2022年5月27日・本渡章より
【今回の見出し】
■5月の古地図サロンレポートと次回予定
- 最近と今後の古地図活動
- 古地図ギャラリー第11回
東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その11〉
■古地図サロンのレポート
開催日:5月27日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。
皆さま、お元気でいらっしゃいますか。初夏の陽気の御堂筋で、いつものようにサロンが開催されました。
今回は戦前の市街図、府域図の他に、これまでお見せする機会がなかった手描き図を用意しました。手描き図とは文字通り、筆やペンで線を描き、彩色した地図です。もとの図は一枚限りですが、薄紙を重ねて透かし、手描きで写した図を残す場合もあります。展示した「泉州岡田浦」(2枚)も、そうして模写されたと思われる図。海岸線の形は同じですが、浜辺の風景は2枚の図で大きく異なり、明治初期の岡田浦(現・泉南市の地名)の変貌ぶりを伝えています。それぞれの図の作成年は1年違うだけなので、変化のスピードは驚くばかりです。参加のみなさんは、薄紙を重ねて模写し、新たな情報を加えていくという手描き地図の世界に興味しんしん。トレーシングペーパーがあれば、今でも、誰でも手描き地図が作れますので、お試しを。
他には、戦前の大阪市街図と都市計画図、さらに原図と復刻の地形図も展示。昭和初期の原図6枚を張り合わせて手製の大阪府域図にした大判地形図が、思わぬ好評を得ました。モノクロで記号がいっぱい入った地形図は、通常の市街図と比べて見にくいのですが、縮尺が細かくて情報量が豊富。手製の大判地形図は、広げると迫力があります。他では、大阪都市計画地域図の精緻さに、虫眼鏡で見入る参加者が続出。計画目的に沿って色分けされた戦前の大阪市街の姿、今はない旧町名のいろいろに、みなさん、街角の歴史を感じたようすでした。
決して見やすくはなかった地形図と都市計画図が、じっくり見ると面白かったというのが今回の収穫。虫眼鏡の活躍の場も、いつもより多かったです。
というわけで、次回も皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図
《原図》
泉州岡田浦 明治12年(1879)手描き図
泉州岡田浦 明治13年(1880)手描き図
日本交通分県地図・大阪府 大正12年(1923)大阪毎日新聞
地形図(大阪市域・府域6枚張り合わせ)昭和7年(1932)大日本帝国陸地測量部
最新西区地図 昭和16年(1941)日本統制地図
大阪都市計画地域図 発行年不明 大阪市
《復刻図》
12枚組・京阪地方仮製貳万分壱地形図 大阪近傍 明治20年(1887)参謀本部陸軍測量局
★次回は2022年7月22日(金)午後3~5時開催の予定。
会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。
(サロンは今後も奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)
★9月は第4金曜が祝日のため、30日(金)午後3~5時開催!
★コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。
【最近と今後の古地図活動】
●「大阪の地名に聞いてみた」ブログ連載中
誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い。
月1回ペースで1年間の連載予定(題字と似顔絵・奈路道程)。
第1回大阪の干支地名エトセトラ【前編・後編】
第2回続・干支地名エトセトラ&その他の動物地名【前編・後編】
第3回桜と梅の大阪スクランブル交差点【前編・後編】
第4回花も緑もある大阪【前編・後編】
第5回場所が仕事をつくった【前編・後編】

●新着番組、「古地図でたどる大阪の歴史」公開中(制作:大阪コミュニティ通信社)
江戸時代の大坂、近代以後の西区編に続き、街歩きスタイルの編集による港区編公開。
他に「古地図サロン」紹介編、著書「大阪24区の履歴書」紹介編の動画もあります。
現在、大正区編・此花区編を制作中。
●大阪府立中之島図書館で「昭和~平成~令和をつなぐ鳥観図絵師列伝」開催
5月16日(月)~28日(土)、鳥観図絵師4人(吉田初三郎・井沢元晴・石原正・青山大介)の作品約30点を集めて中之島図書館3階展示室にて公開。予想を上回る2597人の来場を得て、好評のうちに終了しました
井沢元晴の図はご遺族、石原正・青山大介の図は青山氏より出展。企画・構成と吉田初三郎の図の出展は本渡章が担当。21日には青山大介ワークショップも行われ、参加者は熱心に中之島図書館鳥瞰図作成の手ほどきを受けました。

●朝日カルチャーセンター中之島での講座予定
6月17日(金)午前10時30分~12時 「地図で訪ねる昭和30年代の大阪」*終了
7月22日(金)午前10時30分~12時 「古地図地名物語・旭区編」
8月・9月も「古地図地名物語」都島区編・鶴見区編を予定しています。
●いちょうカレッジで4回シリーズ講座開催予定
入門科「大阪のまち探検コース」~古地図のまちをのぞいてみよう~
5月31日(火)、6月7日(火)・14日(火)・21日(火)各午後2時~4時
予約制でしたが、定員30名の募集に過去最高の160人の応募をいただきました。ありがとうございました。
このブログが公開される頃、講座は最終日を迎えていると思います。また、機会がありましたら、大阪駅前第2ビルでお会いしましょう。
大阪駅前第2ビル5階 総合生涯学習センター

