9月1日
大阪 駅前第4ビル 七福神

 大阪市からの強制撤去、行政代執行通知があった6月16日、たまたま阪神電車地下改札横の「ぶらり横丁」前を通ってると、串カツ『七福神』大将の大越さんがいた。
 「代執行はむちゃくちゃにされるんで、自主撤去してます」
 阪神電車改札横の「ぶらり横丁」は、鉄冊で覆われて、すごいことになっていた。
 そして2カ月経って、店は駅前第四ビル地下2階に移転オープン。「ぶらり横丁の看板もついでに持ってきましてん」と大将。奈路道程さんによる、ありし日のぶらり横丁の絵も飾られている。思い入れの深さがわかる。
 3倍強になった店のキャパ。コの字の向かい合うカウンター形式で、フライヤーは入ってすぐ店の左右ど真ん中に鎮座。「揚げても場げても終わりませんわ」と客の注文を一人でこなす大将。

 ビールとカツ(牛)2、イカ、キスをとりあえず注文。出てきてまずカツから食べると「味、変わってませんか?」と訊く。
 まさしく七福神の味、まるで変わってないと思うのだが、そのことばから無念さ悔しさが伝わってくる。
 この店も通うようになって10年以上になるが、オフィスから大阪駅桜橋口への帰りに「ちょっと寄ろか」という感覚だったが、ちょっと遠くなり、「わざわざ行く」に近い意識になった。こういう店の移転には、ある種の感慨がある。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