昭和初期
大阪毎日新聞社編「中支戦局詳解地図」昭和12年(1937)
サンデー毎日編「大東亜共栄圏詳図」昭和15年(1940)
大阪師団経理部「大阪師管内里程図」昭和16年(1941)
日本統制地図「最新大阪全図・附近畿名所交通地図」昭和17年(1942)
文部省「初等科地図・上」昭和18年(1943)
地文社「戦災焼失区域明示大阪市地図」昭和21年(1946)
井沢元晴「古京飛鳥」
井沢元晴「近つ飛鳥河内路と史跡」

◉次回は9/24(金)15:00~17:00の予定

サロンは今後も奇数月の第4金曜開催(祝日と重なる場合は変更します)。会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは16:00頃からです。サロン参加は無料(ただしカフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。新型コロナウィルスの状況によって中止になる場合は、この場で事前にお知らせいたします。

■最近と今後の古地図活動

●読売新聞に記事掲載

6月21日付読売新聞朝刊「大阪ひと語り」欄に、「区の成り立ち綿密検証」と題して、新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』(140B)にまつわるインタビュー記事が掲載されました。取材・撮影は前回5月28日の古地図サロンにて。

●動画番組第1回、近日発信

大阪コミュニティ通信社(大阪市此花区)制作の動画番組がはじまります。新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』をもとに「大阪の区150年の歩み」を語るシリーズの第1回はすでに撮影完了。近日公開の予定。その後、番組は大阪の24区をめぐっていきます。

●朝日カルチャーセンター中之島での講座

8/27・9/24 各日10:30~12:00「古地図地名物語」(港区・大正区)
10/25・11/8 各日10:30~12:00古地図講座(教室)と町歩き(高槻の西国街道・上宮天満宮など)

・問い合わせ/06-6222-5222または朝日カルチャーセンター中之島で検索

●延期されたナカノシマ大学は9月25日開催予定

緊急事態宣言で延期された5月のナカノシマ大学は「古地図トピックス ザ・ベスト10」と題し、内容も改めて9/25(土)10:00〜11:30の日程で実施されます。これまでの古地図サロンで公開された約300点の古地図から選んだベスト10の紹介と解説など。会場は中之島図書館・多目的ホール。
※前回予告した清林文庫コレクションの特別展示は別企画として来年度に開催予定。

|古地図ギャラリー|

1.石川流宣「日本海山潮陸図」「日本国全図」
(東畑建築事務所「清林文庫」より・その6)

東畑建築事務所(大阪市中央区)所蔵「清林文庫」の逸品古地図をご紹介するシリーズも6回目。スタートから早や一年が過ぎようとしています。今回からはしばらくの間、江戸時代の作品を主にとりあげていきたいと思います。

最初に登場するのは石川流宣(りゅうせん)の「日本海山潮陸図」。元禄4年(1691)の初版以後の100年間で30回近くの版を重ね、江戸時代中期に最も広く流布した日本地図でした。石川流宣は菱川師宣の弟子だった浮世絵師。この図が人気を博したのは、彩色の美しさで地図に視覚的な魅力を加えたことが、まず挙げられます。図中に盛り込まれた豊富な情報が、さらに人々の興味をかきたてました。

大坂周辺の部分図を見れば、地名だけでなく各地の領主の名前、石高が記されているのがわかります。領主の交代などの情報が、版を重ねるごとに更新されたのも、息長く人気を保った理由でしょう。城や社寺、山々、船の絵も描きこまれ眺める楽しさもたっぷり。清林文庫所蔵の「日本海山潮陸図」は元禄10年(1697)版。

同文庫には、享保15年(1730)版の「日本国全図」と題された石川流宣作の二色刷りの図があり、内容は日本海山潮陸図と基本的に同じです。掲載した部分図は南海域で日本各地の一宮一覧表が載り、その横に羅列国・女嶋が記されています。羅列国は一般に羅刹(らせつ)国と表記され、悪鬼の住む国の意。羅刹は転じて仏教の守護神にもなります。伝承も入り混じった日本地図を広げて、江戸時代の人々は海の向こうの世界にも想像を広げたのです。浮世絵師で地図作者の石川流宣(1661頃~1721頃)は、浮世草子作家としても活躍した多才な人。流宣が世に出した日本地図は「流宣日本図」あるいは「流宣図」と総称され、地図史に大きな足跡を残しました。

