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拝啓・古地図サロンから 27

2021年10月11日 月曜日

 

2021年9月24日・本渡章より

【今回の見出し】

9月の古地図サロンレポートと次回予定

  • 最近と今後の古地図活動
  • 古地図ギャラリー第7回

①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その7〉

②本渡章所蔵地図より〈その6〉

③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その7〉

 

 

■古地図サロンのレポート

開催日:9月25日(金)午後3~5時 御堂筋の大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて。

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。すっかり秋になりました。

今回は明治時代の地図を中心に江戸時代の絵図の復刻版をまじえて展示してみました。明治の地図は1点を除いて今から百年以上前に発行された原図(発行年当時のオリジナル版)です。明治の地図は江戸時代の絵図の面影があったり、当時の作成者の思い入れあるグラフや解説文が載っているものが多く、楽しめます。いっしょに地図を覗き込みながら、こんな数字が載っている、こんなことが書いてあると語らえるのがサロンのいいところ。明治末期の「実地踏測大阪市街全図」の大阪の富力をコインの大きさや煙突の高さで示したグラフなど、この時代の活気をうかがわせます。地図ではないものも1点。明治前期の定宿帳の表紙に記してある大阪屋庄蔵がいったい何の店なのか、みんなで想像をたくましくしたのも面白いことでした。

いつもは展示を原図(発行年どおりのオリジナル版)で揃え、原図をもとに作りなおした復刻版は参考に見ていただくだけでしたが、この日は復刻版にも注目が集まりました。表紙付きでサイズも大きな復刻絵図3点は情報量が多く、凡例や縮尺など江戸時代の地図の見方を含めて、いくつも質問をいただきました。かつての日本の街道筋を網羅した「諸国道中大絵図」は、付録の道中用心集が愉快。船酔いした時には童子の*を飲むと治るなどスゴイことが書いてあります(*が何かは想像してください)。復刻版は原図より取り扱いがしやすい利点もあり、そのうちにまた展示に加えてみたいと思いました。

というわけで、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

 

◉今回のサロンで展示した古地図

《原図》
改良大阪明細全図 附堺・奈良・西京・神戸兵庫市街図 中島徳兵衛 明治20年(1887)
大演習枢要地図 中村鐘美堂 明治31年(1897)
大阪市新地図 附神戸市全図・堺市全図及び第5回内国勧業博覧会会場予定地 駸々堂 明治35年(1902)
実地踏測大阪市街全図 和楽路屋 明治43年(1910)
大阪屋庄蔵・引合定宿 明治16年(1883) ※この図版は地図ではなく定宿帳。
倉吉市と周辺 文化遺跡絵図 作・井沢元晴 昭和58年(1983)

《復刻》
新町名入大阪市街全図 大阪市役所 明治33年(1900)
新板摂津大坂東西南北町嶋之図 大和屋 元禄年中
新撰増補大坂大絵図 諸大名御屋敷・堂社仏閣絵入 林氏吉永 貞享4年(1687)
辰歳増補大坂図 元禄元年(1688)
諸国道中大絵図(大日本行程大絵図) 附道中用心集・集印帳 江戸時代末期

 

次回は2021年11月26日(金)午後3~5時開催の予定。

会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは午後4時頃からです。サロン参加は無料(但し、カフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。

(サロンは今後も奇数月の第4金曜開催。但し、祝日と重なる場合は変更します。)

コロナの状況により開催中止の場合は、事前にこの場でお知らせします。

【最近と今後の古地図活動】

動画番組、スタート

大阪コミュニティ通信社(大阪市此花区)制作の動画番組がはじまりました。『古地図でたどる大阪24区の履歴書』をもとに「大阪の区150年の歩み」を語るシリーズとして順次公開していきます。現在、イントロに当たる回が公開中。古地図サロン会場での動画と併せてご覧になれます。(検索:大阪コミュニティ通信社)

ナカノシマ大学「古地図トピックス ザ・ベスト10」開催

9月25日午前10~11時30分、中之島図書館・多目的ホールにて開催。古地図サロンで公開してきた約300点の古地図から選んだベスト10の紹介と解説など。特別展示として飯塚修三氏所蔵の天保年間作成の古地球儀、井沢元晴作の飛鳥鳥観図2点もご覧いただきました。(検索:ナカノシマ大学)

 

「伊丹人」で執筆・監修

伊丹市の歴史と文化をテーマにした冊子「伊丹人」に2頁執筆と監修。江戸時代から現代にまで続く俳諧~俳句の街・伊丹の魅力を名産の酒造の歴史とともに紹介。伊丹俳諧・特選5句の現代語訳なども。「伊丹人」(月刊誌「歴史人」発行元のABCアーク制作)は近日完成。

朝日カルチャーセンター中之島での講座予定

10月25日(月)・11月8日(月) 各午前10~12時 古地図講座(教室)と町歩き(高槻の西国街道・上宮天満宮など)

12月17日(金)午前10時30分~12時 江戸時代の地図絵師と伊能忠敬の系譜

(検索:朝日カルチャーセンター中之島)

|古地図ギャラリー|

1.【石川流宣・江戸図鑑綱目坤】【遠近道印・江戸大絵図】

東畑建築事務所「清林文庫」より〈その7〉

石川流宣(りゅうせん)は前回に続いての登場。掲載したのは江戸の町絵図を代表する逸品「江戸図鑑綱目坤」です。江戸の地理・風俗・伝承などをまとめた地誌「江戸図鑑綱目乾」(書籍)と坤・乾の対で作成され、現在も復刻版が出回るなど、時代を越えた人気があります。掲載の2図はそれぞれ江戸城(図中の御城)の北側、南側の部分図。南側で御三家の尾張、紀伊、北側で水戸の大きな屋敷が存在感を示し、周囲の武家屋敷群に格の違いを見せつけています。主な大名屋敷は家紋入り。有名寺社は境内の絵入り。海には帆船や御座船が描かれています。前回紹介した「日本海山潮陸図」と同様に彩色の美しさと武家屋敷や寺社、名所など情報量の豊かさが魅力です。初版は元禄2年(1689)。掲載図は元禄8年(1695)版。版を重ねて流布しました。

石川流宣の図とは趣の異なる江戸の町絵図もご覧ください。掲載したのは、宝永元年(1704)刊の「改正分間江戸大絵図」より、江戸城周辺の部分図。作者の遠近道印(おちこちどういん)(1628~1710頃)は石川流宣とともに江戸中期に一世を風靡した絵図師。富山藩医を務めつつ、蹴鞠名人の藤井半知(はんち)と同一人物ともいわれ、異色の経歴で知られます。この図は題名に「改正」とあるとおり、寛文5年(1665)出版の「新板江戸大絵図」の改訂版。浮世絵師でもあった石川流宣の美麗な筆致と比べると地味に見えますが、地図としての正確さを第一に道筋や街区を描いた初の刊行江戸図との評価を得た作品。遠近道印はその後も優れた絵図を世に送り、図翁と讃えられました。

