‘未分類’ カテゴリーのアーカイブ

3.18ナカノシマ大学は“人たらし”の書き手・郡麻江さん

2023年3月7日 火曜日

担当/中島 淳

3月18日(土)のナカノシマ大学に登壇するライターの郡麻江(こおり・まえ)さんは、1990年代から関西を拠点に、旅や食、歴史、伝統工芸、漢方などを東京・関西を問わず雑誌などいろんな媒体で書いている、「好きこそものの上手なれ」を地で行くような人である。ナカノシマ大学では、最近なにかと話題の有馬温泉の「今、こんなことができる」と「有馬と長くお付き合いしたくなる楽しみ方」について、掘り下げて紹介してくれます。

有馬は名刹の地でもある。秀吉の正室・ねねの別荘があったとされる念仏寺で「写仏」を楽しんだ郡さん

140Bでは、これまで郡さんにさまざまな制作物で記事を書いてもらったが、自社出版物ではロングセラーとなっている2つのガイドブックで取材・執筆をしてくれた。2017年4月の『堺を歩けば。』と2018年5月の『ザ・古墳群〜百舌鳥と古市 全89基』である。

超・綱渡り取材だった最初の仕事

 

『堺を歩けば。』では、全ページの入稿が終わってあとは色校正を2日後に返却するだけ……という時に、急遽「お香づくりの実演と体験」という堺らしいイベント取材のページを作って差し替えることになった。

「ハードな日程やけど、だれに書いてもらお?」と悩んでいた時に、ある雑誌で弊社を取材してくれた「郡麻江さん」というライターが「伝統工芸も得意ジャンルです」と話していたのを覚えていて、「大急ぎの原稿ですんませんけど」とお願いした。郡さんは4月上旬の土曜日、堺伝統産業会館(現・堺伝匠館)での「お香づくり」を、ワイワイはしゃぐ子どもたちのテーブルを回り、お香の作り手からも話を聞いて2時間ほど取材し、4時間後には原稿を送ってくれた。夜更けのデスクで「おもろい原稿やないですか!」と返信したのを覚えている。

伝統工芸のようなものは、「堅く」「難しく」「格調高く」書こうと思えばいかようにも表現できるが、読んだ人が「おもしろい」と感じてくれなかったらファンが増えない。かと言って「◯◯の前途は明るい」みたいな能天気な話はだれも期待していない。そんな難しいハードルを郡さんはうまい具合に越えて着地してくれたのだが、ご本人が京都の老舗表具店の奥さま(家業は夫君が担っておられるそうだ)であることを知って、「そらそうでないと書けんわな」と腑に落ちた。

古墳初心者が「墳ヲタ」そしてツアーガイドに!

 

『堺を歩けば。』から半年後のこと。「古墳のガイドブックを誰に書いてもらうか?」という時にも、百舌鳥・古市にある89基すべての古墳の取材と執筆を迷わず郡さんにお願いした。

百舌鳥・古市古墳群は、多くが宮内庁が監理しているため石室はおろか墳丘に登れる古墳も少ない。ビジュアル的にもそんなに「スペクタクル」とは言えない。古墳の基本的なデータやスペックなどを押さえるのは当然ではあるが、本文テキストの部分は「妄想」も含めた想像力を駆使して、「読者を楽しませる」表現がとても大事だと考えた。

郡さんは2017年秋から18年春にかけて、百舌鳥では堺市博物館学芸員の橘泉さんと、古市では藤井寺市の世界遺産登録推進室長(当時)の山田幸弘さんという2人のプロフェッショナルに現場で解説をしてもらいながら一緒に回り、4か月間「古墳漬け」の日々を過ごして、彼女なりのフレンドリーな文体で読者に、百舌鳥・古市古墳群の素晴らしさを伝えてくれた。現在、『堺を歩けば。』は3刷15,500部、『ザ・古墳群〜百舌鳥と古市 全89基』は4刷14,500部まで広がっている。

筆者はいろんな書き手の方と仕事をする機会があるが、郡さんほど「初めて手がけた仕事がいつの間にか超得意技になっている」という人も少ないように思う。『堺を歩けば。』の後、郡さんは「堺おたく」となって、いろんな友人を連れてたびたび堺を訪れては堺観光ボランティア協会の川上浩さん(元理事長)を指名し、知らない名所を案内してもらっては見聞を深めている(夜は堺東に出没するらしい)。

古墳についてはなんと東日本にも「遠征」し、現地の専門家と一緒に古墳をめぐって『都心から行ける日帰り古墳〜関東1都6県の古墳と古墳群102』(ワニブックス)というガイドブックをまるごと1冊執筆した。それだけでなく、2020年には「旅程管理業務主任者」を取得し、全国の古代および世界遺産専門のツアーの添乗員を、ライターの仕事をしながら務めている。

有馬の窯元[温馨窯(おんけいがま)]ではやきもの体験が味わえる。郡さんは自分用に前方後円墳の絵柄を描いた

そういう人が有馬温泉のことを体験取材して話してくれるので、「民放の情報番組」とはぜんぜん違うアプローチで紹介してくれると思います。

「見た目の華やかさ」だけでは分からない有馬温泉

 

有馬温泉では、「クアワーケーション(湯治+仕事+休暇)」という体験プログラムが昨年秋から実験的にはじめられている。(一社)有馬温泉観光協会は「旅行や仕事でいい湯につかって滞在しながら、有馬でしかできない体験をしてほしい」という趣旨で30のプログラムを作成し、本ツアーがこの1月に実施された。郡さんは昨年秋のプレツアーから多くのプログラムを体験して、そのレポートをWEBに書いている。

「プログラム」といっても、国内外のリゾートホテルがよくやっているようなにわか仕込みの「アクティビティ」とはぜんぜん違って、六甲山の麓にある有馬の自然や1400年にわたる歴史が育てた「日本建築」「食文化」「花街文化」「仏教文化」「伝統工芸」などを体験する本格的なもの。古刹の住職や温泉病院の院長、現役の有馬芸妓さん、日本とくに兵庫県の歴史の権威、BMXの日本チャンピオン、老舗のお香店主、400年続く竹細工の当主など一流中の一流が講師になっている。この春以降も随時開催される予定なので(常時体験できるプログラムもある)、これをきっかけに有馬にお出かけするのも絶対にお薦めだ。

いま有馬温泉に行った人は、外国人旅行客の多さと、メインストリート湯本坂の多国籍なにぎわいに驚くと思うが、「温泉と飲み食い」だけにはとどまらない深くて多彩な楽しみがたっぷりある。しかも有馬はコンパクトな温泉街だから、半径100mぐらいをあちこち歩けばいろんな楽しみに出会えるので、ぜひこの講座でたっぷりとネタを仕入れてください。当日は有馬温泉観光協会からのおみやげもあります。