☆東畑建築事務所「清林文庫」
創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15,000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

2.「大阪師管内里程図」(本渡章所蔵地図より・その5)

今回の古地図サロンで公開した図からひとつ取り上げました。大阪城にあった陸軍第四師団の経理部が昭和16年(1941)に作成した「大阪師管内里程図」です。

第四師団の管轄域の街々の間の距離を細かく記した地図を大型の冊子にまとめたもので、鉄道関係の資料付き。一般の地図帳とは明らかに趣の異なる図集です。異色さにひかれて、著書『続々・大阪古地図むかし案内』に掲載したものの当時は何の目的に使われたのかがわからず、冊子の内容をそのまま紹介するしかできませんでした。

その後、読者から頂いた資料を拝見して、この冊子は戦時中に陸軍経理部が物資輸送などの経費算出に用いた資料だったとの推定に至りました。移動距離を目安に経費の概算を割り出していたと考えられるのです。正確さには欠けますが、膨大な業務の迅速な処理には有効。戦時中であり、陸軍経理部の感覚は民間とは異なっていただろうことを想像すると、あり得る話に思えます。

冊子は少々の扱いでは破れそうにない分厚く頑丈な紙を用い、現在の印刷物では見られなくなった袋綴じで製本されています。飾り気のかけらもない表紙(写真)も、戦中という時代の一面を静かに語っています。

3.「倉敷美観地区絵図」
鳥観図絵師・井沢元晴の作品より・その6)

鳥観図絵師・井沢元晴の作品シリーズ。今回は倉敷美観地区絵図をとりあげます。

 

倉敷美観地区は市の条例で1969年に定められました。伝統的な建造物群と美しい街並みを次代に受け継いでいく試みが実を結び、現在も倉敷は有数の観光と文化の街として広く知られています。

絵図を4分割したうちの3つを掲載しました。中央が大原美術館、大原邸、東洋美術館、染色館、陶器館、板画館、新渓園などの名が図中に記されています。江戸時代は天領として発展し、明治以後は倉敷紡績とともに近代的な街並みに生まれ変わりました。昭和5年(1930)誕生の大原美術館は日本初の私設西洋美術館としてあまりに有名。エル・グレコ、ゴーギャン、モネ、マチスなどの名作を揃えて、倉敷を象徴する施設になっています。

絵図は美観地区の街並みを俯瞰しながら、ひとつひとつの建物を丁寧に写し取っています。これまで見てきた井沢元晴の鳥観図は街と山河が大きな風景の中で溶け合っていく構図が魅力でしたが、この絵図では街が主役になりました。分割図の左側には倉敷紡績の工場、センター街、国際ホテルが見えます。

中央は大原美術館をはじめ文化施設群、右側は江戸時代の倉敷に水運で繁栄をもたらした倉敷川が流れ、倉敷考古館が建っています。倉敷は戦中の空襲を免れました。米軍側の資料によると倉敷にも空襲の計画があり、戦争がもう少し続けば被災していたとのこと。絵図に描かれたのは江戸時代から連綿と続く街の歴史の姿です。

☆鳥観図絵師・井沢元晴
井沢元晴は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

 

過去の古地図ギャラリー公開作品

第5回(2021年5月)
①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ
②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」
③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

第4回(2021年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」
②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」
④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図

第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

 

 

本渡章さん紹介記事掲載のお知らせ

2021年6月23日 水曜日

昨日6/22の読売新聞朝刊(大阪版)に『古地図でたどる 大阪24区の履歴書』の著者・本渡章さんの紹介記事が掲載されました。

ネット記事もアップされていますのでご覧ください。

https://www.yomiuri.co.jp/local/osaka/feature/CO045751/20210620-OYTAT50032/

 