石川流宣、遠近道印の没後、次の世代の絵図師として長久保赤水(せきすい)が活躍し、江戸後期には伊能忠敬が登場します。江戸時代の地図といえば、赤水図と伊能図(古地図ギャラリー第5回の清林文庫展チラシ参照)がまず挙げられますが、その前に道を拓いた石川流宣、遠近道印の名を忘れるわけにはいきません。流宣と道印、個性の異なる2人の作に描かれた船が、筆一本で地図の世界に漕ぎ出した絵師の夢を乗せて浮かんでいます。

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東畑建築事務所「清林文庫」は、同事務所の創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

 

2.【改正摂津大坂図

本渡章所蔵地図より〈その6〉

「改正摂津大坂図」は天保13年(1842)に浪花書林・石川屋和助から刊行されました。数多い江戸時代の大坂町絵図のひとつですが、この時期に作成された絵図ならではの特徴で存在感を発揮しています。掲載の部分図をご覧ください。大阪湾に向かって突き出た天保山が、地図の上でも四角い枠から出っ張った継ぎ足しで描かれています。出っ張りの継ぎ目に紙を貼り合わせた跡があり、天保山の部分が別途に刷られて継ぎ足されたのだとわかります。天保山は安治川の浚渫で出た土砂で生まれた人工の山。天保年間(1831~45)にできたので天保山です。江戸時代は夏の船遊び、冬の雪見で名高く、北斎、広重の浮世絵にも描かれる景勝地でした。話題の新名所を入れた絵図を売り出したい版元が、取り急ぎ天保山のところだけ版を作り、旧版に継ぎ足した結果、写真のような出っ張り絵図が世に出たわけです。改版に手間がかかる木版印刷の難点を補った江戸時代的合理主義といえるでしょう。天保以後の一時期、大坂の町絵図では「改正摂津大坂図」と同様の天保山出っ張り型の例が他にも見られます。江戸時代の各地の町絵図を見渡しても筆者の知る限り、同様の例は見当たりません。現代の地図でもお目にかからない凸凹スタイルは、この時期の大坂町絵図に特有の現象だったのかもしれません。

安政元年(1854)9月にロシアの軍艦、ディアナ号が天保山沖に出現した時は黒船騒動となり、天保山に砲台が築造されて、各藩が警備にあたりました。明治元年(1868)には明治天皇の大阪行幸があり、天保山で日本最初の観艦式を挙行しています。近代日本の国家的大事業となった大阪港建設も天保山を中心に進みました。天保山は江戸時代と近代のつなぎ目となる特別な場所に成長していったわけですが、その目で見れば「改正摂津大坂図」の出っ張りは天保山の未来を予見していたかのようにも思えてきます。

 

3 【倉吉市と周辺 文化遺跡絵図】

鳥観図絵師・井沢元晴の作品より〈その7

鳥観図絵師・井沢元晴の作品シリーズ。今回は「倉吉市と周辺 文化遺跡絵図」をとりあげます。倉吉は古代の伯耆国府の所在地で、中世以後は山名氏の居城を仰ぐ市町として栄え、江戸時代には池田氏の鳥取入府以後、陣屋町となりました。現在も鳥取県の主要都市に数えられる倉吉で、井沢元晴は土蔵を改造した仕事場を活動拠点としていた時期がありました。掲載図は昭和58年(1983)の刊行。晩年の円熟した画風が見られます。

倉吉市街の史跡と文化施設が中心に描かれています。湾曲する川筋に抱かれた盆地に市街はあり、周辺は緑の山並みが何重にも連なって海へと続きます。古墳や歴史のある神社、寺院が広範囲に散りばめられ、間を縫うように鉄道や道路が走っています。下方の海には日本海と記してあり、絵図が北を下にしているのがわかります。上方の遠くに出雲市の文字が見えます。通常の地図とは南北を逆にした意図は何でしょう。絵図の全体を見渡すと、前景に細長く日本海が横たわり、後景には彼方まで山々がのびています。手前に海浜、背後に山並み、その中間に街の営みを描くのは江戸時代の名所絵の定番の構図です。日本の街の多くは山を望む沿岸にひらけ、この構図で描くのが最も美しく映えるのをかつての絵師たちは知っていました。井沢元晴はそんな昔の絵師の智恵を盆地の街の倉吉絵図に復活させたのだと思います。

倉吉というと、大阪の方には江戸時代の大坂で米市をひらいた豪商・淀屋ゆかりの街として記憶されているかもしれません。地元で発行されたリーフレットによると、市の最古の町屋建築となった倉吉淀屋の屋敷は、全国的にも類例のない垂木構造の屋根を持ち、文化財に指定されているそうです。

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鳥観図絵師・井沢元晴(1915~1990)は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

 

過去の古地図ギャラリー公開作品

第6回(2021年7月)

①東畑建築事務所・清林文庫より「石川流宣・日本海山潮陸図」「石川流宣・日本国全図」
②本渡章所蔵地図より「大阪師管内里程図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「倉敷美観地区絵図」

第5回(2021年5月)
①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ
②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」
③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

第4回(2021年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」
②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」
④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図

第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

拝啓・古地図サロンから 26

2021年8月12日 木曜日

2021年7月16日・本渡章より、これをお読みのみなさまへ。

【今回の目次】
■7月の古地図サロンのレポートと次回予定
●最近と今後の古地図活動(講座・イベント・出版など)
★古地図ギャラリー第6回
①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その6〉
②本渡章所蔵地図より〈その5〉
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その6〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:7/16(金)午後3時~5時 大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。御堂筋にも猛暑の夏がやって来ました。日傘をさす人、日陰の側を行く人の姿が目につくなか、今回は8月の終戦記念日を前に戦時期の地図をテーマに特集してみました。

皇紀2600年とされる昭和15年(1940)発行された「大東亜共栄圏詳図」は週刊誌の付録。表紙は漫画タッチでアジアの国々の風物を描き、大東亜と呼ばれたエリアの広さに今さらながら驚かされます。戦中は日本の地図会社が日本統制地図という一社に統合され、軍事施設や港湾などの防衛情報が検閲の対象になりました。

昭和17年(1942)に日本統制地図が発行した最新大阪全図は重々しい雰囲気の表紙に検閲のマークが生々しく、大阪城とその周辺になった軍事施設が消されています。中面に載っている近畿名所交通地図と題された観光案内図にも史跡を戦意高揚に結びつける意図が反映されています。

