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【新刊情報】『生きた建築 大阪』

2015年10月1日 木曜日


『生きた建築 大阪』

著者:監修・著=橋爪紳也
編集・著=髙岡伸一 倉方俊輔 嘉名光市
定価:1,600円+税
判型:A5判・並製
頁数:192ページ+MAP付き
発刊:2015年10月13日

 

 

「生きた建築」とは、歴史と文化、そして市民の暮らしぶりを支えつつ、時代に合わせて変化・発展しながら、今も生き生きとその魅力を物語る建築のこと。3年前から大阪市が進めている「生きた建築ミュージアム事業」の中で提唱されている、新しい建築の見方です。普通、建築の価値は、年代が古いことや建てられた当時のまま残っていることが重要視されます。しかし、「生きた建築」は、まさしくその言葉が示す通り、その姿や用途を変えながらも、人々に愛され、大事に使われ続けている点にスポットをあてます。

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本書では、「生きた建築ミュージアム事業」の「大阪セレクション」に選ばれた50件の建築の魅力を、カラー写真を多数掲載し、余すところなく紹介しています。セレクションの選考に関わった倉方俊輔・髙岡伸一の両氏による50件の解説に加え、橋爪紳也氏、嘉名光市氏による論考、また「生きた建築」にさまざまな立場で関わる人々のコラムやインタビューも収録しました。

20131028_109720110914_0510この本に収められているのは、建築を取り巻く人々との関わりの中で紡がれたドラマや大阪の発展と共に歩んできた時間の流れです。そうした「物語」は、客観的に数値化することが難しく、だからこそ丁寧に取り上げられなければなりません。建築ガイドとしてだけではなく、50話の物語から、大阪の気づかなかった魅力を発見してみてください。

『生きた建築 大阪』に掲載されている建築

●御堂筋
大阪ガスビル/日本生命保険相互会社本館/御堂ビル/本 願寺津村別院/御堂筋ダイビ ル/グランサンクタス淀屋橋/三井住友銀行大阪本店ビル/大阪倶楽部/今橋ビルヂング/芝川ビル/北野家住宅/清水猛商店/輸出繊維会館
●堺筋
大阪証券取引所ビル/北浜レトロビルヂング/新井ビル/ルポンドシエルビル/伏見ビル/青山ビル/武田道修町ビル/生駒ビルヂング/船場ビルディング/船場センタービル/堺筋倶楽部/大阪商工信用金庫本店ビル/原田産業株式会社大阪本社ビル
●梅田・堂島・中之島
梅田スカイビル/梅田吸気塔/阪急三番街/スリープカプセル/マヅラ/堂島サンボア バー/中央電気倶楽部/リーチバー/ダイビル本館
●四つ橋筋・川口・西長堀
江戸堀コダマビル/日本基督教団大阪教会/長瀬産業株式会社大阪本社ビル/日本聖公会川口基督教会/西長堀アパート
●心斎橋・難波・新世界
大丸心斎橋店本館/オーガニックビル/浪花組本社ビル/食道園宗右衛門町本店ビル/純喫茶アメリカン/味園ユニバースビル/南海ビル/髙島屋東別館/ギャラリー再会/通天閣

 

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中之島の歴史を伝える本を編集する。

2015年3月27日 金曜日

まったくの偶然ではあるが、最近、立て続けに中之島の歴史を本にするという仕事に関わった。

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一つは大阪市立科学館の25周年記念誌である。大阪市立科学館は1989年に開館し、昨年25周年を迎えた。それを記念し、科学館のあゆみをふり返る記念誌を作成することとなり、プロポーザルを経て、140Bで編集を行うこととなった。

一つの施設の歴史とは言え、それはやはり中之島や大阪の歴史の確かな一部なのであり、その意味では後世に残るものに携わることができて良かった。

残念ながら一般に広く配付されるものではないので、図書館などで探してみてほしい。

そしてもう一つは、中之島の地域誌である『中之島の足あと』だ。これは大づかみに言うと中之島地区の町内会組織である中之島連合振興町会が発行する、中之島の歴史をまとめた小冊子といったところか。その企画から編集、取材などを我々がお手伝いすることになった。