1月の本ツアーポスター。イラストは『島民』でもおなじみ奈路道程さん。この絵が表紙になった32ページのハンドブックを、受講者にもれなくお渡しします

ちなみに、郡さんが6年前にハマって大好きになった堺と、この有馬には大きな共通点がある(答えはナカノシマ大学で)。なので堺好きの人にもぜひ来ていただきたいものです。

お申し込みはこちらへぜひ

拝啓・古地図サロンから35

2023年2月9日 木曜日

2023年1月27日・本渡章より

【今回の見出し】

■1月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動★ナカノシマ大学2月18日(土)開催!
  • 古地図ギャラリー第15回

東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その15〉

■古地図サロンのレポート

開催日:1月27日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。2023年最初のサロンレポートをお送りします。早いもので2018年1月のサロン誕生からまる5年が経ちました。最初の1年は毎月開催で、2年目からは隔月になりました。コロナ禍初期の頃に一度だけお休みしましたが、あとはマイペースで継続。少なくとも今年いっぱいは、この調子で続けていくつもりです。

この日、注目を集めたのは1枚の展示古地図に載っていた「ラサ」の2文字でした。ラサといえばラサスケートリンク。来場のみなさんも同じ連想をした方が多く、大阪市内にかつてあった巨大スケート場の思い出が次々と出て、盛り上がりました。そのわりに、そのラサスケートリンクの最寄り駅がどこだったかなどの記憶は曖昧で、過ぎた年月の長さをあらためて知ったという次第。歴史をたどると、此花区にあったラサ工業大阪工場の跡地に昭和38年(1963)オープンしたラサスポーツセンター内の施設として、ラサ国際スケートリンクがあったんですね。その名のとおり国際試合ができる本格派で、屋内アイススケート場としては当時の世界最大級だったとか。私も小さい頃にラサで滑って転んだのをおぼろげに覚えています。

サロン終了後、同じ会場で初の懇親会を催しました。10人の方が参加。1時間だけの会食でしたが、ふだん聞けないお話など聞けて面白かったです。カフェ「feufeu」名物のスープも美味しくいただきました。

というわけで6年目もサロンをよろしくお願いいたします。これまでお越しになった方も、新しい方もお気軽にご参加くださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◉今回のサロンで展示した古地図
地図(原図)

市区改正設計入・大阪市街新地図 大正13年(1924) 駸々堂
里程・町名早わかり大大阪実測地図 大正15年(1926) 文進堂
大阪市区分地図「東成区地図」 昭和15年(1940)頃 和楽路屋
交通明細・大阪市街地図 昭和25年(1950) 日地出版
最新大阪市案内図 昭和31年(1956) 和楽路屋
大日本大阪名所双六 大阪城天守閣特製
嘉永改正堺大絵図 河内屋清七他

復刻

新改正摂津国名所旧跡細見大絵図 天保7年(1837) 河内屋喜兵

★次回は2023年3月24日(金)午後3~5時開催予定

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。
(サロンは基本、奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

 

【最近と今後の古地図活動】

●「大阪の地名に聞いてみたブログ連載、全12回24編が完結!

誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い、ついに一年間の連載が完結です。
(題字と似顔絵・奈路道程)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第12回ここは水惑星サンズイ圏【前編・後編】
第11回島の国の島々の街【前編・後編】
第10回仏地名は難波(なにわ)から大坂、大阪へ【前編・後編】
第9回人の世と神代(かみよ)をつなぐ神地名【前編・後編】
第8回語る地名・働く地名【前編・後編】(仕事地名・北摂編)
第7回古くて新しい仕事と地名の話【前編・後編】(仕事地名・河内編)
第6回街・人・物・神シームレス【前編・後編】(仕事地名・泉州編)
第5回場所が仕事をつくった【前編・後編】(仕事地名・大阪市中編)
第4回花も緑もある大阪【前編・後編】
第3回桜と梅の大阪スクランブル交差点【前編・後編】
第2回続・干支地名エトセトラ&その他の動物地名【前編・後編】
第1回大阪の干支地名エトセトラ【前編・後編】

ABCラジオ「おはようパーソナリティ 小縣裕介です」に出演決定!

2月15日(水)ABCラジオ「おはようパーソナリティ小縣裕介です」、朝8時~8時半の間の15分間、生出演予定です。
「大阪の地名」、ブログ、ナカノシマ大学2月講座などの話をしてみたいと思います。

ブログ「大阪の地名に聞いてみた」がナカノシマ大学講座に。

誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い……ブログには書けなかった話を新たな現地調査の報告も加えて、たっぷりお聞かせします。テーマは「梅と桜」。訪ねるエリアは梅地名尽くしの梅田、朝ドラで話題の東大阪(桜井)など。当日、会場でお会いしましょう。

ナカノシマ大学2月講座「梅地名VS桜地名、実はここが一番多かった!」

日時:2023年2月18日(土)午前10時~11時30分(開場9時30分)
開場:大阪府立中之島図書館・多目的ホール

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定
春の世界遺産古墳」

「道明寺天満宮と世界遺産古市古墳」2023年4月24日(月)/5月8日(月)午前10時~12時
中之島での教室講座と近鉄道明寺駅(藤井寺市)集合の町歩きがセットになった2回講座。
世界遺産の古墳群と埴輪づくりの土師氏(菅原道真の祖)ゆかりの道明寺天満宮を訪ねます。

●動画古地図でたどる大阪の歴史」続編、作成中

江戸時代の大坂、近代以後の西区編に続き、街歩きスタイルの編集による港区編公開。他に「古地図サロン」、著書『古地図で歩く 大阪24区の履歴書』紹介編の動画もあります。「此花区・港区・大正区」の動画も作成中。
制作・大阪コミュニティ通信社

|古地図ギャラリー|

1.【摂津大坂図鑑綱目大成】宝永4年(1707)刊 ・絵師長谷川圖書

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その15〉

「摂津大坂図鑑綱目大成」が刊行された宝永年間、地図出版は転機を迎えていました。江戸・京都と並んで地図出版が盛んだった大坂では、大絵図などの名で呼ばれる市街地図が元禄期に一定の完成度を達成。後発の地図が注目されるためには、先行作にはない何かを加えなければなりませんでした。時代の空気が掲載図の題名にもうかがえます。「図鑑」とは図版を用いた解説書、「綱目」は概要と細目、大成は蒐集し構築すること。「摂津大坂図鑑綱目大成」は、題名にふさわしく武家屋敷群、蔵屋敷群を網羅し、寺院群についてはひとつひとつの寺の宗派まで区別できる凡例付き。