見て楽しいものではないけれど、戦前、戦中の地図に漂う時代の空気を感じる経験は、いつかまた同じ道を歩まないために持っておいたほうがいいでしょう。戦争に関する資料や書籍はたくさんありますが、地図は視覚に直接訴えるだけに記憶に残るものがあるでしょう。

戦後の発行ですが、井沢元晴の鳥観図2点を並べたのは、絵図師・井沢元晴誕生の背景に戦争体験があるからです(古地図ギャラリーのプロフィル参照)。歴史の地、飛鳥をくまなく歩いて描いた緑ゆたかな史跡群の風景を見た後、空襲による焼失地域を示す赤色で覆われた昭和21年(1946)大阪市街図を広げると、赤く塗りつぶされた場所に何があったのかを思わずにはいられません。

テーマは重いですが、サロンは今回も明るい歓談の輪があちこちにできました。来場の方が持ち込んだ戦前の地図に、船場の街角の公衆便所が載っていて、現在も同じ場所に公衆トイレがあるとの証言が飛び出して盛り上がる場面がありました。こんな話題で笑いあえる平和が明日も続きますように。

会場のカフェ「feufeu」のスタッフ手作りの可愛いPOPにも和ませていただきました。ありがとうございます。というわけで、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図
《原図》
東京日日新聞「日露戦争地図」明治37年(1904)
京都武揚社「第十六師団機動演習地図」大正元年(1912)
和楽路屋「皇陵参拝全図」昭和5年(1931)
大阪毎日新聞社発行「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」昭和初期
大阪毎日新聞社編「中支戦局詳解地図」昭和12年(1937)
サンデー毎日編「大東亜共栄圏詳図」昭和15年(1940)
大阪師団経理部「大阪師管内里程図」昭和16年(1941)
日本統制地図「最新大阪全図・附近畿名所交通地図」昭和17年(1942)
文部省「初等科地図・上」昭和18年(1943)
地文社「戦災焼失区域明示大阪市地図」昭和21年(1946)
井沢元晴「古京飛鳥」
井沢元晴「近つ飛鳥河内路と史跡」

◉次回は9/24(金)15:00~17:00の予定

サロンは今後も奇数月の第4金曜開催(祝日と重なる場合は変更します)。会場は御堂筋の大阪ガスビル1階カフェにて。私の30分トークは16:00頃からです。サロン参加は無料(ただしカフェで1オーダーして下さい)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。新型コロナウィルスの状況によって中止になる場合は、この場で事前にお知らせいたします。

■最近と今後の古地図活動

●読売新聞に記事掲載

6月21日付読売新聞朝刊「大阪ひと語り」欄に、「区の成り立ち綿密検証」と題して、新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』(140B)にまつわるインタビュー記事が掲載されました。取材・撮影は前回5月28日の古地図サロンにて。

●動画番組第1回、近日発信

大阪コミュニティ通信社(大阪市此花区)制作の動画番組がはじまります。新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』をもとに「大阪の区150年の歩み」を語るシリーズの第1回はすでに撮影完了。近日公開の予定。その後、番組は大阪の24区をめぐっていきます。

●朝日カルチャーセンター中之島での講座

8/27・9/24 各日10:30~12:00「古地図地名物語」(港区・大正区)
10/25・11/8 各日10:30~12:00古地図講座(教室)と町歩き(高槻の西国街道・上宮天満宮など)

・問い合わせ/06-6222-5222または朝日カルチャーセンター中之島で検索

●延期されたナカノシマ大学は9月25日開催予定

緊急事態宣言で延期された5月のナカノシマ大学は「古地図トピックス ザ・ベスト10」と題し、内容も改めて9/25(土)10:00〜11:30の日程で実施されます。これまでの古地図サロンで公開された約300点の古地図から選んだベスト10の紹介と解説など。会場は中之島図書館・多目的ホール。
※前回予告した清林文庫コレクションの特別展示は別企画として来年度に開催予定。

|古地図ギャラリー|

1.石川流宣「日本海山潮陸図」「日本国全図」
(東畑建築事務所「清林文庫」より・その6)

東畑建築事務所(大阪市中央区)所蔵「清林文庫」の逸品古地図をご紹介するシリーズも6回目。スタートから早や一年が過ぎようとしています。今回からはしばらくの間、江戸時代の作品を主にとりあげていきたいと思います。

最初に登場するのは石川流宣(りゅうせん)の「日本海山潮陸図」。元禄4年(1691)の初版以後の100年間で30回近くの版を重ね、江戸時代中期に最も広く流布した日本地図でした。石川流宣は菱川師宣の弟子だった浮世絵師。この図が人気を博したのは、彩色の美しさで地図に視覚的な魅力を加えたことが、まず挙げられます。図中に盛り込まれた豊富な情報が、さらに人々の興味をかきたてました。

大坂周辺の部分図を見れば、地名だけでなく各地の領主の名前、石高が記されているのがわかります。領主の交代などの情報が、版を重ねるごとに更新されたのも、息長く人気を保った理由でしょう。城や社寺、山々、船の絵も描きこまれ眺める楽しさもたっぷり。清林文庫所蔵の「日本海山潮陸図」は元禄10年(1697)版。

同文庫には、享保15年(1730)版の「日本国全図」と題された石川流宣作の二色刷りの図があり、内容は日本海山潮陸図と基本的に同じです。掲載した部分図は南海域で日本各地の一宮一覧表が載り、その横に羅列国・女嶋が記されています。羅列国は一般に羅刹(らせつ)国と表記され、悪鬼の住む国の意。羅刹は転じて仏教の守護神にもなります。伝承も入り混じった日本地図を広げて、江戸時代の人々は海の向こうの世界にも想像を広げたのです。浮世絵師で地図作者の石川流宣(1661頃~1721頃)は、浮世草子作家としても活躍した多才な人。流宣が世に出した日本地図は「流宣日本図」あるいは「流宣図」と総称され、地図史に大きな足跡を残しました。

☆東畑建築事務所「清林文庫」
創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15,000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

2.「大阪師管内里程図」(本渡章所蔵地図より・その5)

今回の古地図サロンで公開した図からひとつ取り上げました。大阪城にあった陸軍第四師団の経理部が昭和16年(1941)に作成した「大阪師管内里程図」です。

第四師団の管轄域の街々の間の距離を細かく記した地図を大型の冊子にまとめたもので、鉄道関係の資料付き。一般の地図帳とは明らかに趣の異なる図集です。異色さにひかれて、著書『続々・大阪古地図むかし案内』に掲載したものの当時は何の目的に使われたのかがわからず、冊子の内容をそのまま紹介するしかできませんでした。

