2月18日
神戸 三宮 美作

 海外に出ると日本食が恋しくなってくる。
 これまでの唯一例外は、香港と上海だけで、パリやナポリに行っても旅の後半には、だしのうまいうどんを啜りたいとか、日本酒で鮨を食べたいとかを切実に思ってしまう。その昔、パリに1週間ほど行ったときには、たまらんくなって確か日本円で2000円ぐらいのラーメンをモンパルナスからオペラ通の裏までメトロに乗って食べに行ったことがある。取材でええフランス料理ばかり食べていたのにそんなもんだ。な〜にがグルメ取材やねん、そのざまはなんやねんと自分で思った。
 今回、キューバの食事はあまりにも合わなさすぎたので、すでに3日目ぐらいからそれらを夢にまで見そうなぐらいの悲壮な状態だった。
 ハバナを早朝に飛び立ち、トロント〜羽田〜伊丹と20時間飛行機を乗り継いでやっと日本時間で午後9時過ぎに神戸に着いた。時差ボケなんてない、早よなんか食いたい。
 三宮のそごうの横で空港バスを降りると雨が降っていたので、カートごろごろは難儀だから、一旦帰って荷物を置いてからまた食べに行こう、と思ったが、切実な欲求には勝てない。

 そうか。地下道を通って北野坂の入口まで出れば、お好み焼きの『美作』があるやないかと思い立って行った。ゲソ炒め、ズリ炒めといって、お好み焼きを2枚。スジのキャベツうす焼きと同じくカキ。
 いつも思うのだが、ここのキャベツの荒い切り方はお好みの焼き方に実に合っている。黄色が印されたソースの容れ物の「どろ」もどれだけ塗ればおいしいのかを長い間かけて知った。
「うどんとお好み焼きと鮨、そして(たまに)洋食は、近所のがいちばんうまい」というフレーズを新書や単行本を含めあちらこちらで書きまくってきたが、ちょっと他所に出るとそれがよくわかる。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