奥付欄(写真参照)に、宗派の別まで明記した一文を併記してあることからも情報量による差別化の意図が汲みとれます。掲載図の左下には住吉大社の境内も描かれました。正確な位置関係に基づくなら、この図に住吉大社を載せる場所はありません。あえて挿入したのは、大名所の住吉大社が載っている絵図として売り出したい版元の意向の反映でしょう。この図は正徳5年(1715)に再版されており、苦心の甲斐はあったようです。絵師の名は長谷川圖書(はせがわずしょ)。版元は万屋彦太郎でした。

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////

東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

過去の古地図ギャラリー公開作品

第14回(2022年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より久野恒倫「嘉永改正堺大絵図」

②鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「私たちの和田山町」

 

第13回(2022年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「淀川勝竜寺城跡全図」

 

第12回(2022年7月)

①東畑建築事務所「清林文庫」より秋山永年「富士見十三州輿地全図」

 

第11回(2022年5月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大日本分境図成」

 

第10回(2022年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「新改正摂津国名所旧跡細見大絵図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「笠岡市全景立体図」

 

第9回(2022年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「暁鐘成・浪花名所独案内」

②本渡章所蔵地図より「大阪市観光課・大阪市案内図

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「躍進井原市」

 

第8回(2021年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」

②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」

 

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

●電子書籍のお知らせ

本渡章の著書(古地図・地誌テーマ)のうち、電子書籍になった10冊(2022年末現在)は次の通りです。
(記載の刊行年は紙の書籍のデータです)

『鳥瞰図!』140B・刊(2018年)

思考・感情・直観・感覚…全感性を目覚めさせる鳥瞰図の世界にご案内。大正の広重と呼ばれた吉田初三郎の作品群を中心に、大空から見下ろすパノラマ風景の醍醐味を味わえます。併せて江戸時代以来の日本の鳥観図のルーツも紐解く、オールカラー・図版多数掲載の決定版。

『古地図で歩く大阪 ザ・べスト10』140B・刊(2017年)

梅田・中之島・御堂筋・ミナミ・天満・京橋・天王寺。阿倍野・住吉・十三・大正・平野の10エリアを古地図で街歩きガイド。さらに博物館、図書館、大書店、古書店での古地図探しの楽しみ方、大阪街歩き古地図ベストセレクション等々、盛りだくさんすぎる一冊。オールカラー・図版多数掲載。

*上記2冊は各電子書籍ストアでお求めください

*下記8冊は創元社(オンライン)の電子書籍コーナーでお求めいただけます

『図典「摂津名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

大阪の地誌を代表する「摂津名所図会」の全図版を掲載。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添えた。調べものに便利な3種類の索引、主要名所の現在地一覧付。江戸時代の大阪を知るためのビジュアルガイド。

『図典「大和名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

姉妹本『図典「摂津名所図会」を読む』の大和(奈良)版です。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添え、3種類の索引、主要名所の現在地一覧も付けるなど「摂津編」と同じ編集で構成。江戸時代の奈良を知るためのビジュアルガイド。

『古地図が語る大災害』創元社・刊(2014年)

記憶の継承は防災の第一歩。京阪神を襲った数々の歴史的大災害を古地図から再現し、その脅威と向き合うサバイバル読本としてご活用ください。歴史に残る数々の南海トラフ大地震の他、直下型大地震、大火災、大水害の記録も併せて収録。

『カラー版大阪古地図むかし案内』(付録・元禄9年大坂大絵図)創元社・刊(2018年)

著者の古地図本の原点といえる旧版『大阪古地図むかし案内』に大幅加筆し、図版をオールカラーとした改訂版。江戸時代の大坂をエリアごとに紹介し、主要な江戸時代地図についての解説も収めた。

『大阪暮らしむかし案内』創元社・刊(2012年)

井原西鶴の浮世草子に添えられた挿絵を題材に、江戸時代の大坂の暮らしぶりを紹介。絵解きしながら、当時の庶民の日常と心情に触れられる一冊。

『大阪名所むかし案内』創元社・刊(2006年)

江戸時代の観光ガイドとして人気を博した名所図会。そこに描かれた名所絵を読み解くシリーズの最初の著書として書かれた一冊。『図典「摂津名所図会」を読む』のダイジェスト版としてお読みいただけます。全36景の図版掲載。

『奈良名所むかし案内』創元社・刊(2007年)

名所絵を読み解くシリーズの第2弾。テーマは「大和名所図会」。全30景の図版掲載。

『京都名所むかし案内』創元社・刊(2008年)

名所絵を読み解くシリーズの第3弾。テーマは「都名所図会」。全36景の図版掲載。

※その他の電子化されていないリアル書籍(古地図・地誌テーマ)一覧

『古地図でたどる 大阪24区の履歴書』140B・刊(2021年)

『大阪古地図パラダイス』(付録・吉田初三郎「大阪府鳥瞰図」)140B・刊(2013年)

『続・大阪古地図むかし案内』(付録・グレート大阪市全図2点)創元社・刊(2011年)

『続々・大阪古地図むかし案内』(付録・戦災地図・大阪商工地図)創元社・刊(2013年)

『アベノから大阪が見える』燃焼社・刊(2014)

『大阪人のプライド』東方出版・刊(2005)

2/18(土)ナカノシマ大学「梅vs桜地名」のこと

2023年2月6日 月曜日

講座担当/川嶋亜樹

次回のナカノシマ大学は2/18(土)。当大学、最多登壇数を誇る古地図コレクターの本渡章(ほんど・あきら)さんが、昨年春から連載してきたブログ「大阪の地名に聞いてみた」より、「梅地名vs桜地名。実はここが一番多かった!」というタイトルでお届けします。

本渡さんといえば「古地図」。その人が新たな題材に「大阪の地名」を選んだのは――
「大阪の地名を事典的ではなくキーワードで再編集することで、地域の風景を身近に感じ、新たな目で見直すきっかけにしたい」。こんな思いが出発点でした。

本渡さん(写真奥)が淀屋橋のガスビル1Fカフェで隔月主催する古地図サロンの一コマ。「なあなあ、本渡さん。これ知ってる?」と、ご近所さんのように気付けば周りに人が集まってくる親しみやすさが本渡さんの人間力であり魅力