その後、読者から頂いた資料を拝見して、この冊子は戦時中に陸軍経理部が物資輸送などの経費算出に用いた資料だったとの推定に至りました。移動距離を目安に経費の概算を割り出していたと考えられるのです。正確さには欠けますが、膨大な業務の迅速な処理には有効。戦時中であり、陸軍経理部の感覚は民間とは異なっていただろうことを想像すると、あり得る話に思えます。

冊子は少々の扱いでは破れそうにない分厚く頑丈な紙を用い、現在の印刷物では見られなくなった袋綴じで製本されています。飾り気のかけらもない表紙(写真)も、戦中という時代の一面を静かに語っています。

3.「倉敷美観地区絵図」
鳥観図絵師・井沢元晴の作品より・その6)

鳥観図絵師・井沢元晴の作品シリーズ。今回は倉敷美観地区絵図をとりあげます。

 

倉敷美観地区は市の条例で1969年に定められました。伝統的な建造物群と美しい街並みを次代に受け継いでいく試みが実を結び、現在も倉敷は有数の観光と文化の街として広く知られています。

絵図を4分割したうちの3つを掲載しました。中央が大原美術館、大原邸、東洋美術館、染色館、陶器館、板画館、新渓園などの名が図中に記されています。江戸時代は天領として発展し、明治以後は倉敷紡績とともに近代的な街並みに生まれ変わりました。昭和5年(1930)誕生の大原美術館は日本初の私設西洋美術館としてあまりに有名。エル・グレコ、ゴーギャン、モネ、マチスなどの名作を揃えて、倉敷を象徴する施設になっています。

絵図は美観地区の街並みを俯瞰しながら、ひとつひとつの建物を丁寧に写し取っています。これまで見てきた井沢元晴の鳥観図は街と山河が大きな風景の中で溶け合っていく構図が魅力でしたが、この絵図では街が主役になりました。分割図の左側には倉敷紡績の工場、センター街、国際ホテルが見えます。

中央は大原美術館をはじめ文化施設群、右側は江戸時代の倉敷に水運で繁栄をもたらした倉敷川が流れ、倉敷考古館が建っています。倉敷は戦中の空襲を免れました。米軍側の資料によると倉敷にも空襲の計画があり、戦争がもう少し続けば被災していたとのこと。絵図に描かれたのは江戸時代から連綿と続く街の歴史の姿です。

☆鳥観図絵師・井沢元晴
井沢元晴は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

 

過去の古地図ギャラリー公開作品

第5回(2021年5月)
①2007清林文庫展解説冊子・2019清林文庫展チラシ
②本渡章所蔵地図より「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」
③フリーペーパー「井沢元晴漂泊の絵図師」・鳥観図「古京飛鳥」「近つ飛鳥河内路と史跡」

第4回(2021年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」
②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」
④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図

第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

 

 

本渡章さん紹介記事掲載のお知らせ

2021年6月23日 水曜日

昨日6/22の読売新聞朝刊(大阪版)に『古地図でたどる 大阪24区の履歴書』の著者・本渡章さんの紹介記事が掲載されました。

ネット記事もアップされていますのでご覧ください。

https://www.yomiuri.co.jp/local/osaka/feature/CO045751/20210620-OYTAT50032/

 

読売新聞さん取材ありがとうございました。

拝啓・古地図サロンから 25

2021年6月10日 木曜日

2021年5月28日・本渡章より、これをお読みのみなさまへ。

【今回の目次】
■古地図サロン第24回のレポートと次回予定
●最近と今後の古地図活動(講座・イベント・出版など)
★古地図ギャラリー第5回
①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その5〉
②本渡章所蔵地図より〈その4〉
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その5〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:5/28(金)午後3~4時30分 大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて

皆さま、お元気でいらっしゃいますか。今回は緊急事態宣言下での開催となりましたが、初参加者数名をお迎えし、メディア取材も2件(読売新聞・大阪コミュニティ通信社)もあって、新風が吹きこんだ感がありました。

今回のテーマは「鳥観図」。2018年に連続開催した鳥観図特集のアンコール版で、吉田初三郎、金子常光、しんび堂の作品を除くとすべてサロン初展示となりました。中でも異色は山口八九子の筆による「鞍馬図記」。日本画の筆遣いとモダンな彩色の取り合わせが古くて新しい鞍馬情緒をかもしだし、大正という時代のムードを感じさせます。

鳥観図といえば吉田初三郎が有名ですが、今回はさまざまな作者が個性を競った鳥観図表現の豊かさを見ていただきました。井沢元晴の「福山展望図」については前回の古地図ギャラリーでの紹介文をご覧ください。並べて展示した「躍進井原市」は福山市と文化圏を共有する井原市の市制施行記念に作成されたもの。そのほか、「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」(今回の古地図ギャラリー参照)は珍しい書簡図絵。通信欄の頁を折り込み、封をして切手を貼ると鳥観図付きの郵便物として投函可能。発行元は大阪毎日新聞社で、アイデア賞ものの一品。かつてのドル箱航路〈大阪~別府間〉などを描いた「瀬戸内海絵図」の発行元・大阪商船は現在の商船三井です。またいつか、鳥観図特集やりましょう。

この日は、東区で大正の初めまであった帽子屋の乗っている市街地図を探しておられる方が来場し、東区出身の他の来場者と話し込んでいました。次回はおそらく該当の市街地図がサロンで見られるのではないかと思います。初参加の中に、長野県から来られた方がいました。これまでに確認できた情報としては最も遠くからの来場です。信州大学には鳥観図サロンというものがあると聞きました。検索すると「信州大学鳥観図サロンサークル」で活動のようすなどが公開されていました。楽しそうです。

フリーペーパー「井沢元晴 漂泊の絵図師」(今回の古地図ギャラリー参照)と吉備路の鳥観図の展示コーナー(写真)も店内にできました。これは店長さんの手製による特設です。ありがとうございました。
というわけで、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図
《原図》
山口八九子「鞍馬図記」大正12年(1923)第2版
吉田初三郎「箱根名所図絵」大正6年(1917)
吉田初三郎「UNZEN」大正10年(1921)
吉田初三郎「日本鳥瞰中国四国大図絵」昭和2年(1927)
吉田初三郎「日本鳥瞰九州大図絵」昭和2年(1927)
金子常光「三朝温泉案内図絵」昭和3年(1928)
大阪商船株式会社発行「瀬戸内海絵図」昭和5年(1930)
大阪毎日新聞社発行「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日(書簡図絵)」昭和初期
上井萍人「三重県」昭和9年(1934)
前田虹映「鳥取県の観光」昭和14年(1939)
吉金本店発行「十和田湖案内図」昭和15年(1940)
しんび堂「神戸市案内絵図」発行年不明
井沢元晴「福山展望図」昭和28年(1953)
井沢元晴「躍進井原市」昭和28年(1953)