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歴史や街の人々について触れていながらも、月刊島民ともまたぜんぜん違うものになった。明治・戦前・戦後の地図を引っ張り出してきて、どこに何があったかを時代ごとに比べたり、町名の変遷や人口の増減を詳しく図示したりといったことは、さすがに島民でもやらない。

古くから住む方の写真も多く掲載しているが、これなども普通のエリア情報誌や商業誌ではやらないだろう。ごく普通の家族写真を集めて街の歴史の一部として掲載したわけだが、こんな機会でもない限り、こうした写真や記録は散逸してしまうだろう。

『中之島の足あと』は、概要版を中之島連合振興町会のホームページで見られるので、PDFをダウンロードして見てください。

月刊島民とは違うとは言いながらも、どちらをつくるのにも島民での経験や知識が役に立ったことは間違いない。島民での蓄積がこんな形になって返ってくるとは、ありがたいことこの上ない。それに、将来にわたって残るものであることがやはり嬉しい。何十年かして、中之島について調べている人が、「お、こんな本があるやん。ありがたい」と言って読んでくれるといいなあ。

 

連日の更新「みちのくフード記」

2015年3月26日 木曜日

昨日に前編に続いて松本創が、

牡蠣食えば腹が張るなり石巻(後編)」をアップしました。

松本創の第4回「みちのくフード記」更新しました。

2015年3月25日 水曜日

冬といえは「牡蠣」、

「牡蠣」といえば広島、

さにあらず、三陸の「牡蠣」の物語ご賞味下さい。

第4回 「牡蠣食えば腹が張るなり石巻(前編)」

早くも第2回目更新-松本創「みちのくフード記」

2015年3月4日 水曜日

昨日始まった新連載「みちのくフード記」、早くも2回目更新です。

文末に「※関西で開催予定の東北関連物産展」つきです。

第2回 東北の関西人(後編)

 

web新連載開始-松本創「みちのくフード記」

2015年3月3日 火曜日

【新連載】140Bのスタッフでもある松本創 氏のweb連載「みちのくフード」が本日より始まりました。

311を起点に過去未来の双方向につながり出した松本と東北との関わり合いを「食」を中心に語っていきます。

「みちのくフード記」

第1回 東北の関西人(前編)

第10回 酒場フォトグラファーとバッキー井上と養老孟司先生。(堂島サンボア/大阪・北新地)

2015年1月14日 水曜日

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 前回、[バー・ウイスキー]のときに、「酒場ライター」バッキー井上のことを書いて、

 「酒場ライター」があるとしたら「酒場フォトグラファー」というのもアリちゃうか、などと考えてしまったのである。

 しかし、この日この夜でやめた。

 理由はまた次の機会にでも。

 と書いたら、多くの人から「ナンで、酒場フォトグラファーはやらないんですか」という声が届いた。
「早く書きなさい」ということである。
 とくに新連載が始まって、昨日2回目の原稿を入れたばかりの『あまから手帖』の安藤副編集長などは、ほんま急かす急かす。

 それについて書く。
 その前にまず、酒場ライターについて違う話をば。

 酒場の記事の難しくもおもろいところは、「人間は変容する」というところに軸足を置かないとつまらないからだ。極端に言うと、下戸や素面では書けない、ということになる。
 つまり、酒は酔うから酒なのであって、それによって「人間は変容」する。その変容の仕方の記述こそ「書くこと」、今流でいうところのコンテンツなのだろう。

 たとえば[堂島サンボア]のビールはとてもうまい。書けば、キリンのラガー小瓶で600円、鍵澤秀都さんが栓を抜いてグラスに注いで客に出す。

 その同じラガーがどうしてコンビニの205円(税別)の缶と違うのか。それに加えて大瓶で600円の行きつけのお好み焼き屋のそれと、足の綺麗な別嬪がいる北新地のラウンジの2000円の小瓶と、中身が同じラガーなのに値段がこうも違うのはなぜか。

 そんなことを言い出すと、それは「付加価値なんです」などといったしょぼくて眠たい答えが返ってきたり、「そんなのは個人の価値観だから、どうでもいいんじゃないの(アホかおまえは)」といったクールな返答がされたりするが、そういう発想こそが鈍臭いのである。