本渡さん(写真奥)が淀屋橋のガスビル1Fカフェで隔月主催する古地図サロンの一コマ。「なあなあ、本渡さん。これ知ってる?」と、ご近所さんのように気付けば周りに人が集まってくる親しみやすさが本渡さんの人間力であり魅力

連載では動物、花や草木、職業、神様や仏、水……と普遍的なキーワードで「大阪の地名」を紐解いてきました。
地名というのは不思議なもので、まったく同じ名前であっても生まれや成り立ちはバラエティ豊か。いろいろな地域で育まれた名前を比較することで、街の歴史や昔の風景、地元の人たちの暮らしぶり、そして地名に込められた人びとの願いがより鮮明に浮かび上がってきました。

古地図を片手に大阪の街をあちこち歩き、大阪の歴史を誰よりも俯瞰的に見つめてきた本渡さんにとって、街の風景を何よりも記憶する「大阪の地名」に辿り着くのは、必然だったように思います。

講座ではそんな本渡さんの眼差しを通して、日本にある最も美しくて身近な地名の一つ「梅」と「桜」の花地名をテーマにお届けします。中之島図書館のある大阪市北区や、いま朝ドラで話題の東大阪の地名も取り上げます。

行かないと分からない! 地名が「息づく」場所

その東大阪へ先日、本渡さんの現地調査に同行してきました。ルートは生駒山麓に広がる瓢箪山から枚岡(ひらおか)まで。消えた「桜」地名を探すべく、住宅街の中にある小さな神社にはじまり、山の中を抜けて枚岡神社の梅林まで4時間かけてみっちり歩きました。が、これが想像以上につらかった!

東大阪の消えた地名「桜井」の謎を探しに瓢箪山の梶無(かじなし)神社へ。境内に合祀された櫻井神社に見入る本渡さんは、どんな思いを巡らしているのでしょう?

東大阪の消えた地名「桜井」の謎を探しに瓢箪山の梶無(かじなし)神社へ。境内に合祀された櫻井神社に見入る本渡さんは、どんな思いを巡らしているのでしょう?

実は、東大阪は筆者のホームタウン。けれど地元といっても、中小企業の密集するリアル『舞いあがれ!』な町工場の生まれなので、自然豊かなこのあたりを歩くのは、ほぼ初めて。特に枚岡神社に向かう途中、終わりなき上り坂を颯爽と進む本渡さんとは対照的に、息も絶え絶えで絶望すら感じてしまう。
でも、こんなに急勾配な坂が住宅街にあることも、消えたはずの「桜」地名が実は街のあちこちで大切にされていることも(地元の人が教えてくれました)、地図を眺めたり、本を読んだりしているだけでは分からないものです。たとえ、どんなにその地に思いを馳せたとしても。

「街のことは実際に街を歩き、街の人と会話し、体感してこそ分かることがある」

身近な場所であっても歩けば歩くほど、知れば知るほど、おもしろい発見がある。それが積み重なって愛着となり、いつもの道を歩いているだけで何だか楽しい。そんな体験をみなさんにお届けしたいと願っています。

梶無神社から生駒山麓をめざして徒歩30分、紀元前657年に創建されたと伝わる枚岡神社の梅林に到着。現地調査当日(2/2)は見ごろを迎える前でしたが、講座当日には愛らしい花満開になっているはず

梶無神社から生駒山麓をめざして徒歩30分、紀元前657年に創建されたと伝わる枚岡神社の梅林に到着。現地調査当日(2/2)は見ごろを迎える前でしたが、講座当日には愛らしい花満開になっているはず

さて、「梅」と「桜」の花地名。みなさんの住む街や生まれ育った街にもありませんか? どの地域にもある地名を比べてみることで、意外な歴史ドラマが潜んでいることに驚くはずです。

当日は、本渡さんの数ある著書の中から、『古地図でたどる 大阪24区の履歴書』『鳥瞰図!』『古地図で歩く大阪 ザ・ベスト10』『大阪古地図パラダイス』(以上、140B)を販売いたします。講座終了後にサイン会もあるのでお楽しみに!


お申し込みはこちら↓
https://nakanoshima-daigaku.net/seminar/article/p20230218

 

拝啓・古地図サロンから34

2022年12月27日 火曜日

2022年11月25日・本渡章より

【今回の見出し】

■11月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動
  • 古地図ギャラリー第14回

東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その13〉

昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その11〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:11月25日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。2022年最後のサロンレポートをお送りします。
もともと誰でも気軽に参加できる場として生まれたサロンで、来場された方々のお名前や連絡先を尋ねることもなく、毎回、一期一会の顔ぶれで古地図を囲み雑談を楽しむスタイルで続けてきました。そうしてまる5年が経ち、この頃は人数もほどほどで落ち着き、参加者も固定しつつあるようです。かと思うと、今回のように、また新しい方が参加されたり、しばらく顔を見なかった方が来られたりして、同じようでも毎回ちょっとずつ雰囲気が違います。4時からの私の30分トークは講座という趣ではなく、展示の古地図を手にとって、その場で浮かんだあれこれをしゃべり、参加者からの声も聞きます。2時間のサロンですが、途中入退出もオーケー。「日本一気軽に古地図と遊べる場」がキャッチフレーズです。

さて、今回の展示古地図で目立ったのは明治32年(1899)発行の「大阪市明瞭新地図 」でした。横に並んだ「大日本大阪名所双六」と発行者が同じで、あわせて見ると、明治後期の街の活気がうかがえます。1世紀以上前の印刷物なので、色褪せや破れ目がありますが、それも過ぎた歳月のしるし。古さは味わいの深さでもあります。虫眼鏡をとりだし、地名の文字をみんなで読みとる場面もサロンではおなじみになりました。いつまで続けられるかわかりませんが、とりあえず2023年もこんな調子でサロンはゆるゆると続いていく予定です。

というわけで、みなさま、よい年をお迎えください。2023年にまたお会いしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◉今回のサロンで展示した古地図
地図(原図)
大日本大阪名所双六 明治31年(1898) 東新太郎
大阪市明瞭新地図 明治32年(1899) 東新太郎
最新大日本鉄道地図 昭和11年(1936) 大阪毎日新聞
日本産業大観図豊中市・昭和28年(1953)若山太陽社
大阪府近郊地図・昭和27年頃(1952)朝日新聞社
大阪都市計画街路及土地区画整理事業計画区域図・昭和39年(1964)大阪市区画整理局

復刻
大日本大阪名所双六 大阪城天守閣特製
嘉永改正堺大絵図 河内屋清七他

次回は2023年1月27日(金)午後3~5時開催予定

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。
(サロンは基本、奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

 