◉次回は7/16(金)15:00~17:00の予定

通常は奇数月の第4金曜開催ですが、7月は祝日となるため第3金曜に変更します。会場は大阪ガスビル1階カフェにて開催。私の30分トークは16:00時頃からです。サロン参加は無料(ただしカフェで1オーダーが必要)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。新型コロナウィルスの状況によって中止になる場合は、この場で事前にお知らせいたします。

■最近と今後の古地図活動

●ラジオ番組生出演2件

朝日放送ラジオ「おはようパーソナリティ道上洋三です」(4/27)
ラジオ大阪「原田年晴のかぶりつき金曜日」(5/14)

いずれも新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』(140B)の話をしました。「区」をテーマに、知っているようで知らない足元の歴史を紹介。

●古地図を題材に社員研修

4/28「大阪と大阪駅周辺の地誌」と題して、東畑建築事務所(大阪市中央区)にて講座形式で実施。新人研修プログラムのひとつに古地図を活用していただきました。同社の清林文庫及び本渡所蔵の古地図を見ながら、天満組・梅田・大阪駅の歴史が折り重なる風景を一望。

 

●動画ニュース発信・ネット番組は今夏より

5/28の古地図サロンがネットのニュース番組になりました。取材・編集は大阪コミュニティ通信社(大阪市此花区)。同社は新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』をもとに大阪の区の再発見番組を計画。公開は7月以降で、その予告編をかねたニュース発信になりました。
古地図サロンのニュース番組は https://ucosaka.com/program/20210604_hondosalon/

●朝日カルチャーセンター中之島での講座

5/19 新刊「古地図でたどる大阪24区の履歴書」出版記念講座を予定通り実施。
7/23・8/27・9/24 各日10:30~12:00「古地図地名物語」(此花区・港区・大正区)

・問い合わせ/06-6222-5222または朝日カルチャーセンター中之島で検索

●ナカノシマ大学は延期

5月22日に予定された中之島図書館・多目的ホールでのナカノシマ大学「清林文庫の世界と古地図トピックス」は緊急事態宣言により延期されました。日程は調整中。講座と同時期に予定された清林文庫コレクションの特別展示も次年度以降に延期となりました。

|古地図ギャラリー|

1.「2007清林文庫展(武庫川女子大学甲子園会館)」
「2019清林文庫展(本社オフィス大阪)」

(東畑建築事務所「清林文庫」より・その5)

東畑建築事務所(大阪市中央区)所蔵「清林文庫」の逸品古地図をご紹介するこのシリーズ、今回は趣向を変えて、過去に催された特別展示2例をとりあげました。

まず、2007年に武庫川女子大学甲子園会館で行われた「清林文庫展」は、同コレクション初の一般公開となった記念すべき試み。展示されたのは建築分野を中心に約30冊で、同事務所発行の解説書の目次にはナポレオン『エジプト誌』、ヴィトルヴィウス『建築十書』、メルカトル『世界地図帳』(古地図ギャラリー第2回で紹介)など同文庫の代表的な稀覯本が並んでいます。

 

解説書の本文と図版の中からトルスキー「ペトログラード都市図集」をご覧ください。ペトログラードは現在のレニングラード。ロシア文学の読者にはぺテルスブルグという過去の呼び名の方がピンとくる大都市で、本書の図をすべて合わせると4メートル四方になるとのこと。出版は1753年。できれば古地図ギャラリー第1回に掲載の「ブレッテ1734年のパリ鳥観図」と比べて見てください。精緻を極めた大都市図の魅力に触れていただけるでしょう。

もう1点は、2019年の「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」参加企画として実施された「清林文庫展&オープンサロン」。主要展示となった伊能忠敬「東三拾三國沿海測量之図」は尾張・越前から東の諸国の沿岸と主な街道を記載した地図で、文化元年(1804)の成立。案内チラシによれば図のサイズは2×3メートル。左端に優美な富士山が描かれているのが見えます。伊能忠敬の地図は正確で、全国の近代測量地図が完成するまで用いられていたほどですが、今でも名声を保っているのは、絵画的な美のセンスにも理由があるでしょう。

今回紹介の二つの特別展、筆者はどちらも見逃しました。残念。東畑建築事務創立90周年となる2022年はスケールアップしたかたちでの公開を期待しています。

☆東畑建築事務所「清林文庫」
創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15,000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

2.「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」(本渡章所蔵地図より・その4)

「近畿の聖地名勝古蹟と大阪毎日」は、今回の古地図サロンの展示地図のひとつ。レポートに書いた書簡図絵とはどんなものか、写真なら一目瞭然。表紙の左上に切手を貼る欄があります。中面の通信欄はご覧のとおり、手紙文がしたためられるスペースに。折りたたんで封をすれば、書簡になります。なかなかの変わり種地図です。

「近畿の聖地名勝古蹟」との題名が、日中戦争(図中では支那事変と記す)当時の発行という時代を物語り、中面の鳥観図でも伊勢の皇大神宮、神武天皇ゆかりの橿原神宮、畝傍山東北陵が大きく描かれています。地図の裏面には大阪毎日新聞の紹介文と写真など記載。

不鮮明ながら注目されるのが、左上の伝書鳩(写真左上)。各地の取材現場で記者が書いた原稿を確実に早く本社に送る手段として、伝書鳩が活躍していました。写真に写っているのは十数羽ですが、かつて多くの新聞社は200~300羽の鳩を飼っていたそうです。船会社や消防本部の屋上でも、同様の光景が見られたとも。今、各地の街で見かけるドバトは、通信手段の発達にともなって野に放たれた伝書鳩の子孫といわれています。

3.「井沢元晴 漂泊の絵図師」
鳥観図絵師・井沢元晴の作品より・その5)

鳥観図絵師・井沢元晴の作品シリーズ。今回は、井沢元晴遺族がこの4月に作成されたフリーペーパーをご紹介します。

全国各地を歩いて多くの鳥観図を残し、昭和の伊能忠敬と呼ばれた故・井沢元晴の生涯を1枚の紙面で紹介。編集・発行は長女の足立恵美子さん、漫画・イラストは孫の常夏さわやさん。井沢作品の製作工程を、旅する絵師の姿とともに簡潔明瞭かつ清々しいタッチで描いた漫画が楽しい。写真は撮らず、記憶とメモだけで街も道も海も山河も一望する絵図を仕上げた異能に驚かされ、記憶もメモも自転車と徒歩で地の隅々まで踏破したのと同じ熱と力によるものなのかと想像もふくらみますが、この漫画の清々しさは井沢元晴の仕事が歳月を経た後に残したもののエッセンスをすくいとった感があります。