 人間は変容する。味覚も当然変容するのだ。
 堂島のサンボアのビールは、同じ中身でも家で飲むビールよりもうまいのだ。同様に北新地のラウンジ云々のビールも、また違った味がする。
 こんなのは誰もが知っている。けれどもそういうことを言うのはナシなのである。何でか知らんけど。

 養老孟司先生と一度、ご一緒に飲む機会があって、その時教わったのは、「人はいつでも変わる。同じ自分なんていない」ということだ。

 わたしは「そらそうやな」などと思ってたが、その後、『読まない力』という新書を読んでいたら、いきなり「まえがき」でそのあたりについて執拗に書かれていた。
 読んで一気にわかった。つまりその時、まだまだオレは考えが浅かった。

情報とは「時間が経っても変化しないもの」を指す。そんな定義は学校では教えてくれない。じつは私が勝手に定義した。でもそれで十分だと思っている。写真の自分は、いつまで経っても歳をとらない。情報だからである。学校から成績証明書を取り寄せると、若い頃より知恵がついているはずなのに、いつでも同じ成績が返ってくる。情報だからである。血圧が一四〇などといっているが、測ってみれば、うっかりすると毎回違うとわかるはずである。測ったときの血圧がたまたま一四〇だったのである。

養老先生独壇場の語り口である。
 情報化社会というのは「私は私、同じ私」という自我とか自己とかを措定したうえでの「脳化社会」、つまり「意識のみ」を扱う社会のことだ。もちろん人間は意識じゃない。寝ているときなどを考えればわかる。

 意識は情報しか扱えない。言葉は情報の元だから、意識は言葉なら扱える。それだけのことである。私はスキーを習っているときに、スキーの本を数冊、読んだ。でもスキーは上手にならなかった。当たり前で、スキーは情報じゃないからである。

さて、酒場ライターとしての井上は、酒場ではいっつも酒を大量に飲む。意識が飛んでしまうことがあるのだ。
 著書『たとえあなたが行かなくても店の明かりは灯ってる。』の内田樹せんせの解説(これだけでも買う価値ありの本だ)にある、

 バッキーさんの書くものの過半は京都の町のさまざまな店で「気が遠くなるほどおそろしいくらい飲む」話である。

 である。しかしババ酔いしてしもて完全に意識がなくなったら、これは書けない。仕事にならんのである。
 だからそうならないためのひとつの方法として、コースターの裏にメモをして持って帰るのだ。

 井上はそのスレスレ状態のとこ、紙一重をやってるから「日本初の酒場ライター」なんである。
 その井上によって書かれたものは情報にほかならないだろうが、飲みまくって酔いまくって、書こうとして言葉がもつれたり、ほとんど言葉を言葉として運用できない、つまり何を書いてるか自分でもわからん(アホ状態に違いない)状態の時は、意識が変容するから情報も変容する。
 だからこそ酒場ライターなのだし、そのスタンスからいけば、当然のこととして「取材などしないで書く」ということになる。
 しっかし考えてみれば「取材(だけ)では書けない」というのは、これはキッツい背理である。

 先の著書『たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる。』の115ページにはこう書いてある。

飲みに行けば失うことばかりだ。お金も時間も愛も失うし頭も体も悪くなる。失言、失態、失禁、失敗だらけだ。けれどもそうすることによって大きなココロのケガから回避しているのかも知れない。

(略)

酒場への道 その5「負けてなあかん」

 例えば、金があっても酒場では簡単に勝利投手になれない。街の手練れはお世辞という犠牲バントをしてみたり、急にフリーエージェント宣言を勝手にしてその時だけカネ持ちチームに入ったり、勝つ可能性が低くなっても高くなっても深酒泥酔没収試合という方向に持って行ったり、野球から将棋や野球拳に変わるように試合そのもののルールや形式を突然変えたりするからだ。

なかなかに魅惑的な「変容するスタンス」である。
 そして今一度、養老先生にご登場願おう。

 人間が「同じ」なわけはない。歳をとり、ついには死ぬ。どこが「同じ私」か。諸行無常と古人がいったとおりなのである。いつまで経っても同じなのは、情報なんですよ。でも人間は情報でない。それを取り違えたから、言葉が重いような、重くないような、変なことになったのである。変わらないのは私、情報は日替わりだ、などと思ってしまう。とんでもない、百年経っても、今日の新聞記事はそのままですよ。
 毎日数時間インターネットに頭を突っ込んで、「新しいこと」を知ったと思っている。それはそれでいいけれど、インターネットの中にあるもの、つまり情報とは、つねに過去である。「済んでしまったこと」しか、あそこには入っていない。