【最近と今後の古地図活動】

●「大阪の地名に聞いてみたブログ連載中

誰よりも大阪を知る「大阪の地名」の声、地名にひかれ地名で結ばれる人の想い。
月1回ペースで一年間の連載予定(題字と似顔絵・奈路道程)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10回仏地名は難波(なにわ)から大坂、大阪へ【前編・後編】
第9回人の世と神代(かみよ)をつなぐ神地名【前編・後編】
第8回語る地名・働く地名【前編・後編】(仕事地名・北摂編)
第7回古くて新しい仕事と地名の話【前編・後編】(仕事地名・河内編)
第6回街・人・物・神シームレス【前編・後編】(仕事地名・泉州編)
第5回場所が仕事をつくった【前編・後編】(仕事地名・大阪市中編)
第4回花も緑もある大阪【前編・後編】
第3回桜と梅の大阪スクランブル交差点【前編・後編】
第2回続・干支地名エトセトラ&その他の動物地名【前編・後編】
第1回大阪の干支地名エトセトラ【前編・後編】

●電子書籍のお知らせ

本渡章の著書(古地図・地誌テーマ)のうち、電子書籍になった10冊(2022年末現在)は次の通りです。
(記載の刊行年は紙の書籍のデータです)

【次の2冊は各電子書籍ストアでお求めください】

『鳥瞰図!』140B・刊(2018年)

思考・感情・直観・感覚…全感性を目覚めさせる鳥瞰図の世界にご案内。大正の広重と呼ばれた吉田初三郎の作品群を中心に、大空から見下ろすパノラマ風景の醍醐味を味わえます。併せて江戸時代以来の日本の鳥観図のルーツも紐解く、オールカラー・図版多数掲載の決定版。

『古地図で歩く大阪 ザ・べスト10』140B・刊(2017年)

梅田・中之島・御堂筋・ミナミ・天満・京橋・天王寺。阿倍野・住吉・十三・大正・平野の10エリアを古地図で街歩きガイド。さらに博物館、図書館、大書店、古書店での古地図探しの楽しみ方、大阪街歩き古地図ベストセレクション等々、盛りだくさんすぎる一冊。オールカラー・図版多数掲載。

【次の8冊は創元社(オンライン)の電子書籍コーナーでお求めいただけます】

『図典「摂津名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

大阪の地誌を代表する「摂津名所図会」の全図版を掲載。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添えた。調べものに便利な3種類の索引、主要名所の現在地一覧付。江戸時代の大阪を知るためのビジュアルガイド。

『図典「大和名所図会」を読む』創元社・刊(2020年)

姉妹本『図典「摂津名所図会」を読む』の大和(奈良)版です。主要図版(原寸大)には細部の絵解きの説明文、その他の図版にもミニ解説を添え、3種類の索引、主要名所の現在地一覧も付けるなど「摂津編」と同じ編集で構成。江戸時代の奈良を知るためのビジュアルガイド。

『古地図が語る大災害』創元社・刊(2014年)

記憶の継承は防災の第一歩。京阪神を襲った数々の歴史的大災害を古地図から再現し、その脅威と向き合うサバイバル読本としてご活用ください。歴史に残る数々の南海トラフ大地震の他、直下型大地震、大火災、大水害の記録も併せて収録。

『カラー版大阪古地図むかし案内』(付録・元禄9年大坂大絵図)創元社・刊(2018年)

著者の古地図本の原点といえる旧版『大阪古地図むかし案内』に大幅加筆し、図版をオールカラーとした改訂版。江戸時代の大坂をエリアごとに紹介し、主要な江戸時代地図についての解説も収めた。

『大阪暮らしむかし案内』創元社・刊(2012年)

井原西鶴の浮世草子に添えられた挿絵を題材に、江戸時代の大坂の暮らしぶりを紹介。絵解きしながら、当時の庶民の日常と心情に触れられる一冊。

『大阪名所むかし案内』創元社・刊(2006年)

江戸時代の観光ガイドとして人気を博した名所図会。そこに描かれた名所絵を読み解くシリーズの最初の著書として書かれた一冊。『図典「摂津名所図会」を読む』のダイジェスト版としてお読みいただけます。全36景の図版掲載。

『奈良名所むかし案内』創元社・刊(2007年)

名所絵を読み解くシリーズの第2弾。テーマは「大和名所図会」。全30景の図版掲載。

『京都名所むかし案内』創元社・刊(2008年)

名所絵を読み解くシリーズの第3弾。テーマは「都名所図会」。全36景の図版掲載。

※その他の電子化されていないリアル書籍(古地図・地誌テーマ)一覧

『古地図でたどる 大阪24区の履歴書』140B・刊(2021年)

『大阪古地図パラダイス』(付録・吉田初三郎「大阪府鳥瞰図」)140B・刊(2013年)

『続・大阪古地図むかし案内』(付録・グレート大阪市全図2点)創元社・刊(2011年)

『続々・大阪古地図むかし案内』(付録・戦災地図・大阪商工地図)創元社・刊(2013年)

『アベノから大阪が見える』燃焼社・刊(2014)

『大阪人のプライド』東方出版・刊(2005)

 

●動画古地図でたどる大阪の歴史」続編、作成中

江戸時代の大坂、近代以後の西区編に続き、街歩きスタイルの編集による港区編公開。他に「古地図サロン」、著書『古地図で歩く 大阪24区の履歴書』紹介編の動画もあります。「此花区・港区・大正区」の動画も作成中。
制作・大阪コミュニティ通信社

文学・歴史ウォーク

2023年1月8日(日)午前10時・近鉄藤井寺駅前集合、講演と道明寺天満宮周辺ウォーク
当日参加OK。主催・文学歴史ウォーク

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定

2022年12月16日(金)午後1時~2時30分「古地図で訪ねる大阪の60年代と万博」
2023年1月27日(金)・2月24日・3月24日午前10時30分~12時「古地図地名物語」

 

|古地図ギャラリー|

1.【嘉永改正堺大絵図】嘉永5年写・久野恒倫

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その13〉

江戸時代・幕末期の堺を描いた絵図としてよく知られた作品。凡例の他に「附言」として堺の地名由来が記されています。それによると、堺は狭小ではあるけれど三国の境を地内に擁し、他の地域にはみられない特徴を持つ故に、名を堺(境)と呼ぶとのこと。三国とは旧国名の摂津・河内・和泉をさします。現在も残る地名の三国ヶ丘が、三国の境界が接する場所なのですが、不思議に思われる読者もおられるかもしれません。現在の堺市は、泉州に属する街で、摂津との境界は大和川とされ、三国ヶ丘が境界とは言えなくなっています。では、絵図の附言は誤りなのかというと、そうではありません。大和川が宝永4年(1704)に現在の川筋に付け替えられ、摂津と泉州を隔てる太々としたラインとして横たわるようになったので、境界線が変わったのです。

