2月5日
キューバ ハバナ(5日〜17日)

 キューバに行ってきた。
 ハバナで国立民族舞踊団とチャランガ・アバネロやロス・パピネスで活躍していたパーカッショニストのラサロさんにコンガのレッスンを受けることと、本場のソンやトローバといったキューバ音楽を聞きに行くことが目的だ。ソンの発祥のサンチャゴ・デ・クーバにも行く。
 が、しかし、食べたり飲んだりすることも旅の楽しみにちがいない。
 けれどもキューバに行ったことがある知人は口を揃えて「キューバの食べものは決して期待しないように」という。とくに鰻谷のスペイン・バル『ヘミングウエイ』の松野直矢さんなどに言わせると「何をたべてもまずい」とのことだ。そしてトイレットペーパーがないのでいつもポケットティッシュを持っとくようにというアドバイスもつけ加えられた。
 思い出すのも痛いが、キューバのメシはどこもまずかった。口に合わないのだろう、とも思うが、たまたまイタリア人のグループがレストランの横で座って、わたしと同じロブスターの焼いたのを注文して一口食べて、目が点になっているのを目撃した。
 同世代か60代の彼女たちと目を合わすと、お互いに「笑うしかない」という感じで、実際に笑うしかなかった。

 中華料理店に行けば何とかなるだろう、とハバナの旧市街からチェントロ・ハバナの中華街まで30分ぐらい歩いて行ったものの、そこは世界最弱ではないかと思える小さな中華街。入口にあるテラスつきの店で豚の焼きそばを注文したら、なんとまあぐずぐずのスパゲティだった。
 ぬるま湯で茹でているんだろうか、具の豚はたくさん入れればいいというものではない、などと思いながら半分食べて残した。空腹なのに、食べると落ち込んでしまうくらいの絶望感に襲われるのは初めての経験だった。世界は広いな。この焼きそばに限らず、料理の味つけに方向性がないというか、なんとまあやる気のない味である。
 メシがまずいと酒までまずくなる。
 だからバーではダイキリだけを飲んでいた。モヒートは期待はずれ。
 そのかわりハバナにしろサンチャゴにしろ、飲食店ではどこもライブをやっていて、それが一様にむちゃ上手い。
 投げ銭や自分のCDを手売りして食べているプロばかりである。ラテンアメリカの社会主義の国は奥深いなほんま。

記事一覧
江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