読売新聞さん取材ありがとうございました。

拝啓・古地図サロンから 25

2021年6月10日 木曜日

2021年5月28日・本渡章より、これをお読みのみなさまへ。

【今回の目次】
■古地図サロン第24回のレポートと次回予定
●最近と今後の古地図活動(講座・イベント・出版など)
★古地図ギャラリー第5回
①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その5〉
②本渡章所蔵地図より〈その4〉
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その5〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:5/28(金)午後3~4時30分 大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。今回は緊急事態宣言下での開催となりましたが、初参加者数名をお迎えし、メディア取材も2件(読売新聞・大阪コミュニティ通信社)もあって、新風が吹きこんだ感がありました。

今回のテーマは「鳥観図」。2018年に連続開催した鳥観図特集のアンコール版で、吉田初三郎、金子常光、しんび堂の作品を除くとすべてサロン初展示となりました。中でも異色は山口八九子の筆による「鞍馬図記」。日本画の筆遣いとモダンな彩色の取り合わせが古くて新しい鞍馬情緒をかもしだし、大正という時代のムードを感じさせます。

鳥観図といえば吉田初三郎が有名ですが、今回はさまざまな作者が個性を競った鳥観図表現の豊かさを見ていただきました。井沢元晴の「福山展望図」については前回の古地図ギャラリーでの紹介文をご覧ください。並べて展示した「躍進井原市」は福山市と文化圏を共有する井原市の市制施行記念に作成されたもの。そのほか、「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」(今回の古地図ギャラリー参照)は珍しい書簡図絵。通信欄の頁を折り込み、封をして切手を貼ると鳥観図付きの郵便物として投函可能。発行元は大阪毎日新聞社で、アイデア賞ものの一品。かつてのドル箱航路〈大阪~別府間〉などを描いた「瀬戸内海絵図」の発行元・大阪商船は現在の商船三井です。またいつか、鳥観図特集やりましょう。

この日は、東区で大正の初めまであった帽子屋の乗っている市街地図を探しておられる方が来場し、東区出身の他の来場者と話し込んでいました。次回はおそらく該当の市街地図がサロンで見られるのではないかと思います。初参加の中に、長野県から来られた方がいました。これまでに確認できた情報としては最も遠くからの来場です。信州大学には鳥観図サロンというものがあると聞きました。検索すると「信州大学鳥観図サロンサークル」で活動のようすなどが公開されていました。楽しそうです。

フリーペーパー「井沢元晴 漂泊の絵図師」(今回の古地図ギャラリー参照)と吉備路の鳥観図の展示コーナー(写真)も店内にできました。これは店長さんの手製による特設です。ありがとうございました。
というわけで、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図
《原図》
山口八九子「鞍馬図記」大正12年(1923)第2版
吉田初三郎「箱根名所図絵」大正6年(1917)
吉田初三郎「UNZEN」大正10年(1921)
吉田初三郎「日本鳥瞰中国四国大図絵」昭和2年(1927)
吉田初三郎「日本鳥瞰九州大図絵」昭和2年(1927)
金子常光「三朝温泉案内図絵」昭和3年(1928)
大阪商船株式会社発行「瀬戸内海絵図」昭和5年(1930)
大阪毎日新聞社発行「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日(書簡図絵)」昭和初期
上井萍人「三重県」昭和9年(1934)
前田虹映「鳥取県の観光」昭和14年(1939)
吉金本店発行「十和田湖案内図」昭和15年(1940)
しんび堂「神戸市案内絵図」発行年不明
井沢元晴「福山展望図」昭和28年(1953)
井沢元晴「躍進井原市」昭和28年(1953)

◉次回は7/16(金)15:00~17:00の予定

通常は奇数月の第4金曜開催ですが、7月は祝日となるため第3金曜に変更します。会場は大阪ガスビル1階カフェにて開催。私の30分トークは16:00時頃からです。サロン参加は無料(ただしカフェで1オーダーが必要)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。新型コロナウィルスの状況によって中止になる場合は、この場で事前にお知らせいたします。

■最近と今後の古地図活動

●ラジオ番組生出演2件

朝日放送ラジオ「おはようパーソナリティ道上洋三です」(4/27)
ラジオ大阪「原田年晴のかぶりつき金曜日」(5/14)