情報化された酒はどこでも同じ味の酒である。
 それがアイラ島のスコッチだとか、格付け銘醸ワインだとかというのは、何でも情報化して、それを「わたしという客が消費してやろう」という社会で通用するだけだ。
 その情報はいったん記号化、データ化されると上書きされない限り変化しない。いつどこにいってもそのまま同じである。だから情報誌の酒やグルメの記事はひとつも面白くないのだ。

 「わたしはわたし、同じ自己、同じ自我だ」というのもそれにほかならない。
 繰り返すが人間は情報でない。
 わたしが言ってるのではなく、養老孟司先生も内田樹せんせも、バッキー井上も言っている。

「頭の人ばかり ダメネ 人間は肉でしょ 気持いっぱいあるでしょ」(『全東洋街道』藤原新也)なのである。

 ということで今回は、人さまの引用でほとんど書いてしまった。

 もうおわかりだとは思うが、カメラは機械でありスペックだ。
 それは変容しないから、そんなもの扱っても、いっこもおもろないから、酒場フォトグラファーを1日でやめてしまったのだ。
 わたしとて残念だが、どうかわかってほしい。
 

  
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堂島サンボア
大阪市北区堂島1-5-40
06-6341-5368

 

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【イベント】『大阪名所図解』の原画展&トークショー

2015年1月13日 火曜日

meisyo_cover昨年発売した『大阪名所図解』では、大阪市中央公会堂や大阪府立中之島図書館といったシンボル的建築をはじめ、橋や駅、長年愛されてきた老舗や喫茶・バーなど、大阪の「名所」を線画によって図解しています。

この本に掲載されている綱本武雄さんが描いた線画の原画展を、スタンダードブックストア@心斎橋にて開催します。原画で見ると、ペンのタッチの隅々までじっくり眺めることができ、線画の持つ細密さと奥行きをいっそう感じられます。

また、展示初日の2015年1月30日(金)には、解説の著者の一人でもある建築家の髙岡伸一さんとのトークショーも開催。建築を設計あるいは研究する立場の髙岡さんと、描く立場の綱本さん、それぞれの視点から大阪の建築の見方・楽しみ方を紹介します。

[展示]
『大阪名所図解』原画展
期間/2015年1月30日(金)〜2月13日(金)※無休
会場/スタンダードブックストア心斎橋 B1カフェ
時間/11:00AM〜10:30PM
入場料/無料

[トークショー]
綱本武雄×高岡伸一トークショー
「大阪の建築を見る、描く」
日時/2015年1月30日(金)7:30PM〜8:30PM(サイン会あり)
会場/スタンダードブックストア心斎橋 B1カフェ
入場料/1,000円(ワンドリンク付き)

◎申し込み・問い合わせT06-6484-2239 http://www.standardbookstore.com/

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第9回 酒場とバーとライターあるいはカメラマン。(バー・ウイスキー/大阪・道頓堀)

2014年12月18日 木曜日

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 酒場を情報誌やガイドブックに書くことは難しい。とくに酒だけが店の商品であるバーについては文章技術とかでは書けない。

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 ある店を雑誌のバー特集に載せるとする。
 それはきっといい店だから掲載されていて、その店が「選ばれている」、というのが特集全体のなかでの大きな情報の一つであるが、それ以上は、店に取材に行って何かを聞いてきて書いても一つも面白くない。
 たとえバーAではうまいビールはキリンかアサヒかサントリーかサッポロかヱビスビールだし、しびれるマティーニはゴードンかタンカレーかで、ベルモットはノイリーかチンザノといったところで、そのレシピは…、というようなのを書いてもしょうがないのだ。
 ラーメンの特集みたいに麺の加水率だとかスープは豚骨50%、鶏ガラ30%、煮干し20%とかのデータではないのだ(これもこれでしょうもないと思うが)。
 隣のページに載せるバーBもまったく酒の銘柄とレシピが同じだったりして「これではあかん。誌面になれへん」となる。
 その店に飲みに行くと、「この銘柄です」と使った酒はカウンターに置かれるが、そのラベルは初めて行っても誰にも見える。料理屋と違うところはそこのところだ。