図中の北側には大和川が描かれています。川向うに住吉大社、住吉浦が載っています。江戸時代の堺は、政令指定都市になった堺市の中心街と重なり、三国は図の中央右にあり、近くに方違の風習で有名な方違神社が載っています。悪い方位による災いを避ける方違ができるのは、この地が三国の境界が接する場所だからです。三国ヶ丘にはJRと南海の三国ヶ丘駅があり、方違神社には今でも方災除けのために訪れる参拝者が絶えません。この絵図は、新大和川が開通してから100年以上経って生まれましたが、三国の境の逸話を附言として伝えました。伝承は三国ヶ丘で今も生きています。

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////

東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

2.【私たちの和田山町】

鳥観図絵師・井沢元晴の作品より〈その11〉

古地図ギャラリー第1~10回で紹介した昭和の伊能忠敬・井沢元晴の幻の作品発見のニュースが届きました。郷土絵図と題して各地の学校に寄贈された鳥瞰図は、いずれも井沢元晴が戦後の日本の街々を足で歩いて描き残した労作。寄贈から半世紀を経た今、その消息を知るのが難しくなっていました。今回の発見は今年、神戸市の安養寺で開催された井沢元晴「戦災画スケッチ展」(前回のサロンレポート参照)を記事にした神戸新聞・中島摩子記者の丹念な調査が実ったもの。兵庫県和田山市の大蔵小学校にその1枚が現在も校舎に掲げられていたとの知らせをきっかけに、郷土絵図「私たちの和田山町」と遺族との対面が実現。当日は私も同席の機会を頂戴し、感動を分けていただきました。鳥瞰図絵師・井沢元晴の活動の原点となった郷土絵図が、半世紀の作品とは思えない風合いを保っていたのは驚きです。絵図を見上げながら元気に階段を駆け上がる子供たちの姿も印象的でした。

その後も郷土絵図発見の続報がありました。絵の由来を知って共鳴された大蔵小学校の先生方のお力添えのおかげです。和田山訪問の詳細は中島記者が記事にされました(12月17日付・神戸新聞夕刊1面)。今後の展開に注目を。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

過去の古地図ギャラリー公開作品

第13回(2022年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「淀川勝竜寺城跡全図」

 

第12回(2022年7月)

①東畑建築事務所「清林文庫」より秋山永年「富士見十三州輿地全図」

 

第11回(2022年5月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大日本分境図成」

 

第10回(2022年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「新改正摂津国名所旧跡細見大絵図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「笠岡市全景立体図」

 

第9回(2022年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「暁鐘成・浪花名所独案内」

②本渡章所蔵地図より「大阪市観光課・大阪市案内図

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「躍進井原市」

 

第8回(2021年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「友鳴松旭・大日本早見道中記」

②本渡章所蔵地図より「遠近道印作/菱川師宣画・東海道分間絵図」「清水吉康・東海道パノラマ地図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「吉備路」

 

第7回(2021年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・江戸図鑑綱目坤」「遠近道印・江戸大絵図」

②本渡章所蔵地図より「改正摂津大坂図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」

 

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」

②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

 

第5回(2021年5月)

①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ

②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」

③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

 

第4回(2021年3月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」

②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」

③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」

④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

 

第3回(2021年1月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」

②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図」

 

第2回(2020年11月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」

②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

 

第1回(2020年9月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」

②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

12.17-18 GIVE ME BOOKS!! WINTER 2022 に出展します

2022年12月15日 木曜日

コロナ禍の感染の波を避けるように出展してきたイベントも
2022年はこれでファイナルになります。

GIVE ME BOOKS!! WINTER 2022

12/17(土)-18(日)
10:00-16:00

奈良県コンベンションセンター
コンベンションホールB・C(屋内です)

#givemebooksnara

 

2022年、様々な会場で140Bの手に取って頂きありがとうございました。

12.17ナカノシマ大学に登壇する譽田亜紀子さんのこと

2022年11月29日 火曜日

担当/中島 淳

「縄文・弥生・古墳〜身近な“古代”を追いかけて」というお題で、ナカノシマ大学に初登壇する譽田亜紀子(こんだ・あきこ)さん。全国の古代遺跡や博物館、資料館などを取材し、そこで得られた知見や成果をまとめた著書を何冊も出版しているが、いずれも重版に次ぐ重版で、この分野ではありえなかったヒットを生み出している。

2017年3月に発売された『知られざる縄文ライフ』(誠文堂新光社)は、ご覧のように「とっつきやすい」インターフェースでずっと版を重ねている

2017年3月に発売された『知られざる縄文ライフ』(誠文堂新光社)は、ご覧のように「とっつきやすい」インターフェースでずっと版を重ねている

その譽田さんとの最初のご縁は、かつて弊社が1年間だけ取り組んだ雑誌『大阪人』の仕事。もう11年も前、2011年の初夏の頃である。

きっかけは、京都の“酒場ライター”バッキー井上からの電話だった。
「ちょっと紹介したいライターの人がいんのやけど」
ええ話というのは「メールやSNSでなく、まず電話」ということが多い。ましてやバッキーからだし。
「そうなん? いつでもオッケーなんで、こっちの連絡先教えてあげてください」

数日後にやって来たその女性は、分厚い本を携えていた。書名は忘れたが、奈良県内の遺跡や文化財のことを集大成したような書籍で、斬新なデザインと色遣いが印象に残っていた。その本に書き手の一人として参加し、取材原稿を担当したという。バッキーからの話なので、酒場や食べ物屋などの原稿を書いている人かと思ったが、そうではなかった。でも原稿はわかりやすくて読みやすいし、何よりも、人当たりの感じの良さや明るさが印象に残っている。

いきなりのハードワークを上機嫌パワーでこなす

140Bでは当時、80年以上の歴史を持つ雑誌『大阪人』の編集を版元から委託され、定期刊を年間6点、増刊号を年間4点発行するということで、なかなか気が抜けない日々を過ごしていた。初めて弊社の手で作った7月号(大阪キタ)から、8月号増刊(天神祭)、9月号(旅する24区)が終わるとすぐに11月号(商店街)の特集と走り回る日々だったが、11月号増刊(うまいもんの店)の締切も迫っていた。