紙面に引用された解説文の中で、グラフィックデザイナーの故・高田修地さんの文章をめぐって、発行人の足立さんと高田さんの遺族が初めて連絡をとりあい、思わぬ出会いに感激されたとのお話を聞きました。故人が残した絵図や文章が、残された人の心を動かし、結んでいくのは素晴らしいことです。

井沢元晴の鳥観図から「古京飛鳥」「近つ飛鳥 河内路と史跡」の表紙を掲載します。後期の井沢元春は、日本史のふるさと飛鳥路を好んで歩いてまわったそうです。

☆鳥観図絵師・井沢元晴
井沢元晴は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

井沢元晴氏のご遺族は今、「郷土絵図」にまつわる思い出や絵の消息に関する情報をお持ちの方を探しておられます。当時の生徒さん、学校関係者など、このブログをご覧になって、少しでも心あたりがあるという方が、もしおられましたら、次のアドレスにメールをお送りいただければ幸甚です。小さな情報でもかまいません。よろしくお願いいたします。

足立恵美子(井沢元晴長女)emikobook@yahoo.co.jp

 

過去の古地図ギャラリー公開作品

第4回(2021年3月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「大阪湾築港計画実測図」
②本渡章所蔵地図より「大阪港之図」
③鳥観図絵師・井沢元晴の作品より「福山展望図」
④鳥観図絵師・青山大介の作品より「梅田鳥観図2013」

第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図

第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」

 

 

「街と書店、大阪の場合」第4回

2021年5月31日 月曜日

4回目は鶴見区の「正和堂書店」を取材しました。

「街と書店、大阪の場合」
第4回は、昨年創業50周年を迎えた
鶴見区の[正和堂書店]です。

駅近で幹線道路沿いの180坪の店で、
ふらっと入れるのが本屋好きにはうれしい場所ですが……
最初は学校給食にも卸すパン屋さんだったそうです。

店主はそのパン屋を大きくしよう、と思っていたのに、
先代は「機械化してまでやらなくても……」と反対。

「ならば違う商売をしよう」と書店を選んだそうで、
鶴見区の宅地化とともに、売り場が大きくなってきました。

しかし、21世紀に入ると出版不況でなかなか本が売れない……
あたらしい試みを、印刷会社ではたらく店主の孫がはじめました。

↓↓↓↓↓
「本屋も読書も、もっと可能性がある」バトンパスは続く。

「140B“だいたい”全点フェア」開催中

2021年5月13日 木曜日

都内では初めての「140B“だいたい”全点フェア」開催中です。

JR中央線線「武蔵小金井駅」北口のドン・キホーテ地階にある、
くまざわ書店武蔵小金井北口店さんです。

緊急事態宣言下の移動の難しい時期ではありますが、
普段使いの方や小金井市近辺にお住まいのみなさま、
機会があれば見てやって下さい。
よろしくお願いします。

「街と書店、大阪の場合」第3回

2021年5月12日 水曜日

「街と書店」その3、更新です
今回は本町にある独立系 [ toi books ] さんです。

「おもしろがってもらえる本屋さん」を目指す独立系書店の新星

toi books

「街と書店、大阪の場合」第2回

2021年4月19日 月曜日

あみだ池筋を北上、中央大通を越えると右手(東側)に黄色いテントに赤で「本」と書かれた看板が目に入る

 第2回は大阪市西区、地下鉄阿波座駅近くにある[福島書店]です。

 西区新町3丁目に昭和28年(1953)創業。当時はお店のすぐ近くに大きな病院があって、裕福で本好きの入院患者さんからの注文で商売繁盛していたのですが……やがて病院が移転。街は火が消えたようになり、「1日の売上が週刊誌2冊」という窮地に立たされました。

「店に人が来ないなら外へ広げよう」ということで外商にチェンジ。売上比率は外商9:店売1にまで伸びました。お店も10年ほど前に現在の場所に移転。さぁこれから、という時のコロナ禍は、外商主体の書店にとって大きな打撃になりましたが、長びく「巣ごもり生活」は新しい「読者」を書店に呼び寄せることになりました。

 

街と書店、大阪の場合
その2『「隅っこにはきっと何かある」で、意外な売れ筋を発見。』はこちらから

 

 

大阪府立中之島図書館で「島民」展を開催!

2021年4月17日 土曜日

中之島にある大阪府立中之島図書館にて、4月19日(月)から、「島民」ヒストリー&奈路道程展が開催されます。

中之島のフリーマガジン「島民」が、3月1日発行号をもって終了したことを記念して企画されたもので、12年間、全号の表紙イラストを手がけた奈路道のさんの表紙イラスト原画が展示されます。

イラストが使用された「島民」も一緒に展示されており、これまでの「島民」の歴史を振り返ることができるようになっています。会場ではバックナンバーの配布もあるほか、ライブラリーショップでは「島民」やナカノシマ大学関連書籍の販売も行われています。

 

また、同じく奈路さんが挿画を手がけている毎日新聞の人気連載「濃い味、うす味、街のあじ。」(江弘毅著)の原画も展示。カラーで描かれた原画は見応えあり。掲載時の紙面のコピーもあり、江弘毅の文章と合わせて楽しんでいただけます。

「 島民」ヒストリー&奈路道程展
期間|4月19日(月)~ 5月8日(土) 日曜休館
会場|大阪府立中之島図書館3階 展示室
時間|9:00AM ~ 8:00PM 入場|無料

 

 

 

拝啓・古地図サロンから 24

2021年4月15日 木曜日

2021年3月26日・本渡章より、これをお読みのみなさまへ。

【今回の目次】
■古地図サロン第23回のレポートと次回予定
●2021年春〜初夏の古地図活動(講座・イベント・出版など)
★古地図ギャラリー第4回
①東畑建築事務所「清林文庫」コレクション〈その4〉
②本渡章所蔵地図より〈その3〉
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図〈その4〉
④鳥観図の今・青山大介の鳥観図〈その1〉

 

■古地図サロンのレポート

開催日:3/26(金)午後3~4時30分 大阪ガスビル1階カフェ「feufeu」にて

緊急事態宣言が終わり、「島民」最終号で紹介記事が載ったおかげで、この日のサロンは盛況となりました(3月末からは感染者増大。事態は急変)。今回のテーマは「鉄道&電車地図」。日本の近代化を牽引した鉄道と電車が主役の地図を展示しました。