 店は「行ってないと書けない」。取材だけでは書けないのだ。
 つまりその酒場でどう過ごしたのかなど、客(自分)とその店の関係性によってでしか読むに値する文章は書けないからだ。

 だからこそ、その酒場に初めて行った書き手は「物語」つくる。これはライターにとって非常にハードな仕事となる。
 その店で出すシングルモルトの蒸留所やハイランドやアイラ島の物語(正しくは蘊蓄)を書いたとて、マニアの人には面白いかも知れないが、基本的にその酒場やその店がある街の話ではないから的外れなことになる。
 「その店の物語」の場合だと、それがイケてない話になってしまうと、目も当てられない。
 そういうことはMeets誌をやり始めた頃から、なんとなくわかっていた節があって、だからか特集タイトルは「酒場実況中継」だった。

 わたしがミーツをやっていた頃、この「酒場実況中継」は毎年恒例のように特集していて結構売れた。
 街場ではとくに反響が大きかった。
 その4分の1ぐらいが、「なんでこの店、出てるんや」と「書いてること違うやん」というブーイングだった。
 そんな中でミーツの書き手や編集者たちは手足をばたつかせていた。
 そして後に「日本初の酒場ライター」と言われることになるバッキー井上らは、確かにある種のある部位の筋肉が鍛えられるように「書ける」ようになっていく。
 独特のその文体やメッセージ的なコンテンツは、それまで類がなかったので、たちまちファンを獲得した。
 それを真似る新人ライターも多かったが、まだそこのところの筋肉の使い方を知らないライターの書く酒場の記事は、新聞のコラムを読まされているようで、少々イタかった。
 街の雑誌にはその雑誌の手触りや体温や匂いがあるのだ。

 

 バッキー井上が書いた[バー・ウイスキー]。

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バーで何かを求めない。ただ喉が鳴る。 
バー[バー・ウイスキー](大阪・道頓堀)

 ミナミに行く用事があるとそのスケジュールが夕方の5時近くに終わるように必ず段取りする。道頓堀の[バー・ウイスキー]に行きたいからだ。俺はこのバーが好きだ。だからこのバーには男女を問わず大好きな奴としか行ったことがない。だからたくさんの奴と行ったがそのすべての顔をハッキリと覚えている。その時にどんなことを話して何を飲んだかもほぼ覚えている。
 バーで何かは生まれない。生まれると思うのは錯覚に過ぎない。バーは何かを失いにいくところだ。知ってか知らずかそれを潜在的にわかっている奴と飲む酒はうまい。それが[バー・ウイスキー]であれば至福である。マスターの小野寺さんもそれを知っているからだ。だからマスター小野寺さんのシャツのカフスが長い。ピールを宙でふる。バーは空気だと言いたげだ。
 大人という単語をむやみに使っている雑誌は気色悪いのは、物欲しげだからだ。いいバーに行きたい相手は「もういらん」と言いたげな奴だ。雨が降っているからバーに行こう。寒いからバーに行こう。気分がいいからバーに行こう。したいことなどないからバーに行こう。マスター、今宵また我々をよろしくおねがいします。我々は何も言いません。

 

 とても「行儀が良い」文章だ。視点からして、そう思う。
 そして井上は単行本化するにあたってこう書き足した。

[バー・ウイスキー]
 ずいぶん昔にこの店に取材に行ったことがある。その時こんなやり取りがあった。
「創業は何年ぐらい前ですか」
「昔のことは振り返りませんけどな」
「失礼しました。お酒を注文させてもらっていいですか」
「いけるくちですな」
 などのやり取りから始まって俺はこの手練れマスターからの貴重な言葉をたくさん引き出しコースターにメモしていた。曰く、
「同じオーダーでもお客さんのアレで微妙にバランスを変えますわな」
「お客さんもノドを鳴らすわけですわな」
「酒飲みの気持ちとかにならんと全然ダメですわな、こういう仕事は」
「バーなんていうのは商売やないからね。ひとりの生き方やからね」
「そら自分が酒飲みやないと意味がないですわな」
 こんなことを俺はメモしていた。俺はこの店の、コースターが世界一好きだ。そして今まで何枚持ち帰ったかわからない。小野寺さんすみません。
 ウォッカマティーニは体の中を流れていくのが感じられる頃に飲むと格別。無理して飲んじゃいけないと小林幸子の歌だったが。俺はマスター小野寺の信者である。俺もマスターになりたい。