いずれも新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』(140B)の話をしました。「区」をテーマに、知っているようで知らない足元の歴史を紹介。

●古地図を題材に社員研修

4/28「大阪と大阪駅周辺の地誌」と題して、東畑建築事務所(大阪市中央区)にて講座形式で実施。新人研修プログラムのひとつに古地図を活用していただきました。同社の清林文庫及び本渡所蔵の古地図を見ながら、天満組・梅田・大阪駅の歴史が折り重なる風景を一望。

 

●動画ニュース発信・ネット番組は今夏より

5/28の古地図サロンがネットのニュース番組になりました。取材・編集は大阪コミュニティ通信社(大阪市此花区)。同社は新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』をもとに大阪の区の再発見番組を計画。公開は7月以降で、その予告編をかねたニュース発信になりました。
古地図サロンのニュース番組は https://ucosaka.com/program/20210604_hondosalon/

●朝日カルチャーセンター中之島での講座

5/19 新刊「古地図でたどる大阪24区の履歴書」出版記念講座を予定通り実施。
7/23・8/27・9/24 各日10:30~12:00「古地図地名物語」(此花区・港区・大正区)

・問い合わせ/06-6222-5222または朝日カルチャーセンター中之島で検索

●ナカノシマ大学は延期

5月22日に予定された中之島図書館・多目的ホールでのナカノシマ大学「清林文庫の世界と古地図トピックス」は緊急事態宣言により延期されました。日程は調整中。講座と同時期に予定された清林文庫コレクションの特別展示も次年度以降に延期となりました。

|古地図ギャラリー|

1.「2007清林文庫展(武庫川女子大学甲子園会館)」
「2019清林文庫展(本社オフィス大阪)」

(東畑建築事務所「清林文庫」より・その5)

東畑建築事務所(大阪市中央区)所蔵「清林文庫」の逸品古地図をご紹介するこのシリーズ、今回は趣向を変えて、過去に催された特別展示2例をとりあげました。

まず、2007年に武庫川女子大学甲子園会館で行われた「清林文庫展」は、同コレクション初の一般公開となった記念すべき試み。展示されたのは建築分野を中心に約30冊で、同事務所発行の解説書の目次にはナポレオン『エジプト誌』、ヴィトルヴィウス『建築十書』、メルカトル『世界地図帳』(古地図ギャラリー第2回で紹介)など同文庫の代表的な稀覯本が並んでいます。

 

解説書の本文と図版の中からトルスキー「ペトログラード都市図集」をご覧ください。ペトログラードは現在のレニングラード。ロシア文学の読者にはぺテルスブルグという過去の呼び名の方がピンとくる大都市で、本書の図をすべて合わせると4メートル四方になるとのこと。出版は1753年。できれば古地図ギャラリー第1回に掲載の「ブレッテ1734年のパリ鳥観図」と比べて見てください。精緻を極めた大都市図の魅力に触れていただけるでしょう。

もう1点は、2019年の「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」参加企画として実施された「清林文庫展&オープンサロン」。主要展示となった伊能忠敬「東三拾三國沿海測量之図」は尾張・越前から東の諸国の沿岸と主な街道を記載した地図で、文化元年(1804)の成立。案内チラシによれば図のサイズは2×3メートル。左端に優美な富士山が描かれているのが見えます。伊能忠敬の地図は正確で、全国の近代測量地図が完成するまで用いられていたほどですが、今でも名声を保っているのは、絵画的な美のセンスにも理由があるでしょう。

今回紹介の二つの特別展、筆者はどちらも見逃しました。残念。東畑建築事務創立90周年となる2022年はスケールアップしたかたちでの公開を期待しています。

☆東畑建築事務所「清林文庫」
創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15,000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

2.「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」(本渡章所蔵地図より・その4)

「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」は、今回の古地図サロンの展示地図のひとつ。レポートに書いた書簡図絵とはどんなものか、写真なら一目瞭然。表紙の左上に切手を貼る欄があります。中面の通信欄はご覧のとおり、手紙文がしたためられるスペースに。折りたたんで封をすれば、書簡になります。なかなかの変わり種地図です。

