本渡章のサロン
「古地図ものがたり」
毎回、古地図数点を公開。見るだけOK、話しかけOK、古地図マスターこと本渡章さんがお話し相手をつとめる楽しいひととき。ここでは、10月に開かれたサロンの様子をご紹介。本渡さんが訪れた人へ宛てたメールの形式で綴ります。
■毎月第4金曜、3:00PM~6:00PM
■大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて開催
☆2018年10月26日付・本渡章より、これをお読みのみなさまへ。
拝啓
見上げれば、青と白のコントラストがくっきり。御堂筋もすっかり秋の空です。皆様、いかがお過ごしですか。
今月の古地図サロンは、10月26日午後3~6時、大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて、予定どおり開催されました。

本日もオープン待ちの方がお一人。サロンが始まってからも、ぽつぽつ来場があり、それぞれの都合に合わせて退席という感じで、常時数人おられる感じで最後まで続きました。気候がすごしやすくなって、みなさん外出がしやすくなったのかもしれません。秋はいい季節です。
今回の展示は「教科書になった古地図」がメインテーマ。明治・大正・昭和初期の学校で使われた地図帳のほか、教科書、副読本を7点。これ以外に、昭和の大阪の古地図5点を用意しました。(詳細は末尾に記載)
意外と手に取ってじっくり見る人が多かったのが、明治の「日本の歴史」教科書です。古代の日本列島図に旧国名を記して、時代順にいくつか載っています。本文は天皇に関する記述が主です。正直言って、これが一番人気になるとは思っていなかったので、びっくり。
もちろん来場の方たちが戦前教育復活の支持者というわけではなく、明治時代の歴史教科書とはどんなものだったのか、そこにどんな日本地図が載っていたのか、と純粋に好奇心をそそるものがあったということなのですね。
実を言うと、私もこの教科書の中身をまだよく見ていなかったので、神話や記紀に出てくるような地名を記した古代の日本地図が載っているのを知らず、へえという感じで、みなさんと一緒に驚いてしまいました。本文は旧仮名遣いで読みにくいのですが、読んでいくと当時の教室の空気がふわっと行間からたちのぼってくる感じもします。本の紙質や文字の書体、挿絵の雰囲気など、すべてが時代を語っています。学校の世界地図も、明治から大正、昭和にかけて大きく変わりました。今はなくなった国が実に多いのです。国境も移動しています。新しい国も数え切れません。今も世界は変わり続けているのです。
昭和の古地図では、此花区の「伝法」という地名がみなさんとの話題になりました。仏法の伝来にちなんだ地名の伝法が、此花区の区名の由来とも関係があるという話なのですが、昭和4年と昭和20年代の大阪市街図で伝法の場所を探してみると、意外なことに気づきました。伝法は、今は此花区の地名ですが、その前は別の区に所属していたのです。
なんと区の境界が移動していました。時代とともに世界も大阪もどんどん変わっていたのです。あたりまえといえばあたりまえですが、気づくたびに、へえと思ってしまいます。
さて、次回(11月は休みで12月7日開催)のサロンは江戸時代の古地図を中心に公開します。お見逃しなく。
というわけで、本日の展示古地図の題名は、次のとおりです。
●本日の公開古地図
(学校で使われた地図帳)
★「教科摘要・帝国新地図」明治24年(1891)
「小学外国地図」明治29年(1896)
「普通教育世界地図」大正4年(1915)
「高等小学地理書付図」昭和15年(1940)
「尋常小学校修身書」明治25年(1892)
「日本歴史」明治33年(1900)
「小学綴方」大正6年(1917)
(古地図)
「最新大大阪市街全図」昭和4年(1929)
「大大阪区勢地図・北区」昭和13年(1938)
「最新大阪市街地図」昭和20年代
「新世界全図」昭和28年(1953)
「堺市詳細図」昭和31年(1956)
以上12点。すべて〔原図〕です。この他にナカノシマ大学特製復刻古地図15点、高島屋ギャラリーで展示した特製古地図ポスター6点も展示しました。
☆〔原図〕とは、発行年が明治であれば、明治のその年に発行されたオリジナル版という意味です。また、復刻古地図は原図をもとに作った復刻版です。
今回のセレクト地図は「教科摘要・帝国新地図」でした。学校で使用された地図帳。モダンな装丁にひかれて頁を開けると、中は片面印刷。きれいな色刷りです。
なお、本も2冊展示しました。
『鳥瞰図!』本渡章(私の最新刊。「本の雑誌」9月号の書評欄で紹介されました)
『文学地図』加藤典洋(ひとつの世界を知るには、俯瞰する地図的視点がいつも役に立つ)
地図サロンは御堂筋の名建築・大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて。以後の日程は次のとおり。
11月は休み
12月は7日(金)3:00PM~6:00PMに開催(※この日がサロンの最終回です)
どなたでも参加できます。もし、興味をもたれた方がおられましたら、どうぞ気軽にお越しください。途中参加・途中退場オーケーです。では、次回サロン(12月7日)で、みなさまとお会いできるのを楽しみにしています。
敬具
平成30年10月26日
本渡章
★本渡章のサロン
「古地図ものがたり」
最終回は12月7日(金)3:00PM〜6:00PM
大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて開催します。