増刊の書き手は2人。Hanako WESTの元編集長・吉村司さんと弊社の江弘毅である。双方の持ちネタ(店)が対照的なほど違うので、これまでにないええ店の紹介本になると思ってはいたが、いかんせん日程がタイトで、江にはなじみの店ばかりとはいえ2週間で30軒以上行ってすぐ原稿にしてもらわないといけない。しかもお店&カメラマン&江の都合を調整して進行できる人間が必要だった。そんな時に思い出したのが「先日バッキーから紹介してもらった感じのええライターの人」だった。

「短期間に大阪で何軒も走り回ってもらう取材ですが、どないでしょう?」
譽田さんはすぐに快諾し、木津川市の自宅(当時)から何度も大阪に通い、カメラマンの川隅知明さんや江と一緒に大阪のええ店を32軒回ってもらった。お盆を挟んだ強行スケジュールで大変だったはずだが、いま思い返すと「そう言えば譽田さんがバタバタしているところを見たことなかったな」という感じで、いつも機嫌よく、かつ淡々と仕事しておられたことを覚えている。10月に出たこの増刊「ちゃんとした大阪うまいもんの店」はお蔭で完売となった。

『大阪人』2011年11月号増刊より。江だけでなく、譽田さんも誌面に何度も登場している 

『大阪人』2011年11月号増刊より。江だけでなく、譽田さんも誌面に何度も登場している 

譽田さんの「上機嫌力」に味を占めた私は、『大阪人』1月号「鉄道王国・大阪」の特集で、八尾市の久宝寺と鶴見区の放出を結ぶ「JRおおさか東線」の取材をお願いした。
この時は、『大阪の地下鉄』(産調出版)の著者であり、筋金入りの鉄ちゃんである石本隆一さんと電車に乗り、石本さん自身の記憶も含めたおおさか東線沿線の知られざるネタを聞きながら旅をするというもので、カメラマンの川隅さんと私も同乗し、終始たのしい取材の旅となった。

『大阪人』11月号増刊より。好天にも恵まれ、飛び込み取材の連続も予想以上の着地に

『大阪人』11月号増刊より。好天にも恵まれ、飛び込み取材の連続も予想以上の着地に

『大阪人』は翌年の2012年春、版元の都合で休刊となったこともあって、そのあと譽田さんの出番はしばらくなかったが、その年の夏に弊社を訪れた譽田さんは、いきなり言った。
「土偶の本を書きたいと思っているんですけど」

「好きなこと」をつらぬいてきた人の力

譽田さんの都会的なビジュアルと「土偶」のギャップが大きかったので目が点になっていたが、初対面の時に見せてもらった本も、歴史や遺跡に関係したもの。「これこそが譽田さんの好きな分野なんだ」と納得し、「書きまくるしかないで。材料がないと版元も判断せえへんし」と無責任な応援団のひとりとして言った。
譽田さんは手弁当であちこちの遺跡や博物館、資料館をめぐり、研究者から話を聞いて回って企画書を書き上げた。出版社の企画が通ってからは原稿を1か月半で書き上げ、2014年の7月に最初の著書『はじめての土偶』(世界文化社)が刊行された。

2017年6月発売の『土偶界へようこそ』(山川出版社)。東京新聞・中日新聞の連載を単行本化で、譽田さんが「土偶女子」の第一人者として注目された1冊

2017年6月発売の『土偶界へようこそ』(山川出版社)。東京新聞・中日新聞の連載を単行本化で、譽田さんが「土偶女子」の第一人者として注目された1冊

そこから先の活躍は多くの人が知るところなので割愛するが、これまで「とっつきにくそう」だった考古学、とくに縄文や土偶など、先史時代の生活や社会に対して、「私たちの身近な祖先」というスタンスを一貫して堅持し、親しみやすい普段着の言葉で読者に紹介するという仕事は、「譽田亜紀子登場以前」と「登場以後」でずいぶん変わったような気がする。弊社が2018年に刊行した『ザ・古墳群〜百舌鳥と古市 全89基』というガイドブックも、譽田さんたちがつくり出した流れが背景にあってこそ、4刷まで版を重ねることができている。

2019年に「百舌鳥・古市古墳群」が、2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されて以降、日本の先史時代にますます注目が集まっているが、世界遺産になろうがなるまいが、「好き」なものをずっと追いかけ続けてきた譽田さんのパッションと粘り強さには敬服するしかない。何よりもあの上機嫌なキャラクターに男女・年齢層問わずファンがいる。

2021年7月に出た『かわいい古代』(光村推古書院)。グラフィックデザイナーの力を引き出す譽田さんのセンスに感心する

2021年7月に出た『かわいい古代』(光村推古書院)。グラフィックデザイナーの力を引き出す譽田さんのセンスに感心する

12月17日(土)のナカノシマ大学では、譽田さんが土偶に触れて本を書きたいと思い至ったきっかけや、この10年間に主に「縄文」を追いかけて旅した全国各地の忘れられない光景、そして「関西で古代を体感できる5つの場所」についてお話をいただきます。
当日は、譽田さんの数ある著書の中から、3つの版元の本(計5冊)を会場で販売します。終了後はサイン会もあるので、お楽しみに!

新連載「阪急沿線 あの駅のこと」のこと

2022年11月25日 金曜日

担当/中島 淳

新たにはじまった連載の絵は、再び綱本武雄さんの手によるものだ。
「再び」というのは、綱本さんが2008年から16年まで8年間、『TOKK』の連載「阪急沿線 ちょい駅散歩」で毎月1回、87の駅と駅前の風景を描き続けてきたからである。

TOKK2008年4月1日号より ©阪急電鉄

TOKK2008年4月1日号より ©阪急電鉄

このビジュアルを覚えておられる方も多いだろうし、「じぶんの駅」が載った号を保存している読者も決して少なくないと思う。綱本さんは現地を取材して、これだけのボリュームの精緻なカラーイラストを毎月数点描きつつ、他の仕事も幅広く手がけていた(140Bだけでも『月刊島民』の連載や『大阪人』の別冊があった)。おそろしいほどの集中力である。

今回の「阪急沿線 あの駅のこと」は、TOKKの連載で訪ねた「あの駅」をもう一度訪れ、取材者のテキストに、綱本さんが描き下ろしたイラストを添えるというもので、「延長戦」というより「新たなスタート」の色が強い。その理由は、松本有希さんがこの連載の取材・執筆を担当するからである。

