8月27日
大阪 北新地 山守屋

 数ある洋食屋、オムライスを売りにしている喫茶店のなか、ここのオムライスが一番好きだ。
 オムライスは大正11年(1922)大阪・汐見橋の「パンヤの食堂 新世界営業所」の北橋茂男氏がつくった。この北橋氏はその後オムライス専門店『北極星』を創業する。
 胃腸があまり強くない体質の常連客が、いつもオムレツとライスを頼むのを気の毒に思い、思いつきでケチャップライスを卵でくるんで出した。
 メニュー名なんてない。「これ、何という料理?」と訊く客にとっさに「オムライス」と命名したという逸話付きだ。毎日往時の値段は20銭。高いか安いのかはわからないが古いパンヤの食堂の写真で見たことがある。
 ここ『山守屋』のオムライスにはケチャップの代わりにデミグラスソースがかけられている。
 「これは家でつくるのは無理」という典型的なプロのオムライス800円也。美しいフォルム、見事な出来栄え。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