『生きた建築 大阪 2』

10分前に会場に入り、珈琲を注文していると、早くも来場の方がお一人。お話をしながら、古地図を広げてサロンの準備している最中に、またお一人。その後も最後まで、ぽつぽつの来場が続く一日でした。「月刊島民」発行人の大迫さんも来場。「島民」編集部は、このブログを運営している株式会社140
今回の展示テーマは「大阪以外特集」でした。いつもは地元大阪の古地図がほとんどなのですが、東京・京都・滋賀・神戸の古地図をならべてみました。参加者はみなさん大阪とその近隣の在住なので、他都市の地図はどうなんだろうと思っていたのですが、心配無用でした。いつもと同じように、興味をもってゆっくり見て帰られる方ばかりで、むしろなじみの薄い場所だからこそ疑問もいっぱいで、話のタネが尽きなかったように思います。大阪の古地図も一部まぜておいたので、比較という面からもいつもとちがう面白味がありました。話もなかなか弾みました。
サロンでは毎回、来場の方たちが古地図を熱心にのぞきこむ姿が見られます。きっと、古地図の中にそれぞれの楽しみを見つけて心を遊ばせているのだと思います。展示の中に東京市が東京都になった当時の地図があります。大京都、大神戸という呼び名が題名に付けられた地図もあります。近代化が大いに進んで人口が増え、市街区域も拡大して、それぞれに大都市となった自信が地図にもあふれています。銅板で印刷された明治の京都地図は、繊細な線描の表現と淡い彩色がなんともいえない味を出しています。地図そのものの味だけで充分楽しめそうです。
今回は明治時代の東京風景を描いた石版画も二枚、お見せしました。吾妻橋と上野の東照宮。いずれも当時の有名な名所です。グラデーションがかかった赤と青の色調がきれいです。地図ではありませんが、この時代の印刷物がかもしだしている美意識には、注目させられます。印刷技術はその後の時代のほうが優れているのですが、明治の印刷物には、なんというか人間味、ぬくもりを感じさせるものが多いのです。
毎回、古地図数点を公開。
前回は来場が少なく、ゆったりしたサロンだったので油断して、3時ぎりぎりに会場入りしましたら、この日は「オープン待ちの方がおられますよ」と、カフェのスタッフさんから言われ、あわてて展示をセッティングすることになりました。その方と、広げた地図を前にお話していると、まもなくお母さんと娘さんの2人連れでの来場者があり、「この日を待っていたんです」とお母さんからひと声。仕事の都合で、今日しか見に来られないので、ほんとに楽しみにしてましたとのこと。
こういう方たちがおられるので、油断できません。親子連れの方は、新刊の『鳥瞰図!』を買って読まれ、興味が湧き、ネットで探して古地図サロンを知り、わざわざ足をはこばれたそうです。
空襲で焼失した地域を赤く塗った大阪地図があります。主に市街中心部と湾岸部、淀川流域が真っ赤です。中心部は行政とビジネス、湾岸と淀川流域は軍需工場、軍事施設が多かったエリアです。戦後の復興計画を描き込んだ大阪地図があります。道路整備と市街の区画整理が主な内容ですが、焼失エリアと復興計画エリアが重なっているのがわかります。あたりまえと言えばあたりまえですが、2枚の地図を見比べていると、単に焼けたから復興するというだけではない、いろいろな感慨が湧いてきます。焼失エリア地図であれば、実際にその地図を作るために、敗戦直後の焼け野原の街を、どこまでが焼け、どこが焼け残ったか、自分の目で見て歩いた人がいたことに思いがおよびます。
ソ連での抑留者が戦後になっても日本に帰れず、彼の地で埋葬されたのを示す埋葬地分布地図があります。大陸のじつに多くの地域に埋葬地が散らばっていたのがわかります。平成になってソ連から渡された40,000人の日本人名簿をもとに作成された地図です。初めて見た時、何も言葉が出ませんでした。この日、この地図を見た方たちはどんな思いを抱かれたでしょうか。