来場者の注目を最も集めたのが大正10年(1921)に鉄道省が刊行した『鉄道旅行案内』です。富士山を描いた箱入り本の中身は、日本初の本格的な鉄道旅行ガイドブック。明治以来、猛烈な勢いで鉄道網が全国に敷かれ、旅行が一気に身近な楽しみになった時代をとらえて刊行。鉄道利用に必要な情報満載の本文を100点以上の鉄道地図と沿線の名所絵が色鮮やかに彩り、楽しくご覧いただきました。

その他では、大阪市電全盛期の電車案内地図に見入る方が多く、温泉名所や酒造家一覧を併記した鉄道地図も興味を集めていました。『鉄道旅行案内』の地図と名所絵を描いた大正の広重・吉田初三郎ついては、5月のサロン「鳥観図特集」でも作品を公開します。というわけで、コロナの動向が気になりますが、皆さまとまたサロンでお会いできるのを楽しみにしております。

◉今回のサロンで展示した古地図
《原図》
「鉄道旅行案内」地図と絵・吉田初三郎 大正10年(1921)
「実用新案日本鉄道パノラマ地図」大正12年(1923)
「全国鉄道地図  付名勝交通案内」大阪毎日新聞社編 昭和初期
「改正鉄道地図  付近畿著名醸造家案内」昭和初期
「新京阪電車沿線御案内」昭和3年(1928)
「最新大坂電車地図」昭和10年(1935)
「最新大日本鉄道地図」大阪毎日新聞付録 昭和11年(1936)
「最新版鉄道案内図  付温泉名所詳図」昭和27年(1952)
「日本国有鉄道線路図」日本国有鉄道編纂・毎日新聞社発行 昭和28年(1953)
《復刻》
「東京名家名物入電車案内双六」明治43年(1910)

◉次回は2021/5/28(金)15:00~17:00の予定

会場は大阪ガスビル1階カフェにて開催。私の30分トークは16:00時頃からです。サロン参加は無料(ただしカフェで1オーダーが必要)。途中参加・退出OK。必ずマスク着用のこと。新型コロナウィルスの状況によって中止になる場合は、この場で事前にお知らせいたします。

★2021年は奇数月の第4金曜日午後3~5時に開催していく予定ですが、
7月はオリンピックで祝日となる予定のため第3金曜(7/16)に変更します。

■2021年春〜初夏の古地図活動

●水都大阪川開き オープニングステージにゲスト出演

 

3月27日(土)天満橋の八軒家浜・特設ステージで開催された「水都大阪川開き」イベントのオープニングに、書道家の真澪さんと出演。私は御舟印ラリーにまつわるトーク、真澪さんは水都繁栄・交通安全祈願の書道パフォーマンス。御舟印ラリーの企画、御舟印帳(写真)の立案(古地図・浮世絵・揮毫)に関わったご縁にて。

●朝日カルチャーセンター中之島での講座

①「大阪古地図むかし案内」街歩きと座学は4月26日(月)と5月10日(月)。各日とも時間帯は午前10時~12時。テーマは東住吉の旧街道と名所。
②新刊「古地図でたどる大阪24区の履歴書」出版記念講座は5月19日(水)午後1時~2時30分。

・問い合わせ/06-6222-5222または朝日カルチャーセンター中之島で検索

●大阪府立中之島図書館でナカノシマ大学

5/22(土)午前10時~11時30分。中之島図書館・多目的ホール(3階)にて「清林文庫の世界と古地図トピックス」をテーマに講座開催。清林文庫(古地図ギャラリー参照)の古地図コレクションが主なテーマ。他に昭和の伊能忠敬と呼ばれた鳥観図絵師・井沢元晴の作品、天保年間の古地球儀の紹介と展示も。なお、講座開催日の前後に、清林文庫コレクションの特別展示も中之島図書館・展示室で催される予定です。

・詳細はhttps://nakanoshima-daigaku.net/site/seminar/article/p20210522

●新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』発売

新刊『古地図でたどる大阪24区の履歴書』が4月27日に発売されます。ナカノシマ大学の連続講座「大阪24区物語」をもとに大幅に加筆し、区の変遷から見た大阪の近現代を見渡した内容です。地図・現地写真も多数掲載。区に刻まれた足元の歴史を知らずに、大阪の未来はもう語れません。

・詳細はhttps://140b.jp/blog3/2021/04/p3483/

|古地図ギャラリー|

1.「大阪湾築港計画実測図」
(東畑建築事務所「清林文庫」より・その4)

東畑建築事務所(大阪市中央区)の稀覯本コレクション「清林文庫」から、古地図の逸品をご紹介するシリーズも4回目になりました。これまで16~19世紀の国内外の地図をとりあげてきましたが、今回は比較的新しい近代大阪の息吹を感じさせる図を一つ。

明治29年(1896)発行の「大阪湾築港計画実測図」です。大阪湾築港とは現在の大阪港のこと。それまでの自然地形を流用した安治川・木津川上流の川口の港の時代を終わらせ、人の手でつくった近代港の時代に突き進む意思がうかがえる呼び名です。完成は明治36年(1903)とされますが、これは大阪で同年に開催された第5回内国勧業博覧会にあわせて大桟橋竣工を港の完成としたもので、本格的な港湾の構築にはその後もまだ多くの年月が費やされます。工事は、築いた護岸にヒビが入るなど難航し、当初の予算も想定外にふくらんで、一時は築港計画断念も危惧されるほどでした。大阪港はまさに明治の日本が力を注いだ国家的大事業だったのです。

大阪躍進の原動力になった近代港誕生への道は決して平坦ではなかったのですが、当時の人々が新しい港に寄せる期待の大きさが困難を乗り越える力になりました。「大阪湾築港計画実測図」の湾岸一帯には江戸時代に開発された新田の地名が並んでいます。その上をなぞるように海に向かって大きく伸びた突堤の赤いライン、右上に掲げられた築港計画の数字の華々しい列に、時代の大転換期の熱気を感じます。

☆東畑建築事務所「清林文庫」
創設者東畑謙三が蒐集した世界の芸術・文化に関する稀覯本、約15000冊を所蔵。建築・美術工芸・絵画・彫刻・考古学・地誌など分野は幅広く、世界有数の稀覯本コレクションとして知られる。古地図に関しても国内外の書籍、原図など多数を収め、価値はきわめて高い。

2.「大阪港之図」(本渡章所蔵地図より)