綱本武雄の絵に「呼ばれた」駆け出しの編集者

松本さんは、阪急阪神東宝グループの会社に勤務していた2007年当時、『TOKK』に新たな企画を立ち上げたい、できれば自分が取材して原稿を書きたい、という熱い思いを抱いていた。アップルからiPhoneという「携帯電話」の概念を超えた商品が発売され、インターネットでのメディア展開が新たなフェーズを迎えていた頃である。会社では『TOKK』のフリーペーパーとしての生き残りをかけ、社員に「もっと読者を増やし、新規読者を開拓せよ」という号令がかかっていた。

そんな時、あるライターから尼崎のフリーマガジン『南部再生』を見せてもらい、それに連載を描いている綱本さんの絵に目が釘付けになったという(綱本さんは『南部再生』創刊の2001年5月号から2020年4月号の第62号まで連載)。
「この人と連載したら絶対いい紙面になる!!」。それから綱本さんにコンタクトを取るのは早かった。何日か後に武庫之荘駅に降り立ち、綱本さんがはたらく事務所のドアを開けて連載を口説き落としたそうだ。

2008年4月、「阪急沿線 ちょい駅散歩」が門戸厄神駅を皮切りにスタートした。綱本さんは毎回イラストを描いていたが、取材ライターは編集部の持ち回りで、3か月に1回ほどが松本さんの担当だったという。TOKKという媒体の性格上、「編集者の顔が見える連載を作りたい」「自分たちで取材して書いて、読者の方に、作り手の温度を感じてほしい」とは思っても、クレジットが「イラスト/綱本武雄」しか出ないことに、編集者(書き手)として、若干の寂しさ物足りなさがあったのではないかと想像する。

そして「阪急沿線 ちょい駅散歩」が梅田駅で最終回を迎える2016年1月1日号。そのとき松本さんは2人目のお子さんを出産し、育休で立ち会えなかったことも心残りだったという。
「このまま『阪急沿線 ちょい駅散歩』は思い出になってしまうところでした」(松本さん)

14年後の逆プロポーズ

ところがそうではなかった。
「『阪急沿線 ちょい駅散歩』の現場をもう一度歩いて本にしたい」と今度は綱本さんから松本さんに提案をしたのである。それが今年の1月。そして4月から取材がはじまり、14年半ぶりに門戸厄神駅が2人の手でお目見えすることになった。

https://140b.jp/anoeki/article/p1

この連載は、当時のTOKKとは違って、あえて松本有希さんの「主観」や「個人的回顧録」を前面に出したものになっている。ひとりのライターがいくつもの時代を通じて見ていた「駅」や「駅前」の風景描写は、それを知る者なら記憶を一瞬にして呼び覚ます導火線のような力がある。

「門戸厄神駅」のテキストを読み終わってすぐ後に、「内田樹先生の講演会に神戸女学院大学へ行った日」「女学院OGの友人の結婚式でヴォーリズが設計した美しい中庭に入った日」「大厄の年に門戸厄神にお参りに行った日」などの記憶がこぼれ落ちてきた。あの駅に降り立ったことのある者は、たとえ松本さんのテキストに書かれた店については何ひとつ知らなくとも(私も固有名詞は全く存じ上げなかったが、店名を知らないだけで入ったことがある店なのかもしれない)、勝手にその人その人の「門戸厄神駅」の記憶が立ち上がるのではないかと感じている。

そして綱本さんが描いた駅前の絵でとどめを刺される。その風景は、あなたが知っている門戸厄神駅の記憶と「同じ」であっても「ずいぶん変わった」であっても、絵には綱本さんでしか表せない「時間」が塗り込められている。変わらないのはあの頃と同じように阪急電車が走り、いろんな人を乗せて走っていることだ。

駅は、鉄の車両が走って停まり、人が乗ったり降りたりする場所に過ぎないのかもしれないが、それでも私たちは「駅」と聞いただけで勝手に自分の物語を思い浮かべてしまう。だからこそユーミン(雨のステイション)や奥村チヨ(終着駅)や野口五郎(私鉄沿線)や竹内まりや(駅)が歌う「駅」の歌は、何十年経っても人の心に残るし、知らず知らずに口ずさんでしまう魔力がある。

松本さんと綱本さんがこの先、どんなふうに阪急の「駅」や「駅前」についての人の記憶を呼び起こし、心をざわつかせてくれるのか、楽しみで仕方がない。もちろん最後は本という形になることを期待しつつ。

【速報】WEB連載開始 「あの駅のこと」vol.1門戸厄神駅(西宮市)

2022年11月17日 木曜日

140Bのweb新連載「あの駅のこと」が始まりました。

かつて阪急電鉄の沿線情報紙『TOKK』に「阪急沿線 ちょい駅散歩」(2008〜16年)という連載を持っていたい絵師・綱本武雄さんと当時の編集担当・松本有希さんが少しの時を経て再会、今見える風景を追走して「あの駅のこと」を描きに旅を再開しました。

twitterのアカウントも出来ました。中の人はこの連載チームのメンバーたちです。
そちらもどうぞよろしくお願い致します。

 

https://140b.jp/anoeki/

 

お知らせ 10/29-30「神保町ブックフェスティバル」に出展

2022年10月26日 水曜日

10/29(土)・30(日)は3年振り開催の「第30回神保町ブックフェスティバル」に出展します。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本最大級の本のお祭りです。140Bもお客さんと一緒に楽しみたいと思います。
本はいつも通りほぼ全点お持ちします、一部バーゲン本もご用意しました。さらに今年は紀伊國屋書店本町店さんから頂いた中之島ライオン橋のライオンさんに守護神として同行願おうと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

どうぞ、みなさま気楽に140Bブースまで遊びによって見て下さい。

第30回神保町ブックフェスティバル
10/29(土)・30(日)
10:00~18:00(雨天中止)

140Bの出店場所:B-北-17ブース(ダイソーの向いあたり)
(青木が両日店におります)

11/18(金)ナカノシマ大学「すべての水路は“なにわ”に通ず」のこと

2022年10月21日 金曜日

講座担当/中島 淳

『浪花百景』より。水都大坂の入り口「天保山」と澪標(みおつくし)

『浪花百景』より。水都大坂の入り口「天保山」と澪標(みおつくし)

次回のナカノシマ大学は11/18(金)。作家の玉岡かおる先生が7年ぶりに登壇します。
玉岡先生の新たな代表作である『帆神−北前船を馳せた男・工楽松右衛門−』(新潮社・第41回新田次郎文学賞受賞)にちなんで、タイトルは「すべての水路は“なにわ”に通ず」。

執筆のために大阪に拠点を置いて書き上げた玉岡先生が90分間、ノンストップでお話ししてくれます。限定100人。どうぞお早めに!

https://nakanoshima-daigaku.net/seminar/article/p20221118