結果は天気の崩れはなかったものの、「明日あさっては外出禁止令?」などの報道の心理的影響か、サロン来場者は過去最低の3人のみとなりました。お越しくださった皆様ありがとうございました。
さて、今回の公開地図の主役は江戸時代(天保年間)の大坂絵図です。題名を「改正摂津国大坂図」といいます。草花の文様が浮き彫りされた臙脂色の表紙が渋いです。折りたたまれた図を広げると、木版刷り独特の落ち着いた色調に彩られた大坂の姿があらわれます。虫食いが数箇所ありますが、これも発行からおよそ180年を経た歴史のしるし。今まで残ったのが幸運だったといえます。
サロンでは私から解説はしますが、会話が一方的になるのは避けています。関心を持つツボはみんな違うと思うので、私としてはその違いの部分を知りたい。なので、来場の方が口をひらくのをじっと待つこともしばしばです(決して解説を惜しんでいるのではないのです)。
古地図サロンは「見るだけオーケー、話しかけオーケー」ということで始めたのですが、あまり他にないタイプのイベントなので、来場された方も勝手がわからず、とまどいがあると思います。そういう時は、ホストのほうもとまどいながらお迎えしているのだと思っていただくと、気が楽(?)になるかもしれません。いちどお試しください。私としては楽しく、くつろいでいただきたいのです。
以上9点、※の1点を除く8点が〔原図〕です。この他にナカノシマ大学特製復刻古地図15点、高島屋ギャラリーで展示した特製古地図ポスター6点も展示しました。
古地図サロンは御堂筋の名建築・大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて、8~10月は毎月第4金曜、11月休み、12月は第1金曜の午後3~6時開催。どなたでも参加できます。もし、これを読んで興味をもたれた方がおられましたら、どうぞ気軽にお越しください。途中参加・途中退場オーケー、古地図を見るだけでもオーケー、私に話しかけていただいてももちろんオーケーです。
本日、大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて、午後3~6時、第6回目の古地図サロンをひらきました。今回は開催期間のちょうど半分、折り返しの月に当ります。地震後の梅雨空の晴れ間を見上げつつ、年末まで無事にサロンが進行できるよう願うばかりです。
さて、今日は前回に続いてゆったりした時間の流れるサロンになりました。何度か来られてなじみになった方が、ぽつぽつと来られて、珈琲など飲まれたあと、サロン・コーナーで展示の古地図を眺め渡し、目にとまった図の前で立ち止まり、しばらく見入って、少しお話して、また見入って、少しお話して、次の図を見て、気がすんだら帰られる。このサイクルの、のんびりした繰り返し。私一人になる時間帯はちょっとだけで、みなさん、阿吽の呼吸で来場の時間帯をずらしておられるようです(そんなわけはないのですが)。
中には、私が気づかなかったことを教えてくれる方もいます。今日も吉田初三郎の鳥瞰図に載っているお寺に番号が記されているのを見つけて「これは何でしょう」と尋ねてこられた方がいました。よく見ると、確かにそういうお寺がいくつかあって、他のお寺は番号無しです。どういうわけかと私も首を傾げましたが、おそらく西国三十三所の札所の番号でしょう、という結論に。「よくこんな小さい数字を見つけられましたね」と言うと、その方はうれしそうな顔をされました。
ジャンケンは前回に続いて、なんとなんと、またも私の全勝でした。今日の対戦者の中には「通算5連敗中です」という方もいました。勝つ気が全然ないと、反対に勝ってしまうみたいです。あまりに気の毒なので、今回も特別に本日のジャンケン地図(大正の広重・吉田初三郎の鳥瞰図・挿絵が多数載ったベストセラーのガイドブック)をみなさんに見ていただきました。次回は勝って、正々堂々とご覧ください。
カフェ(サロン会場)の松田店長さんから『大正・昭和の鳥瞰図絵師 吉田初三郎のパノラマ地図』(別冊太陽)をいただきました。古書店でしか入手できない貴重本。ありがとうございました。本日の展示に加えたあと、自宅でゆっくり拝見いたします。
★鉄道旅行案内 大正10年(1921)が本日のジャンケン地図でした。
★本渡章のサロン
本渡章さんの最新刊『鳥瞰図!』の発売を記念したイベントが各地で開催されます。大阪だけでなく、東京にも登場。読者のみなさんとお会いできるのを楽しみにしております!
大正2年(1913)、デビュー作となる「京阪電車御案内」が時の皇太子(のちの昭和天皇)の目にとまり、お誉めの言葉を賜ったことから鳥瞰図絵師としての人生を歩み始めた吉田初三郎。大胆なデフォルメやわかりやすさを重視した作風は、大観光時代の旅行ブームに沸く日本人を魅了し、鳥瞰図ブームと言える流行をつくり出しました。




いつも思うことですが、何を面白いと感じるかは人によってまちまちです。しかし、まったくバラバラなのかと言うと、そうでもなく共通しているところがある。矛盾するようですが、本当です。サロンでは毎回、古地図を展示していますが、どれに興味を持つかは人によって違います。それでも、話をしてみると、古地図を通して感じとっている面白さには共通したものがあるのです。
本日のジャンケン地図は、なんと私の全勝でした。申し訳ないので、挑戦してこられた方には、その意欲にお応えして、ジャンケン地図をお見せしました。本日の挑戦者はラッキーでした。
『古地図で歩く大阪ザ・ベスト10』本渡章
古地図サロンは御堂筋の名建築・大阪ガスビル1階カフェ[feufeu]にて、毎月第4金曜の午後3~6時開催。どなたでも参加できます。もし、これを読んで興味をもたれた方がおられましたら、どうぞ気軽にお越しください。途中参加・途中退場オーケー、古地図を見るだけでもオーケー、私に話しかけていただいてももちろんオーケーです。