大阪市中央区道頓堀2-4-1 シモウラビル地下1階
電話:06-6211-9625
営業時間:5・00PM〜0・00AM
定休日:日曜休
『京都店特撰 たとえあなたが行かなくても店の明かりは灯ってる。』著/バッキー井上

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 この文章を読んで、いてもたまらなくなったわたしは、カメラを持って[バー・ウイスキー]へ行った。
 というのは嘘で、実は自分がたまたま撮った写真を見て、「酒場ライター」があるとしたら「酒場フォトグラファー」というのもアリちゃうか、などと考えてしまったのである。

 しかし、この日この夜でやめた。

 理由はまた次の機会にでも。

 

 

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バー・ウイスキー
大阪市中央区道頓堀2-4-1
06-6211-9625

 

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第8回 釜ヶ崎の「なべや」に行ってきた。(なべや/大阪西成)

2014年12月12日 金曜日

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 西成・釜ヶ崎の三角公園のそばの[なべや]。よその街に類を見ない「一人鍋」の店であり、大阪至高の居酒屋であることは間違いない。

 わたしはこの店について、17年間かかわった『ミーツ』でも取材したり記事を掲載したことがない。
 ここ数年『料理通信』に「安くて旨くて、何が悪い!」という連載していて、それに関してこの店の右に出る店はないが、ここでも未紹介である。

 理由は釜ヶ崎という場所についてであり、「なんでガイド本で知らん読者を仕向けて、牡蠣やとか肉やとかごっつぉを食べさせに、わざわざこんなとこまで来させなあかんのや」ということだ。

 インターネットの時代になって、この店のことが「食べログ」や「ぐるなび」でもばんばん紹介されるようになった。クールに安くてうまいメニューのことを紹介したグルメ・レビュー、はたまた西成という土地柄をからめて書かれていたりでさまざまだ。
 冬になるとすぐとなりの三角公園で、メシにありつけない人たちが炊き出しで、全然違う鍋を食べている、みたいなことを書いている人もいる。

 Googleマップのストリートビューで見ると、この店がある街がどういう街なのかがよく分かる(昼の風景だが)。

 今回はこのブログの1回目 https://140b.jp/blog3/2014/10/p1328/ にてちらっと触れた奈路画伯がまた予約を入れてくれていて、西桐玉樹さん、河田潤一さんをあわせて「街的画家」3人衆と行く。
 河田さんは地下鉄の運転手をしながら絵を描いている変わり種だ。

 釜ヶ崎にある[なべや]には現地集合だ。
 何に乗ってどこで下車して、どう歩くのかをあらかじめ考えてしまう。

 もう10年以上前だったが、平日の昼間に西成署に行く用事があって、地下鉄動物園前から歩いて行ったことがある。
 このあたりには何回も来てわかっていることだが、堺筋を南へ向かい西成署側の1〜2本の筋を入ると、簡易宿泊施設(ドヤ)街の様相が強くなってくる。その日仕事にありついてない人(してへん人も)や、すでに仕事なんか出来ない状態になっている人がたくさん外に出ていて、ワイルドなストリートライフを送っている。
 わたしはそのとき履いていたイタリア製のビットモカシンを見つめながら、これはあかんやろ、場違いだなと思った。逃げるようにして鉄扉に囲まれた西成署に入った。

 あるいはある夜、ツレとこの店に行くために高野線の駅しかない萩ノ茶屋で下りて、いきなりガード下で段ボールと化繊綿のコタツ布団みたいなのにくるまって横向きに寝ころんでる年寄りたちを見て、大変申し訳ないような気持ちになった。
 女性も一人いた。
 「電車賃だけ残してカネ渡して、帰ってお前とこで飲もか」などとツレと話しながら、そんなことしても何の解決にならへんやんけ、と思った。