|古地図ギャラリー|
1.【橋本玉蘭斎【大日本分境図成 上】
東畑建築事務所「清林文庫」より〈その11〉
『大日本分境図成(だいにほんぶんきょうずせい)』は幕末に刊行された日本地図・地域図集。折りたたむと懐中におさまる小冊子で、上巻に、日本全図及び東北・関東・中部・近畿・四国・九州・琉球の各図。下巻に、富士山・琵琶湖・長崎などの図を収録。作成した橋本玉蘭斎は著名な地図作者で、五雲亭貞秀の名で数多くの鳥瞰図も残した人物。
掲載したのは上巻の表紙と本州・四国の地図の頁。これまで古地図ギャラリーで紹介してきた地図とは、一見して趣が異なります。日本地図には違いないのですが、旧国名と国境が記されているだけで、現代人の目には地図としての情報量が少なすぎます。上巻の他の図も同様の趣で、刊行の意図が読みとりにくいのです。
情報が豊富でデザイン性も高い地図を多数残した橋本玉蘭斎としては異色の本図が、どんな経緯で生まれたのか詳細は不明。手がかりがあるとすれば、ひとつは幕末発行という時代性。もうひとつは携帯可能な小冊子という体裁。この2点です。幕末は開国を控えて、日本人が日本という国を意識した時代でした。横浜開化図をはじめ時代を映した作品群で名高い橋本玉蘭斎(五雲亭貞秀)は、手軽に持ち歩ける地図集を世に出すことで、それまで日本地図など見たことのない多くの人々に、日本国の姿、列島にひしめく国々の姿を知らしめたかったのでしょう。現代の目からは少なすぎる情報量の図に、一目瞭然のパワーを期待したのだと思います。下巻の富士山や琵琶湖の図には橋本玉蘭斎の発見した日本が描かれ、興味深いのですが、『大日本分境図成』の本領は上巻の素気ないほど簡略な日本図の方にあるでしょう。
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東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

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鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。
★過去の古地図ギャラリー公開作品
第10回(2022年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「新改正摂津国名所旧跡細見大絵図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「笠岡市全景立体図」
第9回(2022年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「暁鐘成・浪花名所独案内」
②本渡章所蔵地図より「大阪市観光課・大阪市案内図
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「躍進井原市」
第8回(2021年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」
②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」
第7回(2021年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」
②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」
第6回(2021年7月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」
②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」
第5回(2021年5月)
①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ
②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」
③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」
第4回(2021年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」
②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」
④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」
第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」
第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」
第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」
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2021年7月16日・本渡章より、これをお読みのみなさまへ。
皇紀2600年とされる昭和15年(1940)発行された「大東亜共栄圏詳図」は週刊誌の付録。表紙は漫画タッチでアジアの国々の風物を描き、大東亜と呼ばれたエリアの広さに今さらながら驚かされます。戦中は日本の地図会社が日本統制地図という一社に統合され、軍事施設や港湾などの防衛情報が検閲の対象になりました。
テーマは重いですが、サロンは今回も明るい歓談の輪があちこちにできました。来場の方が持ち込んだ戦前の地図に、船場の街角の公衆便所が載っていて、現在も同じ場所に公衆トイレがあるとの証言が飛び出して盛り上がる場面がありました。こんな話題で笑いあえる平和が明日も続きますように。
●読売新聞に記事掲載
同文庫には、享保15年(1730)版の「日本国全図」と題された石川流宣作の二色刷りの図があり、内容は日本海山潮陸図と基本的に同じです。掲載した部分図は南海域で日本各地の一宮一覧表が載り、その横に羅列国・女嶋が記されています。羅列国は一般に羅刹(らせつ)国と表記され、悪鬼の住む国の意。羅刹は転じて仏教の守護神にもなります。伝承も入り混じった日本地図を広げて、江戸時代の人々は海の向こうの世界にも想像を広げたのです。浮世絵師で地図作者の石川流宣(1661頃~1721頃)は、浮世草子作家としても活躍した多才な人。流宣が世に出した日本地図は「流宣日本図」あるいは「流宣図」と総称され、地図史に大きな足跡を残しました。
今回の古地図サロンで公開した図からひとつ取り上げました。大阪城にあった陸軍第四師団の経理部が昭和16年(1941)に作成した「大阪師管内里程図」です。
その後、読者から頂いた資料を拝見して、この冊子は戦時中に陸軍経理部が物資輸送などの経費算出に用いた資料だったとの推定に至りました。移動距離を目安に経費の概算を割り出していたと考えられるのです。正確さには欠けますが、膨大な業務の迅速な処理には有効。戦時中であり、陸軍経理部の感覚は民間とは異なっていただろうことを想像すると、あり得る話に思えます。
鳥観図絵師・井沢元晴の作品シリーズ。今回は倉敷美観地区絵図をとりあげます。
絵図を4分割したうちの3つを掲載しました。中央が大原美術館、大原邸、東洋美術館、染色館、陶器館、板画館、新渓園などの名が図中に記されています。江戸時代は天領として発展し、明治以後は倉敷紡績とともに近代的な街並みに生まれ変わりました。昭和5年(1930)誕生の大原美術館は日本初の私設西洋美術館としてあまりに有名。エル・グレコ、ゴーギャン、モネ、マチスなどの名作を揃えて、倉敷を象徴する施設になっています。
中央は大原美術館をはじめ文化施設群、右側は江戸時代の倉敷に水運で繁栄をもたらした倉敷川が流れ、倉敷考古館が建っています。倉敷は戦中の空襲を免れました。米軍側の資料によると倉敷にも空襲の計画があり、戦争がもう少し続けば被災していたとのこと。絵図に描かれたのは江戸時代から連綿と続く街の歴史の姿です。
6/22の読売新聞朝刊(大阪版)に『古地図でたどる 大阪24区の履歴書』の著者・本渡章さんの