「近畿の聖地名勝古蹟」との題名が、日中戦争(図中では支那事変と記す)当時の発行という時代を物語り、中面の鳥観図でも伊勢の皇大神宮、神武天皇ゆかりの橿原神宮、畝傍山東北陵が大きく描かれています。地図の裏面には大阪毎日新聞の紹介文と写真など記載。

不鮮明ながら注目されるのが、左上の伝書鳩(写真左上)。各地の取材現場で記者が書いた原稿を確実に早く本社に送る手段として、伝書鳩が活躍していました。写真に写っているのは十数羽ですが、かつて多くの新聞社は200~300羽の鳩を飼っていたそうです。船会社や消防本部の屋上でも、同様の光景が見られたとも。今、各地の街で見かけるドバトは、通信手段の発達にともなって野に放たれた伝書鳩の子孫といわれています。

3.「井沢元晴 漂泊の絵図師」
鳥観図絵師・井沢元晴の作品より・その5)

鳥観図絵師・井沢元晴の作品シリーズ。今回は、井沢元晴遺族がこの4月に作成されたフリーペーパーをご紹介します。

全国各地を歩いて多くの鳥観図を残し、昭和の伊能忠敬と呼ばれた故・井沢元晴の生涯を1枚の紙面で紹介。編集・発行は長女の足立恵美子さん、漫画・イラストは孫の常夏さわやさん。井沢作品の製作工程を、旅する絵師の姿とともに簡潔明瞭かつ清々しいタッチで描いた漫画が楽しい。写真は撮らず、記憶とメモだけで街も道も海も山河も一望する絵図を仕上げた異能に驚かされ、記憶もメモも自転車と徒歩で地の隅々まで踏破したのと同じ熱と力によるものなのかと想像もふくらみますが、この漫画の清々しさは井沢元晴の仕事が歳月を経た後に残したもののエッセンスをすくいとった感があります。

紙面に引用された解説文の中で、グラフィックデザイナーの故・高田修地さんの文章をめぐって、発行人の足立さんと高田さんの遺族が初めて連絡をとりあい、思わぬ出会いに感激されたとのお話を聞きました。故人が残した絵図や文章が、残された人の心を動かし、結んでいくのは素晴らしいことです。

井沢元晴の鳥観図から「古京飛鳥」「近つ飛鳥 河内路と史跡」の表紙を掲載します。後期の井沢元春は、日本史のふるさと飛鳥路を好んで歩いてまわったそうです。

☆鳥観図絵師・井沢元晴
井沢元晴は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

井沢元晴氏のご遺族は今、「郷土絵図」にまつわる思い出や絵の消息に関する情報をお持ちの方を探しておられます。当時の生徒さん、学校関係者など、このブログをご覧になって、少しでも心あたりがあるという方が、もしおられましたら、次のアドレスにメールをお送りいただければ幸甚です。小さな情報でもかまいません。よろしくお願いいたします。

足立恵美子(井沢元晴長女)emikobook@yahoo.co.jp

 

過去の古地図ギャラリー公開作品

第4回(2021年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」
②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」
④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図

第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

 

 

「街と書店、大阪の場合」第4回

2021年5月31日 月曜日

4回目は鶴見区の「正和堂書店」を取材しました。

「街と書店、大阪の場合」
第4回は、昨年創業50周年を迎えた
鶴見区の[正和堂書店]です。

駅近で幹線道路沿いの180坪の店で、
ふらっと入れるのが本屋好きにはうれしい場所ですが……
最初は学校給食にも卸すパン屋さんだったそうです。

店主はそのパン屋を大きくしよう、と思っていたのに、
先代は「機械化してまでやらなくても……」と反対。

「ならば違う商売をしよう」と書店を選んだそうで、
鶴見区の宅地化とともに、売り場が大きくなってきました。

しかし、21世紀に入ると出版不況でなかなか本が売れない……
あたらしい試みを、印刷会社ではたらく店主の孫がはじめました。

↓↓↓↓↓
「本屋も読書も、もっと可能性がある」バトンパスは続く。