大阪港之図」は、大阪市役所港湾部が昭和6年(1931)発行した「大阪港案内」裏面の図。表面に記載の沿革によると、当時の大阪港は横浜港・神戸港とともに日本三大貿易港に数えられる隆盛を誇り、さらなる発展を期して第2次修築工事にとりかかっていました。

前掲の「大阪湾築港計画実測図」から35年後の大阪湾岸は、港区を中心に此花区・大正区の3区にまたがる巨大な港湾が建設され、見違えるばかりの大変貌を遂げていました。黄色く彩られたエリアをご覧ください。防波堤や突堤だけでなく内陸に深く入り込んだ運河や繋船岸、荷揚げした物資を収める倉庫群など広域を埋め尽くした多様な施設が、近代港の躍動を物語っています。

黄色のエリアは大阪湾築港計画実測図」の築港計画エリアと重なっています。35年前のそこは見渡す限りの新田地帯でした。市立運動場の近くと天保山に「遊園地」と記されているのも見えます。図中に「パラダイス」と記されたレジャーセンター・市岡パラダイスとともに遊園地が湾岸の名物になりました。

その後、大阪港は室戸台風、戦中の空襲で大きな被害を受けますが、復興を遂げ、現在に至ります。今も海遊館やクルーズ船で賑わう大阪港ですが、大阪港之図」と「大阪湾築港計画実測図」を並べると、江戸時代の開発ラッシュで拓かれた新田地帯から築港計画、第2次修築に至る海辺のフロンティアの足跡が見えてきます。大阪港は現在も変貌を続けています。

3.「福山展望図」
鳥観図絵師・井沢元晴の作品より・その4)

昭和の伊能忠敬と呼ばれた鳥観図絵師・井沢元晴の作品シリーズ第4回は、初期作品をとりあげます。「福山展望図」は昭和28年(1953)作成。福山市(広島県)はかつての10万石の城下町。領主の水野勝成は将軍徳川家光の従兄弟で、福山城には伏見城の御殿、櫓、筋鉄門が下賜されました。その後の福山は領主の交代を経て、明治維新まで西国の要衝として存在感を示します。

福山展望図の中心は、やはり福山城で、伏見櫓と記されているのは伏見城の遺構の櫓。戦災後も残った街の歴史のシンボルです。図の刊行から11年後の昭和39年(1964)に福山城は史跡に指定されました。過去3回紹介してきた井沢元晴の作品を際立たせたダイナミックな山河の描写はまだ見られませんが、市街と陰影のある山並みをとりもつように流れる川の穏やかな構図は、平和をとりもどした戦後まもなくの空気の反映のようにも思えます。

城の周囲に多く記された数字は、地図の下覧に並ぶ市内の企業・商店の位置を示したもの。地図の裏面にも企業・商店の広告がずらりと載っています。この地図は、焼け跡から立ち直った地元の人々によって企画されたものでしょう。小学校に納める郷土絵図ではじまった井沢元晴の画業は、こうして活動の場を広げていきました。

現代の目には、レトロな広告付きマップの印象が先立つかもしれませんが、当時の人々は図の風景に街を元気づける応援メッセージを読みとったでしょう。山間を行く鉄道列車、海辺で煙をはく汽船。のどかな展望のなかに、復興期を駆け抜け、ひと息ついて、また第2のスタートを切ろうとしていた日本の姿が垣間見えます。

☆鳥観図絵師・井沢元晴
井沢元晴は戦後から昭和末までの約40年間に、日本各地を訪ねて多くの鳥観図を描き、昭和の伊能忠敬とメディアで紹介されました。活動の前半期にあたる戦後の20年間は「郷土絵図」と呼ばれた鳥観図を作成。その多くは、子供たちに郷土の美しさを知ってもらいたいとの願いをこめて各地の学校に納められ、校舎に飾られました。学校のエリアは主に西日本です。「郷土絵図」の活動は60年代半ばまで継続し、新聞各紙にとりあげられました。

井沢元晴氏のご遺族は今、「郷土絵図」にまつわる思い出や絵の消息に関する情報をお持ちの方を探しておられます。当時の生徒さん、学校関係者など、このブログをご覧になって、少しでも心あたりがあるという方が、もしおられましたら、次のアドレスにメールをお送りいただければ幸甚です。小さな情報でもかまいません。よろしくお願いいたします。

足立恵美子(井沢元晴長女)emikobook@yahoo.co.jp

4.「梅田鳥瞰図」
鳥観図絵師・青山大介の作品より・その1)

青山大介さんは戦後生まれの現役の鳥観図絵師。大阪万博やニューヨークの鳥観図で知られる石原正(故人)を師と仰ぎ、その作風を受け継いで、神戸を拠点に各地の鳥観図を描き続けています。筆者の著書『鳥観図!』(140B刊)に登場していただいた後も交流があり、さん付けでご紹介いたします。

今回ご紹介するのは「梅田鳥観図2013」(部分図)。古地図と呼ぶには年代が新しいですが、鳥観図の魅力を多角的に味わっていただきたく、とりあげました。ご覧のとおり、梅田のビル群が空からまる見えです。屋上の顔にひとつとして同じものがないのがわかります。大阪駅の大屋根がどんな形をしているか、見た人は少ないと思いますが、こんな形でした。屋上にヘリポートのあるビルが意外とたくさんあるのにも気づきます。

青山さんはヘリコプターで撮った1,000枚以上の航空写真をもとに、この図を描きました。制作にパソコンは使いますが、基本的な道具はロトリングペン、シャープペンシル、定規の3つ。精緻な描写は丹念な手わざなしには生まれません。青山さんの話によると、現役の鳥観図絵師は日本に数人しかおらず、作風もそれぞれ独自で似ていないそうです。似てはいないかもしれないけれど、手わざにこめた作者の熱という一点でつながっているのだろうと想像します。

神戸市の防災マップに指定された「港町神戸鳥観図2014」などで知られる青山さんですが、現在は姫路の鳥観図作成に取り組み中。完成が待たれます。

 

過去の古地図ギャラリー公開作品

第3回(2021年1月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「江戸切絵図(尾張屋版)」「摂津国坐官幣大社住吉神社之図」
②本渡章所蔵地図より「摂州箕面山瀧安寺全図
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「小豆島観光絵図

第2回(2020年11月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「メルカトル世界地図帳」「オルテリウス世界地図帳」
②本渡章所蔵地図より「A NEW ATLAS帝国新地図」「NEW SCHOOL ATLAS普通教育世界地図」
③昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「大阪府全図(三部作)」

第1回(2020年9月)
①東畑建築事務所・清林文庫より「ブレッテ 1734年のパリ鳥観図」
②昭和の伊能忠敬・井沢元晴の鳥観図より「ふたつの飛鳥と京阪奈」