12月16日
神戸 三宮 バー・ローハイド

 親子2代にわたって客だという話はよくあるが、このバーに行きだしてかれこれ30年。マスターが山本忠治・和夫さん父子、そして現在の林 寛三くんと3代にわたる客になってしまった。
 わたしが好きなこの店のジンライムやテキーラサワーの味は、山本忠治さんのときから全く変わってないのは、長い間2代にわたって洗練させてきたレシピを忠実に守っているからだし、パーテンダーというのはほぼ徒弟制度であるが、山本忠治さんがシェイカーを扱ったり途中で味見をする際の所作や、出来た酒をカウンターに並べられているボトル越しにヒョイと出す上腕の動きもそっくりそのまだと思う。
 この日はテキーラサワーの後、ジョスメイヤーのオードヴィーのなかから紅スグリのものをストレートで飲んだ。まるで果実の甘み(甘味ではない)香りのいいところだけ酒精に取り込んで、飲む際に揮発させるようなうまさだ。
 それにしても若かりし頃、粋人・忠治さんに教えてもらったことは、この店の看板通りの「世界の酒・世界の音楽」のみならず、どこのどんな料理がうまいかとか、ライムやレモンはどこの青果店がよく、良いのを見分けて選ぶ際のコツとか、神戸の街場の話プラス街的なものばかりだ。こうして思い出して書いているのもそれらがわたしのなかに根を張っていて身体化されているからだと思う。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