 が結局は、いやもちろん[なべや]に行って、鮪のすき身とクジラベーコン、そして牡蠣の味噌鍋と鉄鍋のすき焼き、鶏の水炊きをビールや酒でたらふく食べた。飲んで食うて二人で5千円、「ほな2千5百円な。安っすう〜」と言って、ゴキゲン状態で堺筋を動物園前まで歩いて帰った。
 正確には途中で「ミナミで飲もや」ということで、タクシーに乗って道頓堀まで向かったということである。

 全然「正義」とほど遠いわたしは、そういうことを思い出しながら、ちょっとサンデル教授(ちょっと古いか)の授業を聴講しているような気分になりながら、今回は地下鉄花園町から堺筋がドン突きになる天下茶屋ロータリー跡の方角へと向かい、数年ぶりに[なべや]に行った。

 このコースで行くと、キッツい光景がだいぶ緩和されるのだ。不幸な人のさまを見て、もし立場が入れ替わって自分がそういう境遇に置かれることを想像するのはツラい。

 釜ヶ崎や新世界に来ると、「西成のアンコ(日雇い労務者)」や「あいりん地区路上生活者」がまる出しでバーンと露出していて、それにリンクした「ソース2度づけお断り」とか「かすうどん」とかの大阪の食がポピュラーに流通している。

 集合時間は午後7時である。
 一番先に着いて店に入ると、背中にケース付きのリュックサックを背負ったテニス帰りの6人中年客グループ、東京弁のスーツ姿4人客やOL混じりのグループもいる。
他所からの人にも入りやすくなったのは、ネットのおかげだと思う。

 おきまりの瓶ビールとまずは鮪すき身と鯨ベーコン、山芋短冊を注文する。
 鯨ベーコンは、辛子か生姜かと訊かれる。辛子とウスターで行こかと一瞬思ったが、何かイヤらしく粋がってるような気がして、生姜をたのむ。

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 それにしても鮪が50代のわれわれ4人分なら十分な、この量で280円。一人70円かぁ。

 

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 一人鍋が看板の店なので、テーブルにはあらかじめ人数分のタコ(むき出しのガスコンロ)が用意されていて、迫力満点であるが、先輩の西桐画伯が「牡蠣の味噌と鶏の水炊き、1つずつでええわ。後追加しますわ」と言うたので、4つのうち2つのタコが片づけられる。

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 店の若い女性が「水炊きのポン酢1つですけどどうします?」と訊いてくる。「頭数、たのむわ」と返答する。

 てきぱきとポン酢4つ、そして鍋がセットされる。どちらもすごい量やわ。
 牡蠣の味噌鍋は若い女性がうまく味噌を溶かしながら鍋にしてくれる。

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 てっちりにしろ寄せ鍋にしろ、寄合や祭りの準備で一年中だれかと鍋を食うていることが多いわたしは、即座にかれらが自分よりは鍋体質でないことを見抜いて、火加減や(岸和田人は てっちり・水炊きのたぐいは決してグラグラ状態に沸かさない)、具を良い具合、良い量で鍋に入れたりの世話人になる。

 鶏の水炊きがうまい。
 ビリッとくる西成仕様の濃いポン酢が丸く切った鶏の切り方とマッチしてたまらん。鍋はその日その時の体調や気分で味が著しく変わるし、メンバーによっても全然変わってくるが、そんなものを超越するてっちりも顔負けのかしわに化けさせるポン酢だ。

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 麦焼酎の水割り酒のあと冷酒にする。
 これはよう飲んでしまうパターンだ。
 「センジュとキクマサ、どっちにします」と訊かれて「せんじゅ」と答えた。
 あらら「千寿(久保田)」と違って、「貴仙寿」という銘柄が出てくる。そらそやな、と思うがそんなんは全然構わない。

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 鶏の水炊きをもう1人前注文する。
 満腹にて雑炊やうどんは注文しない。

 さて帰りはどう帰るかなどと思いながら、勘定を済ます。
 4人で8,600円。2,150円通し。十円単位まできっちり割り勘。
 街は情け深い。

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なべや
大阪市西成区天下茶屋北2-6-5
06-6632-5716

 

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